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「E組」と「F組」の最終順位決定・・ドイツがやっとグループトップに・・(1998年6月25日)

 今日の朝、用事がありシャルル・ドゴール空港へ行ったのですが、そのまま文化放送のパリスタジオへ向かうために(今日はテレビ観戦なのです)、凱旋門の「ランナバウト(クルクル回る円形の車線で、そこを周りながら、放射線状に分散する希望の道路へ抜けていきます)」を通りました。そして、例によって「車線戦争」に巻き込まれてしまいます。

 私のクルマはドイツナンバーですから、バックミラーを見たら、二三台のクルマが、私のサイドの「スペース」へ割り込むチャンスを虎視眈々と狙っているのが見えます。パリでは、「ハナ(クルマの前部)」を先に突っ込んだ方が勝ち。そうはさせじとブロックしている湯浅なのですが、今度は私のクルマの前方に、メチャクチャな運転をするバイクが突っ込んできます。

 前後左右に、最高レベルの神経を分散させ、そして集中させる湯浅なのですが、結局最後は、ブルーのBMWにハナを突っ込まれ(右と見せ掛けて左側から・・なんていうフェイントを掛けられた?!)、「内側(中心寄り)」へ押しやられてしまいます。何台も、こちらをターゲットにしていたように感じます。いやな奴等。こちらはドイツ人じゃなくて、日本人なのに・・。

 それでカチンときた湯浅は、「ヨシッ!」と意を決し、今度はそのBMWの前に、自分のハナを突っ込み、逆に彼を「外側」へ押しやってやった次第・・。こんなことをやっていたら、いくら命があったも足りないような気がします。フランスの事故率は、最低でも日本の「10倍」はあるということを聞いたのですが、そんな信じられないような数字にも、何か素直に頷けてしまうパリの交通事情ではあります。

 さて、勝負の「予選グループ最終戦」です。そこでは、全てのチームにフェアに、つまり勝ち点計算をする戦いができないように、ということで、各組の二試合が他会場で同時に行われます。今日は、まず「E組」からです。

 ここは、オランダ(勝ち点4)と対戦するメキシコ(勝ち点4)がリードしています。それでも、チャ監督の更迭(?!)などチームがほとんど壊滅状態の(だと思われる)韓国と戦うベルギー(勝ち点2)にも確実なチャンスがあります。それは、ベルギーが「現状の」韓国に負けたり引き分けるとは考え難いですから、オランダとメキシコの勝負がつけば、ベルギーが二位に入るというわけだったのでが・・。

 立ち上がりから、「ココゾッ」というでは爆発的なチカラを発揮するオランダが、メキシコを圧倒して先制ゴールをたたき込みます。

 ロナルド・デブールからベルカンプにボールがわたり、彼からの、ワントラップからのスーパースルーパスが、素晴らしいタイミングでタテへ抜け出たコクへ通ります。豪快にゴールを決めるコク。まさにこれが、ボールのないところで勝負が決まる・・というサッカーの普遍的な概念を体現したゴールでした。

 ロナルド・デブールがボールを持ってルックアップ(ボールを持った状態で顔を上げ周りを見る『技術』のことです)し、ベルカンプへパスを出した瞬間に(もちろんタイムラグはあります)スタートを切った、コクの決定的なフリーランニング(パスを受ける動きです)までも見えていれば、皆さんもホンモノのサッカーフリークです。

 コクは、ベルカンプが自分のフリーランニングに気付いていると確信していたのです。これが「世界のあうんの呼吸」といったところ。これも、日本と世界との間にある「最後の10%の差」の本質的な部分なのです。

 その後も一点追加し、2-0でリードしたオランダ。そのサッカーはダイナミックそのものです。ポンポンとダイレクトパスをつなぎ、一度落ちついた後は、いとも簡単に大迫力のサイドチェンジです。彼らの攻撃は「広くて早い」。グランドを広く使うのは、効果的な攻めの基本なのです。そしてその攻撃を支える、ヨンク、ダビッツ、レイジハーなどの守備陣。素晴らしい。

 これで、出場停止のクライファートが入れば、破壊力がもっと増すはず・・?! とはいうものの、ウイニングチーム・ネバー・チェンジ(勝っているチームは変えるべきではない)という原則に基づけば、ものすごくウマクいっている、ロナルド・デブール、ベルカンプ、コク、オーベルマルスのカルテットの間には、入っていくポジションがないかも・・。

 こんな風に、勝ち残るチームは、どんどんと「成長」を続けるのですが、ケガでも、出場停止でも、とにかく一度チームから外れたら、特にチームがうまくいっている場合、再びチーム内に「インテグレート(機能的に組み込まれる)」されるのには苦労するものなのです。

 後半も、ほとんどの時間帯でオランダが圧倒します。メキシコの、中盤も含めた守備がほとんど機能しないのです。ボールを受けるオランダ選手に対するマークが甘いのです。「次のパスを読んだアタック」が、モダンサッカーの基本なのに。これじゃもう試合は決まったし、オランダがトップで、ベルギーが二位だな・・と思っていたのですが・・・。

 サッカーの神様は、ホントに気まぐれ。まずメキシコが、CKからペレスが一点入れ、そこからメキシコが大攻勢をかけます。それまでのオランダの勢いは何処へ・・? オランダが「心理的な悪魔のサイクル」に入ってしまい、メキシコに完全にゲームのペースを握られてしまうのです。全員の足が止まり気味になり、まったくサッカーにならなくなってしまうオランダ。

 それは、メキシコの「動きのダイナミズム」が何倍にも大ブレークしたからです。サッカーは心理ゲーム。この時点で、メキシコのパフォーマンスが「150%」に、オランダのそれが「20%」にまでしぼんでしまったのです。そしてロスタイムでのフェルナンデスの同点ゴール。

 狂喜乱舞するメキシコ。それはそうです。もう一方の、ベルギー、韓国戦でもまったく同様の「心理ドラマ」が展開し、韓国が同点にしただけではなく、最後の時間帯では決勝ゴールを奪ってしまうくらいの勢いだったのです。結局この試合は「1-1」の引き分けに終わりました。

 結果として、オランダがトップで、同勝ち点の(得失点差で劣る)メキシコが二位ということになりました。

 ハーフタイムでは、オランダが「2-0」のリードという情報が入り狂喜乱舞していたベルギーチーム(この時点で、韓国に、1-0でリード)。試合終了時には、逆にヘタリ込んで立ち上がれない選手もいたと聞きます。彼らにとっては、大悲劇ということですが、サッカーにおいては、単なる「普通の悲劇」のワンシーンということになります。

 さて次は、勝負の「F組」。ここは、勝ち点「4」でリードするドイツとユーゴスラビアが、それぞれ、イラン(勝ち点=3)とUSA(勝ち点=0)と対戦します。

 つまり、ドイツ、イラン、ユーゴスラビアに、決勝トーナメント進出の可能性があるということです。

 それでも、まあ実質的にはドイツとユーゴスラビアの「トップ争い」。有利なブロックに入るためにトップで通過したいドイツとユーゴスラビアには、「得失点差」を考えたサッカーをするという課題が課せられていたというわけです。

 さてドイツです。彼らは、活躍の期待が高かったメラーの調子が悪いということで、彼を先発から外し、マテウスを「前気味のリベロ」で先発させます。そして、それまでのリベロ、トーンを中盤に上げ、中盤のチャンスメーカー(それまでのメラーの役割)は、ヘスラーに任されます。ここら辺りも、ドイツが苦しんでいる証拠といったところです。

 そしてその苦しみがグランド上にも現れます。イランが九人で守備ブロックを組み、基本的にカウンター狙いという戦術をとったこともあるのですが、前半のドイツの出来は、もう最低。

 確かに、最終守備ラインはある程度安定していますが(それでも中盤守備は最低)、攻めがまったくといっていいほど機能しないのです。決定的なフリーランニングがあるわけでもなし、素早いパス回しがあるわけでもなし、はたまた決定的な場面での「勝負ドリブル」があるわけでもなし。最後は詰まってからの、イランゴール前への「放り込み」ばかり。つまり、ヘディングの強いビアホフのアタマに合わせようというのですが、それは、意図のない放り込みと揶揄されても仕方のないレベルの「逃げプレー」です。もう最低!!。

 もう一試合。ユーゴスラビア対アメリカですが、早々にユーゴが先制した後は、こちらも膠着状態が続きます。それでも、リスクにチャレンジするアメリカのサッカーにシンパシーを感じます。とはいっても、何度か、ユーゴの才能ベースのカウンターに危ない場面はありましたがネ。

 ということで、両試合ともに「後半勝負」ということになります。この原稿は、リアルタイムで書いています。とにかくドイツの出来の悪さに、拳を振るい、「何やってんダ・・お前たちは!!」と叫ぶ湯浅。ラジオ文化放送のスタッフの方々が驚いたり、苦笑いしたり・・。

 後半5分、やっとドイツが先制ゴールを決めます。ハインリッヒから右サイドへ上がるヘスラーへ。そのセンタリングをビアホフがヘディング一発です。そして12分にも、マテウス、ハインリッヒ(ヘディング)からビアホフのシュート。ポスト跳ね返りを、よく詰めていたクリンズマンがダイビングヘッド。これで「2-0」。少し、湯浅のアタマが冷えはじめた時間帯でした。

 そしてドイツが本来の自信を取り戻します。やはりサッカーは心理ゲーム。「あの」ドイツでも、前半のような本当に最低の消極サッカーをやってしまうこともあるということです。

 消極的なサッカーは、現象面では、中盤守備に如実に現れてきます。中盤で「次のパスを狙う」意図がまったくないような守備です。それが攻撃にも悪影響を及ぼすのです。一人でも、「何かダメね・・」という心理状態になってしまうと、すぐにそれが、全員に波及してしまう。それもサッカーが、本当の意味でのチームゲームだということの証明です。サッカーは、「有機的なプレー連鎖の集合体」なのです。

 調子が悪いときこそ、中盤での忠実でダイナミックな守備が必要です。「自信」を取り戻すために・・。今日のドイツは、日本代表を見習うべきだと本当に思っている湯浅でした。

 一方のユーゴですが、こちらも、USAのスピリットにタジタジ。彼らの芸術が出てきません。才能集団であるからなんでしょうネ、彼らの「調子の波」が激しいのは・・。だから、トーナメントでは勝ち進めない?!

 最後にドイツについてもう一言。私は最後まで、ドイツの「成長能力(学習能力)」を信じていますが、それでも、予選リーグの戦い方を見た今の時点で、その期待が半減してしまったことだけは確かです。

 いま、ドイツの親友と電話で話しました。「お前ら、こんな最低サッカーやりやがって・・。ユーゴ戦の最後の10分間は、まるでワールドチャンピオンみたいなサッカーをやったのに(この間に、二点奪って同点にしてしまった)。それでも、何やかんやいったって勝ち進んじゃうんだよ、オマエらは!!」ってな具合にしゃべりまくり、そして最後に、「あー、やっと気がスッキリした。じゃあナ・・」。

 彼の電話にはスピーカーがついていて、彼の自宅の居間でその会話を聞いていた友人たちが大笑いしているのが受話器を通して聞こえてきます。彼らは一緒に、テレビで観戦していたようです。まあ彼らは、私の良き友人たちなのです。

 さてこれで、かなり決勝トーナメントのグループ分けが明らかになってきました。読者の皆さんには、その組み合わせグループを表にして見ていただきたいのですが、そこではっきりしてくることがあります。それは、明日の「アルゼンチン対クロアチア」戦で、両チームともに、決勝トーナメントの組み合わせを考えた戦い方をしてくるに違いないということです。「エッ、どんなふうに??」。そのことは、読者の皆さんご自身でお考えください。「戦略的な戦い」も長丁場のワールドカップで勝ち進むための知恵(経験とも言います)なのです。

 明日は、リヨンへ移動し、ジャマイカ戦を観戦します。かなり多くのメディアを抱えているため、ホームページのアップデートが少し遅れてしまうかもしれません。そのときは、ご容赦アレ。




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