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CL準々決勝・・近年にない大どんでん返し(ドラマ)の連続でした・・レアル・マドリーとACミランに焦点を当ててテレポート・・(2004年4月8日、木曜日)

ア〜アッ、本当にビックリした。こんなドラマは最近はとんとお目にかかっていない・・。何せ、第一戦のホームゲームを、それぞれ4-1(ミラン対デポルティーボ)、4-2(マドリー対モナコ)と大勝した名門のミランとマドリーが、第二戦で、まさかの大逆転を喫してしまったのですからネ(モナコ対マドリー・・3-1、デポルティーボ対ミラン・・4-0)。

 また私にとっては(情緒的に!)、カネででっち上げられたチェルシーが準決勝に進出したことも興ざめでした(もちろん、油を扱うアブラモビッチ資金のことですよ!)。第一戦の結果がチェルシーホームでの「1-1」でしたから、この試合結果(アウェーのチェルシーが1-2とアーセナルを破る!)も予想外ではあったのですが・・(ただ内容的にはチェルシーの正当な勝利といえる・・)。

 とにかく、クリエイティブサッカーをリードする名門、レアル・マドリーとアーセナルが振り落とされてしまったことは残念で仕方ありません。まあ、勝ち残ったデポルティーボやポルト、モナコやチェルシーもなかなか良いチームだから、サッカー内容的には、準決勝も楽しめるでしょうが、やはり「華」がね・・。ということで、モナコ対レアル・マドリー、デポルティーボ・ラ・コルーニャ対ACミランについて軽くレポートしておきます。

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 サスガに、守備的ハーフとして(彼の場合は、ホンモノのボランチと呼べる存在!)1990年代のフランス代表チームを引っ張りつづけたデシャン監督だな・・。モナコ対マドリーの試合を観ながら、そんなことを思っていましたよ。マドリーを「3-1」で葬り去ったモナコは、特に守備面でよくトレーニングされたチームだったのです。

 ゴールを奪わなければ終わりだし、そこはホームゲームですからね、もちろんモナコは、最初から攻め上がってきましたよ。ただ、その攻め上がりイメージにも、デシャンがイメージする微妙なチーム戦術プランが、しっかりと根付いていたというわけです。守備ブロックを常に押し上げさせた状態で、とにかく組織的に中盤プレッシャーを増幅させ、そこからシンプルにレアルゴールへ迫る・・それでも、決して次の守備でのバランスを崩さないように、全員がクレバーにポジショニングバランスをコントロールしつづける・・。いや、本当によくトレーニングされたチームではあります。

 モナコ選手たちは、マドリーの組み立てリズムに対して明確なイメージをもっていた・・レアルの素早く広いボールの動きに振り回されることなく、また相手ボールホルダーに集中し過ぎることなく「次のボール奪取の勝負所」を冷静に探りつづける・・もちろんボールホルダー(次のパスレシーバー)はしっかりとチェックするけれど、決してそこで焦ってアタックを仕掛けるのではなく、まずディフェンスの起点として機能するというイメージを持つ・・そんな冷静な守備イメージが徹底していたからこそ、周りの味方も、次のボールの動きを予測し、効果的な勝負アタックを仕掛けられていた(守備の集中の演出!)・・。

 特に、モナコが「3-1」とリードした後の彼らの守備ブロックは、まさに鉄壁という機能性を魅せていました。あのマドリーが、まったくといっていいほど効果的にボールを動かせないのですからね。そしてマドリーの才能たちが、まさに「ごり押し」という個のドリブル勝負で仕掛けていくだけになってしまう。まさに「自滅」・・。

 普段のレアルだったら、ボールを動かしながら、相手守備ブロックが「薄くなったゾーン」へクレバーにボールを動かすという仕掛けイメージを維持できたはず。それがあれば、フィーゴやジダン、ロナウドやラウール、はたまたロベカルやミッチェル・サルガド等の個のドリブル勝負の能力が最大限に活かされたはずなのですよ。でもこの試合の最後の20分間は、相手の守備ブロックにボールの動きを抑え込まれ「気味」になったことで、(まあレアルも焦っていたんでしょう・・)ボールを動かすことに対する意識も徐々に減退していったのですよ。そして結局は、何人も相手ディフェンダーが集中している状態でも個の勝負で打開していこうなんていう「ごり押し」の仕掛けに終始するようになってしまう・・。モナコ守備ブロックが展開した忠実でクレバーなディフェンスが、(焦りもあった)レアルの仕掛けイメージ連鎖を断ち切ったということですかネ・・。

 レアルが仕掛けイメージの連鎖を維持できなかったことには(前半でも、うまくボールが縦方向に動かなかったことには)、後方からのゲームメイカー、デイヴィッド・ベッカムが出場停止だったという背景もありそうです。もちろん、ここ最近は彼の守備的ハーフパートナーとして定着したグティーからも良い「仕掛けのタテパス」は出るのですが、どうもタイミングや頻度が彼一人ではネ・・。普段だったら、後方ゲームメイクの駒は常に「二枚」いることで、左右どちらからでも、効果的なタテパスを送り込める。要は、中盤の後方に横に並ぶグティーとベッカムが、前後左右に軽快に動くボールの動きを後方からコントロールできているというわけです。それが、この試合ではグティー一枚・・。だから、ジダンをはじめとした攻撃陣も、ボールの動きのスピード&広さ、そしてリズムをうまくコントロールできなかったと思うのですよ。

 とはいっても、前半から、(ボール保持率には反して!)決定的なチャンスの量と質では、レアルが完全に凌駕していました。ロベカルからの決定的トラバースパスが、わずかにラウールに合わず・・とか、フィーゴやジダンの決定的シュートシーン等々、とにかくモナコ最終ラインのウラスペースを、何度も突いてしまうのですよ。まあチャンスの演出ツールはパスが主体で、ロナウドなどのドリブル勝負では切り崩してはいけませんでしたけれどね。

 とにかく仕掛けのドリブルやコンビネーションを駆使して、最終勝負を決めてしまう(もちろんパサーとパスレシーバーの最終勝負イメージの高質なシンクロ!)、そのキャパシティーの高さに舌を巻いたものです。そして前半36分には、ロナウドの直線ドリブルをキッカケとした夢のようなコンビネーションから(ロナウドの仕掛けパス→グティーがスルー→ラウールのフリーダイレクトシュート!)、最後はラウールが「先制アウェーゴール」を決めてしまう。それは、誰もが、「これで決まったな・・」と確信したに違いない瞬間でした。ところが・・

 前半ロスタイムでのジュリーの同点ゴールは大きかったですよね。これで後半も、前半同様のチーム戦術イメージで臨める・・。そして立ち上がりの後半3分には、シンプルなクロス(アーリークロス)から、モリエンテスが勝ち越しヘディングゴールを決めてしまうのです。これでモナコは、(それまでと同様に)しっかりとダイナミックに中盤守備を展開しながら、最後の「勝負の一点」をイメージしつづければいい・・。あと一点。

 そして、そんなチーム全体に浸透した首尾一貫したプレー姿勢(集約されたターゲットイメージの浸透!)が実を結ぶというわけです。後半21分。またまたジュリー。そしてその後は前述したような展開へ・・というわけです。

 ゲームのスタッツでは、ボール支配率ではレアルですが、枠内シュートの数では、モナコが10本と、レアルの二倍以上を打っています。これもまた、彼らのゲーム戦術が本当にうまく機能したことの証ということです。

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 ちょいと、ここのところのレアルについてもう少し・・。

 ここのところ、レアル中盤の底は、ベッカムとグティーのコンビで統一されています。たしかに両人ともに、試合を重ねるごとにディフェンス感覚が発展しているとは思いますが(いや、ホントに守備感覚が発展している・・特にボールがないところでの実効ディフェンスの伸びは特筆!)、とはいっても、やっぱり・・なんていう不安は残りますよね。何といっても、両人とも基本的には攻めの人ですから・・。

 中盤ディフェンスでの「抑え」が十分ではないから、もともと弱い最終ラインがもっと不安定になってしまう・・それでも、何とかもっているのは、やはり個の才能レベルが群を抜いているから?!

 要は、何とか中盤守備ブロックが機能しているのは、レアル中盤の核、ジダンとフィーゴのディフェンス実効度が大きく上がっているからだと思っているのですよ。ボール絡みでも、ボールがないところでも・・。

 マケレレが抜けたことで中盤守備が弱体化した・・。そして、「攻めでのクオリティー」も高いベッカムとグティーが守備的ハーフのコンビを組んでいる・・。そのことを、ジダンとフィーゴ、それに、基本的には二列目のラウールたちが意識しているということです。「ヤツらだけに汗かきをやらせておくわけにゃいかないよな・・」。

 同じクリエイティブ系で、本当は攻めの人でなければならないベッカムとグティー。たしかにボールを持ったら素晴らしいプレーを披露します。特に中距離タテパスや決定的クロスなどに素晴らしいセンスを見せつけるベッカム。中盤の底で、レベルを超えたボールキープ力とパス能力で「チームワーク」に貢献するグティー。まあ、この二人の汗かきディフェンスを見せつけられたら、前の三人も、より積極的に守備参加しなければ・・という気になるということです。もちろんケイロス監督の意識付けもあるでしょうが・・。

 要は、レアルの中盤に、みんなで守って、みんなで攻めようぜ・・という「トータルサッカー・マインド」がより深く浸透しているということかもしれません。ケイロス監督は、そんな「派生現象(もちろん発展プロセスとも言える!)」までも視野に入れて、守備が不安定なベッカムとグティーを守備的ハーフコンビに据えた?!

 さてもう一つ、「最前線のフタ」にも言及しておきましょう。もちろんロナウドのことですよ。このテーマは、昨シーズンからの持ち越しですが、結局レアルは、最前線のフタまでも、それはそれとして受け容れ、逆にうまく活用している・・。昨シーズンでも何度か書いたのですが、攻撃陣(ジダン、フィーゴ、ラウール)と、チャンスを見計らってオーバーラップしてくるグティー、ベッカム、そして両サイド(ロベカルとサルガド)たちは、ロナウドの才能を完璧に認知し、自分たちにとっても有用な「それ」を、うまく使うという意識も格段に高くなっているということです(ロナウドがタテに抜け出したいタイミングでのスルーパスを狙いながらも、別のコンビネーションや、自身のドリブル突破もイメージしつづける・・要は、仕掛けの変化が、大幅にレベルアップした!)。

 またロナウドにしても、昨シーズンの立ち上がりにように、後方から上がってくる味方のスペースを潰したりしなくなったし、タイミング良くボールを離したり(シンプルにパスを回したり)、自らのドリブル勝負で相手を引きつけ、最後の瞬間に、別の味方へラストパスを回すような捨て石プレーの姿勢も頻繁にみせるようにもなりまたからね。

 そんなふうに、明確な発展傾向を認識できるからこそ、この試合でレアルが、モナコのクレバーなゲーム戦術に沈んでしまったことが残念で仕方なかったのですよ。もっと彼らのファンタジーに浸っていたかったし、(ジーコジャパンの課題にもつながる?!)技術系選手たちの「ホンモノの守備意識と実効ディフェンスの発展プロセス」なんていう学習機会にも恵まれたのに・・なんて、またまたタラレバの感覚に襲われていた湯浅だったのです。

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 さて、ACミラン対デポルティーボ・ラ・コルーニャ戦についても簡単に。

 立ち上がりからのデポルティーボの勢いは、まさにイチかバチかという雰囲気がありました。もちろんその現象面は、中盤から仕掛けつづける爆発ディフェンス。そんな展開を観ていて、いっぺんに目が覚めましたよ。

 それでも、そこはミラン。デポルティーボの爆発エネルギーをしっかりと受け止めながら攻め上がっていくのです。やはり総合力ではミランに分があるということか・・。もちろんミランの攻め上がり方は、例によって、あくまでも前後左右のポジショニングバランスを崩さず、相手の全体ブロックが下がったときだけに、前後左右のポジションチェンジを入れた最終勝負を仕掛けていく・・というイメージです。戦術プラン優先(ディフェンス優先)の超バランス・ミランサッカー・・ってか〜!

 またフィニッシャーのイメージも、あくまでツートップに集約されています。この試合では、シェフチェンコとトマソンが先発でしたが、この二人は、常に、本当にいつもウラスペースを狙っている。もちろん後方からのパサーたちも、そんな「一発勝負パス」を明確にイメージしている。要は、「イタリアのツボ」。

 試合全体を通して、とにかく「イタリアのツボ」が存在感を示していましたよ。例えば・・後方で、ピルロとガットゥーゾ、はたまたセードルフが横パスをつなぎながら確実にボールをキープしている・・と思った次の瞬間、セードルフから戻されてきた横パスを、ピルロが、ダイレクトでの勝負ロングパスを飛ばす・・もちろん狙うのは、相手の最終ラインの背後の決定的スペース・・そして、ピタリのタイミングとコースで決定的スペースへ抜け出していたシェフチェンコが、素早くボールをコントロールして相手ゴールへ・・ってな具合なのです。

 もちろん中距離シュートやクロス攻撃など、仕掛けの変化もしっかりとミックスし、実際に何度もシュートチャンスを演出しつづけるミラン。前半6分に、デポルティーボのバンディアニが先制ゴールを入れたのですが(ホームのデポルティーボが1-0でリード!)、それでも全体的な内容では「まあ時間の問題かな・・」なんて思っていました。それほどミランのサッカーに勝負強さを感じていたのです。

 あくまでも前後左右のポジショニングバランスを崩さないで組織的に攻め上がり、仕掛けイメージが確実にシンクロした(重なり合った)危険な最終勝負を繰り出していくミラン。強い、強い・・。

 でもこの試合の展開は、そんなロジックなイメージとはかなり違う・・。前半36分には、素晴らしいクロスボールをバレロンがヘディングで追加ゴールを挙げ、前半44分には、ゴールキックから直接ボールを奪ったルーケが、そのまま持ち込んで「運命の三点目」を奪ってしまうのです。これでデポルティーボの「3-0」。この時点でデポルティーボが準決勝進出です。でもまだ前半・・これからどうなるかはまったく予断を許さない・・何せミランが一点でも入れれば「アウェーゴール二倍のルール」で逆転ですからね・・。

 そんな期待はあったのですが、現実は厳しいものになりました。後半のミランは、徐々に勢いが減退していったのです。逆にデポルティーボは、そのスピリチュアルパワーを増幅させつづける・・。

 そこでは、デポルティーボ守備ブロックの「確信レベル」が大きく進展しつづけていたことが特筆でした。彼らは、イタリアのツボを理解し、逆にコントロールしはじめた?! ボールがないところで決定的フリーランニングを仕掛けるシェフチェンコやトマソン(後半16分からはインザーギ)がある程度フリーになれるシーンがほとんど出てこないのですよ(半身でも前へ出ていれば競り勝てる!!)。ミランのパス出しタイミングと決定的フリーランニングのスタートタイミングを、デポルティーボ守備陣が明確にイメージできるようになったということです。

 また前半は見られていた攻撃の変化にしても、デポルティーボが守備ブロックを厚くしてきたことで、またミラン選手たちも、「それ以上の仕掛け(変化)アイデア」を呈示することができないことで、うまく機能しなくなったと感じました(唯一、途中交代したルイ・コスタの中距離シュートが目立ったくらい・・)。そんなところにも、戦術プランとして、仕掛けプロセスにおいて、どちらかといえば自由度を抑える傾向にある(?!)ミランの攻撃アイデア創出の限界を感じていた湯浅だったのです。




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