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チャンピオンシップのプレビュー、その「2」です・・(2004年12月2日、木曜日)

ここに紹介する文章は、携帯&インターネットサイト「Reds Press」で発表したものです。

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 さて、今回が最後となるサントリーチャンピオンシップ。そこには、フィナーレにふさわしい興味深いコンテンツが詰め込まれている。全体的には、フォックス(したたかな勝負師)岡田武史に率いられたマリノスの、相手の良さを潰すという狡猾な戦術サッカーを、あくまでも攻撃的なサッカーを志向するギド・ブッフヴァルト率いるレッズが打ち破れるかどうかという「構図」になるはずだ。そこにはマリノスが、久保、ユー・サンチョル、アン・ジョンファンといった主力をケガで欠いているという事情もある。マリノスにとっては、あくまでも自分たちの攻撃サッカーを押し通そうとする主体的なサッカーで臨むレッズに対し、その良さを抑制することに活路を見出す「戦術的な対処サッカー」という、リーグで成功したやり方を基本にするのがもっとも現実的な選択なのだ。

 レッズとマリノスがセカンドステージで対戦したのは第9節。そこでは、永井雄一郎が右サイドを務め、山田暢久が二列目に入った。ツートップは田中達也とエメルソン。個人の能力レベルという視点では、たしかに強力な布陣だ。しかしその試合では、レッズの仕掛けが完全に抑え込まれてしまっただけではなく、後半には、マリノスに何度かの決定機まで作り出されてしまう。レッズにとってそのゲーム内容は、マリノス守備ブロックの手の平で転がされてしまったとまで言える体たらく。彼らは、エメルソンは右にしか抜かない・・とか、田中はタイトマークで振り向かせなければ怖くない・・など、レッズ攻撃陣の抑え方をしっかりとイメージできていた。が戦術プレーに徹する優秀なマリノスディフェンダーたち。レッズの才能が、「最前線のフタ」と言えるまでに抑え込まれてしまうのも道理だ。それは、イメージトレーニングも含む、フォックス岡田の真骨頂ともいえるゲーム戦術の勝利。大したものだ。

 それ以降、エスパルス戦とか、ナビスコ決勝でのFC東京戦とか、はたまたグランパス戦での後半とか、レッズの攻撃が抑え込まれてしまうゲームが増えた。その一番の原因は、レッズの仕掛けが「個の勝負」に偏り過ぎていたことだった。

 エメルソン、田中達也、永井雄一郎といった抜群の個人能力を抱えるレッズ。チームにとってその才能は「両刃の剣」ともいえる。少しでも活かし方が外れたら、逆にその才能がサッカーを停滞させてしまうのだ。ただレッズには、山瀬功治というずば抜けたコーディネーターがいる。攻守にわたる素晴らしくダイナミックな「組織プレー」でレッズ攻撃をドライブする仕掛けのイメージリーダー。彼がいるからこそ、「あの」エメルソンも、シンプルなパスを出したり活発なパスレシーブの動きをみせるだけではなく、守備にも積極的に参加していたと思う。だからこそ、レッズの攻撃は、組織パスプレーと単独ドリブル勝負がうまくバランスしていたと思うのだ。しかしその山瀬が、第五節のアルビレックス戦でケガを負い、戦列を離脱してしまう。そしてそこから、徐々にレッズの攻撃が「個」に偏っていくのである。山瀬の代役として山田暢久が二列目に入ったこともあるし、スリートップ気味で、永井雄一郎と田中達也が二列目コンビを組むという布陣でゲームに臨んだこともある。ただいずれの場合でも、山瀬という「組織プレーリーダーの穴」を十分に埋め切れていないのは明らかだった。そのことが、チカラがある相手のクレバーな戦術サッカーに抑え込まれてしまうゲームが増えた背景にあったのだ。

 ただここにきて、ギド・ブッフヴァルトと彼のブレインは、個に偏り過ぎた仕掛けイメージの修正でも手腕を発揮しはじめていると感じる。例えばグランパス戦の前半。そこでは、ドリブル突破を阻止されていたエメルソンや田中が、シンプルにボールを動かすことで周りの味方の「動き」を誘発しようとするなど、「オトリ」としても機能していたのである。それが、アレックスのクロスにエメルソンがディングシュートを放ったり、永井のクロスから決定的チャンスが演出されるといった、このところのレッズの仕掛けでは、どちらかといえば希な「組織的崩し」につながった。またセカンドステージ優勝が決まった後のレイソル戦やサンフレッチェ戦でも、選手たちが、よりいっそう組織パスプレーを意識しはじめていると感じた。チャンピオンシップへ向けて、着々と準備が整いつつあるレッズ。

 とはいっても相手は、「あの」フォックス岡田率いるマリノスである。レッズのトップ選手たちが抑え込まれて「最前線のフタ」に落とし込まれてしまう危険性は常につきまとう。でも今のレッズには、次に繰り出す複数のオプションがある。スリートップが機能しないなら、山田が二列目に入ったり、エメルソンが下がってチャンスメイカーになるというオプション。「フタ」が急に下がってしまい、そのスペースに見慣れないヤツらが後方から入り込んでくる・・。いくら百戦錬磨のマリノス守備ブロックでも、少しは混乱するだろう。攻撃におけるキーポイントは、「変化」であり、「組織プレーと個人プレーの高質なバランス」である。その両方で、ちょっと停滞してしまったレッズだったが、ここにきて、その普遍的コンセプトを見つめ直し、実践しはじめているのである。

 両監督の狡猾なゲームプランがぶつかり合う我慢比べ。そこでは、リーグでの対戦とはひと味違ったゲームコンテンツを楽しめるはずだ。

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 ここで紹介したコラムのロジックフローは、昨日発表したものと基本的に同じ構図です。まあ、マリノスのゲームプランが存在感を発揮しつづけたリーグでのレッズ対マリノス戦と、レッズ選手たちのプレーイメージが「組織」にも回帰しはじめたグランパス戦を、より詳しく掘り下げたといったところ。ここでは、盛り込むのがスペース的に難しかった「より具体的なゲームゲーム戦術プラン」にも入り込みましょうかネ。

 マリノスは、まずエメルソンを抑えにくるに違いありません。「そこ」を無力化することで、田中達也と永井雄一郎のダイナミズムも抑制するのも容易になるというイメージ。逆から言えば、エメルソンを抑え切れるという確信レベルが揺動している場合、マリノス守備ブロックの田中や永井を抑えるためのエネルギーも分散し、彼らのプレーを十分に抑制できなくなる・・ということです。田中と永井のダイナミズムを抑制するとは、パスを受けたときの彼らを、タイトマークと、周りのサポートプレーに対する効果的なチェックによって孤立させてしまうこと。そのためにも、マリノス守備ブロック全体が、エメルソン抑制というテーマに確信を持っていなければならないというわけです。とにかくエメルソンの能力レベルは、まさに「世界」というわけです。

 要は、レッズのトップ選手たちを「最前線のフタ」にしてしまおうというわけですが、それがマリノス戦術プランの「プライオリティー」というわけです。トップでタテパスを受けたレッズ最前線の「仕掛けのダイナミズム」を停滞させることで、レッズ後方からのサポートエネルギーまでも萎えさせ、レッズの仕掛けダイナミズムを抑制してしまう・・。もちろん、後方からのサポートの動きに対しても、忠実なチェイス&チェックをぶつけつづけることは言うまでもありません。そう、リーグ戦でレッズ攻撃を抑え込んだようにネ・・。

 そしてマリノスは、堅い守備ブロックによるゲームフローの「主体的な演出」をベースに、後方からのロングパスもミックスしながら(どちらかといえば、そのロングパスを主体に?!)仕掛けていく。ロングパスのプライオリティーターゲットは、何といっても「一発ラストパス」。要は、マリノス最前線(坂田や清水)が仕掛ける、レッズ守備ブロック背後の「決定的スペース」への忠実なフリーランニングをイメージした勝負ロングパスということです。チームの仕掛けイメージでは「それ」も主体だろうから、パサーとパスレシーバーの動きがスムーズに「連鎖」するに違いありません。今シーズンのマリノスは、そんな相手の虚を突く仕掛けを何度も見事に成功させているから選手たちの確信レベルも高揚しているでしょう。成功すれば、一発でシュートや決定的クロス状況を演出できるし、それが無理でも、「そこ」でキープできれば、(人数&相互ポジショニングバランスを冷静に見ながら!)後方からサポートが上がってくるというわけです。

 また組織的な組み立て攻撃では、マリノス攻撃の大きな武器であるドゥトラのサイド攻撃も冴えわたるでしょう。マリノス選手たちは、ドゥトラの「仕掛けイメージ」を明確にアタマに描写できているから、彼が「行き」はじめたら、それに対するサポートや、その後の守備でのカバーリングなども含め、高い効果レベルで、そのアクションをバックアップしてしまうのですよ。

 リーグ最終節のヴェルディー戦では、立ち上がりの時間帯にマリノスがガンガン押し込んでいったわけですが(彼らも年間勝ち点チャンピオンのタイトルを取りたかった?!)、そこで最初のチャンスを演出したのも、ドゥトラのオーバーラップアクションでした。ヴェルディーのマークを見事に振り切った、ボールがないところでの爆発ダッシュと、見事なタイミングでのスルーパス。ヴェルディー守備ブロックは、完全にウラを突かれてしまいました。そんなボールがないところでのパスレシーブアクションだけではなく、ボールを持っても、ドリブル突破や、彼が中心になった勝負のコンビネーションなど、とにかく危険この上ない仕掛け人です。

 さて、対するレッズ。コラムで書いたように、トップ選手たちの「組織プレーマインド」が再び活性化しはじめています。それには永井雄一郎の「主体的守備意識」ベースの積極ディフェンス参加が大きく貢献しています。だから、フォックス岡田がイメージする「最前線のフタ」は、そう簡単に演出できそうもない。まあ、レッズが「スリートップ」でゲームに臨むことを前提にしたハナシですがネ。

 もちろんそこには、山田を二列目にするというオプションもあるわけですが、ギド・ブッフヴァルトと彼のブレインは、この時点でもっとも破壊力が大きい「スリートップ気味」でゲームに臨もうと考えるのが自然でしょう。要は、エメルソンをワントップに置き、田中と永井には、仕掛けだけではなく、マリノスの守備的ハーフコンビの押し上げもしっかりとケアーする(確実な守備参加!)戦術タスクも与えるというイメージです。ギド・ブッフヴァルトと彼のブレインは、あくまでも「攻め勝つ」つもりだろうけれど、だからこそ、攻撃的サッカーを支える「絶対的バックボーン」に対する意識も極限まで高揚させるとうバランスの取れた「心理&プレーイメージのマネージメント」に全力を傾注しているに違いない・・。山田の二列目とか、エメルソンのチャンスメイカーなどは、スリートップが最前線のフタにされてしまったときのオプションというわけです。

 マリノス同様、レッズも、チーム内に「主体的な守備意識」が浸透しているからこそ、様々なオプションという武器を持つことができる。やはり「チーム戦術の広がりと実効レベルの高揚」を支える絶対的な基盤は、主体的な守備意識というわけです。

 先日の講演会で、小学生をコーチしているという方から「子供たちをコーチするときのキーポイントは?」という質問を受けたのですが、そこで即座に描写された発想イメージは、こんなコトでした。「それはもう、子供たちが自分たち自身で考え、決断して実行できるチカラを発展させること・・そしてそのための絶対的な基盤である主体的な守備意識を発展させることですよ・・」。だからこそ「ストリートサッカー」こそが、トレーニングで吸収した知識を、実戦的&主体的&効果的にグラウンド上に具現化する最高の機会だというわけです。とにかく最悪なのが、コーチが抱える内的な「歪んだモティーブ」によるオーバーコーチング(コーチのためのトレーニング≒マスターベーション?!)なのですよ・・

 



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