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ジーコジャパン(47)・・よ〜〜しっ!!・・素晴らしくクレバーな勝負(戦術)サッカーを展開したジーコジャパン・・それでも一言「リスクを負わないサッカーなんて存在しない!」・・(オマーンvs日本、0-1)・・(2004年10月13日、水曜日)

今回は、試合後にどこまでレポートできるか分からないから、まずプレビューから入ろうと思います.事前にどんなことを考えていたのか・・。テーマは、もちろんジーコのチームマネージメント。

 とにかく今回は勝負・・ということで、成田の中台運動公園で行われた日本合宿にも二日間つづけて顔を出してきました。合宿二日目と三日目。最初の日はコンディショントレーニング中心。そして次の日は、ディフェンスを中心にした戦術チームトレーニング。トレーニングの内容自体は、なかなかうまく計画されていました。もちろん代表の合宿でコンディショントレーニングは馴染まないし、普通だったらそのほとんどを「戦術的なイメージのシンクロレベル高揚」に当てるべきだとは思うけれど、しっかりと守備ブロックを固め、そこからのカウンターを意図した「攻守の切り換えイメージ鮮明化・戦術トレーニング」は、それなりに意義のあるものだと思いました。

 でもネ・・やはり、試合当日の三日前に現地に入るというフィジカルマネージメントについては決してアグリーできない。ブラジル代表ではそうだから・・と、決してジーコがゆずらないということだけれど、前回のシンガポール戦での「コンディションニング失敗」にもかかわらずということで、ちょっとネ・・。とにかく「アクリマティゼーション(生理学的な気候順応プロセス)」というテーマは、ものすごく大事な意味をもつのですよ。試合当日にあたる現地入り後の「三日目」というのが、もっとも疲労感が出てくる日ですからネ。まあ、このことについは、(1997年のW杯予選マッチ)ジョホール・バル決戦におけるイランの失敗という事実も含め、これまでに何度も書いてきた通りです。

 それに今回は、台風のために現地入りが一日延びたじゃないですか。そのこともあって、それがもっとも大きな心配事だったのですよ。その心配に輪をかけたのが、ある新聞での、試合開始時間では「気温30度以上で湿度90-100%」なんていう報道。でもフタを開けてみたら、まったくそんなことはなかった・・。ほんとにジーコはついている?! それともジーコは、正確な情報に基づいて、そのことをお見通しだった?! さて・・。

 最後に、これまでのジーコジャパンの全体的な「動向」について軽く触れておきます。代表監督就任当初は、守備ラインのメンツ(自分が知っている選手を優先?!)とか、攻守にわたるチームプレー的パフオーマンスに大きな不安がある「ボールプレイヤー」を重用したり、外国でプレーしている選手を根拠不明瞭のまま重用するなど、不信感の方が先に立つマネージメントだったことは皆さんもご存じの通り。その後、まず守備ラインを全員入れ替えて臨んだフランスでのコンフェデレーションズカップでなかなかのパフォーマンスを披露したことで、ちょっと安心しました。でもその後は、ジーコマネージメントのキーワードである「自由」が、悪いカタチでグランド上に現出しつづけます。要は、日本サッカーの将来をリードするようなダイナミックな組織プレーがあまり見られないことで、徐々に、ジーコジャパンに対する不安が、再び積もりはじめたということです。そして、アジアカップでの「結果だけの成功」が、そのことに輪をかけて不安を増幅していく・・。

 でも、その自由については別な見方も出はじめました。それは、選手たちが、ジーコから与えられた「自由」を本当の意味で活用しはじめたのかもしれないということです。主体的に考えてジーコにどんどん進言する・・それが認められチーム戦術として採用されることで組織プレーにも本来の自分主体の高質コンテンツが戻りつつある・・ということです。もちろんそれは守備についてだけだけれど、そんな心理的な発展プロセスが、アジアカップにおける守備の大成功のベースにあったのは言うまでもありません。えっ・・誰がそのイメージリーダー(進言者)かって・・?? もちろんそれは、チーム内の「大人の代表」宮本恒靖・・。そんな守備ブロックの自信と確信こそが、このオマーン戦での一番の希望の星だというわけです。さて、ゲームがはじまりました。

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 ここからのゲームレポートは、時間があまりないから、例によってキー・センテンスを積み重ねるという書き方にします。では・・

 オマーンは、やはりフィジカルが強い・・手足が長く、足が速いだけではなく、1対1での競り合いにも(体力的&競り合いテクニック的に)無類の強さを発揮する・・でも、守備にしても、攻撃しても、組織的な戦術プレーという視点では、日本とは比べられないくらい落ちる・・守備では、まあまあカバーリングが機能するけれど、協力してボールを奪い返すというよりは、抜群に強い1対1の勝負に持ち込んでボールを奪い返すというイメージが先行しているし、インターセプトに対する読みも十分ではない・・ただ、とにかく忠実で強烈に強いマーキングを基盤に、力強い守備ブロックを作っている・・攻撃でも、その戦術イメージは同じ・・彼らの仕掛けでは、ボールのないところで勝負を決める(パスでウラを突いていく等々)といった戦術的な発想ではなく、あくまでもドリブル等の「個のチカラ」で仕掛けていくのが基調・・そのなかでも、中距離シュートや放り込みはやはり怖い・・偶然にしても、ツボにはまれば(走り込みが合えば)日本選手も、そう簡単には効果的マークをできない・・

 全体的な内容は、絶対的なディフェンスの強さをベースにオマーンがゲームペースを握っているというもの・・日本選手たちのプレーイメージは、この勝負マッチ用のゲーム戦術イメージ(とにかく確実にディフェンスを組織し、蜂の一刺しカウンターを仕掛けていく・・)が先行し過ぎている・・安全なボールキープ(ポゼッション)をベースに仕掛けようとするが、どうも十分な人数をかけていけない・・それでは、日本が志向しなければならない「効果的な組織プレー」を展開できるはずもなく、相手守備ブロックのウラをパスで突いていくようなシーンを演出できるはずもない・・また、オマーンのマチャラ監督は、日本のセットプレーに対しても、十二分の準備を積み重ねてきていると感じる・・ニアポスト勝負でもアタマ一つ飛び出せず(スペースへ走り込んでも、マークする相手よりもアタマ一つ出られない=相手のマークが徹底していた!)、セットプレーからもチャンスの雰囲気を演出できない日本代表・・前半の展開は、日本の確信イメージの大きなバックボーンの一つであるセットプレーでチャンスの雰囲気を高揚させられず、どうもチームの雰囲気がネガティブ方向へ動きはじめていると感じる・・

 まあ、こんな展開こそが、アジアカップで強化された「中田ヒデ抜きの日本代表に定着した勝ち切りイメージ(パターン)」というのも確かなことなのだけれど・・それにしても、(全体的に下がり気味ということで)あれだけこぼれ球を拾われつづけたら心理・精神的にも厳しいことになってしまうのは目に見えている・・

 それでも後半は、ちょっと展開が積極的になってくる・・チーム全体が、前から勝負しはじめる傾向にあると感じた・・このことは、ジーコも記者会見で次のように述べていた・・「引いて守るばかりでは、いつかは厳しい状況になってしまう・・ここは、まあなるべくバランスを崩さずにだけれど、後半はもっと前から勝負していこうという意思を確認した・・そしてゲーム内容も、後半はよくなっていった・・」・・とはいっても、後半もまだオマーンが展開する、攻守にわたる「個の仕掛け」を抑え切れているわけではない・・まあ、前半同様に、日本の守備ブロックが崩されるという雰囲気はないけれど、でも偶発的な交通事故ゴールはいつでもあり得る・・そんなネガティブな緊張感がつのっていく・・これは観ている方にとっても非常にキツイゲームだ・・なんて思っていた後半7分・・やった〜〜〜っ!!

 中村俊輔は、この数週間のレッジーナでのプレーコンテンツの発展フローと同様に、代表チームでも、これまで以上の仕事量と高質プレーを魅せている・・もちろん守備では、味方の100%の信頼を得られるほどのコンテンツを呈示できているわけじゃないし、立ち上がりの日本代表のゲーム戦術じゃ活躍の可能性も限られるわけだけれど・・だからこそ、先制ゴールシーンでの彼の「芸術」には、自然とガッツポーズが出てきてしまった・・本当に素晴らしい・・そしてありがとう・・

 その後の展開は(まあ・・というか、後半の立ち上がりからその傾向はあったわけだけれど・・)、もう皆さんも見られたとおり、攻守にわたって全てがポジティブに回りはじめた・・こうなったら俊輔のプレーコンテンツが「量と質ともに倍加」するのも道理・・攻守にわたって「組織」が機能しはじめた日本代表・・こうなったら、いくらオマーンでも個のチカラだけではイカンともし難い・・やっと、オマーンとの実力差を明確に示しはじめた日本代表・・そのためにも、とにかく攻守にわたる組織プレーを、主体的に機能させなければならない・・そして、やっと素晴らしい組織サッカーを魅せられるようになったからこそ、こんなことを思ってしまった・・「どうして、このようなダイナミックな組織サッカーを、もっと高い頻度で展開できないのか・・もっと言えば、このダイナミックサッカーこそが、ジーコが目指すサッカーだと、まわりに体感させられないのか・・その代わりに、チカラの劣る日本が世界を相手にしたらできっこない仕掛けのポゼッションと、その後の意図的な急激テンポアップサッカーなんていうのがジーコサッカーのキーワードになってしまうんだよ!」・・とにかく、現実的な機能性が見えたことで、中田ヒデや稲本も加わった代表チームの、よりいっそうの発展を願って止まない湯浅なのです・・もちろん「自由」という主体サッカーを前面に押し出してネ・・

 最後に一言だけ・・攻守にわたる組織的な実効ダイナミックプレーの積み重ね・・それこそが、日本サッカーをリードしていかなければならない日本体表のサッカーであるべき・・でも、それを演出しようとすればするほど、リスク要素が高まるのも事実・・そこでのバランス感覚こそが、ジーコの課題だともいえる・・ポゼッションからの急激なテンポアップというコンセプトでは、結局は「待ちのサッカー」になってしまう・・もっともっと、自ら「仕掛けていく状況やタイミング」についてのイメージトレーニングが必要・・単発のテンポアップを狙うのではなく、全体的な流れのなかでの「攻守にわたるリスキーな組織的テンポアップ」を狙う・・リスクを負わないサッカーなんて存在しない・・

 さてこれから、急いでマスカット空港へ行かなければ・・。あっと、最後にもう一つ、新潮文庫の「サッカー監督という仕事」の増刷も決定しました。

 



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