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全日本、ウズベキスタンに快勝(6-3)(1997年9月8日)

このコラムは、オンラインマガジン「2002 Japan」のコラム(金曜日、9月12日に掲載)とリンクさせます。内容的に重複する部分があるかもしれません。あしからず・・。

この試合、点差よりも、全日本の「ゲーム戦術」の方が強く印象に残りました。前日にソウルで行われた、韓国vsカザフスタン戦(戦力、戦術的には、カザフとウズベキは似通っているとすることができます)。日本の戦術は、そこでの韓国のやり方とは、かなり違ったモノでした。最初から、ガンガン前へいく韓国。「高いポジション」でのボール奪取、中盤での、ダイレクトを多用した素早いボール回し、後方からの「何人もの」選手のオーバーラップなどなど、カザフを完全に押し込みます。それも、90分を通じて、そんな「プレス・サッカー」を披露したのです。スゴイ精神力だな。それが私の第一印象でした。また、韓国のフォワード選手たちのヘディングの強さも印象に残りました。日本の最大の敵は、やはり韓国かもしれません(UAEについては、ある程度の情報がそろっていますからネ)。

それに対し全日本の闘い方は、どちらかといえば確実性を重視したもの。まず守備から分析しましょう(前半についてです)。そこでは、3バックに、両ウイングバック、それに山口だけではなく、名波、中田もダイナミックに守備参加します。相手がセットプレーから攻撃を始めるような場面では、最前線のカズ、城がハーフウェイライン付近まで下がり、そこを「全員での守備ブロック」の頂点にして、トリプル・ボランチともいえる布陣で相手のボールを「クリエイティブ」に奪い返してしまいます。もちろん、流れの中でボールを奪われた場合は、奪われた地点を「頂点」にして、すぐに守備陣形をつくり出してしまいます(コンパクトであることはあまり意識していない・・ボールを奪い返すという守備の目的だけに絞って、全員がアクティブにポジショニング・・自然とボールの動く周辺がコンパクトになる)。そこでは、「アリバイ守備」など皆無。全員が、「自分がボールを奪い返すんだ!」という意識で、ディフェンスに入っていました。まさにそれが、全員攻撃、全員守備というモダンサッカーの真髄です。

とはいっても、最初は、あまりにも守備を意識しすぎたようで(受け身の心理状態)、見た目にはウズベキに押し込まれているような印象が残る内容でしたが(それでも、ウズベキはまったく日本のボックス内には入れません)、私がいつも書いているとおり、アクティブ守備は「アクティブ攻撃」のベースです。いくら名波、中田が下がり気味でも、ボールを奪い返した瞬間には、すぐに「高めポジション」へ移動します。そしてそこへ、正確な組立パスです。相手は「前に重心がかかって」いますから、攻守の切り替えがどうしても遅れ気味。そのスキを、全日本がどんどんと突きます。素早く、スペースを突いていくのです(スペースへのフリーランニングと、タイミングの良いパス)。そうなれば、フリーでボールをキープする「攻撃の起点」がどんどんと出来てくるのも道理。名波、中田、山口の、クリエイティブなパス能力だけではなく、城、カズの縦横無尽のポジションチェンジ(フリーランニング)、両ウイングバック、相馬、名良橋の爆発的なオーバーラップが光ります。

加茂監督は、「確実に、そして積極的に守って、必殺のカウンターを・・」という考え方をベースにしています。この場合のカウンターは、『速い攻撃』という意味です。決して、ボールを奪い返してからの、最前線への一発ドカーン・ロングパスなどという単純なものではありません。「攻撃の起点」を中心にして、スペースへ向けて爆発的なフリーランニングをする味方(オーバーラップする相馬、名良橋、フリーランニングする名波、中田・・)と、城、カズのツートップとのコンビネーション(たまには、前後左右のポジションチェンジも見せます)を主体に「モビリティー(活動的な)カウンター(速い攻め)」で攻め続けるのです。素晴らしい!相手のウズベキは、日本の「ボールのないところの選手」たちをまったく把握できません。前半は、6-7点入ってもおかしくない試合内容でした。そしてこれが(前半のサッカーが)、「肉を切らせて骨を断つ」ワールドカップ予選において「加茂ニッポン」が目指す、基本的な闘い方なのです。

もちろん、後半に見られたように、中盤での守備に「モビリティー」、「積極性」が欠けてくれば、当然、相手にスルーパスのチャンスを与えてしまいます。相手の「攻撃の起点」がうまく機能してしまうと言うわけですが、後半におけるウズベキの「数本」の決定的チャンス(そのうち3本を決められてしまう)の原因は、この、中盤における「モビリティー・アクティブ守備」が休眠状態に入ってしまったことにあります。中盤で、フリーでボールを持つ相手が、何度も出てきてしまうのですから、最終守備ラインの「視線・注意」もそちらに引き寄せられます。それが、最終守備ラインの「マークの甘さ」につながり、「守備選手の視線のウラを突いたフリーランニング」に、ピッタリカンカンのスルーパスを通されてしまうというわけです。

後半3失点の原因は、「4点リード」という心理的に楽な状態で、集中切れを起こしたことがもっとも大きなものでした(プラスで、コンディション的な問題も見えかくれ)。中田、名波、山口のアクティブ守備が、少し甘くなり、それに呼応するかように、最終守備ラインのマークが甘くなり、両ウイングバックも守備ラインに入り込み過ぎるようになっていきます。逆に、相手の攻撃は、よりアクティブなものになっていきます(もちろんウズベキは攻めるしかなかったのですが・・)。サッカーはボールのないところで勝負が決まってしまいますが、その「フリーランニング」を活かすためのパスの出所さえ(前半のように)しっかりと抑えることができれば、相手はチャンスを作り出すことさえ出来ないものです。

それでも、課題の残った後半とはいえ、ここ2試合(ブラジル戦、J外国人選抜戦)と比べた場合、進歩を感じることが出来ました。それは(もちろん、ウズベキスタンと、「世界の超一流」であるこの2チームとを比較することなど出来ませんが・・)、(特に後半)相手のペースでも、悪魔のサイクルに入ることがなかったということです。押し込まれても、ボールを奪い返し、チャンスとなったら、後方から、何人もの選手が「前線へ飛び出し」、シュートチャンスまでいってしまうのです。もちろん、(このことはゲーム全般的に言えますが・・)相手が攻め上がっていることで、相手ゴールに近い中盤にスペースが多くあったということも要因ですが、それでも、何度も見せた爆発的な「押し上げ」は特筆モノでした。それが、「後ろ髪をひかれる」ようなオーバーラップではなかった背景に、加茂監督の「クレバーなゲーム戦術と、選手に対する意識付け」があったことは言うまでもありません。

ワールドカップ予選は、本大会以上の「ドラマ」が展開するもの。重要な意味のある初戦に勝った全日本チームですが、これからも、一試合、一試合、「トーナメント」のつもりで、気を引き締めて闘って欲しいものです。ウズベキスタン戦の「前半」における、確実で積極的な守備からの「モビリティー(活動的な)カウンター(速い攻め)」という『プレー・イメージ』を持ち続けながら・・。




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