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カズのこと・・そして日本代表対ユーゴスラビア(0-1)・・さて、本番への準備はととのった(1998年6月3日)

 皆さんは、何といっても、カズの代表落ちについて私がどのように考えているかをお知りになりたいと思っているに違いありません。

 まず結論からいきましょう。

 「意見は聞いたが、その後は一人で考え、一人で決断した」。「ワールドカップでの相手を考慮するだけではなく、チームにとって何が一番良いかということも踏まえた結論だった」。岡田監督のコメントです。要は、ワールドカップの相手を考えた場合、カズは戦力としては考えられない、ということです。それは、一人のプロコーチとしての彼の判断。現場で本当に何が起きているのか、トレーニングでのカズのパフォーマンス、言動、そしてチームの中における「純粋サッカー的、また心理的なポジション」等々、外部の者には計り知れない部分があります。そのことも含め、わたしは岡田監督の判断を「同業」として尊重せざるをえません。

 もう一つ。わたしは、スーパースターを外すという「リスク」を一人で背負った岡田監督の態度は、プロ監督として立派だと思っています。カズのパフォーマンスが落ちていることは衆目の認めるところですが、残したとしても、表面的には(外部に対して)何も問題がなかったことも事実です。ただ彼を最終の22人から外す・・。それは、「その後の結果」に対するメディアリアクション、世論という意味で、岡田監督にとっては大きなリスクだというわけです。

 ただ市川を残し、カズ、北沢を帰国させたということで、ハナシがチョット複雑になります。

 「彼ら(カズと北沢)は想像以上のショックを受けたようで、(彼らが)チームにとってプラスにならないと判断した。だから、私自身の決断で彼らを帰国させることにした・・」。また、「それ(彼らのネガティブな心理リアクションがかなり大きかったこと)は私の誤算だった」。

 つまり、カズと北沢が、22人の枠から外れたことで、岡田監督が想像する以上に激しいリアクションがあり、チームに心理的な悪影響が及ぶ危険性があったから、この二人だけは帰国させることにしたということです。また岡田監督は、今後とも(もし選ばれたメンバーにケガなどがあった場合でも)彼らを呼び戻すことはない、とまで断言しました。

 これは、「心理的な影響力が大きいカズと北沢・・(岡田監督のコメント)」が、岡田采配に対してネガティブな態度をとった(もちろんチームメートに対しても・・)ということなのかもしれません。それは、メンバーに関する決断が下る以前から(日常のトレーニングなどにおいても)そうだったのかもしれません(この二人は、レギュラー組ではなかった)。もちろんそのことについては、部外者である私には何とも判断しかねるところなのですが・・。

 選手たちの「日常の不満」はアタリマエですから、わたしにとっては、まったく驚くに値しない「日常茶飯事」でした。

 日本代表は、チームを、目的に向かって一つにまとめなければならない最終段階にあります。そこでは、純粋サッカー的な要素以外の、心理的、精神的な要素も大きくからんできます。そのことも含めての岡田監督の決断だったというわけです。リスクを一人で背負った彼の態度には共感します。

 さて、ユーゴスラビア戦のレポートにうつりましょう。

 この試合は、両チームにとって「最終仕上げ」という意味で大事な位置づけにあります。ですから両チームとも、その時点での最強メンバーを組んで試合に臨みました。

 ユーゴスラビアには、ミハイロビッチ、ミヤトビッチ、ユーゴビッチ、そしてストイコビッチなどの世界のスターがきら星のごとく・・。対する日本代表も、ケガで出場できない井原(ケガの程度は大したことはなく本戦には間に合う)を除いて、ほぼベストメンバーです。

 ゲームは最初からユーゴスラビアが支配します(ボールの支配率)。それでも、キリンカップでのチェコ戦同様、日本の最終守備ラインは簡単には崩れません。もちろん、何度かは、決定的なフリーランニング(パスを受ける動き=ボールがないところでの、唯一のクリエイティブプレー)でマークをハズされてはいましたが(そこにパスが通れば万事休す・・)、そこにパスを出させないという中盤のアクティブ守備が助けます。これはいい試合になる・・。最初の5分を見たときの直感です。

 日本チームの基本的な戦術は、相手の「才能」を封じ込め、なるべく試合の展開を「静かな」ものに押さえ込んでしまう。それでも、ココゾというチャンスには、両サイドバックを中心に、「リスク」を冒し攻め上がる。そのための、後ろ髪を引かれないバックアップは十分です。

 そのバックアップの中心が、最終守備ラインの前で「二人目のスイーパー」として機能する山口、攻守に鬼神の活躍を魅せるボランチ、名波、中盤の王様、中田の中盤トリオです。基本的には、最終守備ラインの前に、山口と名波がポジショニングする「5-2-1-2」というシステムなのですが、相手が「世界」ということで、ベースは「ファイブバック」ということになります。

 この守備網が本当にうまく機能します。「強いナイジェリアとの試合で疲れがでている(ストイコビッチ談)」、ということでユーゴスラビアの出来があまり良くなかった・・ということはありますが、彼らがアクティブな攻めを展開できなかった背景に、(中盤も含めた)素晴らしい日本の守備のあったことは確かなことです。攻めと守りは表裏一体。一面的にしか見ることできなければ、サッカーの本質を見逃してしまうことになるのです。

 前半の半ば、日本代表の落ちついた守備によってユーゴの攻めが停滞してきます。そして徐々に自信を深めていった日本代表が、逆に攻勢に転じる場面が続出します。中盤トリオだけではなく、両サイドを攻め上がる相馬、名良橋。イイゾ! そう感じた瞬間、今度は、ユーゴスラビアが、「世界の才能」を感じさせるカウンターアタックを魅せるのです。中心になるのは、いわずと知れたストイコビッチ、ユーゴビッチ、ミヤトビッチ。

 やはり危険なカウンターのベースは「才能」だ・・そう再認識させられる鋭いカウンターが、何度も日本ゴールを脅かします。それでも日本の最終守備ライン、そして効果的なカバーリングを見せる山口などが、ギリギリのところで防ぎます。

 そんな危険なカウンターを見せられた場合、どうしても「後ろ髪」がより強く引かれ、攻め上がりがぬるま湯になってしまうものなのですが、その時間帯での日本代表のプレーからは、そんな気配はほとんど感じません。今の日本代表には、レベルを超えた「自信」が備わっています。「あの」ワールドカップ最終予選での極限状態を体感した自信が・・・。

 前半から、後半の半ばまでは、たしかにボールの支配率ではユーゴスラビアに軍配が上がりますが、それでも、後半早々の城、中田の決定的なチャンスも含め、「実効的」という意味では、日本が試合のペースを握る時間帯も多くありました。

 しっかりと確実に、そして「ねばり強く」守り、チャンスを見計らって「リスクチャレンジ」のカウンターを仕掛ける。岡田監督の思惑通りの試合内容だったことは、彼の試合後のコメント内容からもうかがえます。「守備の一部が破られても、すぐに次の選手がカバーリングに入るなど、組織守備について、非常にうまく意思統一ができている・・」。自分が決断したスリーバックシステムに自信を深める岡田監督。また試合後の選手たちの表情からも、深化した自信を感じました。

 この試合での唯一のゴール(日本にとっては失点)について一言。キッカケは、脳震盪の中西に代わって出場した小村のマークミスでした。マークする相手にフリーランニングで置かれてしまい、どうしようもなくなった小村が、山口と一緒にその相手を引き倒してしまったのです。それが、ミハイロビッチの「世界ゴール」に結びついてしまいます。残念!

 それでも、そのゴールは「重要な現実」を意味します。「試合の流れ」ではある程度互角の闘いを展開するが、それでも、フリーキック、コーナーキックなどのセットプレーだけではなく、試合の流れのなかでも「世界の個人能力」にやられてしまう。そんなシーンは確実に訪れるだろう・・ということです。そして、勝負をかけるためのシステム変更。そこに不安を感じます。

 さて、「未知との遭遇」という本番への準備は整いました。




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