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臨戦態勢の日本代表、パラグアイと引き分ける(1-1)(1998年5月18日)

 昨日は(1998年5月17日)、試合後のトークショーなどで忙殺され、またその前日には三時間しか寝られなかったこともあって、家にたどり着いたらもうフラフラ。また今日(1998年5月18日)は朝からミーティング。ということで、ホームページのアップデートが遅れてしまいました。

 さてキリンカップの第一戦、対パラグアイです。岡田監督は、この試合ではじめて臨戦態勢のシステムを披露しました。最終守備ラインをスリーバックにしたのです。このことについては、今週の金曜日(1998年5月22日)にアップデートされるインターネット・オンラインマガジン「2002 Japan(J's Voice)」で書きますので是非ご覧アレ。

 この試合では、まず「中田抜き」でどのくらいチームが機能するかというところに注目しました。結論は、攻撃では、彼がいないことの影響は無視できないくらい大きいというものです。それほど、中盤での中田のクリエイティビティーが、現在の日本代表に欠くことのできない存在になっているということです。決定的なラストスルーパスもそうですが、中盤での「タメ」からのペースチェンジ、大きなサイドチェンジパスなど、相手が困るようなボールの動きが、彼が絡んだ場合と比べ、かなり低調なのです。

 そのことが原因で、パラグアイ守備陣の「読み」がピッタリと合い、日本代表のパスがうまくつながりません。これでは徐々に「ボールのないところでの動き」が落ちてきて当然(逆に、足が止まったから・・という視点もあります)。結局は、足元へのパスを繰り返すハメに陥ってしまいます。それが、前半三十分までのサッカーでした。先制点を奪われた後の日本代表は、完全に「心理的な悪魔のサイクル」に入っていたのです。

 中田の「代役」で出場した森島ですが、前半の彼のプレーは「消極的」。勝負のチャンスでも、リスクを犯さずに安全な横パスを出してしまうなど、自信のなさが、傍目にもわかってしまいます。これでは、パラグアイの選手たちが恐がるはずがありません。

 サッカーでは、ロジックな「パス回し」だけではなく、たまには、中盤での「タメ・ドリブル」、シュートへの勝負のドリブルなど、(ちゃんとチーム内での合意を取り付けたうえでの)エゴイスティックな「個人プレー」も必要です。それがゲーム運びに変化をつけ、相手が恐れるものになるのです。前半の日本代表の攻撃は、何度かチャンスを作ったとはいえ、全体的には、まったく「変化」のない単調なものでした。

 それでも、前半30分を過ぎた頃から、たて続けに日本代表がチャンスをつくり出します。その牽引車になったのが、名波と相馬の「あ・うんの呼吸コンビ」でした。まず30分、このコンビが左サイドでチャンスをつくりセンタリング。森島のシュートは不発でしたが、これがキッカケになり、日本代表のプレーが、どんどんとアクティブなものに(積極的なリスクチャレンジ)変わっていったのです。

 そんな立て続けの「アクティブ攻撃」の締めくくりは、城の右サイドでの突破ドリブル(ハーフウェイライン手前から、まず一人を外し、そのままドリブルで前進)でした。それは典型的な「前後のスペースをつなぐドリブル」。50メートルはドリブルで突進したでしょうか、最後のラストパスは、中山と呼吸が合いませんでしたが(これは中山のフリーランニングミスともいえる)、「変化」につながる超アクティブプレーではありました。

 後半は、ネンザをした小村に代わり、久々代表復帰の斉藤が登場です。その斉藤は、堅実なプレーを見せました。

 後半立ち上がりに目立ったのは、名波に対する執拗な(汚く危険な)アタックです。前半の彼の出来を見て、「アイツをつぶせ!」、ということになったに違いありません。これも「世界」の洗礼。それでも、まったくビビることなく、逆に「やり返す・・的」なプレーを見せた名波に拍手です。

 もう一人、森島。ハーフタイムに「オマエは、後・・分だぞ」とでも岡田監督に言われたのでしょうか、彼のプレーが格段に「積極的」になってきます。相手ゴール前で、何度も勝負のドリブルにトライするなど、リスクチャレンジの姿勢が見えてきたのです。結局はファールで止められてしまいましたが、そんなプレーからしか「代表チームでの自信(精神的なベース)」は生まれてきません。そこまで「行けた」森島に、期待が芽生えてきました。

 ただそんな森島のアクティブプレーも17分まで。そこで、彼にかわって伊東(正直いって残念・・もう少し積極的になった森島を見たかった)、中山にかわって呂比須の登場です。この二人の登場で、日本代表の攻撃が「ホンモノの危険度」を増していきます。

 それまでの攻撃は、確かにチャンスはつくり出すが、それでも完全に相手守備ラインを崩しているわけではない・・、といったものでした。それが、この二人が参加したことによって、「相手の守備ラインを崩しきれるかもしれない・・」といったレベルまで期待感が高まったのです。

 呂比須のスーパーなトラップからの「ポストプレー」。伊東の、豊富な運動量をベースにした効果的な「つなぎプレー」など。そんなクリエイティブなプレーが、日本代表に活力を与え、それからの攻めは、見ていても分かるくらい危険なものになっていきました。

 もちろんそれには、パラグアイの中盤守備がかなり「ルーズ」になってしまったという要因もあります。もちろん、日本の攻撃がアクティブになったから彼等の守備が消極的になった・・とも言えます。攻撃と守備は「二律背反」なのです。

 続けましょう。とにかく呂比須。この日の彼は、日本代表のトップに欠かせない存在であることを証明しました。特に、名波からのスルーパスを一発でトラップし(この時点で二人のディフェンダーを外してしまった)、振り向きざまに打ったシュート(相手にブロックされてしまう)、32分の、自分自身の勝負ドリブルで得たフリーキック(名波)のチャンスに、右サイドから左サイドへ抜け出てスルーパスを受け、そのままシュートまでいったプレーなどは秀逸でした。

 そんなクリエイティブプレーが、(心理的に)41分の同点シュートにつながったとすることに異論をはさむ方は多くはないと思います。そこでの、城と相馬の「相手のスキ」を突いたフリーキックは、まさに「マリーシア」。彼等の精神的な成長を証明するゴールではありました。

 この試合、スリーバックと前気味の「リベロ」、山口とのコンビネーションが非常にうまく機能しました。先制点を奪った相手が、引いてしまったことは残念でしたが、それでも、その後はまったく相手にチャンスを作らせなかったわけで、今回のテストはまずまずの成果が上がったと私は考えています。




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