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さて、決勝トーナメントが始まりました(ベスト16:イタリア対ノルウェー、ブラジル対チリ)(1998年6月28日)

 昨日(ホントは一昨日)は、リヨンまで(片道480キロ)日本対ジャマイカ戦を見にクルマを飛ばしました。

 往復で1000キロ近くを移動したことになるのですが、パリのホテルに戻った後に(既に深夜に近い時間)、三本のコラムを書き、その原稿を、コンピューターのトラブルにもかかわらず日本へ「いーめーる」で送付した次第。そして今朝は、朝から自分のホームページの原稿書き。寝られたのは二時間弱でした。

 いま文化放送のパリスタジオにおじゃまし、テレビで、イタリア対ノルウェーの試合を観戦しています。フーー。

 ホテルに帰るのは、文化放送の番組が現地時間で深夜ということもあり、いつも真夜中。それから原稿書きということで、ホテルの人からは、「アンタ、いったいいつ寝てるんだネ・・」と訝しがられる始末。私はライターだからと説明してありますから、このころは、まるで親のように健康まで心配してくれます。

 ということで、イタリア、ノルウェー戦です。試合は、私が予想したとおり、最初からノルウェーがペースを握ります。イタリアは、しっかりと守ってカウンターという、「いつもの」戦術。それが功を奏し、前半17分に、目の覚めるようなカウンターから、イタリアが先制点を奪ってしまいます。

 中盤でボールを持った、ディ・ビアッジオから、最前線で爆発的なダッシュ(フリーランニング)のスタートを切ったビアリに、コース、強さともにピッタリのスルーパスが通ったのです。それをキッチリと決めるビアリ。こんな状況で、ノルウェーゴールキーパーの動きをしっかりと把握した、確実な「コロコロ・シュート」を左隅に決めてしまうのです。これこそ「世界の決定力」。その背景には、世界のプレッシャーの中で何度もそんなシュートを決めたという体感(経験)があるのです。

 その瞬間のビアリの脳裏には、コロコロとゴール左隅に転がり込んでいくボールがイメージされていたに違いありません。

 その後のイタリアのゲーム運びは、もう世界チャンピオン。彼らの「ツボ」に完全にはまり込んだ試合展開ではあります。逆にノルウェーの攻めが、単調になってしまいます。ゲーム中盤でのノルウェーは、フロの最前線でのタメなどの、ブラジル戦で見せた「攻めの変化」がまったく消されてしまっていました。

 そんな風に、攻めさせるが、決定的な場面は作らせないというのも「イタリアの狡猾なワナ」ですし、先制点の後も、ココゾッという場面では、しっかりとディノ・バッジオ、デルピエーロが決定的なシュートまでいってしまいます。まあ、試合の内容は別にして、やはり「世界チャンピオンの経験」があるチームには、守備での「巧さ(目立たない汚さ)」も含め、世界で勝ち抜く「何か」が備わっているということなのでしょう。

 最後の時間帯に全てのリスクを冒して攻め込んだノルウェーでしたが、結局、巧妙で狡猾なイタリア守備に抑えきられ、そのままイタリアが準々決勝に駒を進めました。とにかくイタリアの試合巧者振りだけが目立った試合。それは、元世界チャンピオンとサッカー新興国の差とでも表現できそうな試合内容ではありました。

 さてこれから、パリの「パルク・ド・プランス」競技場へ、ブラジル対チリの試合を観戦しに出かけてきます。ブラジルがどこまで「成長」しているか、対するチリの「サ・サ」コンビはどこまでやれるのか・・。興味が尽きないところではあります。

 ここは、試合が終了したパルク・ド・プランスのスタンドです。私はいま、「これぞモダンサッカー」という素晴らしいゲームの余韻を楽しみながら「カタカタ」と、半分壊れかけたコンピューターのキーを打っています。向こうからは、競技場役員が私のことを「早く帰れ!」とでも言わんばかりに、眉根にシワ寄せて見ています。

 グランド上で演じられたのは、まさに魅力満載のファンタスティック・ゲーム。チリが素晴らしい攻撃サッカーを展開したことが、そんな美しいサッカーになった大きな要因でした。

 「あの」ブラジル相手ですから、普通だったら守備主体に、それも受け身主体のプレーに終始してしまうもの。ただチリは、勇気をもってアクティブサッカーを展開したのです。それも、攻守のバランス(人数・ポジションバランス)を崩さずにです。私は素直に、チリのことを甘く見ていたと認めざるを得ませんでした。

 以前のワールドカップでは、南米チームで目立っていたのは、ブラジルとアルゼンチンだけ。チリ、パラグアイ、メキシコ、ペルー、コロンビア(90年代は、メンバーが揃って強かったですが、後身が育っていません)など、彼らは、本大会に出ても予選リーグ止まり・・というイメージがつきまとっていたのです。

 それが今回のワールドカップでは、チリ、メキシコ、パラグアイが決勝トーナメントに進出してしまいました。それも、内容の伴ったサッカーで・・です。国際情報化、プロサッカー市場のグローバル化・・色々要因はあるのでしょうが、それについては今後もテーマとして追ってみようかな・・と思っている湯浅でした。

 さてブラジルです。

 徐々にチームが固まってきました。そのことを、私は「トーナメントでのチームの成長」と表現するのですが、その一番の要因が、ボールのないところでの、攻守にわたる美しく献身的なプレーを展開する「クリエイティブな無駄走りの権化」、レオナルドの、チーム内へのインテグレート(組み込み)でした。

 彼の「価値」が、チームに再確認されたのは、開幕戦、対スコットランドの試合においてです。先発はジオバンニ。そのときのブラジルチームのペースは、特に攻撃において上がっていきません。

 確かに彼一人のせいではありませんが、ジオバンニのプレーが、攻守にわたって消極的だったことだけは確かなこと。とにかくサッカーは、「有機的なプレー連鎖の集合体」ですから、一人でもペースに乗れない選手がいたら、それが強力なビールスのように、すぐに身体中に充満してしまうのです。

 組織プレー(パスとフリーランニング)と個人勝負プレーがうまくバランスしなければ、強いサッカーはできない・・それは世界の常識です。そんな状況で登場したのがレオナルド。そしてブラジルのクリエイティブサッカーが蘇ります。これについては、以前に書いたコラムを参照してください。

 それ以来、レオナルドはチームのコアとして大活躍です。彼が入ったことで、リバウド、ロナウドなどのプレーにも冴えが出てきます。本当に、レオナルド様々といったところ。

 ゲームは、チリが、攻守にバランスのとれたクリエイティブなサッカーで、最初からブラジルを押し込みます。これは面白い試合になる・・。ただ、そんなチリペースの状況が、10分に飛び出した、サンパイオのヘディング一発(先制点)で、完全にバランスしてきてしまうのです。

 ブラジルは、サッカーの恐さをよく知っています。立ち上がり、相手の積極的なサッカーに押し込まれ、自分たちのペースを上げることができない。それは、ガマンの時間帯。ここで失点でもしたら大変なことになる・・。チリの勢いに、ちょっと受け身になり、攻守にわたってプレーが停滞しはじめる・・そんなタイミングで飛び出したサンパイオの一発でした。

 そして26分、再びサンパイオが、右足インサイドで、「冷徹」にゴールを決めてしまいます。FKからのこぼれ球を蹴り込んだゴールだったのですが、それはそれは、見事な「ゴールへのパス」でした。

 こうなったら完全にブラジルペース。今度は余裕をもってチリの攻撃の勢いを受けとめ、そして世界最高の「才能」をベースにした危険なカウンターを仕掛けます。そして終わってみれば「4-1」。

 見方によっては、チリを攻めさせ(前に重心をかけさせ)その勢いの逆をクレバーに突いた・・という試合内容。それも、サンパイオのゴールがあったからできた「余裕の戦い方」ではありました。

 天才、デニウソンについて一言。まだまだ彼は、「チームゲーム」という意味で問題を抱えています。彼ほどの才能なのですから、攻守にわたる組織プレーと単独勝負プレーがうまくバランスすれば、確実にチームにとっての大きな戦力になるのに・・。まだまだ彼は発展途上ということなのでしょう。誰か彼の「心理マネージメント」をしっかりとやらなければ・・。

 最後に、「J・コンビ」、ドゥンガ、サンパイオについて。

 この試合、私はレオナルドの「ボールのないところでのクリエイティブプレー」だけではなく、ドゥンガ、サンパイオのプレーにも注目していました。この二人は、完全に、中盤守備と「攻撃の起点」の中心。もっとも重要な役割を果たしています。

 彼らの役どころは「縁の下の力持ち」ですが、例えばドゥンガが一言指示すれば、「あの」ロナウドでさえ素直に頷くのです。彼の素晴らしいパーソナリティーの証明といったところですが、それはとりもなおさず、チーム全員が、ドゥンガとサンパイオが、チームの中でもっとも重要なタスク(役割)をしっかりとこなしている・・という意識を持っているからに他なりません。そんな「チームゲームに対する深い理解」も、ブラジルが、ホンモノの世界チャンピオン候補であることの証明だといえそうです。

 とにかくこの試合では、ドゥンガとサンパイオの「ポジショニング・プレー」を見ているだけで楽しくて仕方がありませんでした。

 パスがどこへ来るか、チリがどのゾーン(味方)をターゲットにしようとしているのか、そんな「チリの次のプレーの予測」や、「よし、ボールを奪い返せるに違いない」と確信した後の、次のパスを受けられるポジションへの移動・・などなど、そこら辺りも、世界のサッカーにおける「ホンモノの見所」なのです。




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