ゲーム前に、ギリシャのドイツ人監督オットー・レーハーゲルが、例によって早口のドイツ語で話していました。もちろん、ちょっと口元に笑みを浮かべながらネ。彼にとっても、失うモノは何もない・・。
オットーとは、(私がまだ読売サッカークラブに所属していたとき)彼がブレーメンの監督として来日したところを、宿泊していた東京プリンスホテルに訪ねて色々なテーマについて話したことを覚えています。とにかく情熱的な話し方。だから、記者会見の話し方を懐かしく思っていたというわけです。
ということで私は、心情的・情緒的にはギリシャをサポートすることにした次第。もう決勝ですからね、情熱をもって観戦しなきゃツマらない。もちろん戦術アナライズも忘れませんがネ。これからシロとアオのフェイスペイントをしてやろうかな・・あははっ・・。
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ゲームの立ち上がりから、例によってのギリシャ選手たちの情熱的なディフェンスに目を奪われてしまいました。うまく有機的に連鎖しつづける、ディフェンスでの「要素プレー」・・素晴らしい守備意識と主体的に仕事を探しつづける姿勢・・互いのカバーリング意識や、危急状態でのリスクチャレンジプレー等々・・。それらは感動的でさえあります。
たしかに、マークを受けわたしながら、早めのブレイクで人をマークしつづける「マン・オリエンテッド」な古色蒼然たるディフェンス戦術だけれど、とにかく、その徹底度が素晴らしい・・それこそ監督のウデ・・。ギリシャの立派な闘いをみながら、そんなことを再認識していました。まあ、これまで何度も書いたことですがネ。
相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイス&チェック、タイミングを見計らった協力プレス、次のパスをイメージしたインターセプトや相手トラップの瞬間を狙ったアタック等々、ディフェンスでの「要素プレー」のそれぞれが美しく連鎖しつづけるギリシャの守備ブロック。そこでのメインイメージは、何といっても「ボールのないところでの忠実マーク」です。
パスを出した後に爆発アクションをスタートするポルトガル選手に対するマークが外れることがない・・。ポルトガルが繰り出すワンツーや、「ショート&ショート&ロング」というリズムの「崩しコンビネーション」でも、勝負の「ツーのパス」や「ミドルやロング勝負パス」が通るシーンはほとんどありません。パスが通るとは、フリーで走り込む味方へのパスが合うこと。もちろん、シュートシーンを演出するために、ある程度フリーでボールを持つ選手(=仕掛けの起点)を作り出すためにね・・。それが攻撃における当面の目標なのですが、ポルトガルは、そんな仕掛けの起点をうまく演出できないのです。
仕掛けの起点は、パスだけではなく、ドリブルでも演出できますが、そこには強固なギリシャの壁が立ちはだかるというわけです。彼らは「1対1」でも無類の強さを発揮するのですよ。
デコやフィーゴ、はたまたクリスティアーノ・ロナウドも、ギリシャ選手たちの粘りのマンマークに、簡単には相手を抜き去ることができない・・だから仕掛けのリズムが停滞してしまうケースが目立つ・・これでは勝負パスだってうまく通らない・・。
ギリシャ選手たちは、とにかく安易に当たりにいかない・・ボールを持つ相手に対し、基本に忠実なステップで構え、そしてチャンをねばり強く待ちながら(うまくウェイティングしながら)勝負の瞬間に素早くアタックする・・。その「読みディフェンス」の質の高さと余裕に舌を巻いていた湯浅です。でも考えてみたら、ギリシャ人の上手さは、以前から定評がありましたからネ。そして、上手い選手たちが揃っている国は、反作用としてディフェンスも育つ・・。そんな環境が培ったギリシャのディフェンダーたちが魅せる1対1の駆け引きは、たしかに上質です。
また、守備での柔軟なクリエイティビティー(創造性)も素晴らしい。ここで言う創造性プレーとは、例えば、味方がドリブルで抜かれたり、ワンツーコンビネーションで置き去りにされたり、決定的スペースを突かれ「そうになった瞬間」には、次の読みベースのカバーリングアクションを起こしているというポイントのことです。もちろんドリブルで抜かれてしまったり、コンビネーションで置き去りにされてしまった味方選手は、自分をカバーしてくれた味方が放り出さざるを得なかった相手のマークに急行する・・。それこそ、守備における有機的なプレー連鎖じゃありませんか。有機的なプレー連鎖は、何も、ボールホルダーの抑制から、次のパスでのボール奪取アタックという守備のコンビプレーだけではないということです。
まあ戦術的なゲームの流れからすれば、ポルトガルの両サイド(ロナウド、フィーゴ、また両サイドバック)を抑えるギリシャの守備戦術が、殊の外うまく機能しつづけていたという表現になるのでしょうがね。まあ言い換えれば、ポルトガルの組み立てと仕掛けプロセスが、あまりにも「個に偏り」過ぎているからこそ、ギリシャの忠実ディフェンスが機能しやすかったという見方もできるでしょうね。
たしかにシュート数ではポルトガルに軍配が上がりますが、素早く人数をかける仕掛けからのチャンスメイクコンテンツでは、中央でのワンツー突破や、惜しいラストクロスなど、ギリシャが劣っているわけでは決してありませんでした。だからこそ、本当にエキサイティングで深いコンテンツが詰め込まれたゲームになったということです。
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組織プレーと個人勝負プレーのバランス感覚に課題を抱えていることで、本物のチャンスの雰囲気をかもし出せないポルトガル・・。後半12分に先制ゴールを奪われた地元のポルトガルは、たしかに何本か偶発的なチャンスはあったけれど、結局最後まで、ギリシャ守備ブロックを崩し切ったという攻めを展開することはできませんでした。常にギリシャディフェンダーが仕掛けるプレッシャーのなかでの「抑制された攻撃」しか仕掛けられなかったということです。
フランス戦、チェコ戦では、何度も決定的に崩されたギリシャ守備ブロック。だからその試合では、ツキに恵まれたという表現が適切でしたが、決勝では、ギリシャの「ゲーム戦術(ゲーム運びに対するイメージ)」がピタリとハマったことで、まさに順当に勝ち切ったという評価が正当だと思います。
今回のギリシャチームが展開したサッカーは、テクニックに優れた上手い選手たちが、徹底的に「戦術サッカー」を突き詰めたプレーを最後までやり通した・・なんて表現できるでしょうか。
その演出家は、オットー・レーハーゲルというドイツ人監督。もちろんこれからオットーは、ドイツ代表チーム監督への就任が取り沙汰されるでしょう。でもネ・・いまのドイツは、ギリシャのような個の才能に恵まれているわけではないから・・。もちろん、四角四面のドイツサッカー界(正統派)に対する「偉大なアウトサイダー」であるオットーだったら、チーム戦術を駆使し、いまのドイツ選手たちの「個のチカラ」を最大限に活用してくれるだろうし、イングランドのエリクソンのように、体質的なモノも含めた「変化」を演出・促進できるだけのパワーを秘めた「新しい風」を吹き込んでくれるでしょう。とにかく、ドイツサッカー界のメインストリームと自負している、昔の名前で出ていますってなヤツらよりはクリエイティブな仕事をしてくれるに違いないと思っているのですよ。だから私は、オットーのドイツ代表監督就任を支持する次第です。
今大会では、初戦のオランダ戦でのコンテンツを除いて全くといっていいほど存在感を発揮できなかったドイツ代表の代わりに、ドイツ人監督が「ドイツ・ブランド」をアピールしくれました。その意味でもドイツサッカー界は、オットーに感謝しなければいけませんよね。
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地元開催のヨーロッパ選手権決勝で、良いところなくダークホースのギリシャに敗れ去ったポルトガル。「サッカー文化」が深く浸透しているからこそ、哀愁に満ちたポルトガル社会は、奈落の落胆をリカバリーするために、かなりのエネルギーと時間を要する?! いやいや、歓喜と落胆の交錯を知り尽くしたサッカー文化が浸透しているからこそ、次の日には、ケロッと「次」への期待を膨らませるなど、落胆を次のポジティブエネルギーに変換してしまっているのかも・・。