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天皇杯準決勝・・またまた決定機をゴールに結び付けられなかったレッズ・・勝負強さを発揮したジュビロ・・(レッズ対ジュビロ、1-2)・・(2004年12月25日、土曜日)

どうも風を引いたみたいで、38度ちょっとという熱を帯びた状態で、ゲーム開始直前に国立競技場に到着しました。そして、前半の試合内容を観ていて、その熱がどんどん高じていってしまう・・。特にアレックスはヒド過ぎました。まさに「前線のフタ」。誰が観ても、彼のプレーにはフラストレーションがたまったことでしょう。

 試合を観はじめてビックリしましたよ。何せ、「あの」アレックスを二列目センターに置くという布陣だったのですからね。私が覚えているかぎり、それは、セカンドステージで敗戦を喫したFC東京戦以来。そのときもアレックスが、レッズ攻撃の勢いを「殺いで」いました。だから、ちょっと目を疑ったというわけです。それについては、当時のレポートを参照してください。

 二列目センターというポジションは、もっとも自由を与えられるところ。だからこそ、攻守にわたって、最高の緊張感で、自ら「仕事を探しつづけ」られなければ機能しないというポジションです。仕事を探しつづけられているかどうか・・。そのことは、攻守にわたるボールがないところでのプレー内容に如実に現れてきます。守備では、全力でチェイス&チェックに入り、味方の次のディフェンスの可能性を広げる・・相手の横パスに狙いを定めて、高い位置でのボール奪取勝負を仕掛ける等々・・攻撃では、まず何といっても、活発なパスレシーブの動きが大前提・・そして動きつづけるなかで、人とボールの活発な動きをリードする・・最終勝負シーンでは、パサーになるだけではなく、自らもパスレシーバーになるというイメージをキッチリと持っていなければならない・・そんな基本的なタスク以外にも、自ら中盤守備をリードしながら、後方の守備的ハーフを前線へ送り出したり(タテのポジションチェンジの演出)、サイドバックのオーバーラップをうながしたり・・。

 とにかくそのポジションは、限りなく自由であるからこそ、攻守にわたるセルフモティベーション能力が問われてくるというわけです。言わずと知れた中田英寿、レッズでは山瀬功治・・等々、優れた二列目(トップ下)選手たちです。彼らのプレーでは、とにかく攻守にわたって、ボールがないところでの「全力ダッシュ」が目立ちに目立ちます。全力ダッシュは、勝負に対する意志の現出。彼らには、ボールを奪い返すという守備の目的、シュートを打つという攻撃の目的を達成するための「プロセスイメージ」を明確に描きつづけ、それを自らの強烈な意志でトレースしつづけられるだけの能力(インテリジェンス)があるということです。

 私は、アレックスがそのポジションに入ったのを観ながら、もしかしたらギド・ブッフヴァルトは、彼が発展したことを確かめたかったのかもしれない・・なんて思っていました。でも結局は・・。ボールがないところでの動きが少なく(絶対的運動量が少なすぎる!)、それにメリハリもない・・もちろん意志を込めた全力ダッシュなど皆無・・パスレシーブの動きがなく、二列目ゾーンで足許パスを「待つ」ばかり・・アレックスによって、二列目センターゾーンが「潰されている」・・まさに、前線のフタに成り下がっている・・。

 信じられなかったのは、そんなアレックスが、後半も同じポジションに入ったことでした。目を疑いましたよ。ただチームメイトたちは大人でした。「ヤツがいるポジションは死んでいる・・そこを使わず、逆にオトリとして別なゾーンを活用してやろう・・」。そして右サイドの山田、左サイドの平川、守備的ハーフの長谷部や鈴木啓太が、どんどんと「絶対に活性化しないアレックスゾーン」を避けるように仕掛けていきはじめたのです。本当に、大したものだ。特に鈴木啓太。中盤守備であれだけ汗かきディフェンスをこなしながら(もちろん実際のボール奪取の頻度も素晴らしい!)、攻撃でも素晴らしい押し上げを魅せるのだから・・。まあ後半については、両サイドと両ディフェンシブハーフ全員が、攻守にわたって素晴らしいプレーを展開したということですよネ。

 そして何といっても、永井雄一郎。先週の準々決勝と同様に、この試合でも後半になってから右サイドに目立って張り付くようになり、そこからものすごく危険な勝負プレーを仕掛けつづけていました。味方もその実効レベルをしっかりと意識している。だから、右サイドの前スペースへパスが通されるシーンも増えてくる。この試合でも、鈴木啓太から素晴らしいタテスペースへのパスが何度も通されました。鈴木と永井は、互いに話し合っている?! まあ、そういうことでしょう。とにかく永井の勝負コンテンツは、どんどん拡張していると感じますよ。後半に永井が作り出したレベルを超えたチャンス。それが決まってさえいれば・・。

 あっと・・アレックス。後半25分に交代しました(左サイドに戻してポジションを変えるだけでも良かったようにも思うけれど・・)。もちろんギド・ブッフヴァルトの我慢も限界に達したということでしょう。そして酒井が登場し、長谷部が二列目センターへ上がる。まあこれで、全体的なバランスは格段によくなりました。でも結局勝負は・・。

 それにしても、ゴンの決勝ゴールは見事の一言でした。シュートに至るまでのボールの動きだけではなく、最後のパスを受けるゴンのポジショニングと落ち着いたシュート。そのゴールには、彼が積み重ねてきたレベルを超えた体感が詰め込まれていたと感じていた湯浅でした。

 まあ勝負は時の運という要素も大きいから仕方ないけれど、アレックスを二列目センターで先発させ、そのマイナス要素を修正するまでに時間が掛かったことだけは悔やまれて仕方ありませんでした。その視点で、ナビスコ決勝や2004サントリーチャンピオンシップでの敗戦とは意味が異なるということです。天皇杯の決勝をラジオ文化放送で解説する私にとって、ちょっと残念レベルが高すぎた・・。

 試合中、本当に身体の調子が悪くなり(たぶん熱が上がった?!)、タイムアップのホイッスルと同時に帰宅せざるを得なくなってしまうという体たらく。また、このコラムを書いている最中も、書く内容のイメージに広がりが出てこないし、キーボードを打つ指もいつものようにスムーズに動かないなど四苦八苦。ということで、今日はここら辺りで・・。

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 最後に、「過剰な戦術」から解放された攻撃サッカー(=主体的な守備意識の限りない発展!)という視点でリーグに新風を吹き込んでくれたレッズについて、「ナンバー」で発表した文章の一部をご紹介します。

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 ギド・ブッフヴァルトは、最初から規制からの解放をターゲットに置いていた。「場合によっては、戦術という枠組みさえも無視するくらいの積極性を持たせなければならないと思った。チャンスがあれば、ディフェンダーだって、どんどん最前線まで飛び出していくのが僕が目指すサッカーだ」。選手たちからも、「規制がなくなったんだからサッカーが活き活きしてくるのも自然な流れ・・」という発言も飛び出していた。しかし、レッズ選手たちが、本当の意味で解放サッカーを楽しめるようになるまでには紆余曲折があった。

 「選手たちは、リスキーな攻めにチャレンジしていくからこそ喜びや楽しみを見い出せるし、多くを学べる。もちろんそのためには、彼らの守備意識をもっと高めなければならないけれど。とにかく、どんな状況でもチームに対する責任感をもってプレーすることを要求している」。ブッフヴァルトが指摘していたのは、リスキーな攻めがネガティブな結果につながってしまう可能性を抑制するために、主体的な積極ディフェンス姿勢を高揚させることがいかに大事かというポイントだった。

 イレギュラーするボールを足で扱うという不確実ファクター満載のサッカーでは、互いに使い使われるというチームプレーのメカニズムを深く理解し、攻守わたって主体的に仕事を探しつづけ(考えつづけ)リスクにもチャレンジしていける勇気あるプレー姿勢を育成することが決定的に重要な意味をもつ。そのためにブッフヴァルトは、戦術的な規制という後ろ向きの方策ではなく、守備意識の高揚という前向きのリスクマネージメントによって、自然と攻撃サッカーが活性化していくプロセスを意図したのである。しかしファーストステージのレッズは、そのトライがうまく機能しない場面も多かった。

 相手ボールホルダーへのチェックとマーキングがうまく連動しない。前線からの汗かきチェイシングにも勢いがない。解放方向へ振れ過ぎた選手たちは、その基盤であるディフェンスイメージが希薄になっていたのだ。攻撃は楽しいけれど、それは、厳しい守備にも全力で取り組むというベースがあってはじめて享受できる。そんなタイミングでブッフヴァルトは、チームに対して強烈なメッセージをぶちかます。守備も含め明らかにプレー内容が減退していた山田暢久をメンバーから外したのだ。彼はキャプテンである。それは、山田をベンチにも入れないという徹底したものだった。そして、山田の自律的な復調プロセスと並行して、選手たちの守備意識もどんどん活性化していった。それは、誰がリスキーな仕掛けにチャレンジしていっても次の守備でバランスの崩れを最小限に抑えられるというレベルまで高まっていった。セカンドステージでの「プラス25」という驚異的な得失点差。それは、レッズが魅せたバランスの取れたサッカー内容を象徴していた。

 戦術的な規制サッカーと、リスクチャレンジあふれる解放サッカーの相克。誤解を恐れずに言えば、それは、勝負強さと美しさ(楽しさ)のせめぎ合いとも表現できる。勝つことがプライオリティーのプロでは、戦術プランを優先させるケースが多くなるのも道理だが、戦術の優先度が高くなればなるほど、選手たちの自由な発展の可能性が阻害されてしまうことも確かな事実。だからこそ、サッカーコーチにとって永遠のテーマなのである。

 レッズは、戦術的なプラン(規制)を最小限にとどめ、全員の主体的なディフェンスパフォーマンスを高揚させることで、リスクチャレンジあふれる攻撃サッカーを目指した。そしてあるレベルに到達した。それは、「J」だけではなく、日本サッカー界にとっても素晴らしくポジティブな刺激になっているはずだ。マズローが言うように、人が安全・安心を志向するのは根底的な欲求。ただサッカーでは、その欲求を満たすことは、確実に後退を意味する。リスクへチャレンジしていく積極プレー姿勢こそが、選手たちの発展を支える唯一のリソースなのである。

 だからこそ、来シーズンのレッズに対する興味が膨らみつづけるのだ。ケガで戦列を離れていた山瀬功治と坪井慶介も復帰する。特に私は、山瀬功治の復帰に大いなる期待を抱いている。セカンドステージ新潟戦でアキレス腱を切るという裂傷を負った彼だが、そこまでの数試合でレッズが呈示したサッカーこそ、ブッフヴァルトがイメージする最高のサッカーだったと思うからだ。山瀬が攻めをマネージしていたときのレッズは、組織パスプレーと個人勝負プレーが非常にうまくバランスしていた。だからこそ、ドリブラーたちの能力も最高のカタチで活かされていた。

 「シーズンを通して、もっとも優れたチームだったことを誇りに思う」。ドイツ代表で世界の頂点に上り詰めたギド・ブッフヴァルトの言動には、負け惜しみの雰囲気など微塵も感じられない。そこには、年間最多勝ち点という事実も含め、解放された攻撃サッカーで存在感を発揮したという成果への確信があった。「我々が展開したサッカーは、その魅力を十分にアピールできたという意味で、日本のサッカーにとっても大いに価値のあるものだったと思う」。

 リスクへのチャレンジを主体的に楽しめるというところまで発展しつづけてきた浦和レッズ。このまま、選手個々のチカラが相乗的にチーム力を向上させられるように進化して欲しい。(了)

 



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