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ゼロックスサッカーは、勝負強いアントラーズに軍配・・(1999年2月27日深夜)

いやいや、『やっぱりサッカーだな・・』という展開でした。

 試合を圧倒的に優位に進めながら、何度もアントラーズゴールに迫り、「どうしてこれが得点にならないの??」という複数のチャンスを作り出したエスパルス。それでも、アントラーズの「レベルを超えた集中力」をベースにしたカウンターに沈んでしまいます。これがサッカーなんですよネ。アントラーズの試合巧者ぶりを、素直に賞賛したいと思います。

 エスパルスは、(ナビスコカップという亜流大会は除き)本当にタイトルに縁がないですね。あれだけ良いサッカーを展開し、決定的なチャンスを作り出していながら、結局は、アントラーズのワンチャンスに沈んでしまう。これはもう、ツキがないというしかない?!

 この試合の分析に入る前に、まず太田主審のジャッジについて苦言を呈したいと思います。それは後半16分のプレー。左サイド(ペナルティーエリア内)で、エスパルスのアレックスが名良橋と勝負し、キレイに抜き去ります。その瞬間、名良橋が、アレックスに対し、これも「キレイ」なファールタックルを仕掛けたのです。誰が見ても「PK!!」。

 ただ、そのファールのすぐ横で見ていた太田主審は、そのファールを流してしまいます。たしかにアレックスはよく「演技」をしますが、このケースは、明らかな名良橋のファール。それまで素晴らしいホイッスルを吹いていた太田さんでしたが、それは明らかなミスジャッジでした。

 「演技」と実際のファールは、本当に見分けにくくなっています。それでも、体勢、タイミングに注目していれば、ある程度は確実に判断できるモノです。このシーンは、『タイミング・体勢』からすれば、明らかにファールを取れるものだったと思います。まあ確かに、レフェリーのミスジャッジも「ドラマのうち」ですがネ・・。そのとき、ワールドカップ準々決勝、オランダ対アルゼンチンでの、オルテガの『演技』を見破った、レフェリーの素晴らしいジャッジを思い出した湯浅でした。

 太田さんは、その10後の、エスパルス長谷川とアントラーズ秋田が、ペナルティーエリア内で「交錯」したプレーも流しましたが、それは、秋田の身体を投げ出した素晴らしいヘディングクリアでしたから、明らかにファールではありませんでした。それは、太田さんのナイスジャッジでした。

 さて試合ですが、そこでは最初から完璧にエスパルスがペースを握ります。私は、天皇杯決勝で見られたコンディション的な課題から、後半はペースが変わるかナ(エスパルスのペースが落ち、逆にアントラーズが盛り返す)・・とも思っていたのですが、今回は、エスパルスのペースが落ちることはありませんでした。

 とにかくエスパルスの、素晴らしく忠実で、鋭い中盤守備をベースにした、クリエイティブでダイナミックな攻めの目立つこと、目立つこと。それに対し、アントラーズ攻撃のカッタルイこと。ジョルジーニョの抜けた穴は、予想以上に大きい・・、そう感じたモノです。アントラーズの攻めは、まさに「ステレオタイプ(柔軟性のない型にはまった攻撃)」。以前の「大きく素早いクリエイティブな展開」が、完全にカゲを潜めていました。

 中盤で、ボランチの本田や内藤がボールを奪い返しても、彼らからの展開は、例外なくショート、ショート。中盤でクリエイティブな雰囲気を演出できるのはビスマルクだけ(先制点の場面での彼のタメと、柳沢へのラストパスは秀逸)。アントラーズが抱える課題は、かなり大きいかも・・。

 今シーズンのアントラーズは、かなり苦しむに違いない・・、守備でも攻撃でも。中盤での攻守におけるジョルジーニョの「クリエイティビティー(創造性)」を補完するには、かなり時間がかかりそう・・というのが湯浅の印象でした。

 とはいってもそこは前年度チャンピオン。「ココゾ!」のチャンスを生かす『能力』にはレベルを超えた何かを感ます。エスパルスの、「ココゾ!」のフリーランニングとパス出しタイミングのギコチなさに対し、アントラーズの、(少なかった)勝負シーンにおけるボールの動きはスムーズそのものでした。

 「パスの出し手と受け手のイメージ・シンクロ・レベル」。「勝負シーンでの、決定的なボールの動き(決定的パスのタイミングと決定的フリーランニングのシンクロ)」。それは非常に深淵なテーマなのですが、そんなところにも、ジーコが長い時間をかけて培ったに違いない、勝負への「こだわりマインド」を感じます。

 それを象徴するシーンをプレイバック・・。

 まず先制点の場面。左サイドでボールをキープするビスマルク。その瞬間、右サイドにいた柳沢がアクションを起こし(フリーランニングをスタートし)、そこにビスマルクからピッタリのラストパスが通ります。ビスマルクの、エスパルス守備陣の「視線と意識」を引きつけてしまった「タメプレー」と柳沢のスペース感覚に拍手!!

 そして勝ち越しゴール。中盤左サイドでボールを奪い返した阿部。その瞬間、右サイドでは、名良橋が、インタークーラーターボの加速でタテへ抜け出ます。そこに引きつけられるエスパルス守備陣。典型的なカウンターの場面です。

 たしかに阿部には、そのまま名良橋へラストパスを出すチャンスはありました。ただ(多分自信がなかった?!)阿部は、一発勝負ではなく、よりチャンスが大きな(まだカウンタータイミングとしても遅くない?!)左サイドの柳沢へパスを回します。

 ここでの柳沢のプレーが秀逸でした。彼は、そのまま単独勝負していくチャンスがありながら、一度タメます。そして、中央で「再び」爆発的スタートを切った名良橋へ、それこそピッタシカンカンのラストパスを出したのです。名良橋のダイレクトシュート。それこそ、柳沢と名良橋が演出した、最高の「イメージ・シンクロプレー」。華麗なカウンターゴールではありました。

 ところでこの名良橋のゴールですが、マークしていた澤登は、タイミングは合っていたにもかかわらず、結局は名良橋に「鼻先」でシュートされてしまいます。澤登は、名良橋の「速さ」に対する「見積もり」を誤ったのです。

 アントラーズのカウンターだったから「状況的に」守備参加した澤登。その、クリエイティブな判断に基づいた守備参加は素晴らしかったのですが(そんな緊急事態のクリエイティブな判断が、エスパルスの強さの秘密でもあります)、最後の最後で「見積もり」を誤ってしまう・・。まあ、それもサッカーですからネ。このゴールでは、柳沢のタメ、そして名良橋の「ロケット・スタート・タイミング」の方を誉めることにしましょう。

 この試合は、両チームが、組織プレーと個人プレーの高次元バランスをベースに、積極的に「仕掛け」合う、非常にエキサイティングな内容でした。観客の皆さんも、十分に満足して帰路についたに違いありません。

 ただ、アントラーズには、前述したように大きな課題が見え隠れしています。対するエスパルスは、(全体的には)まとまったチームに仕上がっています(チーム力は最高レベル!!)。これもアルディレスの遺産なのでしょうが、引き継いだペリマン氏も優秀なコーチ。うまくこのチームのパフォーマンスを発展させていくに違いありません。

 最後に、マリノスから移籍したエスパルスの安永、そしてベルマーレから移籍してきた田坂ですが、彼らはこの試合で、エスパルスの「明確な補強」であることを証明しました。

 安永が見せる、攻守にわたる素晴らしい運動量(十分すぎるほどのチーム貢献プレー)からの「ココゾ!」の単独勝負(前半4分の単独ドリブル勝負からのシュートは秀逸!)は、見ている側に大いなる期待を持たせるに十分な迫力です。スペイン留学が与えた、高いプロ意識に支えられた「アクティブ・マインド」は確実に彼の大きな「資産」になっているようです。

 もう一人、田坂ですが、彼の「目立たない穴埋め守備プレー」は、伊東、澤登、はたまた安藤の積極的な攻撃姿勢のベースになっていました。これで、(たしかに前述したような課題はあるものの)エスパルスが初優勝を遂げる条件は整った?!

 アントラーズ、ジュビロ、エスパルス、グランパス、レッズ、マリノスなどの優勝争い候補クラブに、どんな「ビックリ・チーム」が絡んでくるか・・。はたまた、血沸き肉踊るエキサイティングな『降格リーグ』を演ずるのは・・。シーズン開幕が楽しみになってきたじゃありませんか。

 今回のコラム、チョット長くなりすぎましたかネ。最後まで読んでくれた方々・・、どうもありがとうございました。




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