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ジーコジャパン(30)・・やっぱりホンモノのドラマは地域予選にありだよネ・・(シンガポールvs日本、1-2)・・(2004年3月31日、水曜日)

「たぶん日本が8割方ゲームを支配するに違いない・・それに、オマーンとシンガポールでは、特に守備での基本的なチカラが違うから、ヤツらの守備イメージを超越したチャンスも作り出せると思うよ・・それでも、ゴールが決まらなかったら大変なことになる・・時間が経つにつれて、気候順応の問題で、確実に日本の足は止まり気味になるだろうから・・」。昨日のトレーニングを見学していたとき、ジャーナリスト仲間にそんなことを話していました。

 中田英寿が合流して、少しはトレーニングの雰囲気が締まりはしたけれど、それでも基本的にはまだヌルい・・まあそれでも、個のチカラで大きな差があるに違いないシンガポール相手だから、オマーン戦のときのように心理的な悪魔のサイクルにハマることはないだろう・・先制ゴールさえ奪えれば、シンガポール守備ブロックも「開く」だろうから、追加ゴールを奪うのは楽になる・・もちろんそれは、効果的なカウンターチャンスが増えるだろうから・・とにかく日本は、カウンターを仕掛けられるようなゲーム展開にもっていくことが大事なのですよ・・何せ、気候的なディスアドバンテージがあるから・・だからこそ、とにかく先制ゴールを!・・それが、全ての心配事を解消してくれる・・。

 もちろん、どんな試合でも先制ゴールは大事ですよ・・。でもこの試合には、「相手のチカラは(個のチカラの単純総計力だけではなく、戦術的なチカラでも)明確に劣るけれど、初戦でインドに負けているシンガポールのホームマッチだし、日本とはまったく違う赤道直下の気候だから、もしゴールを奪えずに時間が経過していったら大変なことに・・」なんていう視点があるわけですよ。だからこそ、日本がより多くのチャンスを作り出せるはずのこのゲームでは、そのチャンスをしっかりと決めることが(ゴールをしっかりと決めることへの自覚をギリギリまで高めて試合に臨むことが)ものすごく大事な意味をもってくると思うのです。

 絶対にチャンスをムダにしないというチーム内の合意と決意。この試合に臨むうえでのジーコの最も重要な仕事は、そこでのギリギリの緊張感(テンション)を高揚させるための意識付けなのです。

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 そんな意識付けがうまくいったのか、はたまたチーム内リーダーが、全員のプレー姿勢をビシッと引き締めたのか、日本代表は立ち上がりから非常に良いペースのサッカーを展開しています。「良いペース」というのは、個のチカラの総計力で優っている日本代表のボール支配率が高いなんていう単純な現象面ではなく、攻守にわたり、組織プレーと個人勝負プレーが高質にバランスした「自分たち主体のダイナミック(リスクチャレンジ)サッカー」が展開できているということです。攻守にわたるプレーコンテンツでシンガポールを完全に凌駕する素晴らしく積極的なプレー姿勢の日本代表。彼らは、決してシンガポールを甘く見ていない・・。ゲームの立ち上がりに、そのことを体感できたことで観戦の集中力が何倍にも高まったものです。

 ということで、とにかく早く先制ゴールを・・なんてことを願いながら、拳を握りしめていた湯浅だったのです。何せ、素晴らしいチャンスメイクの連続でしたからね。「どうしてシュートを決められないんだ! もっと強烈なイメージを持てよ(これについて書きはじめると長くなってしまいますから、割愛!)!」なんてネ・・。

 そこでの仕掛けの内容にしても、クロスあり、ドリブル勝負あり、コンビネーションからのラストスルーパスあり、はたまた(相手最終ラインを押し込んだ状態での)バックパスからの中距離シュート狙い・・ってな「変化」のオンパレードなのです。選手たちは、気持ち良く、自分主体のリスクチャレンジプレーを展開できている。もちろんそれは、全員の守備意識が高揚しているからに他なりません。だからこそ早く先制ゴールを・・。

 それにしても、何度決定機がありましたかネ。小野の中距離シュート、高原のヘディングシュート、アレックスのボレー、中田のキャノンシュート等々、もう数えるのもイヤになるくらい・・。とにかく、ボールがないところでの動きにも鋭さがあるから、ボールが本当に鋭く、そして広く(相手ディフェンスのイメージを超越して)動きつづける。またディフェンスでも、組織的に有機連鎖するプレーがうまく機能しています。まあ、相手のチカラが十分ではないから、中盤ディフェンスがうまく機能するのは当たり前なのですが・・。

 小野と稲本による「使い・使われる」コンビネーションもいいですよ。稲本が上がれば、小野が下がり、小野が上がれば稲本が残る。この二人のボールなしの守備イメージも高質(守備意識と勝負イメージがハイレベル)。そんな相互コンビネーションがうまく機能しているからこその自信が、攻撃に参加したときの吹っ切れた勢いのベースになっていると感じます。小野にしても稲本にしても、確信の飛び出しで、最前線を追い越したりしてしまうのですよ。もちろん、中盤の演出家である中田英寿も、そんな彼らの勝負の動きをうまく活用している(オトリに使ったり、彼らにボールをわたして自分が飛び出したり等々・・)。

 高質なボールなしのアクションをベースにしたコンビネーションやクロスなどで、何度も、何度も決定的チャンスを作り出してしまう日本代表。でも、ゴールだけが決まらない・・。フ〜〜ッ!

 そんな不安な雰囲気のなか、高原がやってくれました。やっと、本当にやっと先制ゴールが決まったのです。中村からパスを受けた高原の「エイヤッ!」というミドルシュート。それは、「仕掛けの変化」を意識しつづけた日本代表の攻めが報われた瞬間でした。前半34分。そして日本の攻めの勢いが倍加していく・・。

 ちょっと落ち着いた私は、試合を観ながら別の視点での発想に取りかかっていました。

 「選手たちは、ポゼッションという発想が、次の勝負の仕掛けへの準備に過ぎないと明確に意識しはじめているのかも・・準備は、やり過ぎてもマイナスになるばかりということも意識しているということ?!・・だから、横パスでしっかりとキープする場面はあるけれど、とにかく積極的に、素早いタイミングで、仕掛けのタテパスもどんどんと出るようになっている・・それは、選手たちが主体になった自由な判断に基づいたペースアップということなんだろう・・」とか、「この試合での日本代表は、相手が弱いにもかかわらず、気を抜くことなく、とにかく全力で自分たちが描くサッカーイメージをグラウンド上に体現しようとリスクチャレンジをくり返している・・攻守にわたる、全力での組織プレー・・素晴らしくポジティブなプレー姿勢・・でも、相手が強くなっても、勇気をもって、自分たちの持てるチカラを100パーセント・・いや、100パーセント以上発揮して、リスクにチャレンジしつづけられるだろうか・・このチームの本質的な課題はそこにある・・」等々。

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 そんなことに思いを馳せていたわけですが、ハタと我に返ったのですよ。追加ゴールを奪えない日本代表・・。ちょっと雲行きが怪しくなってきた。いくらチカラの差があるとはいえ、前半にも一度あった大きなミス(楢崎のクリアミス!)からの失点だけではなく、交通事故のような失点だってあるわけですからね。とにかく早く追加ゴールを奪わなければ・・相手は、守備ブロックを開いて攻め上がってきているのだから・・。

 でも、あにはからんや、後半のゲーム展開が、どんどんと膠着の雰囲気に陥っていくのですよ。その一番の背景要因は、日本代表の足が止まり気味になりはじめていることでしょう(特に中盤ディフェンスでの組織的プレスが、うまく連鎖しなくなってきている・・一人がチェイシングしたり、ボールホルダーをチェックしても、次のディフェンスがうまく連鎖しない・・等々)。たしかにカウンターチャンスは増えましたが、仕掛けていく人数が足りないから勝負パスも単純すぎてしまう・・。

 そしてシンガポールが、心配していたとおり、まさに交通事故という同点ゴールを決めてしまうのです。後半17分、唐突に飛び出したインドラの中距離シュート。私の目には、日本の誰かに当たってコースが微妙に変わったと見えたのですが・・。とにかくシュートされた見事なミドルシュートが、楢崎の指先をかすめて、日本ゴールに飛び込んでいったというわけです。

 その後、日本も攻め上がりますが、どうも勢いがつづかない。ただそんな状況で、ジーコ監督が意を決した采配を振るうのです。中村俊輔に代えて藤田の投入。アグリーッ!! 何せ中村の運動量は目立って落ちていましたからね。前半は、味方にボールをわたして決定的スペースへ走り込んだり等、ボールがないところでもアクティブなプレーを魅せていました(ヨーロッパレポートに書いているように、中盤での実効ディフェンスとともに、そんなパスレシーブの動きも今シーズンの中村俊輔の発展コンテンツ!)。でも後半になったら、もう完全に足が止まり気味になり、足許パスを待つばかりになってしまっていた・・。私は、ジーコの「見切り」を100パーセント支持します。またその一分後には、これまた目立たなくなっていた柳沢に代えて、鈴木隆行を投入するのです。まさに「アグリーッ!!」じゃありませんか。そしてそんな「刺激」が日本代表のサッカーを再び活性化するのです。

 その交代の2分後には、右サイドでボールをもった鈴木から「ファーサイドスペースへのクロス」が飛び、フリーになっていた藤田にピタリと合うのです。まったくフリーでシュート体勢に入る藤田。「よし、やった!!」。でも、誰もが勝ち越しゴールを確信した次の瞬間、無情にもボールが、わずかに右ポストを外れていくのです。悔やみきれない決定機。とはいっても、そのシーンは、ジーコの選手交代が効果を発揮したことの証でした。選手たちも、そのことを感じていたに違いない・・それがあったからこそチーム全体の勢いが相乗的にアップしていった・・。

 そして、選手交代からのポジティブな流れが実を結びます。後半37分。相手GKのパンチミスによるこぼれ球を藤田が蹴り込んだのです。そのとき、思わずガッツポーズが出ていましたよ。まさに渾身のガッツポーズ。何せ、そのまえに藤田がシュートを外したとき、この試合を取り仕切っているサッカーの神様は、日本代表にイタズラしようとしている・・(要は、この試合での日本代表は完全にツキに見放されている・・)なんて感じていましたからネ。だからこそのガッツポーズ! たまには、思いっ切り情緒的に観戦しなきゃ!

 その後、シンガポールが最後の勢いを見せ、二本、三本と惜しいシュートを放ち、その度に、こちらは肝を冷やす・・。やはりこれが、肉を切らせて骨を断つというギリギリの戦いがつづく地域予選なんだ・・。

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 前半の素晴らしいサッカー・・誰もが誇りに思えるダイナミックサッカー・・。でも結局ゲーム後には、後味の悪さも残ってしまいました。

 先制ゴールを奪った後に追加ゴールを挙げられず、徐々にプレーペースが減退していった日本代表。暑さで運動量が落ちたといっても、あれだけのチカラの差があるのだから、中盤で、もっと相手をうまくコントロールできたはず・・そのためには、もちろんまず何といっても中盤ディフェンスを再構築すべきだった・・とか、いろいろなテーマが脳裏をよぎっている・・でも、もうアタマの回転が鈍ってきたから、本日はこのあたりで・・。

 まあとにかく勝ててよかった・・。前述したように、やはりホンモノのドラマは地域予選にありなのです。




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