こんなにモティベートされていない(やる気のポテンシャルが低い)韓国は見たことがない・・それが、この試合の第一印象です。聞くところによると、チャ監督と、選手たちの間の不協和音が大きくなってきているということでした。管理主義、権威主義・・チャ監督については、いろいろと言われているようですが、それが選手たちの心理的なフォームに悪影響を及ぼしているとしたら(もっといえば、選手たちがチャ監督を心理的に拒否しているところまでいってしまっているとしたら)、チームとしては、かなり悪い状況だとすることができます。
チーム内での「日常の不満」は当然ですが、後に尾を引くような「不信感」になってしまっているならば大きな問題だということです。韓国サッカー協会内にも、チャ監督との「不協和音」があると聞きますし、それがもっと悪い方に展開してしまったら、本当に、チャ監督更迭・・ということになってしまうかもしれません。私は、同じ「ドイツのプロライセンス」保持者として、そうならないことを期待しますが・・・。
さて日本代表対中国戦です。日本チームは服部を入れ、ワールドカップ本大会を意識した「トリプル・ボランチ」とでも表現できるようなシステムで試合に臨みました。最終守備ラインの前の「スイーパー」という、本来は山口がやる守備専門のボランチを服部がこなし、その両側を山口と名波が固めるという布陣です。
中盤での「より確実な守備」をテーマにしようということだったのでしょうが、最初に出てきたのは、「アクティブ(攻撃的な)」ではなく「パッシブ(受け身)」ディフェンス。山口、服部、名波の三人が、ほとんど並んだカタチで、たまに最終守備ラインに吸収されてしまうくらい、下がり過ぎてしまうのです。結果として、中盤に、フリーな中国選手が出てきてしまう場面を多く目にすることになってしまいます。そうなったら、後方から勢いよく「フリーランニング」で飛び出してくる相手をマークするのは容易なことではありませんし、結局は典型的な「受け身ディフェンス」ということになってしまいます。もし守備的にやるならば、最後尾を厚くするだけではなく、中盤での「パス出し」の部分や、フリーランニングでの「飛び出し」もしっかりと抑えるようなアクティブなものにしなければなりません。それが最初の頃は、うまくいっていないという印象でした。
対する中国は、ラインフォーの前に四人の中盤守備という、彼等にとっては新しいシステムで試合に臨みます。それは、三週間前に就任したイングランド人、ホートン監督が導入したのですが、それが非常にうまく機能します。彼らは、守備に入った場合は、素早く守備の組織をつくりますし、ボールを奪い返してからの攻撃参加も非常に積極的です。
最初下がりすぎだった日本は、中国の「二列目からの飛び出し」に付いていけないだけではなく、ボールを奪い返しても、素早く効果的な攻めを組み立てることができないという悪循環を繰り返しました。それはそうです。相手が、まだ上がってきていないにもかかわらず、「基本的なポジション」ということで、最終守備ラインの前まで「下がりすぎる」ポジションをとってしまうのですからね。岡田監督は、失点するまでは、この守備的なシステムがうまく機能していたと述べていましたが、私には、どちらかというと「安全確実」ということを意識しすぎ、逆に「受け身」に過ぎるプレーぶりになってしまったと映ったのですが・・。
やっと日本に、本来のペースが戻ってきたのは、コーナーキックから失点した後、攻めざるを得なくなってからでした。真ん中の服部は別にして、両側の山口と名波が、守備で、少し「前気味」にポジションをとり始めただけではなく、攻撃にもより積極的に参加し始めたのです(岡田監督は、それは予定外だったと述べていましたが・・)。名波と山口が、積極的に押し上げはじめたのです。そのことでやっと、攻守にわたって「前後のポジション的、人数的バランス」がとれてきます。その結果、中国の守備が徐々に受け身になり(中盤での余裕がなくなった)、攻撃への飛び出しも消極的になってきます。前半30分過ぎからの日本チームの攻勢は、中国チームが消極的になってきたと言うよりは、日本が、より「前から」プレーを始めたことの結果だとするのが妥当な見方なのです。
そして35分過ぎ、中田の突破から決定的なチャンスが生まれます。山口がシュートミスをしてしまいましたが、そこらあたりの時間帯から、日本チームは「イケイケドンドン」といったところ。その後も、何度もセットプレーからチャンスをつくります。
後半も、最初は、前半最後の時間帯のように、押せ押せのペースでしたが、逆に、中国の危険なカウンターも効果的になってきます。そのベースは、「個人の勝負能力」。それは、明らかに中国の方が上でした。そのことで、日本の最終守備ラインも下がり気味になりはじめます。そして、中盤が「開き気味」になってしまい、中国の素早いカウンターがもっと効果を発揮するようになってしまったというわけです。
そして後半5分、左サイドでのボールの奪い合いの後、ボールを持った中国選手が、服部を抜き去って決定的なセンタリング。はじかれたボールを、そのまま押し込まれてしまいます。これで「2-0」となってしまいました。
後半、井原と秋田が、「オフサイドトラップ」のミスから、相手に決定的なチャンスを「与えて」しまったシーンがありました。井原では、相手の「長いタテパス」の際に、自分がマークしていた選手をオフサイドにしようと「チョット、ポジションを上げた」のが、結局オフサイドにならず仕舞いだったシーンが二度。秋田では、相手が決定的なセンタリングを、まさに上げようとした瞬間、これまた「チョット、ポジションを上げ」、それが失敗したというシーンでした。オフサイドトラップは、周りの味方とのコンビネーション(相互理解)なしには考えられません。ライン上のチームメートが「ボールウォッチャー」になってしまっている場合、オフサイドトラップが成功する確率が極端に下がってしまいます。また、ゲームの流れのなかでの「一瞬の指示」はものすごく難しいモノ。ワールドカップの相手は「世界」ですから、安易なオフサイドトラップは、必ず致命傷につながってしまうということを肝に銘じて欲しいモノです。
ゲームにもどりましょう。二点目を失ってからは、日本もよく攻めますが、どうしても中国の最終守備ラインを「崩しきる」ところまでいきません。それは、これまで何度も書いている通り、組織プレーにミックスされるべき「個人勝負プレー」だけではなく、ロングシュート、ロングパスなどもほとんどなく、「攻めの変化」がほとんど出てこなかったからです。中国監督のホートン氏が、記者会見で胸を張って述べていたとおり、中国は、ラインフォーの最終守備ラインだけではなく、その前の中盤守備も、非常にアクティブでうまかったことを認めざるをえません。
日本は、カズに替えて城、中山に替えて岡野、そして山口に替えて北沢を投入します。たしかに、彼らが入ったことで、攻めはよりアクティブにはなりましたが、山口が抜け、服部が少し下がり過ぎていたため、守備に入った際、中盤に大きな「スペース」が空いてしまうケースが続発しました。そこは、服部、名波、北沢、そして中田がカバーしなければならないところ。とはいっても、相手の鋭いカウンターに神経質になっていた日本の最終守備ラインが、あまりにも下がり気味になってしまっていた・・ということで、ラインの前後のバランスが崩れ気味でした。
全体としてみた場合、日本の出来は、結果の数字ほどには悪くなかったというのが私の評価です。ただし、服部を入れ、彼が「守備専門のボランチ」になったことで、久しぶりに、攻守にかかわる、本来のボランチのプレーにトライした山口のパフォーマンスがよくなったこと。そのことで、名波のポジショニング、攻めでの「ゲームメーキング」にバランスを欠いてしまったことには課題が残りました。
たしかにワールドカップ本大会では、この試合のように、守備的に試合を進めざるを得ないゲームが多くなってくるに違いありません。ギド・ブッフバルトが、私に言ったことがあります。「オレたちは(ドイツ代表は)失点をゼロに抑えようと思ったら、ブラジル相手でも、九割以上はその目的を達成できるという自信はあるけれど、日本の場合、相手にもよるけれど、難しいだろうな・・」。この試合でも、守備の緊急事態であるにもかかわらず、何人かの選手が『ボールウォッチャー』になってしまっていました。それが、ギドの言った意味の本質なのです。
ワールドカップ本大会における日本チームの課題は、ねばり強く守り、ワンチャンスを確実にモノにする、また、そこそこのサッカーで「内容」自体に対する評価も獲得する・・というものです。それが、この試合のように、早い時点で失点を食らってしまった場合、(今度は攻めなければならず=相手の攻撃により大きなスペースを与える)大変なことになってしまうような気がしてしまうのですが・・。集中・・集中・・。ガンバレ日本代表。