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日本代表vsチェコ共和国・・ガマンの日本が引き分けにこぎつける(0-0)(1998年5月24日)

 この試合、(パラグアイがそうではなかったということではありませんが・・)日本代表にとっては、久方ぶりの「気合いの入ったヨーロッパのホンモノ」との対戦ということになりました。

 自分たちはワールドカップの予選で敗退。それでも、1996年のヨーロッパ選手権準優勝チームとして、また世界で上位にランキングされる「独立したチェコ共和国」として、「意地でも」勝ちにいかなければならない試合だったというわけです。彼等が勝ちにきていたことは、試合後の記者会見で、外交辞令に終始するホバネツ監督もにおわしていました。

 もちろん実力的には世界のトップクラスですから、気合いが入った「ホンモノの世界」との対戦が実現したという意味で、日本代表にとっては、非常に実のある「総仕上げ」ゲームだったとすることができます。

 さてゲームですが、全体的に、「世界」がその実力を存分に発揮した・・という内容だったとすることができます。とにかく、後半の最後の時間帯をのぞき、日本が満足のいく攻めを組み立てられた場面は皆無といっていいほどの一方的な試合展開だったのです。見ている方々も、「へ〜〜、やっばりこれが世界なんだ・・」と思われたに違いありません。

 「アッ、これは日本代表にとっては非常に厳しい試合になるな・・」。前半がはじまった早々の私の印象です。それほど、チェコの、中盤での忠実でアクティブな守備と、それをベースにした素早い展開からの攻めが素晴らしかったのです。

 日本がボールを奪い返しても、中盤でフリーになる選手がまったく出てこないこともあり、満足に「ボールを動かす」ことができません。それは、「ボールのないところでのプレー(パスを受ける動き=フリーランニング)」が消極的だっただけではなく、前述したとおり、チェコの中盤守備が素晴らしくアクティブだったからです。

 このことについては、前出のチェコ監督、ホバネツ氏も述べていました。「今日の我々の守備は、本当に素晴らしい出来だった」。何本も、「大きな」ダイレクトパスをつないでしまうようなダイナミックで危険な攻撃力についてはまったく言及せず、守備についてのみ語っていたホバネツ監督。確かに彼等が、1996年のヨーロッパ選手権でも、守備のチカラで決勝に進出したことは事実ですが、それでも・・。ホンモノの勝負を知る彼等にとっては、自分たちの攻撃力はまだまだだと感じているということなのかもしれません。

 とにかく、かなり押し込められる場面が続き、またチェコが、両サイドを多用する攻めを繰り返したため、日本代表の両サイドバック、名良橋、相馬のオーバーラップも「単発」といった印象をぬぐえません。ということで、「バックアップ」の薄い攻撃になってしまっていますから、すぐに相手にボールを奪い返されてしまいます。そしてそんなことを繰り返しているうちに、「どうせ、上がったって・・」という悪循環の心理状態に陥ってしまいます。例の「心理的な悪魔のサイクル」です。

 ただ押し込められているとはいっても、日本代表の守備ラインは、大きな崩れを見せません。スイーパー、井原を中心に、秋田と小村の代役として出場した両ストッパー、斉藤、中西が堅実な守備を見せただけではなく、「前気味のスイーパー」山口(ということで、日本代表は、井原と山口の『前後のダブルスイーパー』とでも呼べるような『システム的意識付け=基本的な役割分担』で試合に臨んでいました)、もう一人のボランチ、名波、そして名良橋と相馬の両サイドバックも、全体的には(素早く、大きなダイレクトパスに振り回される場面があったとはいえ)組織的に相手の攻撃を抑えていたとすることができます。

 前述した「実のある総仕上げゲーム」といった意味は、そこにあります。ベストメンバーではないとはいえ、かなり離れたゾーンでの「フリーランニング」にピッタリのスルーパスが続けざまに通るなど、これぞ「半径50メートル」サッカーという攻めを展開する世界の強豪を、水際とはいえ、抑えきったことの自信は次につながるに違いないと思うのです。

 押し込まれていた日本代表ですが、そんな彼等に、31分、前半における、日本の唯一ともいえるゴールチャンスがめぐってきます。フリーキックからボールを持った中田。その「ルックアップ能力」を信頼する名良橋が、右サイドから爆発的なフリーランニングでチェコゴール前へ走り込んだのです。30メートルは超える、ピッタリのスルーパスが通ります。相手のうまいスライディングでチャンスを逸してしまったとはいえ、チェコ守備陣も「ヤラレタ!!」と思ったに違いないチャンスでした。

 これを演出したのも、名良橋の「フリーランニング」です。『サッカーはボールのないところで勝負がきまってしまう・・』。それは普遍的な害編なのです。

 日本の前半唯一のシュートは、名良橋のセンタリングからの城のヘディングシュートでしたが、それはタイミング的にも「マア、無理だネ・・」というもの。この、中田、名良橋コンビが演出したチャンスが、前半における唯一の日本のビッグチャンスだったのです。

 それにしてもチェコ。彼等の「ボールの動き」のスムースなこと。日本チームが「ココゾ」というタイミングでプレスをかけようとした瞬間に、何本かのダイレクトパスで「プレス」を簡単に外してしまいます。そして、置き去りにされる日本選手たち。そんなことが何回も繰り返されたら、自信を失ってしまうのも道理、といったところでした。

 とにかく前半は、チェコのダイナミック&スマートな攻撃に対し、(簡単にパス&ムーブで置き去りにされるシーンが何度かあったとはいえ)日本がギリギリの「組織的な守備」で持ちこたえたとすることができそうです。

 さて後半です。

 立ち上がりの日本代表は、前半同様、ガンガン押しまくられます。

 私は、前半の出来から、最前線でのポストプレー(最前線でのタメプレー)に問題がある中山に替えて、呂比須を出すべきだと考えていたのですが、結局は、交代なしで後半が始まりました。

 呂比須は、フォーバックに戻すという「勝負」に出た残り15分で、相馬に替わってグランドに登場したのですが、登場した瞬間から大きな存在感を誇示していました。世界の強豪を相手にしても一歩も引かず、いつもの自信たっぷりの「タメ」プレーだけではなく、積極的な勝負も見せます。拙著『サッカーTV観戦入門(小学館刊)』にも書いたのですが、私はいまでも、日本代表にとって呂比須は欠かせない存在だと主張します。まあ、そのことは置いといてゲームを追うことにしましょう。

 13分、中田のバックパスから、名波のロングシュートが飛び出します。ここらあたりから、日本代表にも攻めの芽が出てきたように感じます。それは、チェコの、中盤でのアクティブ守備に陰りが出てきたことと、日本代表の攻めにダイナミズム(モビリティー=ボールのないところでの動き)が出てきたからです。そのことで日本代表の中盤での「ボールの動き」が格段にアクティブになってきたのです。

 その後、19分に中山に替わって小野、また31分には前述したように呂比須が登場です。小野が出た時点で、城のワントップということになったのですが、最後の時間帯は、中盤での運動量が極端に落ちたチェコを攻め込み続けます。もちろん「あの」チェコから、そう簡単に「決定的なチャンス」を作り出せるはずもありませんが、それでも、強力なチェコ守備陣を翻弄する攻めを展開できたことは特筆モノでした。それは、次につながる「試合終了前の時間帯」ということも含めてです。「終わりよければ・・」というわけではありませんが、とにかく、(最後の時間帯だとはいえ)やっと「自分たち本来のイメージ」でサッカーができたこと、それを維持した状態で試合を終えられたことは、次のポジティブな(心理的な)展開につながると思うのです。

 小野ですが、どんどんと良くなっているように感じます。実のことをいうと、「小野を出すことは、大きなギャンブルかもしれない・・」と感じていました。まだ不十分な「守備の戦術能力」につけ込まれたら、その穴から、崩されてしまうかも・・、と思っていたのです。それでも、フタを開けてみれば、そこそこの守備内容です。そして彼本来の「才能」が活かされた攻めを見せます。「トレーニングで、彼の出来が格段によくなっていることから、小野を交代出場させることは、試合前から決めていた・・」。岡田監督の試合後のコメントですが、それにもうなづける小野のパフォーマンスではありました。

 さてこれで、日本での私のレポートは最後ということになります。

 あと数日で、わたしもヨーロッパに向かうことになります。とはいっても、まずドイツで、日々のビジネスをシッカリとやってから、サッカーに突入するのですが・・。

 今後は、ラジオの文化放送、私のホームページだけではなく、オンラインマガジン「2002 Japan(J's Voice)」、マイクロソフトネットワークのスポーツコーナー(インターネットのアドレスが分かり次第、挿入します)、その他、新聞、雑誌などで、私の声、文章を発見できます。アップデートは不定期ということになりそうです。とにかく今は、持参するコンピューターなどの電子機器が壊れないこと、インターネットのアクセスに問題が生じないことなどを願っている毎日です。

 読者のみなさんのサポート、今後ともよろしくお願いします。そいじゃ、行って来るヨ〜〜。




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