それは、アタランタの中盤選手が右サイドでボールをキープしているシーンからはじまりました。その状況で、レッジーナ選手たちがクレバーにプレッシャーの輪を縮めていきます。そのアタランタ選手が、中央ゾーンへ逃げの横パスを出そうとするのも当然の成りゆきだったのです。その「直前」のタイミングでした。ボールを持つアタランタ選手が、プレッシャーの輪を避けるようにパスを出そうとする意志をみせた瞬間、逆サイドにいた中村俊輔がアクションを起こしたのです。ボールをキープするアタランタ選手が中央ゾーンへ逃げの横パスを出したら、ズバッと全力アタックを仕掛けてボールを奪い返してやる・・そこでボールを奪ったら、もう完全にシュートチャンスだ・・。
結局このシーンでは、その横パスがレッジーナ選手に当たってタッチラインを割ってしまいました。アタランタにとってはラッキーなことこの上ない結果になったというわけです。もしあのまま横パスを出していたら、確実に中村にかっさらわれてシュートまで持ち込まれていたに違いない・・。もちろん俊輔は、「あ〜あっ、残念」と天を仰ぐ。そしてこちらは、中村俊輔が瞬間的に放散した「意志が爆発するパワー」によって金槌で殴られたように目が覚めた。
立ち上がり、攻守にわたる中村俊輔のプレーにも明確な主体性パワーが感じられないことで、観戦マインドがどんどん冷え込んでいったモノです。「何だ、ヤツらは相手が最下位ということで甘く見ているんじゃないか・・? そんな気抜けプレーをしていたら足許すくわれるゾ!」なんて憤りながらネ。そんなダレた雰囲気に、中村も乗っかっていたと感じたのですよ。でも、徐々に彼のプレーにも、いつもの鋭さが感じられるようになっていきます。攻守にわたって、ボール絡みだけではなく、ボールのないところでもネ。前述したのは、そんな流れのなかで出てきた、ボールがないところでの主体的な意志の爆発プレーだったというわけです。
その後は、例によって高みで安定したクリエイティブプレーを魅せつづけてくれましたよ。そこでは、特にボールを持ったときの自信レベルの向上が目立ちに目立っていました。以前のような、相手マークに気圧されるような逃げのプレー姿勢など微塵も感じられない。向かっていく(ドリブルで抜いてやるゾ!という)意志のパワーが強烈に放散されているからこそ、余裕をもってドリブルで突っかけていけるし(タメの演出!)魅惑的なフェイントの切れも格段に高揚させられる。またそのなかに、攻撃的なパスというオプションもミックスさせられる。それこそ、本当の意味での危険なプレイヤーということです。
また、意図を込めた全力ダッシュ(パスレシーブのためのフリーランニング!)でも存在感を発揮します。この試合でも数回、決定的スペースへの全力フリーランニングを繰り出していましたよ。そしてスペースへのパスにしっかりと追いつき、相手二人を翻弄するフェイント&ボールコントロールから決定的クロスを送り込んだりする。
攻めだけではなく、守備でもしっかりと存在感を発揮する中村俊輔。後方からオーバーラップした味方プレーヤーの「穴埋めディフェンス」に、自軍最終守備ラインのレベルまで戻ってディフェンスポジションに入ったり、前述したようなシーンで次のボール奪取勝負を狙いつづけたり・・。彼は体感しているハズです。守備こそ、自分のプレーリズムを根本的に左右する(意志の表彰としての)絶対的なベーシックプレーであることを・・。
とはいっても、特に守備では、本当の意味での実効ある汗かきディフェンスプレーであるチェイス&チェックのアクションは不十分だし、ボールがないところでの勝負のマーキングもまだまだ甘い。また攻撃でも、意図が込められた全力ダッシュの頻度が足りないと感じます。彼はもっと出来る。とにかく、主体的なプレーマインドが活性化している今だからこそ「やらなければならないこと」があるのですよ。タイミングを失したら、「大きなジャンプアップの可能性」も失ってしまう。あれだけの才能なのだから、それは惜しい・・。とにかく頑張れ、中村俊輔。
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さて、柳沢敦と中田英寿。残念ながら、二人ともに納得できるプレー内容ではありませんでした。
先発した柳沢については、ちょっと期待していたのですが、結局は「決定打」を打てない・積極的に打ちに行こうとしないという「いつものプレー姿勢」がミエミエになってしまって・・。たしかに運動量は豊富だし、相手守備ラインのウラへの走り抜けとか、戻り気味のパスレシーブの動き、はたまた最前線からのディフェンス参加なども効果的です(何度か、後方から忍び寄ってボールを奪い返してしまった!)。でも、ストライカーとしてもっとも重要な「エゴを前面に押し出すリスクチャレンジ姿勢」が足りない・・。
柳沢のプレーは、まさに「味方に使われる組織プレー」だけと言っても過言ではないのですよ。良いカタチでパスを受けても、安全に展開パスを回すだけ。突破ドリブルにチャレンジするわけではないし、自分が走り抜けるためにワンツーを仕掛けるなど、自らがコアになったコンビネーションを「引っ張ろう」とする意志を前面に押し出すわけでもない。また相手ゴール前での決定的シーンでは、「遠いサイドのスペース」に入り込み、そこでパスを待とうとする姿勢ばかりで、相手が集まったスポットに「潰れ役」として入り込むような決定的パスレシーブの動きをみせるわけでもない・・。
たしかにボールを持ったら才能を感じさせてくれます。本当に上手いと感じる。でも相手を「かわす」だけのキープと、積極的に向かっていくことで相手を翻弄し、(仕掛けタテパスやコンビネーションスタート、はたまたドリブル突破チャレンジなど)次の勝負のキッカケになるような攻撃的なボールコントロールとは、根本的に意味が違うのですよ。
ボールを持った柳沢が、ドリブル勝負や勝負のコンビネーションなど、エゴを前面に押し出す勝負を仕掛けていったことで相手にファールされたといった「攻撃的なシーン」はほとんど見受けられませんでした。あれだけ動きまわってパスレシーブターゲットになり、実際にどんどんと味方からパスが「付けられ」ているのに・・。要は、自らが主役になったチャレンジプレーを仕掛けていくチャンスは十分にあるということです。だから、本当にちょっと残念。
柳沢の場合は、リスキーな勝負プレーへトライしていくチャレンジ精神を(エゴイストプレー・・自己主張プレー・・等々)もっと前面に押し出さなければなりません。ストライカーなのだし、あれほどの「天賦の才」に恵まれているのだから・・。自分がミスをすることを怖がっていたら何もはじまらないし、味方から、ストライカーとしての信頼を勝ち得ることも夢のまた夢。組織マインドをベースにした、一見スマートに見えるプレーばかりで、味方から「使われているだけ」のストライカーなんて・・ネ。
彼もまたビデオを駆使したイメージトレーニングに励まなければなりません。これがストライカーだ!というアグレッシブな勝負シーンだけを集めたビデオや、自分自身のスーパープレー集など。また心理療法士(サイコ・セラピスト)による、自分自身のなかの「エゴイストのマインド」を活性化するトリートメントが必要になってくるかもしれません。
とにかく、相手ディフェンダーに「後ろから」ユニフォームを引っ張られたり、足を引っかけられてブッ倒される「勝負師・柳沢」の姿をもっと見たい。そんな泥まみれになった柳沢になれて初めて、プロの荒波で闘う強者たちからも信頼されるのです。
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「それだ・・それだよ!!」。思わず声が出た。でも、中田英寿が「らしさ」を魅せた、彼がコアになったコンビネーションが出たのは既にロスタイムに入ってからでした。動きまわるなかで、ヒデを中心にボールが動かされ、最後は、ヒデからのワンツー&決定的スルーパスが出たのですよ。最後は飛び出してきたメッシーナGKの必死のダイブにセーブされてしまったけれど、とにかく素晴らしいコンビネーションでした。
中田英寿がグラウンドに入ってきたのは後半20分を過ぎたあたり。でも、どうもうまくゲームの波に乗れない。特に途中から入った場合、とにかく動きまわること、そして「まず」ディフェンスにはいること。それが、自分のプレーリズムをを高揚させるキーポイントです。そんなことは、中田が知らないはずがない。でも、動きが重い・・ディフェンスも中途半端・・。彼が入った直後に、メッシーナにPKを取られて同点にされてしまったこともあったのかな・・? とにかく、左サイドの前気味ゾーンに張り付くばかりで、プレーのペースが上がっていかない中田。もちろん、シンプルなパスをデモンストレートすることで味方の「組織プレーマインド」を活性化させようとはしているけれど、どうも笛吹けど踊らず。そして彼にも、悪い体勢のときにしかパスが来なくなってしまう。同点にされたことで、フィオレンチーナ選手たちのマインドが、前へ、前へと「個に奔って」しまっていたということなんでしょう。
この試合ではベンチスタートだった中田英寿。完全復活へ向けた彼のチャレンジはつづく・・っていうことでしょう。前に何度もあったけれど、中田にとってそんな状況は、願ってもない「チャレンジマインドを高揚させる機会」なのですよ。そのことについても彼は、既に何度も証明していますからネ。期待しましょう。