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2004ヨーロッパ選手権(4)・・ちょっと考えさせられてしまったチェコ対ラトビア(2-1)・・素晴らしい内容が詰め込まれていたドイツ対オランダ(1-1)・・(2004年6月15日、火曜日)

チェコ対ラトビア戦を観ながら、ちょっと気が滅入っていました。良いサッカーと勝負の行方が必ずしも一致しないというサッカー的な真実。分かってはいるけれど、その現実を見せつけられて考え込んでしまったというわけです。だから、内容で完全に凌駕したチェコが、最終的に「勝ち点3」をもぎ取ることができて、ホッと胸をなで下ろしていた次第。偶然と必然が交錯する・・なんていう表現では追いつかない「サッカー的な真実」と常に対峙しなければならない我々コーチにとっても、内容と結果が一致する方が健康的だし、心穏やかでいられるというわけです。

 言い換えれば、個人スポーツと違い、サッカーでは、「不思議な負け」が本当に多いという表現もできそうです。それもこれも、サッカーが本物の心理ゲームであり、本物のチームゲームだからに他なりません。

 イレギュラーするボールを足で扱わなければならないという不確実な要素が満載されたサッカー・・だからこそ、心理が不安定になり、少しでもプレーが消極的で受け身になった瞬間にパフォーマンスが奈落の底へ落ち込んでしまう・・だからこそサッカーは本物の心理ゲーム。またそこには、一人の例外もなく全員が、攻守にわたる「クリエイティブなムダ走り」やリスクチャレンジプレーを主体的に展開できなければ、決してチームが発展することはないという、本物の組織(チーム)パスゲームであるからこその真実もあります。だからこそサッカーでは、明確に要因を特定できない敗戦も多くなるというわけです。

 チェコは、ガチガチに守備を固めるラトビアを相手にしても、しっかりとシュートチャンスを作り出していました。もちろん、ここぞの場面でのオーバーラップ(二列目、三列目の飛び出し)やシンプル勝負パス&クロスが出てこなかったなど、局面的な反省シーンはありましたが、全体としては、例によってハイレベルな組織的コンビネーションを主体に、素晴らしく危険な仕掛けが展開できていたと思うのです。

 タイミングのよいドリブル勝負からのシュート・・素早いコンビネーションから「落とされた」バックパスを叩くという、選手たちのイメージがうまくシンクロして作り出された中距離シュートチャンス・・長身コレルのアタマを狙った放り込みクロスを起点にした最終勝負イメージ・・等々、チェコは、数えるのが面倒くさくなるほど多くの決定的シュートチャンスを作り出していました。でも決まらない・・決められない・・。そんなゲーム展開を見せつけられているこちらはフラストレーションがたまりつづける。そして追い打ちをかけるように、ラトビアがカウンターゴールを決めてしまう・・。

 そんな展開だから、冒頭のように滅入って考え込んでしまったというわけです。あんな展開だったから、もう最後まで絶対にゴールが決まらないというのがお決まり・・決定的シュートがバーやポストに弾かれたり、相手GKの正面に飛んでしまったり・・。「これはダメだ・・神様はもう結果を決めちゃってる・・」なんて思ったものです。だから、チェコの同点&逆転ゴールを心から喜んでいたというわけです。良かった、良かった・・。

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 さてドイツ対オランダ。

 大会がはじまる前、ドイツの友人たちは、例外なく「こんな」期待をもっていました。「あれだけ低調だったドイツ代表なのに、2002年ワールドカップのフタが開いたら、抜群に勝負強いサッカーで決勝まで駒を進めてしまった・・今回も、大会前のトレーニングマッチの内容が良くなかったから、本大会には吹っ切れた心理で臨めるだろう・・そして、カッコつけずに泥臭く勝つにちがいない・・」。

 そんなドイツ代表の軌跡については、長いスパンで彼らを追いつづけた「2002年」のコラムを参照していただければと思います。とにかく私も、まさに同じ期待をもっていたというわけです。「才能レベルでは他国に後れをとっているという自分たちの現実をしっかりと意識すれば、スケベ心を出さずに、日韓ワールドカップ当時の勝負強いサッカーが蘇ってくる・・」。もちろんスケベ心とは、オレたちだって美しいサッカーが出来るんだぞ・・なんていう勘違いのことですよ。とにかくドイツは、2002ワールドカップを思い出せばいいんです。才能ベースの美しいサッカーは、2006年以降にしてネ・・。

 ちょっと前置きが長くなりましたが、この試合でのドイツは、まさに、事前の評判が悪いからこその(?!)素晴らしく勝負強い徹底サッカーを展開したのですよ。

 全員に深く浸透した高質な「守備意識」。それをベースに、各人が積極的に仕掛けイメージを描写する・・だからこそ、効果的なタテのポジションチェンジも頻繁に繰り出せる・・というわけです。最後方からノヴォトニーがドリブルでせり上がっていったと思ったら、左サイドから、ラームがドリブル突破にチャレンジする・・またミヒャエル・バラックが下がった状況で、守備的ハーフのバウマンが最前線まで飛び出していく・・そんなタテのポジションチェンジが間断なく演出されつづけるのです。それでも次の守備では、「人数的・ポジショニング的なバランス」が崩れることがない。それこそ、選手たち全員の高い守備意識の証明なのです。

 また、「1対1」のディフェンス勝負が抜群に強いことも特筆モノです。中盤は、ベルント・シュナイダー、ハーマン、バウマン、そしてフリングスと並び、その前にミヒャエル・バラックが二列目としてポジションを埋めるという「基本的なポジショニングバランス・イメージ」なのですが、その誰もが、本来は守備的なタスクをこなす選手です。そんな彼らが、ボールがないところでのマーキングや、次の勝負所でのインターセプトに力を発揮するだけではなく、局面での1対1での競り合いでも抜群の勝負強さを発揮しつづけるのです。そして、ボールを奪い返してからの直線的でスピーディーな攻撃も、シンプルで効果的。これでは、オランダ選手たちがビビッてしまうのも道理だと感じていました。この試合でのドイツ代表のプレーは、まさに質実剛健そのものでした。ファン・ニステルローイに同点ゴールを決められるまではネ・・。

 ファン・ニステルローイですが、この試合では、99パーセントはヴェルンス(ドイツ最終ラインのエース殺し・・ドルトムント所属)に抑えられていました。まったく何も出来ていなかったといっても過言じゃなかった。もちろん、最後の最後で一発ゴールを決めてしまうまではね・・。あの状態で「あんなゴール」を決められるのだから、確かに素晴らしいストライカーですよ。ゴールは、ファン・デル・メイデからの鋭いクロスを、倒れ込みながら逆サイドポストへ流し込んだシュートから生まれました。これぞ「ニアポスト勝負!」という、絵のように美しいゴールでしたよ。

 この試合では、ケヴィン・クーラニーがワントップを務めたのですが、そのプレーを見ていて、「ヤツのチカラを甘く見ていた・・」なんて感じていました。とにかく彼は、最前線でのボールのキープ(味方の上がりを待てるような・・味方の押し上げをモティベートできるくらい効果的な最前線でのタメプレー!)だけではなく、ヘディングや、決定的スペースへの抜けだし、はたまた後方からオーバーラップしてきた味方とのタテのポジションチェンジ(次の守備参加!)等々、鬼神の活躍を魅せたのです。ビックリして見直していた湯浅でした。

 それ以外でも、完全に攻撃の流れの演出家として素晴らしいプレーを披露したミヒャエル・バラック、中盤後方のリーダー、ハーマンの「高質なバランシングプレー」、両サイドのベルント・シュナイダーとフリングスが展開した攻守にわたる汗かきプレーや恐れを知らないギリギリの入れ込みプレー、はたまた最終ラインの忠実な勝負プレー・・等々。とにかくこの試合では、全員が持てるチカラを100パーセント発揮した素晴らしいプレーを披露したということです。

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 美しくはないけれど、抜群の勝負強さだけは世界中にアピールできたドイツ代表。また、揶揄されながら勝ち進んでしまうんだろうな・・。




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