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立派な戦いを展開した日本代表・・ただクロアチアにも惜敗・・そして予選突破の可能性がゼロに(1998年6月20日)

 今日の時点では、可能性は「ゼロ」ではありりません。アルゼンチンとジャマイカの試合が残っていますからネ。それでも、実質的に可能性がゼロになったことは事実だということで、表記のタイトルにしました。

 アルゼンチン戦で、成功裏に「世界デビュー」を果たした日本代表。たしかに負けはしましたが、そこでの彼らは確実に「ウイニングチーム」だったとすることができます。日本代表の勇士たちは、未知のプレッシャーに打ち勝ち、自分たちが持てるチカラを十二分に発揮したのです。

 そのことは、このクロアチア戦にもいえます。彼らは、組織的に、そして勇気をもつて、世界の強豪であるクロアチアに対し、立派な戦いを展開しました。

 日本と世界との「差」が、厳然と存在していることは周知の事実。それでも、そこは「自由にならざるをえない(拙著を参照してください)」サッカーですから、何が起こるか分からないという「夢」を見ることが出来ます。そんな「不確実性」もサッカーの魅力の大きな部分を占めているのです。

 ただ、そんな「いい夢」から目が覚めてしまいました。それは勝負の世界だから仕方のないこと。ただ私は、そんな「夢」を見られるような「内容のある」サッカーを展開し、世界に日本サッカーをアピールした代表チームの勇者たちに対し、心から感謝したいと思います。言い古された言葉ですが・・「夢をありがとう」。

 私は、呂比須を先発から使って欲しかったのですが、結局岡田監督は「ウイニングチーム・ネバーチェンジ(勝っているチームは決して変えてはならない=負けたとはいえ、アルゼンチン戦の日本代表はウイニングチームでした)」という原則を踏襲し、アルゼンチン戦とまったく同じメンバーで勝負に臨みます。

 たぶんそれは、ボールを奪い返した地点から、ボールを「こねくり回さず」なるべく早く相手ゴールに迫ろう・・、そのためには、まずスピードが必要・・、そして決定的なフリーランニングでは中山、城の方が上だという判断なのでしょう。

 守備の戦術もまったく変えません。

 秋田がシューケルを、中西がスタニッチを密着マーク。中盤の才能、プロシネツキ、アサノビッチは、例によって、山口、名波、中田が、受け渡しをしながら、決定的な場面では、確実にマークします。また、クロアチア両サイドの才能、ヤルニとシミッチは、基本的に相馬と名良橋が担当します。

 逆に、日本チームの中盤の王様、中田は、ボバンに代わって出場した守備的ハーフ、ユルチッチにマークされます。

 スタジアムは、例によって「ジャパン・ホームゲーム」の雰囲気。そのなかで日本代表は、素晴らしい立ち上がりを見せます。何度もクロアチアを押し込んでしまうなど、積極的に「前へ」出ていったのです。

 それに対しクロアチアは、まず最初の時間帯は、しっかりと守ってカウンターという雰囲気。ボバン、ボクシッチという主力を欠いている彼らは、最初の時間帯は注意深くいこう・・ということなのでしょう。もちろんそれには、アルゼンチン戦での日本の「サッカー内容」から、かなり注意深くなっていること、そして自分たちの調子がかなり悪いことを実感しているという背景があったに違いありません。

 それでも10分には、プロシネツキ、アサノビッチが絡み、最後はプロシネツキからのセンタリングを、スタニッチが決定的なシュートを放ったり、12分には、シューケルの危ないフリーキックがあったりと、クロアチアも徐々に「前へ」という姿勢を見せ始めます。

 日本チームは、クロアチアを押し込むような(雰囲気の)場面はありますが、どうしても決定的なフィニッシュの場面をつくり出すことが出来ません。それに対しクロアチアのカウンターは、危険そのもの。絡むのが、二人でも、何とかフィニッシュのカタチまではいってしまうのです。それこそ「世界の才能」の証明といったところ。それでも日本代表は、そんな危ない場面があったにもかかわらず、積極的な攻撃の手をゆるめません。直後の13分には、城の果敢な勝負から、最後は相馬が決定的なシュートを放つチャンスを迎えます。素晴らしいリスクチャレンジの攻撃でした。

 それはそうです。日本チームにとっては、この試合に引き分けてしまった場合(それも無得点で)、予選突破がかなり難しいモノになってしまいますからね。日本チームが、リスクを冒して勝ちにいっている態度は、アタリマエなのです。

 ただ、そんな「前向き」の姿勢が、特にスタニッチのマークが甘くなる・・という問題につながってしまいます。彼のマーク役、中西も、積極的に攻撃参加する姿勢を崩していません。そんなこともあり、17分には、そのスタニッチに、決定的に近いシュートを打たれてしまうのです。

 ただここら辺りから、日本代表が、心理的に大成長を遂げたことの成果が現れてきます。敏感にピンチを察した彼ら自身が、攻守のバランスをうまくとってしまうのです。改めて、彼らの「学習能力」の高さを再認識した湯浅でした。

 そして31分。スタニッチ、プロシネツキが絡んだ「タメ」に、フリーで「ラストパス」を受けようと、後方からシューケルが回り込んできます。素晴らしいフリーランニングだったのですが、そのパスを読んでいた井原が、うまくインターセプト(パスカット)してしまうのです。そんなクレバーな守備プレーが、日本チームに勇気を与えないハズがありません。その直後の34分には、プロシネツキからボールを奪い返した中田が、そのままドリブルで右サイドをばく進し、最後は中山へ決定的なスルーパス。中山のシュートはGKのスーパーセーブに阻まれてしまいましたが、この瞬間、クロアチアの守備は失点を覚悟したに違いありません。

 後半も同じような展開が続きます。25分の、井原のマークを「才能トラップ」で外し、バーに当たるシュートを放ったシューケルのプレーなど、クロアチアのカウンターは危険そのもの。それでも日本代表は勇敢に攻め続けます。

 ただ結局最後は、彼らの「才能」にやられてしまいます。

 後半31分。中田から山口への、ダイレクトでのバックパスをカットしたアサノビッチが、一度井原にラストパスをカットれさた後、再びボールを奪い、今度は左サイドからセンタリング。それを冷静にトラップしたシューケルが、左足で、これも冷徹なシュートです。そしてボールは、かろうじて触った川口をすり抜けてゴールへ。

 悔しい失点でした。

 やはり勝ち進むチームには、「攻撃の才能」が必要・・。そのことを実感させられたシーンではありました。勝ち進むチームは、優れたフィジカル能力、戦術能力をベースにした、攻守にわたる組織サッカーだけではなく、個人勝負能力でも優れた「才能」がいるものです。それは、ポジティブな意味での「エゴイスト」と言い換えることができる存在です。

 自由にならざるを得ないサッカーですから、最後は個人勝負能力がモノをいう場面が多く出てくる・・。ただ、そんな才能は待つしかない・・?! いや、日本の場合、そんな「個人主義的な才能」が「伸び悩んで」しまう「(体育会的な)体質」自体を問題にすべきなのかもしれません。

 最後に、ジャマイカ戦について一言。

 この試合は、「サッカーの内容」も高く評価される素晴らしい「世界デビュー」を果たした日本代表にとって、非常に重要な試合になります。けっして「消化試合」ではありません。

 日本代表は、この試合に勝ち、彼らの築いた日本サッカーに対する「レピュテーション(定評)」をより確固たるモノにしなければならないのです。

 ただジャマイカは、非序に不気味な存在です。フィジカル的に(高さ的にも)強い彼らのサッカーは、日本サッカーがもっとも苦手にする「自由奔放タイプ」。そのジャマイカを相手にする日本代表は、いままでの「ウイニングチーム」を変えず、また戦術的にも大きな変更をすべきではない、というのが私の考え方です。彼らのサッカーが捉えどころがなく、不気味であるからこそ、これまで通りのシステムで、安定した戦いを展開すべきだと思うのです。

 自信に満ちあふれ、それを試合ごとに深めている今のチームを、「日本サッカーの将来を考えた・・」などという、訳のわからない根拠で変化させるような愚鈍なことを岡田監督がするとは思えませんが・・(これは、あるメディアから聞いた情報だったのですが・・)。

 選手自身も、どんどんと変化していきます。いまの「将来を担う選手」がいつまで「担う」ことができるか、誰にも分からない。そのことはサッカーの歴史が証明しているのです。




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