それは、両チームの実力レベルを考えたら、どうも納得できない展開。そのもっとも大きな要因として、チェコ選手たちが、デンマークを少し甘く見ていたと考えるのが自然だと思っていたというわけです。いくら「そんなことはない!」なんて主張したって、中盤ディフェンスが甘すぎるとか、次の攻撃でもボールがないところでのアクションが消極的(だから仕掛けの人数が足りない!)などといったグラウンド上の現象をみれば一目瞭然。強いチェコにしても、自分たちの深層心理までもコントロールするのは難しかった・・。そんな微妙な心理の空洞については、チェコ監督ブリュックナーも気を付けていました。選手たちへのアピール意図も含め、記者会見で何度も「デンマークあなどることなかれ・・」と言いつづけたのです。でも結局、選手たちの深層心理の空洞を充填することは叶わなかった・・。
もちろん、その「心理的な空洞」は、中盤ディフェンスでの仕事を探す姿勢とか、ボールを奪い返した後の攻撃アクションなどにも悪影響を与える。だからチェコは、自分たちがイメージするサッカーを展開できないだけではなく、そのことで生じた「どうもうまくいかない・・このままデンマークの勢いに呑み込まれてしまったら大変だ・・」といった疑心暗鬼が、「消極マインドのヴィールス」となってチーム全体に波及し、彼ら本来のダイナミズム(活動性)を減退させてしまったということです。
ペースアップできないチェコ。それに対し、有機的に連鎖するダイナミックな中盤ディフェンスを基盤に、人とボールが本当によく動く活発な攻撃を仕掛けていくデンマーク。彼らの場合は逆に、ゲームペースを握れていることで、選手たちの「心理のダイナミズム」が連鎖的に増幅しつづけていたのです。
そんなグラウンド上の現象を観察しながら、またまたサッカーにおける普遍的なメカニズムに思いを馳せたものです。不確実なファクター(要素)が満載されているからこそ、最後は自由にプレーせざるを得ないサッカー・・だからこそ、心理的な要因がプレー内容を決定的に左右してしまうという本物の心理ゲームであるサッカー・・。
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とにかくフラストレーションばかりがつのっていた前半のチェコ。それでも彼らは、ハーフタイムを境に大きく生まれ変わります。後半のスタートから、攻守にわたるプレーダイナミズムが何倍にも増幅したのです。それは、まさにハーフタイムの奇跡と呼べる現象でした。チェコのブリュックナー監督が、どんな手練手管を使ったのかは知らないけれど、とにかくそれは、選手たちに素晴らしい「刺激」を与えたのは確かなことでした。もちろんそれには、この「チーム」が本当に長い間一緒にプレーしているという背景もありますけれどね。そして、そんな抜群の勢いが先制ゴールとなって結実する。コーナーキックからの、コレルのヘッド一発! 後半4分のことでした。
その後はもちろんデンマークも攻め上がってきます。どんどんと人数をかけ、例によっての組織パスプレーを基調に、人とボールを活発に動かしながら危険な仕掛けを繰り出していくデンマーク。でもチェコ守備ブロックは堅いから、うまく決定機を演出することができない。逆に、デンマークの前への勢いに刺激されるかのように、どんどんとチェコ中盤ディフェンスも活性化していくのです(後半立ち上がりの攻守にわたる勢いが倍加していく!)。こうなったら、もうチェコのペース。前半は抑えられてしまった彼らのサッカーが、やっと本来の姿を魅せはじめるのです。全員のプレーイメージに深く浸透した高い守備意識をベースに、組織パスプレーと個人勝負プレーが絶妙にバランスした効果的な攻撃を仕掛けていくチェコ。いや、本当に魅力的です。そして、ポボルスキーのタテパスとバロシュの飛び出しがピタリとシンクロし(二点目)、次には、ネドベドのスルーパスとバロシュの飛び出しが美しく交錯する(三点目)。この二つのゴールともに、バロシュの決定的フリーランニングがパスを「呼び込んだ」ことで生まれました。素晴らしい。
私は、そんなゲーム展開を観ながら思っていました。本当にチェコは強いチームだ・・いや、彼らが展開しているサッカーは、勝負強いだけではなく美しくもある・・10人で守り、8人で攻めるという、理想型へ向かうトータルサッカー・・その絶対的な基盤は、何といっても、選手たちの高い守備意識に支えられた優れた中盤ディフェンス・・本当に全力で中盤ディフェンスに入っていくチェコの才能たちのプレー姿勢は感動的でさえある・・・ロシツキーにせよ、ネドベドにせよ、ポボルスキーにせよ、バロシュにせよ・・特にロシツキーの労を惜しまない汗かきプレーは特筆・・それがあるからこそ、ネドベドも持てるチカラを100パーセント発揮できる・・また、「ハーフタイムの奇跡」に象徴されるように、ブリュックナー監督に対する選手たちの信頼もそのベースにある・・。
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さてこれでベストフォーが出揃った。
「地元」が発するスピリチュアルエネルギーに支えられたホストカントリー(ポルトガル)、完璧なゲーム戦術を駆使する技術系マイナーカントリー(ギリシャ)、そして二つの絶対的な実力チーム(オランダとチェコ)。ベストフォーに残ったチームは、なかなかうまいバランス構成になっていますよね。
そこに、イングランド、ドイツ、イタリア、スペインという「ブランドネーション」が一つも入っていないという事実は、様々な意味で「現状」を象徴しているのかもしれません。どのような「現状」なのかって? もちろん、経済主導のプロサッカーリーグのことですよ。まあ、詳しくは機会を改めますけれどネ。とにかく、色々なストーリーをアタマに描きながら、とことん準決勝を楽しむゾ!なんて気合を入れている湯浅なのです。