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ジーコジャパン(36)・・それでもまだ課題はクリアされていない・・(日本vsインド、7-0)・・(2004年6月9日、水曜日)

「何やってんだ! スペースへ抜けろ! 足許パスばかりじゃ潰されちゃうぞ!」

 そんなことをドイツ語で怒鳴った直後、日本代表が二点目をぶち込んでしまいました。前半25分。横パスを回すなかで一瞬余裕ができた中村俊輔が、サイドチェンジ気味のロビングパスを送り込む。それが、ピタリと久保に合ったのです。次の瞬間、久保のアタマは、相手よりも1メートルも高い位置にありました。ホントにすごいね、久保のジャンプ力は・・。言うまでもなく、ジャンプ力は、イコール瞬発力ですからね、その素晴らしいジャンプは彼の運動能力の高さの証明といったところ。もちろん中村も、そのことを意識しているから、久保にしか届かないハイボールを送り込んだのでしょう。またゴールを決めた福西にしても、走り込めば、そこに久保からのヘディングパスが送られてくる・・と明確にイメージできていたというわけです。そのゴールシーンを観ながら、オマーン戦後半で、日本のどん詰まりのリズムを変えた「中村・久保のハイボールホットライン」を思いだしていたものです。いまの日本には、誰もが期待を抱ける絶対的な武器がある・・。

 それにしてもビューティフルなゴールでした。停滞プレーのオンパレードにアタマにきて声を張り上げた次の瞬間、その怒りに冷水が浴びせられたってな具合。もちろんそれが、気持ちの良いリフレッシュウォーターだったことは言うまでもありませんよね。「オ〜〜ッ、よかった」と、直前の怒りはどこへやら・・ってな具合でした。

 とはいっても、前半の日本代表が停滞サッカーしか出来ていなかったのは事実です。前半の全体的な流れについて書いた私のメモは、下記のように、ネガティブなものに終始していましたよ。

 中盤でのダイナミック守備と、それを基盤にしたボールなしのアクションだけがゲームを活性化できるのに、日本選手たちは、先日のアイスランド戦やイングランド戦とはうって変わって消極的な様子見プレーが目立ちすぎる・・また、パス&ムーブに対する意識が低すぎるし、意図と意志を込めた仕掛けの全力ダッシュもまったく出てこない・・これでは、早めのラインブレイクから忠実&確実なマンマーク守備を敷くインドの守備ブロックを崩せるはずがない・・だから、パスを読まれて簡単にボールを失ってしまう・・前線の選手はピタリとマークされているのだから、後方からの押し上げがもっとも重要なファクターになる・・そこでは、前線の選手が下がって後方の選手を前へ送り出すといった、タテのポジションチェンジの積極的な演出も大事・・実際、小野や福西が後方から上がっていったとき、そこで彼らがパスレシーバーとして機能したときにチャンスになる・・とにかくもっと攻撃に人数をかけなければ、日本得意の組織的な仕掛けはでてこない・・等々。

 そんなネガティブな雰囲気をぶち破ってくれたのが、アレックスと久保のコンビによる先制ゴールだったというわけです。前半12分。左サイドからアレックスがボールを持ち込みます。そこには、相手の意識と視線を引きつけてしまうに十分な迫力がありました。まさに「流れのなかのタメ」ってな具合。そしてアレックスがルックアップした瞬間、最前線で久保が手を上げたという次第。それは、ラストパスを呼び込む見事なパスレシーブアクション(ランニングや動作、声などの総体!)でした。そしてアレックスから、スムーズなアクションでラストタテパスが飛んだというわけです。このシーンでの久保は、完全に相手マークからフリーになっていました。久保については、彼のボールなしの動きを追いかけるだけでも入場料にオツリがくるというものです。

 そんな素晴らしい仕掛けからの先制ゴールですが、それまでの停滞した展開と、その素晴らしさとのギャップに目を丸くさせられたものです。これって、ジーコの言う「ポゼッションからの急激なテンポアップによる最終勝負」っていうことなのでしょうか・・。

 とはいっても、その後はまたまた停滞サッカーに陥ってしまう日本代表。そんなどん詰まりサッカーを観ながら、先制ゴールから追加ゴールまでのプロセスこそがもっとも重要な学習機会なのに・・なんて憤っていたものです。そんなだったから、冒頭にような怒鳴りが思わず口をついてしまったのも自然な流れだったのかも・・。でもその直後に、冒頭のビューティフルゴールが決まってしまって・・。

 その後は、皆さんがご覧になったとおり、極限テンションを失ってしまったインド守備ブロックを相手に、日本代表が、的確な選手交代でダイナミズムを高揚させ、ゴールを積み重ねていったというわけです。

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 この試合での重要なテーマは、記者会見でジーコも言っていたように、どんなカタチでもいいから、とにかく早く先制ゴールを入れ、その後も追加ゴールを奪うまで手を休めないというものでした。だから理想的な展開になったと言えないことはありません。もちろん「結果」としてはネ・・。でも、そこに至るまでの「内容」は、決して褒められたものじゃなかった。もちろん、あれだけ守備を固めたインドに対して、あんな美しいゴールを「流れのなか」で決められたにもかかわらず・・です。

 この二つのゴールでコアになったのは、もちろん久保。自ら先制ゴールを決め、追加ゴールもアシストした。特に二点目のキッカケになった彼のヘディングは、まさに超ド級でした。アジアでは絶対的な武器ですよね。そのことについてジーコに質問してみました。「いま日本代表は、久保のアタマという絶対的な武器を手に入れた・・今はまだ一次予選だから楽だけれど、二次予選では、強豪を相手にギリギリの勝負がつづくことになる・・そこでは、必ず、限られた時間のなかでゴールを挙げなければならないという状況に遭遇するはず・・そこで、カッコつけるのではなく、とにかく泥臭く、ドカンドカンと、久保のアタマ目がけて放り込むような勝負を仕掛けていくつもりは・・??」。

 「久保が強いのはアタマだけじゃない・・ドリブルでも、パスコンビネーションでも素晴らしいチカラを発揮する・・もちろん彼のアタマをターゲットにすることも強力なオプションだがネ・・それに、彼をオトリにして、玉田だけじゃなく、三人目や四人目がスペースへ入り込むような仕掛けだってできる・・」。どうもジーコの答えは「総花的」だな・・。

 私が聞きたかったのは、危急状況に陥ったとき、エマージェンシーの仕掛けイメージを選手たちにすり込む気があるか・・ということでした。そんな難しい状況になったとき、一つの仕掛けイメージでチームを統一しておくことには意義がありますからね。もちろん「それ」があるからこそ、変化としてのドリブルやコンビネーションも活かされます。ドカンドカンと単純に放り込むからこそ、そして「そんな仕掛け」が、久保という絶対的武器がいるお陰で高い実効レベルにあるからこそ、相手守備ブロックを、一つのディフェンスイメージに集中させられる・・だからこそ逆に、相手守備ブロックの「ウラ」を突き易いということです。

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 とにかく、この試合ではタイミング良くゴールを決められたから、それが大量得点につながったものの、そういつもコトがうまく運ぶとは限りません。特に相手が強くなればなおさらです。だからこそ、ボール絡みやボールがないところでのプレーに関係なく、もっと積極的にリスクへチャレンジしていくマインドを全員が共有しなければならないのですよ。

 どんな状況でも常に積極的に仕事を探しつづけるダイナミックなプレー姿勢の発展・・リスクへチャレンジしていくための「互いに使い使われるメカニズム」の機能性高揚・・そしてそれらに対する深い相互理解・・等々、ジーコジャパは、まだまだ多くの課題を背負っています。

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 最後にお知らせしておかなければならないことがあります。実は、ちょっとした出来事があったために、この2-3週間、海外へ出掛けなければならなくなったのです。それはサッカーとは無関係の所用。ということで、ポルトガルへ行けるかどうか微妙な情勢になってしまいました。もちろん現地ではテレビ観戦はできるでしょうから、機会をみてレポートしようとは思うのですが、それに対する「様々な意味の余裕」を持てるかどうか・・。

 とにかく、少しの期間レポートアップが停滞するかもしれません。そのときはご容赦アレ・・。




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