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色々な意味で見所の多い試合でした・・21歳以下日本代表vs21歳以下アルゼンチン代表(1-0)(1998年11月24日の早朝)

イヤ、内容の濃い試合でした。先日の一部参入決定戦(アビスパvsフロンターレ)、一昨日(1998年11月21日)のチャンピオンシップ(ジュビロvsアントラーズ)、そしてこの試合。「斜陽」の雰囲気が支配する日本サッカーに、大きな光明が見えてきたような・・。

 このことは、チャンピオンシップについてのコラムでも書きましたが、これらのエキサイティングゲームの背景に、サッカーが「盛り下がっていると感じさせる雰囲気」があったことはたしかなことです。それが選手たちを覚醒し、「今の自分たちにとって、何をすることが一番大事なのか・・」を心の底から意識させたことも、内容のあるゲームのバックグラウンドにあったと思うのです。

 選手たちの危機感は、身近な「国際化」「情報化」「大競争時代」などという社会潮流とも無関係ではないでしょう。そろそろ日本でも、今までのような「似非(エセ)」ではないホンモノのプロフェッショナルたちが「本当の意味」でパフォーマンスを発揮できる場が醸成されてきているのかも・・。

 現場だけではなく「周辺」も含め、最後はホンモノしか残らない。そんな体質が浸透してこなければ、「自動的に世界と比べられてしまうサッカーの世界」で頭角を現すことなどできない・・。それは歴史が証明していますからネ。

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 さて試合ですが、それは、「最初の頃」アルゼンチンの勢いが、心理的に日本代表を押しつぶしてしまうような展開で始まりました。

 相手のウマサ、強さはグラウンドでプレーしている本人たちが一番よく分かります。

 「アッ、コイツらうまいな・・」「いま当たりにいっても結局外されちゃうだろうな・・」「いま押し上げても、どうせ途中でボールを奪い返されちゃうだろうな・・」などなど・・

 そんな消極的な心理がプレーに如実に現れてしまったのです。しっかりと中盤でプレスを掛けなければならないのに、自信なさそうにポジションをとるだけで、インターセプトや、相手のトラップの瞬間を狙った積極的なアタックがあまり出てきません。これでは、アルゼンチンの「ウマサ」が際立つばかり。

 日本チームは、「前気味のリベロ」、ガンバの宮本を中心に、非常に攻撃的な最終守備ラインを敷きます。それは、「ライン・スリー」とでも呼べるようなもの。もちろん基本はスリーバックですから、守備に入れば、両サイドバックも最終守備ラインに入り「ファイブバック」になるのですが、それでも最終守備ラインは、限りなく「ライン・ファイブ」とでも呼べるような陣形なのです。これは驚いた。

 それこそ、トルシエ監督の「超攻撃的サッカー」がグラウンド上で具現化されたシステムだ・・そう感じたものでした。

 そこでの宮本の「ライン・コントロール」は見事の一言。基本的には、「ものすごく」高い位置に最終守備ラインをもってくることで(最終守備ラインをギリギリまで上げます)、意図的に狭くされた(これがコンパクト守備のベースですよネ)中盤での「ダイナミック・プレス(厳しいプレッシャー)」を実現しようというのです。

 最終守備ラインの両サイドバックもどちらかといえば「上がり気味に」守備参加しますから、都合六人もの選手たちが、中盤でダイナミック&クリエイティブ(相手のボールの動きを読むことをベースにした守備)、そして忠実な守備を展開し、中盤を制圧してしまおうというのが狙いだったのでしょうが・・。

 ただそんな思惑が、最初の時間帯はあまり機能しません。前述したように、選手たちが、アルゼンチンのウマサに「心理的」にタジタジになってしまい、守備が、受け身で、後手後手に回ってしまうのです。

 それでは、アルゼンチンが、日本チームの「プレス」を簡単にかわしてしまうのも道理。彼らは、アルゼンチン伝統の「素早いパス回し」から、容易に「攻撃の起点」を作り出してしまい(つまり、決定的なチャンスができそうな場面で、フリーでボールを持つ相手選手が出てきてしまうこと)、日本の最終守備ラインの「ウラ」、つまり日本ゴール前の「決定的スペース」を狙ってくるのです。これでは、最終守備ラインも対応に苦労するわけです。

 最初の頃の日本代表は、何かビクビクするような雰囲気で、中盤でのプレスが空回り気味。そしてそのことで、最終守備ラインも(ウラを取られるのが怖いから)ズルズルと後退してしまうのです。これでは・・

 また攻撃でも、アバウトなロングパスを最前線に蹴っぱぐったり、組立からの攻撃でも、後方の押し上げが「ぬるま湯」だから、どうしても途中でのボールの動きに限界が出てきてしまったりと、もう散々。

 最初の二十分間での、そんな消極的な展開に、「これでは、完全にアルゼンチンペースになってしまい、何点でもブチ込まれてしまう・・」。そう感じたものでした。日本サッカーの将来を担う若武者たちは、自分たち自身でそんな消極的な雰囲気を打破していかなければならない! 君たちは、そのための能力を十二分に備えているんダ・・。そう叫びたい衝動にかられたものです。

 サッカーは心理ゲーム。ですから、相手とのチカラの差を感じた選手たちは、どうしても消極的になって(ちょっとビビッて)しまうもの。その「消極連鎖」が勝負を決めてしまうのです。

 サッカーネーションには、「歴史的な自信」があります。それが、いくら選手たちがチカラの差を感じたとしても、決して消極的にはならない「心理的な強さ」のベースになっています。どんな苦境に立たされても、消極的になって足が止まってしまうような「心理的な悪魔のサイクル」に陥ってしまうことは少ないのです。ただ日本では・・。

 歴史的なコンプレックス?! 彼らはこのまま消極的なプレーを続け、しまいには「例の」悪魔のサイクルに陥ってしまうんだろうか・・。その時間帯は、そんな寂しさを感じたものでした。ただ、この若武者たちは、一昔前の若年の日本代表とはひと味もふた味も違っていたのです。彼らは、そんな悪魔サイクルの入り口を、自分たち自身で閉じてしまったのです。それは25分を過ぎたあたりからでした。

 その立て役者は、ボランチの稲本。彼の、積極的でダイナミックな攻守にわたるプレーが光り輝きだしたのです。そしてそれに引っ張られるように、チーム全員の積極性が前面に押し出るようになってきます。石井が、中村が、小野が、最終守備ライン全員が、そして最前線の福田までが、攻守にわたって積極的なプレーを繰り広げるのです。コイツたちは、やっぱりただ者じゃなかった・・。そんなことを感じた時間帯。

 ここからは、両チームともに「ペースを奪い合う」展開。「これぞサッカー!」というホンモノの雰囲気が醸成されていきます。日本チームにも、「やれるゾ・・」という雰囲気が出てきていることを肌で感じはじめたものです。これはエキサイティングゲームになる・・。

 ただし、攻めではやはりアルゼンチンの方が上。彼らには、ポジティブな意味でのエゴイストが揃っているのです。

 サッカーの攻撃では、パスだけで相手の守備ラインを崩していくことは至難のワザ。どうしても、誰かが単独勝負を仕掛けていかなければならなくなるものです。もちろん、ブラジルのロナウドや、イングランドのオーウェンのような、一人でも最終守備ラインをズタズタに切り裂いてしまうような突破は無理にしても、誰かが単独のドリブル突破にチャレンジしていくことで、相手の守備ラインのどこかに「ほころび」が出てくるものなのです。

 そんな「単独リスクチャレンジ」という意味では、明らかにアルゼンチンに一日の長があります。対する日本代表は、アクティブになったとはいえ、「自分で勝負!」という場面でもパスを出してしまうなど、どうしても最後まで組織プレー「だけ」。これでは、攻めに変化が出てこないのも道理といったところでした。

 ただ先制点を奪ったのは日本代表。左サイドでの素早いボール回しから、中村が中へ切れ込み、後方から上がってきた「スーパーマン」、稲本にパスを出します(稲本は、攻守にわたり、決定的な場面に常に顔を出す)。

 ワントラップした彼は、そのまま、最前線の福田との間で「壁パス」を試みます。素晴らしいタイミングでのワンツー。ただ、抜けたかと思った瞬間、稲本がトラップに失敗してボールが止まってしまいます。

 万事休す?!ただこぼれたところが良かった。そこには、中村が詰めていたのです。そのループシュートは彼の才能の証明でしたが、それよりも、このゴールを奪った日本代表の「勢い」の象徴、稲本のダイナミックな積極プレーを誉めたい攻めではありました。

 もう一度繰り返しますが、日本代表が「自からを信じること(これが自信です)」の大事さを再発見したのは、このゴール(前半42分)がキッカケではありませんでした。それは、稲本を中心とした、ゲームの流れの中における、選手たち自身のアクティブプレーによるのです(前半25分を過ぎた頃から)。そんなところにも、彼らが「ホンモノ」であることを再認識した湯浅でした(最初は『何やってんダ!! これじゃ、いつものパターンじゃネ〜カ』と思ったものなのですが・・)。

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 後半も同じような展開です。

 たしかにペースはアルゼンチンが奪ってはいますが(最終的なシュート数では、アルゼンチンの12本に対し、日本代表は6本)、それでも日本代表の若武者たちは、決して引くことなく、積極的なプレーを続けます。

 そこでの中心も、稲本(石井の目立たない忠実守備プレーも彼を支えていました)。また最終守備ラインの宮本も鬼神の活躍です。私は、日本代表の「生命線」とまでいえる、この「本・本コンビ」に魅了され続けていました。相手が、時差ボケや長旅の疲れの残るアルゼンチンだったとはいえ、そのパフォーマンスは誇りに思っていいものです。

 さて、このチームの才能の象徴、小野。

 この試合に限っては、彼だけではなく、「もう一人の才能」である中村も、絶好調とはほど遠いパフォーマンスでした(ただし、守備ではそこそこのプレーを展開)。強いアルゼンチンの守備に対して、クリエイティブな攻撃を展開することは困難を極めたのでしょうが、特に小野が「消えてしまう時間帯」の多かったこと。

 隣に座るライター仲間に「いったい小野はどうしたんだろう、まったくといっていいほど仕事ができていない・・」と話しかけたとき、彼に代わって明神が登場してきたのです。後半23分のことです。またトルシエ監督は、その後の30分には、左サイドの中谷に代えて、フォワードの古賀を投入してきました。

 一点リードしている場面。それも相手は、ユース世界チャンピオンのアルゼンチン。たしかに、守備的ハーフの明神と調子の悪い小野を交代させることは納得ですが、ディフェンダーに代えてフォワードを投入するとは・・。ただ、そのまま左サイドバックに入ったフォワード登録の古賀が、「ボクは、はじめからサイドバックだよ」とでもいわんばかりの、落ち着いた、攻守のバランスがとれたプレーを展開してしまいます。

 トルシエ氏の「超攻撃的」なリスクチャレンジの姿勢が、この試合でも十二分に存在感を示したといったところでした。

 最後に、トルシエ監督の試合後インタビューで目立ったコメントをいくつかピックアップします。

 「これはタフゲーム(大変に難しい試合)だったが、勝てて良かった。選手たちのメンタリティーもよかったし、ハーフタイムでの彼らは、全員が十分にモティベートされていた。それは、彼らの勝利に対する意志の強さを示すものだった。この勝利は、(2002年をターゲットとした)長期にわたるミッション(仕事)にとって良いスタートとなった。チームが一丸となった素晴らしいグループパフォーマンスだった・・」。

 彼の基本線は、あくまでも「チーム一丸のアクティブ(積極)サッカー」。そして考え続けるチカラとしての「集中力」。勝利への強い意志など。トルシエ氏のキーワードは、「彼らのサッカーが正しい方向へ進んでいることを感じさせるに十分なものだとすることができそうです。

 ここのところハイレベルのサッカーが続き、うれしくなってつい長いコラムを書いてしまった湯浅でした。途中、乱筆の部分もありますが、ご容赦アレ。




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