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1998年「JOMOカップ」は「J」日本選抜が圧勝(3-1)(1998年10月10日)

この結果が、本当に実力通りなのかについては言及を避けます。ただ、日本選抜チームの出来が、外国人選抜を圧倒していたことだけは事実です。

 前半ですが、全体的にはとにかくカッタルイ試合でした。目立つの日本チームの効果的なチームプレーばかり。外国人選抜は、ボールがないところでの動きがほとんどありませんから、とにかく個人勝負プレーだけ・・といった展開です。その中で目立っていたのは、やはりドゥンガ。外国人選手たちは、例外なく彼にボールを集めようとします。

 それでも日本チームは決定的なチャンスをつくり出すまではいきません。いくらカッタルイ試合を展開しているとはいえ、そこは、トーレス、アジウソン、ハ、サンパイオ、ペトロヴィッチ、ドゥンガなどの優れた選手たちを揃えた外国選手選抜。危ない場面では、キッチリと「穴埋め」し、「読みベース」のカバーリングにも素晴らしいモノがあります。

 日本チームは、たしかに伊東、小野、名波、最前線の呂比須、中山などが、ボールをよく動かすダイナミックなサッカーを展開しますが、決定的な場面での個人突破トライが少ないことで、どうしても決定的なチャンスをクリエイトすることが出来ないのです。その背景には、ポジティブな意味でのエゴイスト不足という日本サッカーが抱える「体質的」な問題点も見えかくれしていました。

 後半の立ち上がりも、同じようにカッタルい展開です。ただ、前半のスリーバック(実際にはファイブバック)からフォーバック(相馬、田中、秋田、伊東)に変更し、ボランチに、名波と奥が入ったことで、また前線に、見違えるほど積極的になった柳沢が入ったことで、日本チームの攻撃が、中盤での活発なボールの動きをベースに、よりクリエイティブで、危険なものに変身していきます。

 そして後半の7分、日本選抜のクリエイティブなサッカーが実を結びます。柳沢が、自身のハットトリックの一点目を叩き込んだのです。

 それは、相手のクリアボールを、右サイドで拾った伊東を起点にはじまりました。相手のプレッシャーがないことで、しっかりとルックアップする伊東。その瞬間、同じサイドにいた柳沢がアクションを起こします。

 中央へ向けて、爆発的なフリーランニングをスタートしたのです。中を見ていた伊東ですが、その柳沢の動きに気付いていないはずはありません。彼のアタマの中には、柳沢が「三人目」になる・・というイメージが出来上がっていたに違いないと思うのです。

 そして伊東は、中央でフリーになっている奥へ、グラウンダーの強いパスを出します。このパスが強かったことが、その後の成功のベースでした。止まっている味方へパスを出す場合、とにかく「強く」「しっかりと転がる」ボールを蹴らなければなりません。そうでなければ、相手のインターセプトの餌食になってしまいます。逆に強いパスの場合、マークする相手は、どうしてもタイミングが遅れがちになってしまいますからね。

 奥は、自分の方向へ向かってくるボールと、フリーランニングする柳沢が、同時に視野に入っています。それが、最初にパスを出した伊東の狡猾な意図だったというわけです。これで奥は、余裕をもって次のプレーのピクチャーを作ることが出来るのです。

 相手のマークを振り切り、全力で自分の前に広がる「決定的スペース」へ走り抜ける柳沢。そのフリーランニングの意図を、パスを受けた奥が勘違いするはずがありません。奥は、測ったようなタテパスを、柳沢が狙う決定的スペースへ、ダイレクトで送り込んだのです。

 柳沢は、ボールへ寄りながら、世界のゴールキーパー、チラベルトの動きを落ちついて観察し、そして右足のアウトサイドで、ボールをゴール左隅へ送り込みます。素晴らしい「ゴールへのパス」ではありました。

 攻撃の起点になった伊東、次の展開のポストになった奥、そして最後まで確信をもって決定的スペースへ走り込んだ柳沢。このゴールは、この三人の「次のプレーピクチャー」がシンクロした「世界レベル」のゴールでした。

 その後の32分、ビスマルクの素晴らしいパスを受けたペトロヴィッチの、右サイドからの「世界のピンポイントセンタリング」を、オリバにヘディングで決められ、一時は同点にされましたが、その1分後には、名波からの、前線への大きなサイドチェンジパスを、これまた奥がヘディングで中へ折り返し、素早く方向転換してマークのスコルテンを振り切った柳沢が、左足で豪快に勝ち越しゴールを叩き込みました。

 そして最後の、だめ押しの三点目。それは、柳沢のハットトリックとなるゴールだったのですが、それも、一点目と同じくらい美しい「フリーランニング」から生まれました。

 左サイドで、ポンポンとパスをつないで前進する名波、小野、そして西沢。この時点で柳沢は、中央付近で決定的なスペースを狙っています。その瞬間、胸でうまいトラップを魅せた西沢から、素晴らしいタイミングで、左サイド、タッチライン際を上がる小野へパスが出ます。それは、強さ、コース、種類もピッタリの決定的パス。小野が、ボールをトラップせずに直接キックできるような理想的なパスでした。

 完全にフリーになり、チラッと視線をゴール前にはしらせる小野。それが勝負の瞬間でした。中央にいた柳沢が、決定的なフリーランニングのスタートを切ったのです。目ざすは、チラベルトが守るゴールの「ニアサイド」。マークしていたホン・ミョンボは完全に振り切られてしまっています。

 天才の小野が、そんな柳沢が仕掛けた「勝負のフリーランニング」を見逃すハズがありません。小野がダイレクトで蹴ったボールは、本当にピンポイントで、柳沢のアタマに合ってしまうのです。ヘディングされたボールは、ゴール左のポスト内側を叩いてゴールネットへ吸い込まれていきました。「あの」チラベルトでも、こんな完璧なシュートでは反応できないのもアタリマエでした。

 この日の柳沢。チャンスをキッチリと決めたハットトリックは、彼自身のストライカーとしての「ブレークスルー」を意味することになりそうです。「日本は、この試合でホンモノのストライカーを手に入れた・・」。試合後の、アルディレス監督のコメントです。

 それにしても外国選抜。「JOMOカップ」はたしかにお祭りですが、それでも彼らはピュアなプロなのですから、それを盛り上げる演出をしなければなりません。それがなければ、五万人も集まったファンの皆さんに失礼というものです。

 とはいっても、今日の日本選抜の出来だったら、彼らがフルに戦ったとしても簡単にはいかなかったに違いありませんけれどネ。それにしても、チャンスは何とかつくり出すが、それをキッチリと決めることが出来ない・・という、外国チームと対戦するときの日本チームの悪いイメージを払拭してしまうに十分なパワーを秘めた試合内容ではありました。柳沢選手に感謝といったところです。

 柳沢は、小野同様、「自分がボールに触るんだ!」という意識が格段に向上したと感じます。そんな意識の高さが、次の「世界への」ジャンプアップにつながるのです。彼らほどの才能なのですから、とにかく多くボールに触りさえすれば、良いプレーリズムをつかむことが出来るものなのです。

 たしかに個々の能力では、外国人選抜の方が上です。それでも、全体的な試合内容としては、十分に世界ともわたり合えるようになった日本チーム。これもワールドカップ効果なのでしょう。




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