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湯浅健二のパリ生活・・そして予選リーグの各組第一戦(1998年6月12日)

 私のパリ生活も一週間目を迎えようとしています。いろいろとトラブルがあったり、日本との連絡先を一定にしておかなければならないなどの事情から、結局最初にチェックインしたホテルに、ワールドカップが終わるまで滞在することしました。このホテルを起点に、フランス中を動くことになります。

 レセプションの人たちは親切だし、部屋もまあまあ。パリ中心街のホテルですから、細かなところには目をつぶりましょう。パリは今ワールドカップ価格。星がいくつか付いたホテルに滞在しようモノなら、目の玉が飛び出てしまうくらいの出費になってしまうのです。

 私は、ドイツからレンタカー、携帯電話を持ち込んでいるのですが、特にクルマでは苦労します。まず駐車場。ホテルに交渉してもらい、やっとホテル近くに安心できる駐車場を確保しました(ちなみに湯浅は、ドイツ語は完璧、英語はかなりのレベルにあると自負しているのですが、フランス語はからっきし・・なのです)。なにせ借りてきたクルマが大きく新しいもので、路上駐車では夜もろくに眠られません。これでやっと枕を高く・・といったところ。

 次に、パリ市内の運転ですが、そこの交通事情はもう戦争。まず車線を守るクルマが皆無(車線自体がないに等しいんです・・)。これでは、事故多発もアタリマエなのでは・・と思っていましたが、案の定、この数日の間に、既に何度か事故を目撃してしまいました。でも私は、学生時代に大型の免許を取得してアルバイトをしていましたし、こんな「カオス(混沌状態)」での運転には自信があります。ということで、数日で「あの運転はもうパリジャン」というレベルまで馴れてしまいました。もしかしたら、私の運転は地元の人以上?! ご安心アレ。それは安全運転(スムーズな地元運転?!)のレベルのハナシです。

 私がスタジアムで観戦する試合は、全部で17試合。決勝トーナメントの試合は、同日の多会場の試合以外、ほとんど見ることになります。チケット購入の出費はかなりの額になってしまったのですが(色々な事情でフリーランス・ライターの「ID」は取得できませんでした・・もちろん不満ですが、どこかの組織にヘーコラすることだけはノーサンキューですからね)、それは「将来につながる投資」ということで、あまり考えないようにしています。もし皆さんが私の本を買ってくれれば、それで全てペイするかも・・よろしくお願いします・・ネ。

 さて、ワールドカップのハナシにいきましょう。

 いま、デンマーク対サウジアラビアの試合を、テレビで見ています。同じアジア代表ということで興味があったのですが、ヨーロッパの強豪、デンマークを相手にした彼らの戦いは非常に立派なものでした。決して、大きなレベルの差を感じませんし、デンマークも必死に戦っています。一むかし前までの、サッカーネイション諸国とアジア諸国の試合で感じられた「大きなレベル差」は、もう過去のものだということを実感します。

 そこには、世界の情報化がもたらした「差の縮小」という背景があります。世界最高レベルの試合を、常に自分の目で確かめ、イメージトレーニングに励むことができるし(情報の環流)、世界最高レベルのサッカーコーチ(サウジの監督は、94年ワールドカップ、ブラジル代表の監督、パレイラ氏)の指導を受けることも容易になったのです。もちろんサウジアラビアの実力がアジアトップということは疑いのない事実ですし、前回のアメリカ大会でもセンセーションを巻き起こした彼らのことですから、こんな好ゲームを展開できることは当然なのかもしれませんが・・。

 ただ、ギリギリのところでの「勝負」では、やはりデンマークに軍配が上がります。守備的な戦術でカウンターを狙っていたサウジですが、一瞬のスキをデンマークに突かれ、センタリングからのヘディングシュートを決められてしまったのです。

 さてここからが勝負です。サウジは、点を取るために前へ行きます。つまり、自分たちの堅固な守備ブロックを、部分的にではあれ、崩しはじめたのです。ここからは、デンマークがゲームの主導権を完全に掌握してしまいます。確かにサウジが押し込んではいますが、デンマーク守備網を完璧に崩すまではいきません。逆に、ブライアン・ラウドルップ、ミヒャエル・ラウドルップなど、デンマークの「才能」が存分に存在感を発揮してしまいます。最後の時間帯には、「世界との差」がかいま見えてしまった・・という試合でした。

 次に、フランス対南アフリカです。この試合は、ホストカントリーのデビュー戦になったわけですが、非常に質の高いサッカーを展開する南アフリカに対し、圧倒的とまではいかないまでも、ほとんどの場面でゲームを支配したフランスが、順当に勝利を収めました。

 ホストカントリーとして、開幕戦にこれだけの内容のあるサッカーができたことは収穫です。これまでフランスは、雰囲気に流されやすく、安定して「勝てる」サッカーを展開できることは希でした。それが、かなりの期待を抱かせるような試合内容。特に、ブラン、デサイー、テュランで構成する最終守備ラインが良い。デシャンを中心にした中盤守備もいい。ジダンを中心に、ジョルカエフ、デュガリーがダイナミックに絡んでいく攻撃もいい。これは期待できる・・そんな印象を受けたゲームでした。

 それ以外では、イタリアの調子の悪さ、またモロッコの「個人能力をうまくミックスしたチームプレー」が目に付きました。

 イタリアですが、実力的には明らかに格下のチリに対し、横綱相撲というサッカーを展開することが全くできませんでした。チリの(特に中盤守備)出来が非常に良かったこともあったのですが、それにしても・・。試合内容は、まったくの互角。2-2の引き分けは順当といった内容?! いや逆に、イタリアがPKでやっと勝利を収めたといったほうが正しい表現かもしれません。チリの守備組織の「逆を突く」といったファンタジーにあふれた攻撃を展開することがほとんどできないのです。それが原因で、守備も不安定になってしまっています。チリの、サモラーノ、サラスという世界レベルのツートップにアップアップといった有り様。それでも優勝候補の一角を担うイタリアのこと、徐々に調子を上げていくとは思いますが・・。

 もう一ヶ国。それまでのパワーサッカーというイメージから脱却し、細かなプレーでも大きく伸びているノルウェーと対戦したモロッコです。もともと彼らは、テクニックに優れたチームです。これまでは、そのテクニックが、チームとしてまとまることがなかった・・ということで、このような世界大会で、勝ち進めることはなかったのですが、今回のチームはチョットちがう・・そんな印象を持ちました。

 監督は、以前にフランス代表チームを率いたこともあるアンリ・ミッシェル。彼が良い仕事をしていることを如実に証明する試合内容ではありました。監督によってサッカーが変わってしまう。それは事実です。ただ、それぞれの国には、それぞれの文化背景もありますから、その選手たちを、「固定観念」から解放することはそんなに簡単な作業ではありません。その意味でも、ミッシェル監督には拍手です。もしかしたら、モロッコが、ダークホースとして今回のワールドカップの話題を独占するようになるのかも・・とは言い過ぎかな・・??。

 最後に、今回から適用された「危険なバックチャージは、全てイエローかレッド・・」というルール改正についてです。これまで私が見た限りでは、確かに、「真後ろ」からのスライディングタックルはほとんど見られません。それでも、それ以外の「サイドからのタックル」は従来通りです。つまり、「真後ろ」からのタックル、スライディングタックルについては厳しく罰するが(ブルガリアのナンコフが、このルール改正に基づいた最初の退場者になりました)、それ以外の「ボールを持つ選手に見える、サイド気味からのタックル&スライディング」タックルについては、従来通り・・ということなのでしょう。それでも、アンフェアな後方タックルが減ったことは確か。そのことで、より美しいサッカーを見ることができそうです。

 今回のワールドカップ。見所抱負なのですが、それでも、ブラジル、ドイツの優勝候補の双璧を確実に脅かすようなチームは、フランスを除いてまだ見えてきません。明日のオランダ、スペイン。また放り込みサッカーから脱却したイングランドに期待です。




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