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『自力』で二位確保・・全日本vsカザフスタン(5-1)・・さて次の大勝負で、歴史を作ることができるか・・(1997年11月9日)

対カザフスタン戦、全日本は、前週の韓日戦と同様、「フッ切れた」サッカーを展開しました。

カザフスタンは、予想通り、最初から「ガンガン」攻めてきたのですが(攻めようとする姿勢を見せていたのですが)、それをシッカリと受けとめる全日本ディフェンス陣。まったく浮き足立つことはありません。「ボールを奪い返す」という守備の目的を、一人ひとりが意識し、落ち着き払って、本当にアクティブな守備を展開しました。そして「ボール奪取」後の、クリエイティブで、スピードとリスク・チャレンジに溢れた攻撃です。それはもう、解説の必要がないくらい素晴らしいものでした。

全日本の守備システムですが、それは韓日戦とまったく同じ。秋田、井原を中央に据え、その前に、山口、名波のダブルボランチを置きます。名波は、基本的に左サイド。山口は、最終守備ラインの前で、全コートをカバーします。前回同様、山口には「極力上がらないように」との指示があったことは確か。それをベースに、両サイドバックは、どんどんとオーバーラップにチャレンジします。特に左サイド。そこでの、名波、相馬のコンビネーションは、韓日戦以上の、まさに完成された「アウン」の呼吸とでも表現できるモノでした。3分を過ぎた頃から、毎分のようにこの二人のコンビで、左サイドを崩してしまいます。それに全く対処できないカザフスタン。限られているとはいえ、ベンチは、そんな「明らかな危機状態」に対応できなければモダンサッカーで勝つことなど望むべくもありません(コートサイドからの何らかのサインなど、やろうとすれば何か出来たはず・・・)。とはいっても、この試合の名波、相馬コンビを止めるには、相当の犠牲を払わなければならなかったはずですがネ。

「マークの受けわたし」をベースにする「ライン・フォー」と(確かに比較的むずかしい守備方法ですが、自由度が高く、選手たちの深い理解と積極性があれば、理想的に機能することが証明されました)、井原、秋田、山口の三人が、つねに守備ラインに残る日本の守備システムは、非常に安定してきているように感じます。もちろんそれには、(韓日戦、今回のカザフスタン戦のような)名波、中田、そして北澤の積極的な守備参加が欠かせないことは述べるまでもありません。次の大勝負(三位決定戦)にも、同じシステムで臨むことになりそうですが、常に「前で」という、下がり過ぎることのない姿勢、最前線も含めた、全員の「予測ベース」の積極守備参加などを見ている限り、まったく不安を感じません。やはりサッカーでは、攻守にわたる(特に守備での)中盤の「出来」が勝負のキーポイントだということでしょう。特に「一発勝負」では、しっかりと攻めながらも、まず点を取られないことがメインテーマになりますからネ。

この試合では、カズ、ロペスに代わって、城、中山が先発したわけですが、中盤の素晴らしい積極プレーに刺激されるように、何度も何度もくり出す「決定的フリーランニング」など、この二人も素晴らしい積極プレーを展開しました。結局パスは「呼び込むモノ」。つまり、パスを受ける動き、「フリーランニング」が、パスゲームであるサッカーでの「クリエイティブで効果的な展開の主体」だということです。その背景には、サッカーは『ボールのないところで』勝負が決まるという「事実」があります。出されたパスに反応するようでは、二流サッカーから脱却できるはずがありません。

最後に、勝負の試合での「セットプレー」の重要さについて。この試合では、両チーム合わせて「6ゴール」が入ったわけですが、そのうちの「4ゴール」がセットプレーからでした。勝負の試合、それも一発勝負の試合では、(先日の「UAE戦」のコラムでも書きましたが)セットプレーが本当に重要な意味を持ちます。それは、全員がガチガチにマークされ、ゲームの流れの中でシュートチャンスをつくり出すことが容易ではないからです(とはいっても、この試合での日本チームは、何度も『流れのなかから』チャンスをクリエイトしていましたが・・)。また、プレーの流れのなかでは、ボールのイレギュラー・バウンドや、小さなトラップ・キープ・ドリブルミスなども頻繁に起きるもの。ですから、「まったくの制止状態」から、「ピンポイント」を狙えるセットプレーの可能性が限りなく大きなモノになるのです。そこでは、相手より「数センチ」でも先にボールに触れば、勝負に勝つことが出来るのです。もちろん逆に、相手のセットプレーは「大ピンチ」ということになります(カザフスタンの一点もフリーキックから)。とにかく、次の大勝負でも、セットプレーが「極限テンションの主役」になることは確実です。

岡田監督は、かなりの時間をかけて「セットプレー」の再確認を行ったと聞きます。今回のカザフスタン戦での、中田のフリーキックからの秋田の先制点、前半終了直前の、名波のコーナーキックからの中山の三点目を見ていると、選手一人ひとりがセットプレーの重要さを「再認識」していたことを感じます。「ここへ来い!」という、決定的な「パスの呼び込みフリーランニング」が、それほど強烈だったのです。この緊張感を、次の試合でも維持して欲しいモノです。

さて、とうとう、ここまで来てしまいました。相手は、イランか、サウジアラビアかに絞られました。わたしは、自分の知識と外部情報をベースに、比較的「つなぐ」、スマートなサッカーを展開するサウジの方が「組みし易し」という印象をもっています(ということで、最終のカタールvsサウジアラビア戦が引き分けに終わることを願っています)。また、もしサウジが出てくる場合、予選A組の「最終決戦」の後、すぐにマレーシアまで移動しなければならず、またその試合から三位決定戦までのインターバルも「数日」ということで、生理学的、解剖学的、心理学的、そしてコーチング理論的なロジックでは、日本有利ということになります。ただそこはサッカー、そんなロジックでは計り知ることの出来ないエネルギーが発揮されてしまうことを前提にしなければなりません。最後の最後で、「個ではなく集団・・」、「敷かれたレールから外れることは許されない」などの古い心理体質を背景に、プロスポーツにとっては「負の体質」である「受け身&責任回避の精神構造」が顔を覗かせなければいいのですが・・。わたしは全日本の勇士たちが、「ホンモノの個人事業主」としての立場に目覚めたと確信しています。彼らには、オーストラリア戦のことなど考えず、「自」からを「信」じ、ほんとうに『一人ひとりが』、韓日戦、カザフスタン戦のように、アクティブにプレーすることを願って止みません。「美しく」強いサッカーとは、積極的な姿勢をベースにした、選手一人ひとりの「有機的なプレー連鎖」が集合した「チームゲーム」なのです。




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