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異常条件での最初のアウェーゲームは、これでオーケー・・・UAEvs全日本(0-0)(1997年9月20日)

気温が38度をこえている。湿度も高い。サッカーをやるには異常ともいえる気候条件です。

昔、ドイツのプロチームが、真夏の真っ昼間に、東京の国立競技場で全日本と対戦したことがあります。そのチームとは、ドイツの名門、メンヘングラッドバッハ。全員の積極性をベースにした攻撃のダイナミズムが売り物の、若いチームでした。そこには、「あの」ネッツァー、現ドイツ代表監督、フォクツなども含まれていました。ボールを奪い返したら、司令塔、ネッツァーを中心に、全員がガンガン攻撃に参加してくる、異様に攻撃的なチームだったのですが、そのゲームでは、彼らのサッカーがまったく違うモノになってしまいました。足が止まり、とにかくボールだけを動かすサッカーになってしまったのです。もちろん決定的な場面では、超速のドリブル勝負、爆発的なフリーランニング(パスを受ける動き)・スルーパス勝負は見せますが、それも単発。結果はもう覚えていませんが、普段のダイナミックなサッカーと比べた、彼らのサッカーの豹変ぶりには驚かされたり、落胆させられたり。「あんな気候じゃ、効率的にサッカーをするしかなかったからね。普通だったら、40-50メートルのフリーランニングをして、パスがこなくても、すぐにフルスプリントで戻ってもどうってことないんだ。それくらいのハードトレーニングは積んでいたからね。それでも、あの気候は異常だった。何十メートルか全力ダッシュしたら、息が上がってしまうし、回復にも時間がかかる。これでは『クリエイティブなムダ走り』は繰り返してはできないな・・・、すぐにそう感じたよ。だから、とにかく効率的にプレーしようということなったんだ」。ドイツ留学中に(プロサッカーコーチのコーチングスクールで)知り合った友人(当時はまだ現役でプレーしていた)が、そう語っていました。

条件は、両チームともに同じ・・。よく言われることですが、それは根性論に近いモノがあります。一年中、その気候のなかでサッカーをやっているUAEですから、ゲームの進め方が「カラダに染み着いている」など、明らかにアドバンテージあり、というのはアタリマエ。ホームの4ゲームすべてを、この「特殊な気候条件」で闘えるUAEには、他の国にはない「アドバンテージ」があるといっても過言ではありません。

さてゲームですが、とにかく全体的には「ゆっくり」としたもの。ただそこは、最高レベルの緊張感が支配しています。確かに、全体的な動きは緩慢ですが、時折見せる個々のアクションは大迫力。少しでもスキを見せたら、すぐに爆発的なフリーランニングや、超速のドリブルで最終ディフェンスラインを突破されてしまいます。最初の頃、日本は、まだこの条件に馴れていなかったこともあり、UAEにペースを握られます。戻りの早いUAE守備網(7人ですぐに守備組織をつくってしまう)、異様に強い「1対1」、そして鋭いカウンター攻撃。30分のスルーパス(川口のスーパーセーブ)、35分の、アデルのドリブル、スルーパスからのジャシムのシュートなど、ある程度、決定的なカタチを作られてしまいます。それでも、まったく「悪魔のサイクル」に陥ることなく、徐々に盛り返していく日本代表チーム。たのもしいではありませんか。それを象徴していたのが、15分に魅せた、ワンツーからのカズのシュート、そして40分の、城→名良橋(センタリング)→中田(ヘディングシュート)です。

この両チーム。「3-5-2(1-1)」であること、しっかり守ってカウンターというチーム戦術は同じ。そして実際に、両チームともに、まったく同じ戦い方の中で、交互にゲームのペースを奪い合います。そこで重要なことが、ペースを握っている場合(相手を、ある程度押し込んでいる場合)でも、カウンターの状況でも、とにかく何らかのカタチで、その攻めを「アウト・オブ・プレー」で終わることです。シュートで攻撃を終わったり(入ればゴール!!そうでなくてもゴールキック)、ギリギリでのボールの攻防にもっていって「イエロー」をもらわない程度のファールで終わるなどです。そして、すぐに守備の組織を作ってしまうのです。こうすれば、相手も有効なカウンターを仕掛けることは出来ません。もちろん、「その時点での攻撃」に出遅れた者は、「次の相手のカウンター」に備えます。そのような意思統一さえできていれば、「その時点」でチャンスがある選手は、全力で攻撃に参加できるのです。後方からのオーバーラップほど、有効な攻撃手段はありませんからネ。日本チームは、前半の中盤からハーフタイムにかけて、またゲーム終盤において、ゆっくりとしたペースの中でのそんな攻守をベースに、ペースを握っていました。

こんな緊張した試合ですから、セットプレーが非常に重要な意味を持ってきます。それを象徴していたのが、後半開始早々におとずれた、コーナーキックからの、小村のヘッドシュートチャンスでした。タイミングはピッタリ。それでも、チョットのミスで、ボールはゴールをはずれてしまいます。また30分の、中田のフリーキックに合わせた、井原のヘッドシュート。これは、オフサイドポジションにいた小村が触ってしまったため、ノーゴールでしたが、触らなくても入っていたことはVTRでも確認できます。それでも小村を責めるわけにはいきません。あの角度では、ボールがゴールに入るのか確信が持てない。自分が届く範囲にボールがある。目の前には『ゴ〜〜〜ル』。どんな優れた選手でもけり込んでしまうに違いありません。

まとめです。全日本にとっては、こんな異常条件での「アウェー」の闘いを、五分以上の内容で引き分けたことは大成功だったとすることができます。特に、コンディションが心配さていたにもかかわらず、ゲームの終盤にかけてペースを握り続けたことは特筆モノ。そのペースを握ることができた要因は、UAEを「悪魔のサイクル」に陥れてしまったことです。それは、UAEが後半に投入してきた切り札、バヒード・サードに、城にかえた本田を「オールコート・ストリクト・マンマーク(トイレの中まで付いていくという、一人の選手を徹底的にマークする守備戦術)」で付けたからです。素晴らしいベンチワークでした(加茂・岡田コンビに拍手!!)。本田が入る前のバヒード・サードは、超速ドリブル、フリーランニング、クリエイティブ・パスなど大活躍でしたからネ。サッカーのゲームでは、「一人の交代選手がゲームのペースをガラッと変えてしまう」ことは常識。UAEにとっては、バヒード・サードがその役割を担い、最初は大成功だったのです。本田が入るまでは・・。その、UAEにとっての「フレッシュ・ウインド」が、本田にマークされたことで、無風状態にされてしまいました。攻撃の城に替えて、守備の本田・・。誰もが「守備的」になると感じたに違いありません。ただ実際には、その後は、攻守ともに日本がペースを握ってしまったのです。それは、アクティブ守備が、アクティブ攻撃のベースだということの証明でもあります。バヒード・サードが抑えられ、それまで大活躍だったズハイルに替わった「スーパーマン」、モハメッド・アリも本調子ではない・・。UAEの攻撃が単調になり、足が止まってしまいます。それが、守備選手の攻撃参加が消極的になってしまった原因でもあります。逆に全日本は、山口がロングシュートにトライするなど、攻守にわたって全員がアクティブなプレーを続けました。そしてことごとく、日本の攻撃が、何らかの『アウト・オブ・プレー』までいってしまうのです。ゲームの終盤で、相手を「悪魔のサイクル」に陥れてしまった全日本。これは、「成功経験」として、選手の心の中に残ります。ゲームは引き分けでしたが、そこから『体感』したモノは、確実に次の、韓国戦に活かされるに違いありません。




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