トピックス


2004ヨーロッパ選手権(6)・・イングランドの強さは本物だね(イングランド対スイス、3-0)・・まだまだ本調子ではないフランス(フランス対クロアチア、2-2)・・(2004年6月17日、木曜日)

たしかにイングランドのサッカーコンテンツは「底上げ」しています。現象面では、人とボールの動きが活性化しただけなく、それぞれのステーション(ボールホルダー)でのプレー内容も、トラップ・キープ・素早いパス・そして勝負ドリブル等々、とにかくその判断とプレーコンテンツがレベルアップしているのです。それも、チーム全体に、攻守にわたってどのようにプレーするのかというコンセプトに対する共通の理解・イメージがあるからに他なりません。やはり「それ」が、「チーム作り」と呼ばれるモノの本質ということです。まあ私は、イメージシンクロレベルの高揚とか、プレーの有機連鎖レベルを上げるとか、互いに使い使われるというメカニズムに対する相互理解の深化とか、チーム作りに関していろいろな表現を使ってはいますが、(たしかに、表現ターゲットによって微妙にニュアンスは異なるものの・・)底流の意味は共通しています。

 まあとにかくイングランドが、強い守備ブロックをベースに、攻撃でのクリエイティビティーが格段に向上しているのは確かな事実です。もちろん私は、その基盤としてのプレーイメージの高度な共有レベルに、エリクソン監督のウデを感じています。選手たちは技術的に大きく進歩したわけではありません。でも、攻守にわたって、ボールの動きとボールなしのアクションがうまくシンクロしている。要は、それだけ選手たちの個のチカラが十分に発揮されるようになったということです。

 私はイングランドの三点目が美しかったと思っています。左サイドでボールをもったジェラード・・一度キープしてスイス守備ブロックの視線と意識を引きつけた後、正確なサイドチェンジパスを決める・・そのパスを受けたのはベッカム・・そのとき、ベッカムの周りで決定的なボールなしのアクションを起こした選手がいた・・ゲリー・ネヴィル・・彼がスタートしたのは、ジェラードからのサイドチェンジパスがまだ空中にあったとき・・ものすごい勢いでベッカムを追い越していくネヴィル・・ただベッカムは、リラックスしたボールキープで、ネヴィルの爆発フリーランニングにまったく興味なしといった雰囲気・・そんなベッカムの気が抜けた雰囲気は、もちろんスイス守備ブロックに伝染する・・それが勝負の瞬間だった・・気抜けキープから、まさに「置くような」タテパスを、ピタリとネヴィルが走り込むスペースへ送り込まれたのだ・・そしてネヴィルが、逆サイドでまったくフリーになっていたジェラードへの(相手ゴール前を横切る)トラバース・ラストパスをピタリと決めた・・その一連のプレーの背景には、選手たちの強烈な確信があった・・。

 それは、イングランドの創造性の発展を如実に証明するコンビネーション(人とボールの動き)だったと感じていた湯浅なのです。もちろん以前にも同じようクリエイティブな仕掛けシーンは何度となくあったわけだけれど、この三点目のように、選手たちの仕掛けイメージとアクションがスムーズに連鎖した(仕掛けイメージがスムーズにシンクロした)シーンは希だった・・?!

 とにかく私の中では、イングランドに対する期待値は上がりつづけています。もちろんその根拠の一番大きなところが、まだまだ守備の強さにあるにしてもネ・・。

--------------------

 本当にサッカーの発想(クオリティー)が一クラス違う・・。フランス対クロアチアを観ながら、そんなことを思っていました。もちろん、攻守にわたって、組織プレーと個人勝負プレーがハイレベルにバランスしたフランスチームのことですよ。

 1998年フランスワールドカップの準決勝では、地元のフランスの方が青息吐息だったのに、まさに様変わり。まあ「あのとき」のクロアチアは特別なチームでしたからね。高い才能に恵まれ、ユース時代から何年も一緒にプレーした仲間たちが、建国の意気に燃えて頑張った・・。

 でも時の流れとともに、このチーム力の差が出てきてしまった・・。まあ国力の差や、組織力の差ということでしょうね。毎年ドイツで開催されるサッカーコーチ国際会議にはクロアチア人のコーチも参加してくるのですが、彼らがこんなことを言っていたのを思い出していましたよ。「フランスワールドカップ当時のチームは、分裂前のスーパーチームの生き残りだからな・・でもヤツらの次の世代が育つまでには、まだまだ時間が必要なんだよ・・とにかく国が分裂してしまったから、以前のようにシステマチックに若手を育てられるようになるまでには、オレたちコーチの個人的なチカラが頼りっていうわけさ・・まあ、徐々にシステムが出来上がりつつあるし、オレたちのノウハウの蓄積も、うまく後進にシェアされているから、とにかくこれからさ・・近いうちに、オレたちが蓄積したモノの価値が輝くはずさ・・」。

 とはいっても、この試合でもフランスは、まだまだ本調子とはほど遠いパフォーマンスでした。もちろん同点で終わった結果のことではなく、内容が、本来の彼らの出来ではなかったということです。それでもクロアチアを凌駕してしまうのだから大したものではあるのですがネ・・。

 ボールは軽快に動くけれど、ボールなしの動きがうまく連動しないから、どうしてもクロアチア守備ブロックのウラを突いていけない・・またボールの動きにしても、好調時の彼らならば、ボールなしの活発な人の動きをベースにして、ポンポンとスペースへのパスを通してしまうのに、この試合では、足許パスばかりが目立ってしまう・・だから最後は、個人勝負に頼るような低級な仕掛けプロセスしか演出できない・・彼らは、組織的な仕掛けがうまく機能するからこそ個の勝負が活きてくるという事実を忘れてしまっているのかも・・。

 まあ最後の10分になってから、(また交代出場してきたピレスがプレーの流れに乗れるようになってから・・)ようやく本来のフランスサッカーが蘇ってきたけれど・・。何度か、ポンポンポ〜〜ンというリズムでボールが動いたかと思ったら、観ている方の度肝を抜くような最後のスペースパスが、長い距離を走った味方にピタリと合わせられていた・・とか、軽快なボールの動きからパスを受けたアンリが、素晴らしい1対1の勝負を披露する・・とかネ。もちろんそれは、アンリのポジションを意識して意図的にボールを動かすことで作り出した「1対1」の状況というわけです。

 まあ、全体的に今一つの出来だったことは選手たちが一番強く意識していることでしょう。ここは一つ、以前のスーパープレーを編集したビデオを材料に、イメージトレーニングに励みましょう。それが、本調子を取り戻すための一番の近道です。

 とにかく、「世界最高のサッカーを展開できるだけのキャパシティーを備えたフランスがどこまで調子を上げていけるのか・・そのプロセスでは、どんなプレーがキーポイントになるだろうか・・」等々といったテーマにも大いなる興味を惹かれている湯浅なのです。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]