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ダイナスティーカップ・・日本、韓国に「2-1」で辛勝?!(1998年3月2日)

 辛勝といったのは、試合内容では、韓国の方に分があったからです。

 試合後のインタビューで、岡田監督自身が、「韓国選手たちと日本人プレーヤーを比べた場合、韓国選手の方が、個々のチカラで、より強いことを再確認した・・」と述べていました。そのことについては、わたしも同意見。もちろん日本には中田、名波などの「才能」はいます。それでも、全体として見た場合、韓国の選手たちの方が、攻守にわたり、「個人で勝負できるチカラ」で日本を上回っていたとすることができるのです。ドリブル勝負、守備での一対一の強さ・・。確かに韓国には、力強さがあります。そして、「例の」精神力です。ファジーな表現ですが、それ以外、言い表しようがない「スピリチュアル」なチカラを韓国選手たちはもっています。それが、「ココゾ」という場面における、積極的なリスキー・プレーとなって現れてくるのです。韓国は、強いチームです。このような強いライバルが「お隣さん」の日本は、本当に幸せです。「ポジティブな意味での」ライバルのないところに進歩もないですからね。韓国の強さを認識し、そのことを公言する岡田監督。サッカーコーチとして、非常にポジティブな態度です。現状を正確に認識しなければ『課題』を発見できるはずがありませんからね。

 韓国には、ホン・ミョンボ、ソ・ジョンウォン、ハ・ソクジュなどの主力組がいませんでした。それが、最初から「オールコート・マンマーク」を主体にした守備戦術をとった背景にあるようです。もしかしたら、チャ・ブンクン監督は、本当に日本を「強いチーム」だと認識しているのかも知れません。確かに日本チームは、ワールドカップ最終地域予選を通じ、戦術的にも、精神的にも大きく成長しました。ということで、韓国サッカーにとっても、ライバルとしての日本の存在がポジティブに作用しているということですかね。

 とはいっても、ココゾというときの強さは、抜群です。彼等のゲーム戦術は、シッカリと守って、効果的なカウンターを・・というものだったのですが(ワールドカップ本大会の準備を意識?!)、その、時折くり出すカウンターが「危険」そのものなのです。基本的には、八人で守っているのですが(守備チャンスがあれば、九人目の選手も積極的に戻る!)、ボールを奪い返したときには、少なくとも5-6人が、「常に、そして、ぬるま湯ではない」攻撃参加を見せるのです。それも、「決定的なスペース」へどんどんと走り込んだりします。「ボールのないところで勝負が決まってしまう」サッカーの基本だといえばそれまでですが、「マンマーク」戦術をとっている場合、そこまで徹底的に、そして最終局面まで「攻撃参加」するには、「絶対に、フィニッシュまで行くゾ」などという確信と勇気が必要です。韓国の強さを再認識させられました。

 対する日本は、最終予選のときと基本的な戦術は変わりません。それは、名良橋、相馬(この二人にもマンマークがついていましたから、今回は簡単にはオーバーラップできませんでした)、井原、秋田で構成する、「ライン・フォー(受けわたしマーク)」の最終守備ライン、服部(出場停止の山口の代役・・山口同様、基本的には全く上がらない)、名波のディフェンシブ・ハーフコンビ、そしてその前に、チャンスメーカーの中田(試合ごとに、才能をより大きく開花させているように感じます)、「汗かき役」の北澤(彼の、中盤でボールをアクティブに動かすためのシンプルプレーと、素早い守備参加での、相手の攻撃を遅らせるプレーは秀逸)、そして中山、城のツートップです(異論はあるでしょうが、結局この二人がゴールを決めたのです?!)。

 名波について少し・・。前半12分の、ドリブルミスで相手にボールを奪われ、そのまま決定的なチャンスを作られてしまったプレーはいただけませんが(信頼する名波がボールをもったことで、周りが積極的に上がろうとしている矢先のことでした)、全体的に見た場合、名波の「いつものような」「フォア・ザ・チーム・プレー」は特筆ものでした。彼の基本的なポジションは、限りなく「守備的ハーフに近い」ゲームメーカーというものです。相手からボールを奪い返す頻度が一番高い「守備的ハーフ」が、ゲームメークの能力を兼ね備えている場合、理想的な「ボランチ」ということになるのですが、名波は着実にその域に近づいているように感じます。

 ただ最終守備ラインには、チョット不安も感じます。日本の最終守備ラインは、積極的にマークを受けわたすような、「バランス重視」の戦術をとっています(ライン・フォー)。ということで明確な「リベロ(日本チームではスイーパーといった方が妥当?!)」は置いていません。それが、「自分で考え、判断・決断し実行する」という非常に積極的な守備につながっているのですが、それでも、前述の名波のミスからの相手のセンタリングの場面では、そんなシステムが裏目に出てしまいます。自軍内でボールを奪われてしまったから仕方がないのですが、そのセンタリングをヘディングした、大柄のチェ・ヨンスを「最後に」マークしたのが、小柄な名良橋だったのです。そこでは、すぐに秋田が受けわたしでチェのマークにいくべきでした。その判断をする時間的な余裕は、十分にあったはずですが・・。

 17分、中田、北澤とボールがつながり、右サイドでタテへ抜け出た(フリーランニング)中山へ、グッドタイミングのスルーパスが出ます。シュートは、相手GKのファインプレーで防がれてしまいましたが、ゲームの流れの中でつくり出した「決定的なシュートチャンス」でした。そしてその一分後、名波の素晴らしいコーナーキックから、中山がヘッドシュートをたたき込みます。ペナルティーエリア付近から走り込んだ中山へ、それこそピッタシカンカンの「鋭い」コーナーキックでした。このキックは、相手ディフェンダーへ向けて飛びました。そこには二人のディフェンダーがいたのですが、彼等は、二人とも秋田に視線を奪われていたようです。そして、そこめがけて「鋭い」ボールが飛んできたのです。自分めがけて鋭いボールが飛んでくるのですから、足が止まってしまうのも道理。その「鼻っ先」で、「相手の視野の外から」走り込んだ中山がスーパーヘッドというわけです。日本には、本当に正確でクリエイティブなボールを送ることが出来る名波、中田が演出する、「セットプレー」という武器がある・・というプレーでした。それは、ワールドカップ本大会でも大きな武器になるはずです。何といっても、ゴールの「4割」は、セットプレーをキッカケにしたものですからね。

 その後すぐの、イ・サンユンのゴールですが、オフサイド狙いの井原がポジションを上げ、そのオフサイドトラップが失敗したことで、イ・サンユンが全くフリーになってしまったことが、まず第一点。そして、パンチするのかキャッチかの決断が中途半端になり、ゴールを許してしまった楢崎のプレーが第二点。その二つのミスが重なって失ってしまったゴールでした。

 前半は、韓国のしつこい「マンマーク」と、ボールを奪い返した後の素晴らしくアクティブな「カウンター」に悩まされ、流れの中では、ほとんどチャンスらしいチャンスをつくり出すことが出来なかった日本チームでした。

 さて後半です。ここからは、パスをつないで「キレイなチャンス」を作ろうとした前半の失敗に対する反省からか、韓国同様、日本チームも「個人的な勝負」に積極的になってきます。

 12分、北澤からパスを受けた中田が、落ちついたボールキープから、急にテンポアップし、最後は、自分自身で中央突破してシュートまでいってしまいます(相手GKの正面!!)。ラストパスを出せる味方がいたにもかかわらず勝負した中田。そうです。たまにはそんな「個人プレー」も、変化という意味では非常に重要なのです。世界のトップは、常に、何人かが参加するコンビネーションプレー、個人のドリブル勝負、また中央突破トライと思えば、外からの攻め・・と多彩な攻撃を見せるものです。その「変化」の兆しが見えてきた中田のプレーでした。そしてそのすぐ後、14分には、またまた中田が、左サイドでボールをキープし、確実な「タメ」を演出します。そして、中央へ上がってきた井原へ、サイドチェンジの横パスです。韓国選手の大半は、左サイドへ寄せていましたから、井原からの、右サイドをオーバーラップする名良橋へのタテパスは、素晴らしいスルーパスになります。そして、北澤へのピンポイント・センタリング。彼のヘディングシュートは惜しくも外れましたが、日本チームの攻撃に、本当の意味での「変化」が見えはじめた時間帯でした。

 その後、北澤にかわって平野が入ります(「決して北澤の出来が悪かったわけではない。とにかくペースを帰ることが出来る選手を入れたかった」・・岡田監督)。彼は、北澤とは違うタイプのプレーヤー。ドリブル勝負で、相手に勝てるプレーヤーなのです。実際に、その後何度か、「決定的な場面」で、韓国選手をドリブルで抜き去ってしまいます。それでも彼には、もっともっと「多くボールに触る」ような「ボールのないところでの動き」を期待します。彼は、ボールを持てば、かなり有効で危険なプレーができる選手。自分のそんな特徴を生かしきるためにも、グランパスでのプレーのように、もっともっと動いてボールに絡んでいくべきです。もちろん攻守にわたって・・。この交代ですが、たぶん岡田監督は、「個人で勝負できる選手」という意味を込めたに違いありません。前述したとおり、日本チームのプレーには、個人勝負をキッカケに、かなり積極的な姿勢が出てきていましたからね。岡田監督の「戦況分析能力」が確かなことの証明といったところでした。個人勝負でチームメートが相手を打ち負かすシーンほど、勇気と自信を与えるプレーはありませんからね。

 その後、もう一人の「個人勝負タイプ」の選手を入れます。野人、岡野です。交代は中山。「城は、ポストプレーもできるから、交代は中山にした。中山を残せば、同じタイプが二人になってしまうから・・。決して中山の出来が悪かったというわけではない・・」。岡田監督です。その言葉通り、岡野が積極的に勝負を仕掛け続けます。ジョホールバルでの、延長戦における「二度のビック・ミステーク」。そして、ゴールデンゴール。岡野がグランドにいたのは、たったの25分間でしたが、そこで彼が「体感」した「天国と地獄のドラマ」は、確実に、彼のプレーヤーとしての幅を広げたように感じます。頼もしい限りではありませんか。

 決勝点もセットプレーから。これまた「演出家」は名波でした。一度、突っ込みかけ、ボールのコースがずれたことを瞬間的に察知して戻り気味に素晴らしいヘッドシュートを決めたのは城でした。拍手!!

 冒頭にも書いたとおり、個人的な選手の能力では、まだ確実に韓国の方が上だと思います(チーム力としては互角です)。それでも、日本チームの勝負強さが驚くほど向上したことも確かなことです。もしかしたらワールドカップ本戦でも・・、と期待を抱かせる一戦でした。

 久しぶりに「エンスージアスティック」にコラムを書いた湯浅でした。では・・




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