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何となくほろ苦い結果になってしまいましたネ・・日本対ジャマイカ(1998年6月27日)

 結局、昨夜は朝の四時まで原稿書き。私のホームページまで仕上げるつもりでしたが、やはり限界でした。ということで、一夜明けた午前中にこの原稿を書いています。ちょっとアップデートが遅れてごめんなさい。

 サッカーって、本当に理不尽なボールゲームですね。優れたサッカーを展開した日本が、個人勝負しかないジャマイカに負けてしまいました。

 内容と結果は、必ずしも一致しないというのがドラマの本質(必然と偶然が織りなすドラマ?!)だということは分かっていても、感情的には納得いかない内容ではあります。日本もチャンスは多く作ったのに、それでも決めることができない。逆にジャマイカは、数少ないチャンスを、「アタリマエだよ」とでも言わんばかりに、簡単にゴールに結びつけてしまったのですからネ。

 でもそれもサッカーです。世界の舞台では、パス主体の組織プレーだけでは勝ち進めないし、個人勝負能力と、それを主体にした単独勝負を仕掛けるリスクチャレンジの姿勢「だけ」でも全くノーチャンス。要は、高い個人能力(攻守のわたる、技術・戦術的な能力とフィジカル能力)をベースに、組織プレーと個人勝負が「メリハリの効いた」カタチでうまくミックスしたチームのみが世界の桧舞台で勝ち進むことができるということです。

 その意味で、今回のワールドカップでの優勝候補として、ブラジル、ドイツ、イングランド、アルゼンチン、そして地元のフランス(ノルウェーも?!)が残ってくるだろうと思っている湯浅です。

 さて日本対ジャマイカ戦を続けましょう。

 「アッ、山口・・後ろを見ろ!!」

 勝負を決めたジャマイカの二点目。ゴールを奪ったウィットモアを(その時点で)マークしなければならない山口が、ボールを見てしまい、その背後からタテのスペースへ走り抜けるウィットモアを完全にフリーにしてしまったのです。

 ウィットモアは、楽々とスルーパスを受け、遅れ気味にマークにきた小村を切り返しで簡単に外して、そのままシュートを決めてしまいます。後半、8分のこと。それは、両チームのリスクチャレンジへの姿勢の差が出たゴールだったのです。

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 日本代表は、ジャマイカ戦も、アルゼンチン、クロアチア戦で用いた、スリーバックシステムで試合に臨みました。

 確かにこの試合は、ワールドカップという大会にとっては消化試合。ただ、成功裏に世界デビューを果たした日本代表にとっては、前の二試合をとおして勝ち取ったレピュテーション(定評)を確固たるものにするという重要な意味のある戦いでした。その意味でも、岡田監督の、戦術に関する決断は正しかったと思います。

 それは「ウイニングチームネバーチェンジ(勝っているチームは、選手、戦術も含めて変えるべきではない)」という原則を踏襲した決断でした。確かにアルゼンチン、クロアチアに負けたとはいえ、日本代表チームは、「内容」では確実にウイニングチームだったのです。

 私は、拙著「サッカーTV観戦入門」で、もし最終戦までの勝ち点が「0」だったら、フォーバックにして攻撃的にいくべきだ・・と書きました。ただそれも、実際のトーナメントの状況によってガラッと様相が変わります。

 日本代表は、アルゼンチン、クロアチア戦で成功裏に世界デビューを果たし、ジャマイカ戦には、その定評を深めるという具体的な「目的」が出てきてしまいました。もう全く失うものがない状況・・というわけではなかったのです。ということで、ここはもっとも確実で、そしてやり方によっては攻撃的なサッカーも展開できるスリーバックシステムが正解だったのです。本の内容について言い訳する湯浅なのですが、ことほど左様に状況が変化してしまうのも、「自由にならざるを得ないサッカー」の特徴といったところです。

 そんな確実な戦術で試合に臨んだ日本代表でしたが、一つだけ気にかかっていたことがありました。それは、どうしてもゴールを奪えない攻撃です。

 それまでの二試合、日本代表が完全に相手の守備を崩したケースはほとんどありませんでした。確かに惜しいチャンスはありましたが、それも相手のミスに乗じたものや、ラストパスからの(ダイレクト)シュートという組織プレーだけ。最前線の選手が、ドリブル突破などで単独勝負を仕掛け、それをキッカケに相手守備を崩してしまうケースはほとんどなかったのです。

個人勝負能力だけではなく、単独での勝負にトライする姿勢の欠如。やはりそれが、世界に挑戦した日本代表が抱える本質的な問題点でした。

 確かに日本代表の組織プレーは、世界の賞賛を浴びました。それでも私が意見を交換したヨーロッパのエキスパートたちは、「確かに日本は素晴らしい組織プレーを披露したヨ。けれど、でもまだ何かが足りないんだよナ・・」と、最後は口を揃えて同じようなニュアンスのことをいうのです。

 その「何か」の中に、個人勝負にトライする「勇気」「決断力」「実行力」などが含まれるということなのでしょう。世界の舞台では、いくら洗練されているとはいえ、パス主体の組織プレーだけでは、ゴールを奪って勝ち進むことはできないのです。

 ただ、試合自体は、日本がペースを掌握してしまいます。開始早々に、名波が、城がチャンスを迎えます。その後も、安定した守備組織をベースに、日本チームがゲームを支配し続けるのです。それでも、ジャマイカが何回か繰り出した、高い個人勝負能力をベースにした単独勝負カウンターは、危険な雰囲気をかもしだすに十分なポテンシャルを秘めていたことだけは確かなことです。

 私は、ジャマイカ選手たちの、走力、ヘディングなどのフィジカル的な強さ、そして優れた個人勝負能力をベースにした、単独勝負にトライする思い切りのよい「リスクチャレンジの姿勢」を警戒していました。その部分では、日本をしのいでいると感じていたのです。

 そして結局は、そんな彼らの高い個人勝負能力、そして積極的に勝負にトライする姿勢にやられてしまいます。

 前半38分の最初の失点は、ゲイルの高い打点のヘディング(個人勝負能力)から、ホールが競り合ってこぼれたボールをウィットモアに決められたものです。

 そして冒頭の、同じくウィットモアの二点目です。

 彼がパスを受けたとき、日本のゴール前にはジャマイカの選手がパスを受ける体勢にいました。ただウィットモアは、ハナからラストパスを出そうなどとは考えていなかったに違いありません。マークにきた小村を切り返すと、そのまま強烈なシュートを右隅に決めてしまったのです。まさに「ゴール前のエゴイスト」ではありました。

 そんな単独の一発勝負にやられてしまった日本代表。組織プレーだけでは勝ち進めない「世界のカベ」が立ちはだかっていました。

 ただこうなったらもうイチかバチかの勝負に出るしかありません。後半13分。待ち望んだ呂比須が、調子の悪い城に代わって登場です。また平野も、ストッパーの小村と交替で出場してきます。岡田監督は、攻撃的なフォーバックにし、勝負をかけたのです。

 私は、高い個人勝負能力だけではなく、単独でも勝負する積極的な姿勢を見せる呂比須を先発から使うことを提言してきました。

 呂比須がボールを持ち、最前線でキープしたら、周りのチームメートは、「ここが、チャンスだ!」と攻め上がっていきます。それほど、呂比須の最前線での「ポストプレー能力」は、チームメートに信頼されているです。ただ岡田監督は、その信頼を、逆に危惧したのかもしれません。

 相手は世界の強豪。いくら呂比須でも、そう簡単にはボールをキープして「最前線でのタメ」を演出するわけにはいかないに違いない・・。彼がボールを持ったことで周りが積極的に攻め上がる。逆に、そんな状態でボールを奪われでもしたら・・。それが岡田監督が、中山、城という、最前線でシンプルにプレーするタイプの選手にこだわった理由だと思うのです。

 ただ「2-0」とリードされ、イチかバチかの勝負に出るしかなくなった後半13分。私だけではなく、スタンドで応援する多くの日本代表ファンが待ち望んでいた呂比須が、城に代わって登場してきたのです。

 その交替が日本チームにとっての強烈な刺激となります。その直後の15分から17分にかけて、立て続けに、四本も決定的なゴールチャンスをつくり出してしまうのです。中山が、秋田が、そして平野が、「ウワー!」という大歓声を誘発するようなシュートを放ちます。ただ、ゴールにつながりません。

 これを不運だと表現するのか、「決定力不足」とという「ファジー」な言葉をつかって表現するのか・・。それ以外にも、何度も決定的なチャンスをつぶした日本代表。そんなチャンスを冷徹に決めてしまう「何か」が足りない・・。

 わたしは、その「決定力の差」を、「ホンモノのゴールの体感レベルの差」と表現することがあります。ワールドカップという世界舞台での、本番チャンス。世界のゴールゲッターたちは、その瞬間、それまでに体感してきた「ホンモノゴールのイメージ」をベースに、自信をもって冷徹に決めてしまうのでしょう。

 日本戦における、バティストゥータの決勝ゴール、シューケルの決勝ゴール。その背景には、世界の舞台での「ホンモノのゴールの体感」があるのです。

 さて、押し込んでいる日本代表です。

 サッカーの試合には、勝負の時間帯というものがあります。チームの攻守にわたるダイナミズムが最高潮に達し、全員が限界レベルの積極プレーを展開する。逆に相手は、その勢いに押されて消極的になり、結局は、心理的な悪魔のサイクルに陥って足が止まってしまう。そんな時間帯のことです。

 まさにそんなチャンスが、選手交替と、システム変更の直後に訪れたのです。その時点での日本代表の選手たちは、単独勝負に積極的にトライする姿勢まで見せていました。そして29分。日本代表に、待望のワールドカップ初得点が生まれます。相馬のセンタリングを呂比須がアタマで落とし、それを中山が「ゴンゴ〜〜ル」。ただ結局は、チャンスをものにできたのはその一点だけでした。

 そんな危険な時間帯をしのぎ切ったジャマイカが落ちつきを取り戻し、ゲームが再び膠着状態に陥ってしまうのです。

 確かに日本代表は、それでも攻め込もうとはしていましたが、その時点での彼らのプレーからは、「個人勝負トライの姿勢」が消え失せ、また安全パスだけが目立つようになるなど、完全に勢いが失われていました。

 勝負の時間帯というチャンスを逃してしまう・・。それも、世界のカベだったのかもしれません。

 今回のワールドカップは、確かに日本代表チームにとって、ほろ苦い結果にはなりました。ただそれでも、彼らが成功裏に世界デビューを果たしたという事実は、もう誰にも変えられないし、そこで彼らが体感した「何か」は、必ず将来の日本サッカーにとっての大きな糧となるに違いないと思います。

 最終予選を入れれば、一年以上にもなる日本代表の戦い。「2002」を控える日本サッカーにとっては、表現し尽くせないほどの価値を生み出したことだけは事実です。それは、理想(世界レベル)と現実のギャップだけをベースにした単なる結果論と感情論の批判とは全く次元の違う、「ホンモノの価値」でした。

 さて日本代表の戦いが終わりました。これからの湯浅のテーマは、「ワールドカップのサッカー」だけということになります。

 これまで本当に多くの方々にアクセスしていただいたのですが、今後、ワールドカップが終了するまでの間に、そのアクセス数が、今度はどのくらい落ちるのか、また日本代表が抜けた後のワールドカップに対する「ノイズレベル(メディアノイズ)」がどのくらいになるのか、非常に興味があります。

 以前だったら、もうそれは100分の1・・ということになってしまうのでしょうが、今は違う・・と思いたい湯浅なのです。皆さんはどう予測しますか?

 私のコンピューターの調子が悪く、もしかすると、ワールドカップの途中で、本当にダウンし、アップデートできなくなってしまうかもしれません。それでも湯浅は、ワールドカップが終了するまで、しっかりと世界のサッカーの祭典を、現地で見届けるつもりです。今後ともよろしく・・。




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