この試合、まず目立ったのが、両チームのフェアなプレーです。この試合から適用された「バックチャージ即イエローまたはレッドカード」というルール改正が功を奏したといったところでしょうか。
無理なタイミングでの後方からのタックルはほとんどありません。それでも、「ココゾ!」というチャンスでの後ろからの「フェア」な(スライディング)タックルは見せます。基本的にそれは大きなリスクなのですが、リスクのないところにクリエイティブなサッカーはない・・ということを証明したゲームでした。
この試合は、スペイン人レフェリーがコンダクトしたのですが、その「レフェリング」が今後の試合の「基準」になります。確かにいくつか「臭い」判定はありましたが、全体的には、非常にまとまったレフェリングだったとすることができそうです。ということで、今後もフェアで「美しい」サッカーが展開されることに期待を抱くボクなのです。
さて試合ですが、まず目に付いたのが、ブラジルの調子の悪さ。逆に、失うモノのないスコットランドのアクティブプレーが非序に目立ちます。
ブラジルの調子の悪さは、ボールの動きが非序に「カッタルイ」というところに如実に表れていました。確かに、試合開始直後の3分に生まれた、コーナーキックからのサンパイオのゴールは素晴らしかったし、たまに見せるロナウド、リバウドのドリブル勝負は大迫力なのですが、出てくるプレーはそんな「個人勝負プレー」ばかりでチームプレーが見えてきません。先制点を奪ってからのブラジルは、ロナウドの完璧マーク、中盤でのスーパーアクティブ守備など、素晴らしいプレーを展開するスコットランドに完全にペースを握られっぱなし。これでは、次の試合に心理的な影響が出てしまう。そんなことを感じてしまうほどのヒドイ出来でした。
その原因は、いわずと知れた「ボールのないところでのプレー(パスを受けるための動き=フリーランニング)」にあります。それがまったく消極的なのです。ボールは、「止まった」ステーション(選手)を、ノラリクラリと動くだけ。それでは、スコットランドの守備陣を崩せるはずがありません。先制点を奪った時間帯が早すぎたということもあるのでしょうが、そんな消極的な攻撃は、当然ディフェンスにも悪影響を与え、結局はそれが失点につながってしまいます。
サンパイオが、ギャラガーを(ペナルティーエリア内で)倒してしまったのです。当然ファール。PKです。それは、センタリングを狙うために左サイドでボールを回すチャンスに、ギャラガーがニアポストへ爆発的なフリーランニングをスタートし、それに追いつけなかったサンパイオが彼を引き倒してしまったのです。
タイミングの良い「決定的なフリーランニング」。それはブラジルの専売特許です。彼らの場合、ボール扱いのプレーばかりが注目それますが、本当のスゴさは、彼らの「ボールのないところでのプレー」にあるのです。そしてその「フリーランニング」に対する、ピッタリカンカンのスーパースルーパス。それがブラジルの美しさの原型なのに・・。まあそれにしても、ブラジルのお株を奪うようなギャラガーの素晴らしいフリーランニングでした。
さて後半です。まず、調子が悪く、中盤での消極守備の典型となっていたジオバンニに代わり、レオナルドが登場です。ケガが伝えられていたレオ。それでも、登場した瞬間から、彼の真骨頂であるアクティブ・フリーランニングが冴えわたります。彼の場合も、ボール周辺でのプレーばかりが注目されますが、私は、彼のフリーランニング能力を「J」時代から高く買っていました。
そんなレオのアクティブな動きにつられるように、ブラジルチーム全体に「モビリティー(活動性)」がもどってきます。とはいっても、スコットランドのアクティブ守備は健在。また、ロナウド、リバウドの個人プレーもまだ目立ちすぎです。そんなこんなで、かなり拮抗した面白いゲームになってきます。
ただ15分過ぎからは、ボールの動きが大きく、早くなるなど、徐々にブラジルが本領を発揮してきそうな雰囲気がただよってきます。そして、疲れが目立つベベトに代わってデニウソンが入った直後に決勝点が生まれます。サイドチェンジ、バックパスなどの大きなボールの動きから、最後はドゥンガから、ゴール右サイドの「決定的スペース」へ抜け出たカフーに素晴らしい「スーパーパス」が送り込まれます。相手との絡みからギリギリのところでカフーが、そのままシュート。
私にはスコットランドの「自殺点」に見えたのですが、場内アナウンスでは「得点者カフー」と言っていました。後で確かめてみよう・・・。(後で確かめました。ヤッパリ自殺点でした)
まとめです。
この試合での最大の注目点は、ルール改正だったのですが、両チーム選手たちに、その改正に関する詳しく情報が伝わっていたに違いありません、注意深くプレーする選手たちによって、全体としては非常にフェアなゲームになりました。
次に、優勝候補筆頭のブラジル。彼らにとってこの試合は、優勝に向かっての「チームの成長」の第一段階でした。優勝を狙うチームは、トーナメントが進むに従って成長するモノ。その意味では、レオナルド、デニウソンが入った後、ゲームの残り15分間に、やっと本来のブラジルらしいプレーが出てきたことは大きな収穫だったに違いありません。ブラジルは、この90分間のうちでも「ある程度の成長」を遂げたのです。その成長が発展し、ゲーム内容もともなったホンモノの「優勝候補」になれるかどうか・・。注目です。
最後に、素晴らしく勇敢でダイナミックな戦いを展開したスコットランドに最大限の拍手を送りたいと思います。彼らにとっても悔いのない戦いだったに違いありません。試合後、スタンドのスコットランドサポーターと一体になって「セレブレーション・アプローズ(祝福の拍手)」を繰り返していた姿には共感をおぼえたものです。
「彼らは世界の一流じゃないけれど、今日の試合は、誇りに思ってもいいと思うヨ」。
私の隣にすわっていた、イングランド人ビジネスマンの言葉です。