とはいっても、そこはヨーロッパ老年期の地形。単に、緩やかな起伏が続くだけなのですが、それでも、遠くに見える村(かならずカトリック教会の尖塔が見える)、散在する森などの自然の趣などは、「そうそう、これがヨーロッパなんだよナ・・」と感じさせられ、心が落ちつきます。
いま朝の七時(日本時間で、同日の午後二時)なのですが、昨日は、夜中の一時ころまで、文化放送のパリスタジオからの生番組出演で、その後にコラムを書く元気がなく、早起きして書くことにしたというわけです。
昨日は、パリ郊外に新設された、フランス国立サンドニ競技場(単に、『フランス・スタジアム』と命名されています・・八万人収容のダダッ広い、陸上トラック付きの多目的スタジアム)で、フランス対サウジアラビアの試合を観戦しました(ゲームが終了したのは、夜中の11時でした)。
パリの中心街にある、文化放送のパリスタジオから、スタッフの方と一緒に「メトロ(地下鉄)」に乗っていったわけですが(クルマでのアクセスは大変です・・)、電車の中での盛り上がり方は尋常ではありませんでした。「アレ〜〜、フランス!!(万歳、フランス)」ってな大合唱なのですが、フランス人は平均的にあまり背が高くはないとはいっても、そこはヨーロッパ人ですから、日本人の比ではありません。私の「耳元」で、例の大合唱なのです(湯浅健二も、190センチあるのダ)。
そんな喧噪のなか、ある初老のフランス人男性の方と知り合いになりました。
それは、隣で大合唱のオニーチャンに、「ところで、地下鉄は何時まで動いてるんだろうね・・」と英語で話しかけたことがキッカケでした。ホントは、耳元での大合唱を、少なくともその「オニーチャン」にだけにはやめてもらいたかったという意図もあったのですが、私の質問に、キョトンとするオニーチャン。英語はからっきし・・のようです。
その質問に、代わりに答えてくれたのが、上品なヒゲをたくわえた、例の初老の紳士だったというわけです。
そのことをキッカケに、サンドニ競技場へつくまでの二十分間、ハナシの弾んだこと。彼は、ある企業のレプレゼンタティブなのですが(服装は、あくまでもサッカー観戦・・外見からは、普通のオジサンといった雰囲気)、カナダや、ニュージーランドにも住んだことがあるということで、英語は素晴らしくペラペラ。彼とは、八十年代の、強かった頃のフランス代表のハナシから、「ドイツは強いゼ」など私が喜んでしまうようなこと、はたまた、ニュージーランド代表のラグビーチーム「オールブラックス」のこと、果ては日本の文化にまでハナシが発展してしまいました。
ここで言いたかったことは、サッカーが、他の追随を許さない世界共通文化(クリントン大統領は、四年前のアメリカワールドカップで、「サッカーは世界共通語」だと言いました)だということです。その意味でも、「異文化接点」としての機能は、他の追随を許さないのです。
皆さんの中にも、昨年のワールドカップ最終予選で日本が勝ち抜いたとき、まったく関係のないビジネスの場で、外国のビジネスパートナーの方々から「オメデトウゴザイマシタ・・」などと祝福された経験をお持ちの方も多いに違いありません。
近くのイタリアレストランでも、まったく英語が出来ないオーナー(イタリア人)と、昔のイタリア人スター選手の名前を連呼するだけで二十分もハナシをしてしまったこともありました(これって、もしかすると会話じゃなかったのかも・・)。「ルイジ・リーバ!!」。こっちは、「イエス!ジャンニ・リベラ!!サンドロ・マッツォーラ!!」。すると、オーナーさん。「シー、シー(イタリア語で、イエス、イエ〜〜ス)・・ファケッティ!!ボニンセーニャ!!」ってな具合。抑揚も、自然とイタリア的なものになってしまうのダ。
単にそれだけのハナシなのですが、それでもう我々は大の仲良し。次からは、ご馳走されてしまったりして・・。
もちろん、「あの当時はいいチームだったけれど、今年のイタリアは、あまり・・」などといったことは話しません(会話になったら、英語のできる従業員がにわか通訳になってくれます・・)。ということで、サッカーは、世界中ほとんどの国で、人と知り合うキッカケになるのです。
もちろん中にはサッカーがあまり好きではない人もいますが、それでも、自国サッカーの成功に「・・は、オメデトウゴザイマシタ」と言われれば悪い気がするはずがない?! サッカーに限らず、スポーツは、最大の「コミュニケーションツール」というわけです。
今回も前置きが長く・・。お待たせしました。それでは、フランス対サウジアラビアのレポートです。
この試合。結果は「4-0」とフランスの圧勝でした。それでも「内容」には、まだ問題があります。ですから、まだ私にとってフランスは、完璧な優勝候補というわけにはいきません。
問題の本質は、彼らの「攻め」なのですが(四点もブチ込んだんだゼ・・という声が聞こえてきそうですが、そのことについては後述)、それでも、ブラン、テュラム(彼は、現在世界最高のディフェンダーの一人だと思います)、デサイイー、リザラスという守備ライン。そして、キャプテンのデシャンとボゴシアンが組む「ダブル・ボランチ(守備的ハーフの選手のこと)」。この守備組織は、本当に強い。その意味では、優勝候補に非常に近いところにいるとすることができるかもしれません。サッカーでは(特にワールドカップのような短期トーナメントでは)、強い守備がベースになりますからネ。
特に、デシャンとボゴシアンが組む「ダブル・ボランチ」コンビがいい。フランスの攻めは、左右の、テュラム、リザラスの攻撃参加がポイントになっていますが、このボランチ・コンビがいなければ、そのオーバーラップ(守備選手の攻め上がりを一般的にこう言います)が、逆に、相手の格好のカウンターチャンスになってしまいますからネ。
攻撃にたくさんの才能がいても、守備が弱ければ決して勝てませんし、魅力的な攻撃を展開することだってかないません。ブラジルやドイツが強いのは、実はその「世界レベルの守備力」にある・・ということはあまり知られていませんが、そのことは、世界のエキスパートの中では常識なのです(今年のブラジルチームは、守備に少し不安を抱えてはいますが・・)。
この試合でも、フランスの守備の強さがいかんなく発揮されていました。それでも、サウジの選手が一人退場になるまでの攻めは、ホントにカッタルイもの。パスを受ける動きである、フリーランニングが出てきません。単に、安全な「横パス」を回すためのフリーランニングではなく、相手ゴール前の「決定的なスペース」への「決定的」なフリーランニングが出てこないのです。
決定的なフリーランニングが出始めれば、そのフリーランニングに合わせるパスが難しかったとしても、一人が動いたことで出来る「別のスペース」を、後方の「二列目」、「三列目」の選手が使うことができます。また、最前線の選手が戻り気味のフリーランニングをすれば、「二列目の選手」自身が、相手守備が引き出されたことによって「広がった」決定的スペースへ走り抜けることだってできるのです(これが、二列目の飛び出し!)。
サッカーは、「ボールのないところで勝負が決まってしまうボールゲーム」。ですから、「クリエイティブなムダ走り」が美しく危険な攻撃の、本質的なベースです。
才能集団の場合、この「クリエイティブなムダ走り」をさせることは簡単なことではありません。皆、ウマイですから、どうしても「オレの足元にパスを出せ」ってな具合で、また、一人ひとりがボールを持ちすぎる傾向があるため、特に中盤でのボールの動きが停滞気味になってしまうのです。
ただ才能集団とはいっても、ブラジルは違います。レオナルドを中心に、彼らは、献身的な「ムダ走り」を続けるのです。あの「ロナウド」も例外ではありません。
「スペースを使う」、「スペースを作る」などという表現がよく使われますが(サッカーをよく知らない方々にとっては意味不明・・不親切で工夫のない解説が横行しています)、その本質的な意味は、「フリーランニングから、相手にマークされない、フリーな状態でパスを受ける」ということなのです。フリーでパスを受けるところは「スペース」以外の何ものでもありませんからネ。
フランスチームは、そこのところに大きな問題を抱えているように感じるのです。とはいっても、一点リードされたサウジが、リスクを冒して攻め上がり始めたころから(自分たちの守備組織を少し開け始めたころから)、完全にフランスのペースになってしまいます。最後の時間帯でのサウジは、守備組織が完全に開いてしまっていました(守備ブロックの人数が足らず、ポジションバランスも崩れてしまっている)。これではフランスにゴールを量産されても当然といったところ。
ともあれ、地元のチームが大活躍していることはいいことです。試合後のパリ市内だけではなく、私のホテルでも、盛り上がっていたこと・・。それがワールドカップ自体の雰囲気も盛り上げます。これでフランスの出来が最低だったら、「自分のみが中心」のフランス人のこと、ワールドカップなんて知らないヨ・・ってな具合に、雰囲気が地に落ちてしまうことは確実です。このままフランス代表が、最低でもベスト4くらいまでいってくれれば・・。そのくらいまでならば確実?! そんなことを思っている湯浅でした。
さて明日は、日本代表がクロアチアと対戦します。(負けたとはいっても)成功裏に「世界デビュー」を果たした日本代表。今度は、世界最高の舞台での「日常の勝ち点勝負」の試合になります。
アルゼンチン戦の日本代表は、確かに負けはしましたが、内容的(心理的)には「ウイニング・チーム」です。サッカーでの常識、「ウイニングチーム・ネバーチェンジ(勝っているチームは決して変えてはならない)」に従い、岡田監督は、同じメンバー、同じ戦術でクロアチア戦に臨むに違いありません。
対クロアチアでも、アルゼンチン戦同様、しっかり確実に、そしてねばり強く守ることで、相手の才能を発揮させない・・。そして、相手の「心理的なフラストレーション」をつのられる・・というのが基本的な戦術になります。はじめから積極的に攻め合うような展開だけは避けなければなりません。
そうすれば、才能集団で、格別に「ホットテンパー」な彼らのこと、必ず「スキ」を見せてくるはずです。そこがチャンス。その瞬間に、リスクチャレンジの攻め上がりを仕掛けるのです。もちろん途中でボールを奪い返されてしまったら大変なピンチに陥ってしまいます。そんな「ワンチャンスのリスクチャレンジ」では、必ず、何らかの「フィニッシュ(シュートミスでも、ゴールキックでも、フリーキックでも何でもいい)」に持ち込むのです。そうすれば、戻る時間は十分にあります。
アルゼンチン戦の90分のなかでも「成長」を続けた、学習能力の高い日本代表チーム。私は、彼らにはホンモノの「期待」を持ってもいいと実感しています。
何かクサイ言葉であまり好きではないのですが・・。ガンバレ、日本代表!