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さて、決勝の見所です・・(1998年7月10日)

 チョット落ち込んでいます。

 この二日間、色々なコラムを書きましたが、その中心になったのがブラジル対オランダ。その試合のレベルがあまりにも高く、印象が強烈すぎたのかもしれません。

 オンラインマガジン「2002 Japan」のコラムの最後を、「日本がこのレベルに追いつくには、あと何年かかるのだろうか・・。それには、まずサッカー界の体質やシステムを改善しなければ・・。そんなことを思い、ちょっと暗澹たる気持ちにさせられたものだ・・」と結んだのですが、その後、本当に暗澹たる気持ちになってしまったというわけです。

 確かに日本代表は、成功裏に世界デビューを果たしました。それでも彼らとブラジルやオランダなどの世界トップとのレベル差は歴然です。キックやトラップという基本的な技術一つにしても、まだ開きがありますし、限界状態における、個人の判断力、決断力、そして実行力という心理・精神的なレベルに至っては、そのベースに文化・社会背景がありますから、もう雲泥の・・といえる程のギャップということになります。

 それでも、しっかりとしたステップを踏めば、確実に(また、やり方によったら超速で?!)レベルは上がっていきます。その「ステップ」の中には、様々な要素が入っているわけですが、日本の場合、もっとも重要なのが、体質とシステムの改善なのかもしれません。

 さて決勝の見所です。

 そこで当たる両チームのキーワードは、言うまでもないかもしれませんが、「実力のブラジル」と「地元パワーのフランス」です。

 実力的には、確実にブラジルの方が上です。またフランスには、守備の中心の一人であるブランが出場停止という逆風も吹きます。

 そんな状況をベースにしたロジックでは、確かにブラジル有利ということになりますが(イギリス、ブックメーカーの賭率では、ブラジルが二倍くらい有利)、地元国民や、選手たち自身も決勝までこられたことを(心の中では)ラッキーだと感じているに違いないフランスは、リラックスして試合に臨んでくるでしょうし、何やら得体の知れない「地元」というスピリチュアルなパワーも味方します。

 サッカーは心理ゲームですから、その時々の心理状態で、チーム力が20パーセントに落ち込んだり、逆に150パーセントにまで跳ね上がったりします。地元の応援を一身に受けるフランスチームの心理パワーは、とどまるところを知らないほどの高まりを見せるに違いないのです。

 もう一つ、ロジック的な「ブラジル有利」の論拠があります。それは、ブラジルの方が、一日長く休めるということなのですが、私は、彼らが非常に厳しい準決勝を戦ったことを考えると、この一日の差は、そんなに大きなアドバンテージにならないと思っています。あのオランダとの死闘は、それほど物理的、心理的な疲労を、深いところに溜める結果につながったと思うのです。

 さて戦術的な分析ですが、決勝でのフランスは、それまでとは違い(これまでの6試合は、フランスの守備が強いということもあって、どちらかというと押し気味の試合展開でしたが・・)、そんなに攻め込むことができないということをベースにしましょう。つまり基本的にはブラジルに押されてしまう展開になるということです。異論がある方もいるでしょうが、実力的にはそうならざるを得ないと思います。

 押し気味の試合展開の場合、攻めに余裕があります。ですから、今まで何度も指摘したフランスの悪い癖である「ポールの持ちすぎ(ボールを、『同じ場所で』こねくり回す = ボールの動きの停滞 = フリーランニングが消えてしまう)」が起きてしまうのです。本当に何度、「早く、左へパスを出せ!!」などと叫んだことか。

 ただブラジル相手では事情が違います。彼らを相手にした場合、とにかく攻撃での「時間的余裕」がほとんどなくなってしまうに違いないと思うのです。つまり、フランスチームが攻めることができるケースは、「カウンター攻撃」がメインになるということです。

 カウンター攻撃で成功するための絶対条件は「速さ」です。相手からボールを奪い返したら、とにかく素早く相手ゴールに迫らなければなりません。そうでなければ、スグに相手の守備が戻って「組織」を整備してしまいますからね。

 そんな試合展開に、フランスのチャンスがあると思うのです。つまり、基本的な状況として、彼らの悪い癖が出てくる余裕などまったくない・・ということです。

 カウンター攻撃で何が一番大事なのかということは、彼らほどのハイレベルのサッカー選手ならば、よく「感覚的」に理解しているに違いありません。そうなれば、彼ら程の才能ですから、格段に危険な攻撃を仕掛けられるかも?!

 もしそこでも、ボールの動きを停滞させてしまうようなら、もうノーチャンス。自分で自分の首を絞めるようなものですからネ。

 対するブラジルは、自分たちの基本的なやり方(チーム・ゲーム戦術)を変えずに試合に臨むでしょう。ラインアップも変えないにちがいありません。これは、強いチームの特権なのです。ただそこには、強い故の「落とし穴」も潜んでいます。

 つまり、フランスが、ブラジルの強みを抑えるという特別な戦術で試合に臨んできた場合のことです。これくらいのレベル同士の試合ですから、守備的な戦術でやられたら、そうは簡単にゴールを奪うことはできませんからね。特にフランスの最終守備ラインには、テュラム、デサイイー、リザラスという世界最高レベルのディフェンダーが揃っていますし、中盤の底(守備的ハーフ=ボランチ)には、デシャンもいます。

 そして、ゴールを奪えずにフラストレーションのたまったブラジルが「心理的な悪魔のサイクル」に入ってしまう・・・考えられないこともありません。とにかく、「特別なゲーム戦術」を選択できるのは、基本的にはフランス側である・・ということにも注目してみてはいかが。

 この試合では、ブラジルが、本来の攻撃的サッカーで、いかに強いフランス守備を崩していくか。また対抗するフランスが、いかに効果的なカウンターを仕掛けていくかにも注目しましょう。特にフランスの場合は、テュラム、リザラスという両サイドバックの、カウンターでのオーバーラップに注目です。




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