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予選グループの「C組」と「D組」の決勝トーナメント進出チームが決定(1998年6月24日)

 フーッ、疲れた。フランスに入ってから、かれこれ三週間。やっていることは、まず移動、次にテレビまたはスタジアムでのサッカー観戦、原稿書き、打ち合わせ、そしてラジオでのしゃべり。その他は、食事か、ランドリー通い、そして寝るだけ・・といった生活です。

 まあ、とはいっても、私にとってパリはもう20回目以上。見るところは全て見てしまったし、町そのものが博物館のパリだから、新しいものなんて数えるほどしかありません(私が知らないだけかも・・)。ということで、サッカー浸けの毎日なのです。

 今日は、パリの北、200キロのところにある「ランス」へ来ました。先日のドイツ対ユーゴスラビア戦を見た町です。先日はドイツに、そして今日は、例によってスペインに占拠されています。それでも、地元の人々と、積極的に、そして楽しそうにコミュニケートしようとするスペイン人ファンの人々には、シンパシーを感じます。

 それに対しドイツ人は、自分たちの仲間だけで集団をつくり、気勢を上げていただけではなく、試合後には、暴力事件まで起こしてしまいます。テレビに写された、ドイツ、コール首相の苦り切った表情。このニュースは、瞬間的にヨーロッパ全土に流れます。これも情報化の「たまもの」なのですが、ニュアンスは、「ドイツのフーリガン現る」ってなもんです。ドイツの一般の人々の、眉根にシワ寄せる顔が目に見えるようです。

 イギリスのフーリガン発生の背景と同様に、ドイツでも、失業問題などの社会的不満が、そのバックにあるといわれます。とはいっても、それが一国のイメージに与えるダメージは計りしれません。ドイツ代表のゲーム内容が悪かったことは必ずしも原因だとはいえないでしょう。どこの国にもいるそんな輩は、なんでも、どんなことでも、不満の解消アクションのキッカケにしてしまうものですからネ。

 アッ、そうそう。先日のコラムで、パリの駅がきれいになり、顧客サービスも充実してきたと書きましたが、それは撤回することにします。というのも、先日買ったチケットを「リファンド(キャンセルし換金)」するために再びリヨン駅へ行ったのですが、リファンドだけなのに、「番号札」をわたされ一時間も待たせられてしまったのです。なんと官僚的な対応なんだろう・・。やっぱりフランスは、根本的な発想ではあまり変わっていなかったのですネ。ホントにアタマにきました。だって、単にチケットをキャンセルするだけなのに・・。「自分勝手に?!」どんどんと考え方を変えてしまう湯浅なのです。

 ということで、ちょっと遅れ気味でランスに付いたのですが、ここでまずカフェに入り、「C」組の最終戦を見ました。それはフランス対デンマーク、そして南アフリカ対サウジアラビアです。

 状況は、フランスとデンマークが勝ち点で大幅リードしており、よっぽどのことがない限り(デンマークが大敗し、南アフリカが大勝するなど)、フランスとデンマークが決勝トーナメントに進出します。

 フランスは、何人かの選手が出場停止ということと、決勝トーナメント進出だけは決定しているということで、大幅にメンバーを入れ替えて試合に臨みました。

 控えメンバーは、「どうしてオレが控えなんダ??」と不満をもっているもの。それがサッカーチームでの「日常的な不満(逆にいえば、貯められたエネルギー)」というわけですが、もし控えメンバーが、「控えで満足」しているようでは、代表メンバーに入る参加条件さえも満たしていないことになります。プロ選手は、常に高い目標と強いプライドを持っているもの。それがなければ、プロとしても失格なのです。

 ということで、この試合では、そんな「日常の不満(備蓄エネルギー)」がグランド上のプレーにぶつけられます。フランスが、立ち上がりからスーパーペースなのです。「オレの実力は、ベンチにすわっている程度のものじゃないんだゾ」ってなもの。それでも、そのエネルギーが空回りしてしまっている感じがします。

 ガンガン攻めるのですが、ボールを持っている選手と回りの選手の意図がかみ合わないのです。「オレの足元にボールをよこせ!」ってな具合に、ボールのないところでのパスを受ける動き(フリーランニング)が緩慢なだけではなく、個人勝負が多い場合の典型である「中央突破」だけという非効率的な攻めが続きます。

 もっとも効率的で効果的な攻めは、「グランドを広く使った攻撃」ですからね。相手守備が集中してしまっている部分(つまり中央部分)を崩すのはもっとも難しい攻撃なのです。

 もちろんたまには「外から」の攻撃もみせます。ただ外から攻めるとはいっても、フランスの場合、そこからまた低いパスを中央へつないだり、ドリブルで中央へ切れ込んでいったりという傾向が強く、基本的には、中央突破とあまり変わらないのです。外からの攻めは、中央の守備組織を「外へ」開かせ(つまり、中央部分の守備選手の密度が低くなる)、その「瞬間」に、ボールを中央へ送り込み(つまりセンタリング)、ダイレクトでの一発勝負や、二列目選手の飛び出しを狙うような攻め方がもっとも効果的なのにもかかわらずです。

 フランスは、素晴らしい「個人勝負」から何度かチャンスはつくり出します。それでも「単発」といった印象がぬぐえないのも「個人勝負」が多すぎるからだと思います。「個人勝負能力」・・なくても「あり過ぎても」も問題だということです。サッカーでは「バランス」をとるのが難しいですね。

 日本の状況を考えると「贅沢な悩み」といったところです。

 まあそれでも、デシャン、ボゴシアン、リザラス、テュラム、そしてジダンなどのベストメンバーが揃えば、またファンタスティックな攻撃を見せてくれるとは思いますが、それでも、彼らの攻めも基本的には、本日のメンバーのやり方と大きく変わりません。ということで、フランスの攻めには、「グランドを広く使ったダイナミズム」という意味でチョット不満な湯浅なのです。

 とはいってもそこは、ブラン、デサイイー、テュラムというスーパー守備プレーヤーを揃えている「地元」のフランス。いいところまで勝ち進むことだけは確実でしょう。またそう望みます。なんといってもフランス大会ですから、彼らが決勝トーナメント早々に敗退してしまったら、個人主義者の集合体であるフランスのこと、ワールドカップに対する興味が極端に冷え込み、雰囲気も大きく盛り下がってしまうに違いないのですからネ。

 試合は、ゲームを支配するフランスに対し、鋭いカウンターで対抗するデンマークといった構図。それでも、実力的にはフランスの方が上ですし、なんといってもそこは地元チーム。「2-1」とフランスがリードしたころから、両チームとも「これでいい・・」という雰囲気が支配的になり、そのままゲームセットということになりました。

 もう一つの試合、南アフリカ対サウジアラビア(2-2)について一言。

 この試合では、サウジアラビアが二本のPKを得たのですが、その最初の方はまったくファールではありませんでした。パスを受けたサウジの選手が、ボールをコントロールし、一人ハズしたのですが、そこに当たりにきた南アフリカのディフェンダーの足に「引っかけらたれように見せ掛けて」倒れたのです。ビデオでは、そのシーンが鮮明に映し出されていました。

 そんなプレーは、プロの世界では日常茶飯事(というか常識なのです)。ダマシ合いのサッカー。欺く対象は、相手選手だけではなくレフェリーも・・というわけです。私はプロコーチとして複雑な心境です。私はそんなプレーを奨励したことはありませんが、それでも、ダマシ合いですからネ・・。とにかくサッカーでは、「レフェリーのミスジャッジもドラマのうち」といったところです。歯切れが悪いナ、ホントに!!

 さて「D組」です。

 このグループの勝ち点展開は、「A組」とまったく同じになってしまいました(これについては昨日のコラムを参照してください)。

 やっと素晴らしいサッカーを展開して、ブルガリアを「6-1」と粉砕したスペインでしたが、パラグアイがナイジェリアを「3-1」と破ったことで、決勝トーナメントへの進出がかなわなかったのです。まさに「A組」のモロッコと同じ運命をたどったということです。

 このスペイン対ブルガリアの試合は、前述したように、ランスのスタジアムで観戦したのですが、スペインが、優れた「個人能力」をベースにした素晴らしいチームプレーでブルガリアを圧倒します。

 トントン、ト〜〜ンとダイレクトパスをつないでブルガリア守備を翻弄したかと思えば、ルイス・エンリケがスーパードリブルで切れ込み、ブルガリアの最終守備ラインをズタズタにします。その、チームプレーと個人勝負プレーの「メリハリ」の効いた使い分け。素晴らしいの一言です。

 そのベースは、またまた「中盤守備」でした。彼らは、ブルガリアのパスを2-3本前から読んでしまっているかのように、パスの来るところに必ず一人は確実なアタックです。後半は、少しペースが落ちてしまいましたが、そのサッカーこそ、連勝を続け「不沈戦艦」とまでいわれたスペイン代表の真骨頂といったところでした。

 特にルイス・エンリケ、エチェベリア、モリエンテス、アルフォンソを中心に演出される攻撃は、破壊力抜群。ブルガリアのマークが甘いこともあったのですが、それはもう「チンチン」という表現そのものでした。

 後半は、ストイチコフ、バラコフという主力を外し、全員攻撃、全員守備で、やっと本来のダイナミックなサッカーを展開しはじめたブルガリアでしたが、対するスペインは、今度はラウルという才能を入れて「カウンター狙い」。それがピッタリと当たり、その後もどんどんと加点してしまいます。

 この時点で私は、スペインは、決勝トーナメントでもかなりやるに違いないと、彼らの戦いを楽しみにしていたのですが、帰りのクルマの中で、パリの文化放送スタジオから連絡を受け、パラグアイがナイジェリアを「3-1」で撃破し、勝ち点を「5」まで伸ばしてしまったことを聞きます。

 その後、ホテルに帰ってからその試合を見ましたが、パラグアイのゴールキーパー、チラベルトの大活躍もあり、確かに彼らは勝利にふさわしい内容のサッカーを展開していました。対するナイジェリアは、守備、攻撃ともに戦術的な未熟さが露呈。こんな、個人能力だけに頼るサッカーでは、決勝トーナメントで痛い目に遭う・・、と感じました。

 とまれ、チカラがあり、ツボにはまれば世界トップレベルのサッカーを展開できるスペインが予選落ちしたことは残念でなりません。彼らは、決勝大会での「成長」が遅すぎたということでしょう。それもサッカー。「普通の悲劇」のワンシーンではありました。




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