それは、入場するときのことです。
フランスワールドカップでは、スタジアムの周りをブロックし、そこで、まずチケットを持っているかどうかの検査をします。多くの人が、狭くされた入り口に向かうので、そこで肩スリ合う関係になりますが、両チームのユニフォームに身を包んだサポーターが一緒になるわけで、両側から、ブラジルとチリの応援歌が、耳をつんざく大音響で響きわたります。
大合唱は、もちろん競技場近くのカフェのいたるところから響きわたってきますが、そんな応援合戦の場外版も雰囲気を盛り上げます。そして場外チケット検査では、両チームのサポーターが完全に呉越同舟。それも、互いに非常にフレンドリーなものです。これも文化接点なんだな・・と思っていた次第。いいですネ。
ただ次の、入場口での検査が問題なんです。キップ切りは、偽物チケットが出回っていることもあって、一枚一枚丹念に調べます。それはオーケーです。ただその後がいけない。
キップが切られて、さていよいよ入場なのですが、そこでポリスの身体検査があるのです。フレンドリーな人もいますが、私を検査した警官は、無愛想、アンフレンドリー、態度も横柄、非礼・・と四拍子も五拍子も揃っているタイプの「いやなヤツ」。中には、フーリガンみたいな問題児も多くいるわけで、彼らも神経質になっているのでしょうが、ひとしきり私の身体を検査した後、そのオッサンが、今度は私の筆記用具、コンピューターなどの入ったリュックザックを検査しはじめます。それも、外側から中身を押しつぶすように検査しようとするのです。
「ノー、ノー。アイ・ハブ・エレクトロニック・デバイス・インサイド(ダメですよ。電子機器が入ってるんですから)。ドント・プッシュ・ソー・ストロングリー・フロム・アウトサイド(外側から、そんなに力一杯押さないでください)。アイ・ウィル・オープン(いま開けますから)・・・」と言ったにもかかわらず、まったく英語を解さないようで、私の大事な電子機器を押しつぶす作業にご執心。私は、彼の手を「やさしく」振り払い、リュックザックを開けて中を見てください、と手マネです。それでも外から押しつぶそうとする彼。私もアタマにきたので、冗談じゃない・・とリュックザックを手元に引き寄せます。
と、その警官、今度は「もういい!!」とでも言ったのでしょうか、私の肩を押して「もう行け!」ってなもんです。私がその手を思いきり振り払ったのは言うまでもありません。私は190センチあります。その警官よりもかなり大きいのですが、その場で、一時にらみ合いです。もちろん彼は私のことを見上げています。彼は「・・・」と、フランス語で何か大声を出していますから、私も負けずに、英語で「・・・(冗談じゃない!)」。
かなり険悪な雰囲気になってしまったのですが、そこに、ソイツの上司らしき者があらわれ、今度はたどたどしい英語で、何かあったのか? 私が事情を説明しようとすると、今度はその上司も、「イッツ・オーケー。ユー・ゴー!」ってなもんです。何もオーケーなんかじゃない、アンタに行け!なんて命令されるいわれはないヨ。こちらは、あなた方の世紀の祭典に参加するために、わざわざ外国から訪れたライターだ、なんて失礼な態度なんだ・・と言おうとしたのがすが、今度はその上司、「試合を見たくないのか?」と脅しです。私も大人げなかったのですが、ホント、冗談じゃない!
ものすごく気分を害したのですが、とにかくその場を離れて、スタンドに入ろうと係員にチケットを提示しました。そのときの彼の言葉が、今度は「セッ・ボン」。日本語で「ヨシ、行っていいゾ」ってなもんです。気分が悪いな〜もう。
ここでは、もうこれ以上書きませんが、そんな非礼な態度が、競技場の多くの警官、係員に見られるのです。いくら問題児のコントロールが大変だからって、そんな態度って、本当に問題なんじゃありませんか? それとも私ってそんなに危険分子に見えるんですかネ(自分では人相悪いとは思いませが、もしかしたらヒゲが・・)。
久しぶりに、チケットを自分で購入し、一般入場者の方々が、日々経験していることを体感した湯浅でした。それでも、日本じゃそんなことは起きないですよネ・・皆さん(私が知らないだけかも)。
小さなことですが、2002年ワールドカップでは、そんなことにまで気を遣って欲しいと感じた湯浅でした。
今、テレビでフランス対パラグアイの試合を観戦しているのですが、この後サンドニ競技場へ、デンマーク対ナイジェリアを観戦に行きます。また、そんなイヤな思いをするんだろうか。ちょっと気が滅入ってしまいます。フランスって、そんな(権威主義の)体質なんだから仕方ないじゃない・・と自分自身をいさめているもう一人の湯浅はいるのですが、今度は、肩を押そうとする手を、うまくかいくぐってやろう・・とも思っているのです。
アッと、また前置きが長くなってしまった。さて、地元フランスが、決勝トーナメントに登場した試合です。ランスで行われたこの試合、スタジアムの盛り上がりかたは異常ともいえるレベルです。
相手は、予選グループ最終戦でナイジェリアを破り決勝トーナメントに進出してきたパラグアイ。この試合でも、まだフランスの将軍、ジダンは出場停止です。
そのマイナスが、如実にフランスの攻撃に現れてしまいます。パラグアイ守備陣を崩し切るところまでいかないのです。
ジョルカエフ、アンリ、トレゼゲ、ペティなど才能はいるのですが、どうしてもボールをこねくり回してしまいます。つまりボールの動きが停滞してしまうということなのですが、結果として、ボールのないところでのプレー(パスを受ける動き=フリーランニング)にダイナミズムが感じられなくなってしまいます。
それはそうです。どうせ走ったってパスなんか来やしない・・って周りの味方が思っちゃいますからね。しかし、かといって個人での単独勝負にトライするチャレンジもあまり出てきません。確かに、しっかりとした守備陣をベースに、何度かは決定的なチャンスをつくり出したフランス代表でしたが、それをキチッと決めることもできません。そんなこんなで、カッタルイという印象は拭えなかった前半です。
後半も同じような試合展開。今度はたまにパラグアイも、攻め込んでチャンスをつくり出してしまいます。ちょっと浮き足立つフランス守備陣。私はフランスの守備は、今大会に参加したチームの中では、最高の部類に入ると考えているのですが、その守備が、大した才能が揃っているわけでもないパラグアイの攻めにタジタジといった場面も見られてしまいます。
対するパラグアイの守備は、スーパーGK、チラベルトを中心に、人数をかけた、ねばり強い守備を展開します。
フランス守備の陣容は、ブラン、ドゥサイイー、テュラム、リザラス、そしてデシャンとボゴシアンのダブルボランチ。しっかりとした確実な守備は健在ですが、中央突破トライが多すぎ、勝負ではなく無駄なドリブルが多すぎ、チャンスの決定的なフリーランニングがなさすぎ、などなど、という攻撃に問題山積といったところ。
結局、延長に突入です。レギュラータイムでの、ポストに当たったアンリのシュートが入っていれば・・など、悔やまれますが、シナリオのないドラマ、サッカーでは「・・たら、・・れば」は禁句です。それは、逆に選手たちを意気消沈させてしまいますからネ。そこら辺りの「心理マネージメント」でも、フランス、ジャケ監督のお手並み拝見といったところです。
延長も、しっかりと守りカウンターを狙うパラグアイに対し、自分から「スペースを狭めてしまう」のが好きなフランスの攻撃。これでは、いくら「エスプリ」を効かせようにも、いかんともし難い(?!)。ジダンの欠場は、ことのほか大きかったのです。
ただ結局、勝利の女神は「地元チーム」に微笑みます。右サイドからピレスが測ったようなセンタリングを上げ、それをトレゼゲがヘッドで落としたところを、最終守備ラインのブランが右足で「ドカン!」とシュートを決めたのです。ゴールデンゴール(日本での「V」ゴール)!! この時点で試合終了ということになりました。
あんなに、中央突破ばかりにご執心だったフランスでしたが、結局ゴールを決めたのは「外からの攻め」でした。皮肉な結果ではあります。準々決勝ではジダンが帰ってきます。相手は、これも堅守のイタリア。ドラマチックな試合になるに違いありません。
さて次は、デンマーク対ナイジェリアです。
今回は入場にはまったく支障はありませんでした。例によって、かなり詳しく調べられたのですが、今回の警官は、フレンドリーそのもの。何か拍子抜けした湯浅でした。もしかしたら、昨日の警官は、本当に特別なおかしなヤツだったのかも・・。
この試合は、大方の予想に反して、デンマークが「4-1」で大勝しました。最初の頃のコラムで、ナイジェリアには、攻撃で問題がある・・と書いたのですが、私は、たぶんデンマークが何とかうまく点を取り、その後のナイジェリアの怒涛の攻撃をかわして逃げ切ってしまうと予想していました(終わってから書いても遅いですかネ・・)。
ここでは、ナイジェリアの問題点を簡単に整理しておくだけに止めましょう。彼らが抱える問題は、その攻撃にあります。サッカーは基本的にはパスゲームなのですが、その意味で彼らはチームになっていなかったとすることができるのです。
一人ひとりの選手がボールをこねくり回し過ぎます。これは(ジダンのいない)フランスと同じです。
左サイドで、オコチャがボールを持ちます。その瞬間、中央付近で、カヌが爆発的なフリーランニングで決定的なスペースへ走り込みます。そんなカヌの意図を知ってか知らずか、オコチャは、ココゾとばかりに、マークに来たデンマーク選手をフェイントで翻弄するのです。それでも、結局そのディフェンダーを抜き去ることができずに横パス。いったい何やってんだ。サーカスじゃないんだゾ。
そんなことが二度、三度と続いたら、次からフリーランニングする選手が出てくるはずがありません。もちろん、単発の素早いパス回しはありますが、それが、チャンスをつくり出すまで連続するというプレーがまったくないのです。対するデンマークは、素早いダイレクトのパスをトントント〜〜ンと、いとも簡単につなぎ、ナイジェリア守備陣に、「次のアタックのターゲット」を絞り込ませずに、シュートチャンスをつくり出してしまいます。
こんなですから、カウンターアタックがうまく決まるはずがありません。ボールをこねくり回している間にデンマーク守備陣が素早く戻ってしまうのですからネ。何度彼らが、絶好のカウンターチャンスをつぶしてしまったことか。
私は、この試合をゴール裏スタンドの最上階で見ていたのですが、そのこともあって、ナイジェリアの非効率な攻めが一目瞭然でした。手前のゴールがデンマーク側だと考えてください。そしてナイジェリアの攻撃を、自分がディフェンダーになったつもりで見るのです。それは面白かったですよ。
とにかく、ナイジェリアの攻めには驚きがありません。ですから全くこわくないのです。
断っておきますが、私は、ナイジェリア選手たちの、フィジカル面とテクニックが世界最高レベルにあることはよく知っています。それに比べて、デンマーク選手たちの特徴のないこと(ブライアンとミヒャエル・ラウドルップはいいですがね)。一対一の勝負では、ほとんどナイジェリアの選手が勝ってしまうのです。ただそこはサッカー。個人的な能力だけでは決して勝ち進めないのです。日本とナイジェリアをミックスしたら最高のチームになること請け合い?!
個人的には、準々決勝でのブラジル対ナイジェリアが見たかったので、残念です。それは、ワールドカップで勝ち進むことの難しさを再認識させられた試合でもありました。
アフリカ勢は、一時期よりも戦術的に伸びてはいますが、その勢いは停滞気味。戦術的に世界トップとの僅差を縮めることができるかどうかは、最後は、社会システム、文化などとも密接な関係にある、メンタリティー、インテリジェンスなどの「内的な要素」によって決まってくるものなのです。
さて明日(6月29日)は、飛行機でモンペリエへ移動し、ドイツとメキシコの試合を見る予定です。予選グループ最終戦で、オランダ相手に感動的なまでの闘いを披露して引き分けを勝ち取ったメキシコ。ドイツにとっても強敵だとすることができます。ものすごく楽しみにしている湯浅なのです。
またその次の日は、ボルドーへ飛んで、ルーマニア対クロアチア(本当は日本であって欲しかったのですがネ)を観戦です。ということで、モンペリエ、ボルドーの電話回線の状況によっては(また私のコンピューターのご機嫌によっては)ホームページのアップデートが遅れるかもしれません。そのときは、ご容赦アレ。では・・