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ヨーロッパの日本人・・今週も中田英寿ですが、でもまず「マンU」から・・(2004年1月19日、月曜日)

スゴいな〜〜ホントに、ヤツらのディフェンスへ戻る勢いは・・。相手のウルヴス(ウォルヴァーハンプトンワンダラーズ)にボールを奪い返されるたびに、少なくとも一人は、最前線からの全力ダッシュで守備ブロックへ戻ってくるのですよ。それも、何十メートルもの全力ダッシュからの、(チェイシングばかりではなく、コース消しやスペース抑制など)実効あるディフェンス参加。前線へ上がっていったマンUのスーパーボランチ、ロイ・キーンだけではなく、スコールズやクリスチャン・ロナウド、はたまたファン・ニステルローイまで、例外なく(状況に応じて)守備に参加してくるのです。そんな積極ディフェンスマインドを感じなが、やはりヤツらのクリエイティブサッカーのベースは、実効ある守備意識だ・・なんて反芻していた次第。

 プレミアリーグ第19節。トップをはしるマンチェスター・ユナイテッドが、最下位のウォルヴァーハンプトンワンダラーズとアウェーで対戦しました。そして今シーズンの4敗目を喫してしまう・・。内容では相手を凌駕し、何度も決定的チャンスを作り出したにもかかわらず、相手のワンチャンスゴールに沈んでしまったという惜敗。ゲームコンテンツでは、マンUがリーグトップに君臨するバックボーンを明確に感じさせてくれたのだけれど、まあ仕方ない。ということでそれは、例によって、サッカーの(神様スクリプトの?!)不確実性原理を体感させられたゲームでもありました。

 それにしても、ウルヴスのホームスタジアムに詰めかけた観客の皆さんは、試合終了のホイッスルが吹かれるまで、心配で仕方なかったに違いない。彼らもまた、マンUの底力を体感しつづけていたというわけです。

 マンUのサッカーは、人とボールの動きが、例によって素晴らしいハーモニーを奏でている・・特にボールの動きが、タテとヨコに変幻自在で広いし、そのリズムがとにかく素早い・・あれだったら相手ディフェンスが振り回されてしまうのも自明だな・・だからマンUは、ガチガチと一対一のぶつかり合いが多いイングランドサッカーのなかでも、特筆のスマートなサッカーを展開できている・・たしかに、(アンリに代表される)個の爆発力ではアーセナルに一日の長はありそうだけれど、全体的なスマートさではマンUに軍配が上がるのかもしれない・・要は、組み立て段階、仕掛け段階、最終勝負段階と、常にボールがないところで勝負を決められる(相手ディフェンスのウラを突いていける)マンチェスターということ・・そこには、例によっての「イメージシンクロ」がある・・「この状況」でボールを持ったら、「このタイミング」で「このコース」へ「この種類」のクロスを入れば、確実にチームメイトの誰かが走り込んでいる・・また、仕掛けコンビネーションでは、例外なくパス&ムーブがくり返されるから、それを前提に仕掛けのパスリズムをイメージできる・・等々・・要は、勝負はボールのないところで決まるという普遍的コンセプトが確実にチーム内に浸透しているということ・・それこそが、スマートなダイナミックサッカーを展開するための、「8人で攻めて10人で守る」というトータルサッカーを展開するためのイメージベース!・・そして、その絶対的なバックボーンが、選手全員に深く浸透している(選手同士が共有している!)実効ある守備意識・・なんてことを、マンUのサッカーを観ながらランダムに考えていた湯浅でした。

 それにしても、ロイ・キーンに代表される後方からのバックアップ(オーバーラップ・・パス&ムーブ)アクションはレベルを超えている。中盤の後方から、まったく後ろ髪を引かれることなく最前線へ上がっていくのですよ(全員がタテのスペースを狙っていることの象徴!)。そんなボールなしのダイナミックプレーこそが、攻撃におけるクリエイティブなボールの動きを演出しているというわけですが、その「人の動き」の心理的なバックボーンが、高い守備意識と、それに対する高い相互信頼であり、それがあるからこそ、常に人数をかけ、人とボールがよく動く(組織プレーと個人勝負プレーが高質にバランスした!)攻めを展開できるというわけです。ここでは、守備と攻撃での積極プレーマインドを基盤にした「心理的な善循環サイクル」を維持することの重要性を強調したかった湯浅でした。

 たしかに絶好調ではなくツキにも見放されたマンUでしたが、内容では(プレーの発想レベルでは)、サスガというコンテンツを魅せてくれました。やはりプレミアでは、攻守にわたる総合力でマンUが一歩抜きん出ている?!

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 さて、中田英寿。

 ホントに楽しいだろうな・・「あの」シニョーリでさえ中田を捜してパスを回すのだから・・。とにかく、組み立てから仕掛けのリズムは、もう完全に中田が中心になって演出しているのですよ。だから楽しいに違いない・・。もちろん、チームメイトたちが寄せる信頼の背景に、中田の攻守にわたるボールなしプレーの実効レベル(汗かき貢献度)の高さがあることは言うまでもありません。それにしても、チームに参加して2-3週間でミッドフィールドの王様になってしまうとは・・。

 この、短期間での存在感の浸透(リーダーシップの掌握)という現象ですが、そのもっとも重要なバックボーンは、言うまでもなく、中田がこれまでにセリエで培ってきたレピュテーション(名声)です。でも私は、それ以上に、日常トレーニングにおける中田のプレーコンテンツが高質だから・・とも考えたいのですよ。何といっても選手たちは「現場主義・現時点主義・現実(本音)主義」ですからネ。いま、この時点で中田英寿に何ができるのか・・チームにとってどんな価値を提供できるのか・・。そのことに対するチームメイトたちの冷静な判断・評価の結果が、勝負ゲームのグラウンド上に如実に現出してきたということです。

 だからこそ中田が、チームメイトたちの「自信ソース」になっているとも言える。前線の「心の支え」はシニョーリですが、それに加えてボローニャは、ミッドフィールドのセンターにもう一人の自信ソースを獲得したということです。ボローニャの全体パフオーマンスが「ソリッドにまとまってくる」のも道理。選手たちの確信レベルの高揚によって、彼らの攻守にわたる(ボールあり、ボールなしでの)プレーも活性化する・・それが彼らのサッカー全体の善循環サイクルを確固たるものにするというわけです。フムフム・・。

 でも、前半20分ころ、前線の自信ソースがグラウンドを退いてしまいます。シニョーリが、アキレス腱を負傷して交代してしまったのです。そしてキエーボが(あっと・・この試合は、ボローニャのホームでのキエーボ戦です!)、勢いを倍加させていくのです。そんなプロセスを見ていて、またまた、サッカーはホンモノの心理ゲームだという事実を反芻したりして・・。自信ソースを一つ失ったことで、攻守にわたる全体プレーダイナミズムが、選手交代による実質的パフォーマンスの低下以上に低落してしまう・・。もちろん、キエーボがゲームを支配しはじめた背景には、ホームのボローニャが「2-0」とリードを広げたということもありましたけれどネ・・。

 たしかにシニョーリは、選手たちの自信ソースとしてだけではなく、中田の「タテのパートナー」としてものすごく大事な存在でした。だから、彼を失ってからのボローニャ選手たちは、中田も含め、ボールを奪い返してから前へ行くエネルギーが半減してしまったのです。そして、そんなネガティブな流れのなかでキエーボのサンタナに一点を返されてしまう・・。前半20分から40分くらいまでは、ボローニャにとって、本当に悪い流れになっていきました。でも前半終了間際に、中田英寿が、まさに起死回生という「突き放しゴール」を演出してしまうのですよ。

 前半終了間際の時間帯にボローニャが魅せた「押し返し」ですが、その演出家も、言うまでもなく中田英寿でした。中盤でパスを受けた中田が、左サイドのベルッチへ「ワンのパス」を出し、そのままパス&ムーブで、左サイドのタテスペースへ駆け上がる・・そこへベルッチから「ツーのタテパス」が出る・・でも、そのパスは正確性を欠いて相手ボールになってしまう・・でも、そのタテへの突っかけが、チーム全体を前へ引き上げ「前への仕掛けマインド」を活性化した・・そしてそれが、その後の高い位置でのプレス守備につながり、ボローニャがスローインを得る・・ベルッチが、そのスローインを起点に左サイドでボールを動かし、中央でフリーになっていた中田英寿へ素晴らしい浮き球パスを通してしまう・・トラップし、しっかりと「タメ」た中田から、タテのスペースへ入り込んだメグニへ「ワンのタテパス」が出る・・もちろん中田はパス&ムーブで前進し、同時にルックアップで、次の最終勝負シーンを脳裏に描く・・そしてメグニからの「ツーのリターンパス」を受けた中田は、迷わず、右サイドでフリーになっていたネルヴォへのラストパスを決め、そのパスをワントラップしたネルヴォが、正確にコースを突くコントロールシュートを、キエーボゴールの左隅に決めた・・というわけです。これでボローニャが「3-1」とリードを広げました。

 ここで中田がラストパスを出したシーンですが、そこでの彼は、メグニからのリターンパスを、身体の前で受けるのではなく、ボールを、少し身体のなかへ(フトコロ深くへ)呼び込むようにしました。要は、ネルヴォへのラストパスタイミングを遅らせるように「一瞬のタメ」を演出したということです。そのことで、ネルヴォをマークしていた相手も、中田のトラップを警戒しなければならなくなった・・だからネルヴォへのマーキングポジショニングもズレた・・だからこそ、ギリギリのところでラストパスが通った・・というわけです。いや、素晴らしい。

 ところで、このゴールシーンの直前に、スカパー解説者の川勝氏が、「本当によく中田へボールが戻ってくる・・彼はプレーがやりやすいに違いない・・」という意味のことを言っていました。まさにその通り。それも、中田が攻撃のコア(仕掛けイメージの演出家)として周りに期待されているからに他なりません。ローマやパルマでは、彼がイメージするボールの動きが演出されることは希でしたからネ。

 川勝氏は、皆さんご存じのように元のヴィッセル神戸の監督。というか、わたしにとっては、読売サッカークラブ時代の戦友。京都出身の「希有な天才」でした。いやホント・・まさに希代の天才ミッドフィールダーだったのですよ。だから、この「ボールが戻される・・」という表現は、川勝氏だからこその(実感が込められた)表現だというわけです。当時は、ラモスとかジョージ与那城とか、ミッドフィールドに他の天才もいましたから、川勝氏が中心になるというわけにもいきませんでしたから(常に彼にボールが戻されるというわけではなかったから)、うまくボールが戻されないときのフラストレーションもしっかりと体感しているということです。まあそんなことも、彼の中身のある戦術解説のバックボーンにあるということなんでしょう。

 後半は、グラウンドに水がたまりはじめたこともあって、中田のカウンターシーンや彼が演出した突破シーン、はたまたザンキの退場など、いくつかのエキサイティングシーンを除き、最後まで膠着状態がつづいてタイムアップということになりました。

 それにしても、「自由」を取り戻し、攻守にわたって解放された実効プレーを積み重ねていく中田英寿を見るのは、こちらにとっても大いなる刺激になります。これからが楽しみで仕方ない・・。

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 最後に、先週につづき、中田英寿について「ホンモノのボランチを目指して・・」というテーマで書いた以前のコラムをリンクしておきます。




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