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トヨタカップ・・ドイツチームが初制覇!(1997年12月3日)

ワールドカップ予選の雰囲気に慣れてしまったこともあったのでしょうか、チョット盛り上がりに欠けた・・という印象はぬぐえません。「参加意識」がいかに大切かを再認識させられた試合でもありました。もしかしたら、「質実剛健サッカー」のドイツが勝ったことも、その一因だった?!ただ私にとっては、試合内容自体は、非常に面白いモノでした。

それは、ドイツの組織サッカーと、ブラジルの「個性を前面に押し出した」サッカーの対決だったからです。ゲームが始まった瞬間から、その傾向がうかがえます。ショートパスの交換から、クルクルとボールを動かし、ドルトムント守備を翻弄するクルゼイロ。それに対し、前へ行こうとはしますが、まだ「押し上げ」が十分ではなく(組織的に、つまり人数をかけて攻めることが出来ずに)、中盤より前方へ進めないドルトムント。クルゼイロは、ベベト、ペルー代表の「天才」パラシオス、ドニゼッチ、クレイソンたちが、ダイレクトパスを交換し、何度かチャンスを作り出してしまいます。まだ、その素早いパス交換に慣れることが出来ないドルトムント守備陣。それでも徐々にドルトムントもペースを上げてきます。ここら辺の「ペースの奪い合い」は見応え十分でした。前半、10分過ぎから、ドルトムントも攻勢に出てきます。ただクルゼイロの「組織的な守備」は、まったく崩れる様子がありません。そしてたまに繰り出す「スーパー・カウンター」。やはり、カウンター攻撃のベースは「才能」なのです。

二度、三度とカウンターを決められ、決定的なピンチに陥ってしまったドルトムント。そんな危険なカウンターを見せつけられたら、下がり気味になってしまうのが普通。ただそこは百戦錬磨のヨーロッパチャンピオンです。すぐに、ダブルボランチの、パウロ・ソーザとツォルクが、交代で残ることで、対応してしまいます。また、相手にボールを奪い返された後の「攻撃から守備への」切り替えも素早くなります。クルゼイロのカウンターを「高い位置でスピードダウン」させると同時に、すぐに守備の組織を作ってしまうのです。そこらへんの対応能力はさすがでした。

その後のクルゼイロは、危険な攻撃がほとんど出来なくなってしまいます。ドルトムントの守備の組織が出来てしまうと、クルゼイロの動きが「パタッ」と止まってしまうのです。最前線の選手が動かないために、二列目の「チャンスメーク」も停滞気味。意味のないボールキープが目立ってしまっています。クルゼイロは、ショートパスを回し「必殺のスルーパス」を狙っているのでしょうが、そんなことはドルトムント選手たちは先刻ご承知。スルーパスを受けるための爆発的なフリーランニングも、ことごとくドルトムント守備プレーヤーによってマークされてしまうのです。試合全体で、クルゼイロのスルーパスが通ったシーンは、数回のみ。そして、「二列目と最前線」とのパス回しが停滞してしまうために、今度はすぐに「インターセプト」でボールを奪い返されてしまいます。結局クルゼイロは、最後まで「爆発的なペース・チェンジ」をすることができずに「自滅」してしまいます。個人の能力を前面に押し出した「組織プレー」がブラジルの真骨頂なのに、この日のクルゼイロは、「分断された個人プレー」のみに終始してしまったのです。それも、ドルトムントの確実な組織守備が非常にうまく機能した結果でした。

そんな、クルゼイロの「停滞オフェンス」に比べ、ドルトムントの攻撃は「セオリー通り」の確実なモノ。優秀なディフェンダーで固めるクルゼイロの「真ん中」を突破するのは難しいと「感じた」ドルトムントの選手たちは、ダイレクトパス交換からのサイドチェンジなど、大きな展開でクルゼイロ守備陣を振り回し、最後は徹底したサイド攻撃からのセンタリングです。序盤過ぎは、ドルトムントが完全に試合のペースを握ってしまいます。

そして34分。メラーのフリーキックから、左サイドを抜け出したシャプイザがセンタリング。中には(ファーポスト側)、ヘルリッヒと、チャンスと見てわき目もふらずにオーバーラップしてきたツォルクがしっかりと詰めていました。ヘルリッヒのヘディングトライは空振りでしたが、こぼれ球をツォルクが左足で蹴り込みます。これが先制点の場面です。メラーがフリーキックを蹴る瞬間、シャプイザをマークしていたクルゼイロのディフェンダーが「スッ」と上がりましたが、逆サイドのディフェンダーは反応できずに「オフサイドトラップ」は空振り。ゴールの後で、クルゼイロの守備陣で「罵り合い」がありましたが、それも後の祭りでした。

この試合、ドルトムントは、オーストリア代表のファイヤージンガーを「上がり気味」のリベロに、両ストッパーを、ジュリオ・セザール(元ブラジル代表)とロイターが務めます。その前には、ポルトガル代表のパウロ・ソーザ、大ベテランのツォルクが入ります。確かに最初は、クルゼイロの攻撃に振り回された感はありましたが、全体的には鉄壁の守備組織だったとすることが出来ます。リベロのファイヤージンガーは、相手が最前線へロングボールを蹴る状況や、押し込まれた状況では「下がり」、それ以外の、クルゼイロが二列目で攻撃を組み立てようとする状況では、最終守備ライラから上がり、「もう一人」の守備的ハーフとして機能します。スリーバックとはいっても、状況に応じて、「ラインフォー」状態でもあったわけです。それも、ストッパーの、ジュリオ・セザールとロイターという優れたディフェンダーがいるからできる守備のチーム戦術です。ドイツ代表チーム(昨年のヨーロッパ選手権では、ザマーが上がり目のリベロ)や、ブラジル代表チーム(アメリカワールドカップでは、マウロ・シルバが上がり目のリベロ)も同様の「最終守備ライン戦術」で闘います。インプロビゼーション(即興性)が基本の攻撃と違い、守備戦術はしっかりと計画されなければならないのです。

最後になりましたが、私は、このゲームでの「MVP」を、ドルトムントのパウロ・ソーザにあげたいと思います。とにかく彼の、クリエイティブで献身的なプレーは感動的でもありました。守備的ハーフでありながら、後方からのゲームメークなど、彼の活躍なしにドルトムントの勝利はなかったと確信しています。




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