トピックス


チャンピオンズリーグ・・発展をつづける高質バランスサッカーのバルセロナ・・勝負だけをターゲットにした徹底サッカーのミラン・・(2004年10月21日、木曜日)

バルセロナのシャビが、カウンター気味のタイミングで直線的ドリブルを仕掛けるカカーを必死に追いかけ、身体全体を上手くつかったプレッシャーによって前進ドリブルの勢いだけは止める・・。その、シャビが魅せた全力チェイス&チェックプレーを観ながら、こんなことを思っていました。

 そうそう・・バルサは、オーバーラップてんこ盛りなど、リスクを負って組織的に攻め上がるから、どうしても次のディフェンスでは、攻撃から守備への素早い切り換えと全力チェイスプレーが必要になるケースも出てくる・・攻撃の最後をシュートなどで終わることができれば、次のディフェンスを組織する時間を作れるけれど、いつも何らかのタイムブレイク状況に持ち込めるワケじゃないからな・・とにかく、そんなリスクを負った攻撃こそが、サッカーの楽しさや美しさを表現できるという厳然たる事実を忘れちゃならない・・それに対してミランは、まさに勝負のみを志向する現実チーム戦術だからな・・たしかに勝負には強いけれど、ちょっと夢がなさ過ぎる・・とはいっても、そんなイタリア的美学もまた、個のチカラを前面に押し出すブラジルなどとともに、世界サッカー地図に彩りを添えているのも確かな事実だから・・とにかく、見えざる手によって、全ての視点においてバランスが取れたサッカーという理想型へ収斂していく世界サッカーの発展プロセスを俯瞰(ふかん)しながらも、それぞれにテイストが異なる様々なサッカー文化にも舌鼓を打てるのは幸せなこと・・あと20年もしたら、世界中でまったく同じサッカーがやられるようになってしまうかもしれないのだから・・でもまあ、定型がなく理不尽なサッカーのことだから、そうそう簡単には完璧なロジックに基づいた方向へ収斂されないだろうな〜〜・・なんて、少しホッとしている湯浅なのです・・

 ミランの攻め方は、いつもの通り。強固なディフェンスブロックを基盤にしたカウンターアタック狙いはそのままに、安定したポゼッションから一発勝負を狙います。彼らの場合は、組み立てベースの攻撃でも、限りなくカウンター「的」な仕掛けイメージを描いているともいえる・・最終勝負シーンまでは決して互いのポジショニングバランスを崩さず、確実にボールをキープする(ポゼッション)・・そして、相手が全体的に下がった状況で全体的に押し上げながら、「ココゾッ!」という最後の瞬間に、鋭く仕掛けテンポをスピードアップして蜂の一刺しを見舞う・・ってなイメージですかネ。

 そんなミランの攻めを見ていて、たしかに強いよな・・あれだけハイレベルな「個の才能」たちが、あれだけ堅いチーム戦術を「極限まで徹底」するのだから・・。もちろん、才能たちが「徹底」する背景には、そのサッカーがエコノミカルだという現実もあります。要は、比較的、運動量を必要としないサッカーだということです。守備においても、攻撃においても・・。それは、言わずと知れた「基本ポジショニングバランスサッカー」だから。要は、選手たちが、基本的なポジションを出来るかぎりキープし、最後の瞬間にだけ(決定的チャンスに対する確信が100%になったときだけ?!)リスキーアクションに入っていくということです。まあそれにしても、ヤツらが才能集団だからこそ出来るサッカーというわけです。

 そんな「蜂の一刺しイメージ」が最初に結実しかかったチャンスが、前半12分のシェフチェンコのシュートシーン。キッカケは、フリーキックを得て攻め上がろうとしていた矢先のバルセロナが、次のプレーでミスをし、ボールがこぼれてしまったことです。そのボールを、中盤の低い位置にいたガットゥーゾが、カカーへヘのディングパスを送る・・そのヘディングパスがまだ空中にあるタイミングで、カカーの内側センター付近にいたシェフチェンコが爆発する・・イメージするのは、もちろんカカーからの(ダイレクトに近いタイミングでの?!)ラストタテパス・・シェフチェンコをマークしていたのはプジョールだけれど、タイミングが半身ほど遅れている・・そしてスパッとトラップしたカカーから、まさに置くようなソフトなラストスルーパスが、バルセロナ最終ラインのウラに広がる決定的スペースへ通され、シェフチェンコが、見事なタイミングで追いついてフリーシュートを放った・・という次第。まさに、カウンター気味の状況から繰り出された「蜂の一刺しチャンス」というわけです。

 とはいっても、現在のサッカー世界地図において、もっとも高質な(組織と個の)バランスサッカーを展開している数少ないクラブの一つであるバルセロナは、総体的なサッカー内容ではミランの上をいっていたという評価もできます。右サイドのベレッチとデコ(エトー)のコンビ。左サイドのファン・ブロンクホルストとシャビ(ロナウジーニョ)のコンビ。この試合でも冴えわたっていましたよ。

 でも試合が進むなかで、ちょっとエトーとロナウジーニョの機能性が減退気味になっていると感じていました。感覚的には、左から、ロナウジーニョ、ラーション、エトーのスリートップということなのだろうけれど、どうもこの二人のトップ選手が、普段だったらそこで最高の機能性を魅せる「両サイドコンビ」が使うべきスペースを逆に潰していた・・。

 そんなことを思っていた矢先の後半24分。エトーに代えて、イニェスタが登場し、俄然バルセロナの攻撃に活気がもどってくるのです。そして、スリートップという「スペース潰しシステム」から解放されたバルセロナが、より自由にポジションをチェンジしながらスペースへ入っていくようなダイナミックなサッカーに変容するのです。そんなプロセスを観察しながら、やはりスリートップというチーム戦術イメージは難しい・・下手をすると、両ウイング選手が、もっとも重要な両翼スペースを潰してしまうことにもなりかねない・・なんてことを思っていた次第。

 全体としては、ミランが、1-0というリードを例によっての頑強な守備ブロックで守りきった(何度かの決定的ピンチをしのぎ切った・・ミラン選手たちは、スーパーGKジーダに感謝しなければいけない!)ということになったわけだけれど、そこには、リードしてからのミランのサッカーの「自由度」が確実に上がったというポイントもありました。リードするまでは徹底サッカー・・リードしたら、徐々に解放サッカーへ向かってもいい・・。選手とベンチの間には、そんな暗黙の了解があるということなんでしょうか。まあそれも、あれだけの個の才能を集めているからこそ出来る「ゲーム展開イメージ」ということですよね。

 



[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]