この試合、ワールドカップ本大会に臨む両チームにとって「最終段階の準備ゲーム」として重要な位置づけにあります。ということで、両チームともに非常に気合いの入った立ち上がりでした。特にドイツ。まだ本大会での先発がカッチリと決まっているわけではないということで、選手たちのやる気のポテンシャルは頂上知らずといったところ。そしてそのドイツが、開始一分、早々に先取点を挙げます。
得点者は、今シーズンの「セリエA(イタリア一部プロリーグ)」の得点王、ビアホフ。相手守備の混乱に乗じて挙げたゴールですが、そんな「ワンチャンス」を逃さない抜け目のなさは流石。この試合の彼は、「うまさ」は感じませんが、伝説の「爆撃機」、ゲルト・ミュラーにも通じるゴール感覚を存分に発揮していました。
地元ということもあるし、「オレが先発メンバーだ」ということを強烈にアピールしようとするドイツ代表選手たち。ゲームは、彼らが完全に支配します。メンバーは、「前気味のリベロ」に、ケガの癒えたオラフ・トーン。コーラーとヴェアンスが両ストッパーです。守備的ハーフ(ボランチ)には、来シーズンからバイエルン・ミュンヘンでプレーすることが決まっているイェルミース(旧東ドイツ出身)、それにメラーとヘスラーの「中盤の才能コンビ」が攻守に絡みます。そしてツートップは、ほぼ先発メンバーに決まっているビアホフと、これまた旧東ドイツ出身で、今シーズンのブンデスリーガ得点ランキング二位のマーシャル(カイザースラウテルン=今シーズンのブンデスリーガチャンピオン)です。
とにかくドイツチームの、攻守にわたる組織プレーは、「世界最高レベル」。特に中盤での組織的な守備には、美しささえ感じます。ボールを持つコロンビア選手に対する、意図を持った素晴らしいプレッシャー(人数をかけ過ぎるのではなく、パスコースを塞ぐだけの効率的な追い込み)。そして「次」、「そのまた次」でのボール奪取。トーンによる最終守備ラインの統率(最終守備ラインの位置・・最終守備ラインの上げ下げなど)。そして、守備的ハーフ、イェルミースの感動的なまでの「読み守備」。彼のプレーには、ドイツが優勝した、1996年のヨーロッパ選手権で大活躍した「縁の下の力持ち」、アイルスのプレーイメージが重なります。
いくら「才能集団」のコロンビアとはいえ、こんな連中と対戦するのですから、思うようにプレーできるはずがありません。彼らの中盤での「ボールの動き」は、まるで「急坂を登る旧式のクルマ」。これではドイツの守備を崩せるハズがありません。コロンビア全盛期の、短く、素早いパス交換も見られず仕舞いといったところでした。
もちろん、バルデラマ、リンコン、アスプリージャ、バレンシアなどの「才能」たちは、見せ場をつくるのですが、それが「チームの目的」を達成できるような効果を発揮したのはほんの数回といったところ。これでは、自分勝手な「個人プレー」に終始するコロンビア・・と揶揄されても仕方がない?!
対するドイツの攻撃ですが、それは、もう「ロジック」のカタマリです。ボールが停滞することなどまったくなく、ボールを奪い返すと同時に、素晴らしく流麗な攻めで、素早く相手ゴールに迫ります。もちろん、「ここが勝負!」という場面での突破ドリブル、中盤でのタテのスペースをつなぐ「超速ドリブル」も魅せます。そのメリハリが素晴らしい。そして16分、ドイツの二点目が入ります。
それは、右からのセンタリングを、ペナルティーエリアの外から豪快にボレーシュートを放ったヘスラーのスーパープレーからはじまりました。目にも止まらないシュートが、コロンビアゴールの左ポストを直撃します。そして跳ね返ったところに、例の「特異なゴール感覚」を持つビアホフが走り込んでいたのです。左足でのダイレクトシュート。ゴール!!
それも素晴らしいゴールでしたが、この試合のベストゴールは、後半早々にゲットしたドイツの三点目でした。
まず、左サイドに開いたマーシャルにパスが出ます。それをコントロールし、確実な「タメ」を演出するマーシャル。そして、「二列目」に控えるメラーの、直線的なフリーランニング(パスを受ける動き)のスタートを確認して、中央でパスを待つビアホフの足元への鋭いパスを送ります。ここが勝負の瞬間でした。
ビアホフが、その「パスの意図」を勘違いするはずがありません。彼は、ボールに気を取られているコロンビア最終守備ラインを追い越して、ゴール前の「決定的スペース」へ走り込む「メラー」へ、スーパータイミングの決定的スルーパスを、ダイレクトで通したのです。これで勝負あり。コロンビア守備陣は、メラーのフリーランニングにまったく対応できませんでした。
それにしてもコロンビアの守備陣。フォーバックでの「受け渡しマーク」システムですが、それはほとんど機能していませんでした。それはそうです。彼らは、「どこで受け渡し、どのタイミングで付いていくのか」というコンセプトが明確ではなく、「場当たり」的な守備でしかドイツの強力オフェンスに対処できていなかったのですからね。
素晴らしい「個人的な才能」をかかえているコロンビア。彼らのプレーは、組織的に機能しさえすれば、この世のモノとも思えないくらい美しく、魅力的なのですが・・・。時間はもうわずか。ワールドカップ開幕までに、うまく調整できるのかどうか・・。
私にとってドイツは、ブラジルとならんだ優勝候補の筆頭です。美しくはありません。それでも、「勝負のツボ」を心得ているドイツ。これまでのワールドカップの例に漏れず、今回も強い(勝てる)チームに仕上げてきました。
私の考えるベストエイトです。まずブラジルとドイツが一列目。二列目は、地元のフランス、組織的で流麗なプレーを展開しはじめたイングランド、そしてアルゼンチン。続くのが、堅守のイタリア、ダイナミックでしかも繊細なサッカーを展開するオランダ、そしてフィジカル能力に優れたノルウェーといったところです。ダークホースは、これまた才能集団、クロアチア、ユーゴスラビアといったところですが、それでも今回は、「驚き」が少ない大会になるに違いない、というのが私の実感です。
さて私の予想に反して、センセーションを巻き起こすチームが出てくるかどうか・・。注目しましょう。
湯浅健二のヨーロッパ第一報でした。これからは、試合のレポートを中心にアップデートしていきますが、あまりにも抱えているメディアが多いため、それが少し停滞気味になるかもしれません。そのときはご容赦アレ・・。