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オリンピック代表・・このチームは、いっそのこと、もう勝つしかないという状況まで追い込まれた方が吹っ切れるかも・・いや、その方がいい!・・(日本対バーレーン、0対1)・・(2004年3月14日、日曜日)

さて、勝負。オリンピック予選の日本ラウンドがはじまりました。第一日目の初戦は、UAE対レバノンです。まあ実質的な実力では差があるから、結果は・・なんてイージーな心理で観はじめたわけですが、経過を見てビックリ。レバノンが互角以上のプレー内容でUAEを押し込むだけではなく、結果も残してしまったのですよ(2ゴール先行!)。

 これは、まさにUAEがレバノンを甘く見ていた結果としか言えない(とにかくUAEの守備が甘い、甘い!)。サッカーは、本物の(地獄の)心理ゲームですからネ。UAEの監督さんは、試合後のインタビューで、甘く見ていたということを否定してましたが、それは誰の目にも明らかな事実だったと思いますよ。まあ、「落ち着いてセキュアにプレーし、チャンスを確実にゴールに結びつけよう・・」なんていう監督のイメージ作りに対し、選手たちは、そこで意図されたニュアンスの何倍も「落ち着き過ぎて」しまうものですからネ。サッカーでは、慢心ほど怖いものはないのですよ。何せ、不確実な要素が満載しているから、サッカーほど心理・精神的なファクターに影響を受けるチームゲームは他にはないのですから。

 というわけで、UAE選手たちの足は最初から止まり気味。また守備でも(特にボールがないところでのマーキングが)おざなりなのです。こんなだから、高い位置でボールを奪い返せるはずがないし、その気配さえかもし出せない。また攻撃でも、まったくといっていいほどボールを走らせることができないから、レバノン守備ブロックに足許パスを読まれて、簡単にボールを失ってしまう。まあUAEの場合は、中東諸国の例にもれず、中盤からでもドリブル勝負で打開していくというイメージが強いわけですが、(攻撃がうまく機能しないというフラストレーションがたまっていることで?!)そんな個の勝負傾向があまりにも前面に押し出され過ぎるから、選手たちのボールなしの動きが止まってしまうというわけです。そして、ドリブル勝負による単発の仕掛け「しか」なくなってしまう。これでは・・。

 結局UAEが、ギリギリのところで2点目を奪って同点まで追いつきましたが、とにかUAEのサッカー内容はハチャメチャでした。ロジックも何もない、個のチカラでのごり押しサッカー。観ていてフラストレーションがたまること。とにかく、日本のゲームを観る前から不健康なサッカーを見せられて不愉快この上なかった湯浅でした。そんな不健康なサッカーが次の試合にも波及しなければいいのだけれど・・。

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 さて日本対バーレーン。観はじめてすぐに感じたことがあります。ボールのないところでのプレーダイナミズムが沈滞の極みで、攻撃での組織プレーがまったく機能しない・・。落ち着いて相手の勢いを抑制し(バーレーンは勝つしかないから最初から攻撃的にくるだろうという読み?!)、まず失点をゼロに抑えて、チャンスを確実に決めていこう・・なんていう彼らが描くゲームイメージが目に見えるようでした。そんなプレー姿勢では、ここぞのリスクチャレンジ機会を失いつづけ、相手にとってまったく怖くない安全な横パスに終始してしまうのも道理。もちろん、一発ロングパス勝負はありますけれどネ(全てが、抜けだしフリーランニングを仕掛ける田中達也をターゲットにしたロングパス!)。

 日本は、フル代表もそうですが、単独ドリブル勝負で相手守備ブロックを崩していけるほどの個のチカラはないのですよ。だからこそ、人数をかけた組織パスプレーをベースにした仕掛けが重要になってくる。もちろん、そんなパスでの仕掛けを実効あるものするためには、ボールがないことろでのクリエイティブでリスキーな仕掛けの動き(フリーランニング)が必要になってくる。それが出てこないのだから、日本代表の仕掛けがうまく機能しないのも道理というわけです。横パスを回しているうちに、相手のブロック全体が下がってきた場合は、日本チームも全体的に押し上げるけれど(やっと前線での人数は足りるけれど・・逆に相手守備ブロックにも十分に人数が揃ってしまう!)、これでは、相手の急所(ウラ)を突くような効果的な仕掛けを繰り出していけるはずがない。さて・・

 例えば、タテパスが、戻り気味に走った田中やオーバーラップした徳永といった仕掛けの突貫隊長たちへ出たシーン。パスのほとんどは正確につながるから期待が高まるわけですが、そんなポジティブな展開であるにもかかわらず周りの誰もサポートに上がってこないから、パスをコントロールしようとする日本選手も、まったくプレーのオプションがない状態に陥ってしまう・・。もちろん相手のバーレーン選手も、そのことを明確に意識しているから、一つの守備プレーに集中すればいい。日本選手がトラップした瞬間を狙ったアタックか、コントロール方向を制限してから追い込むというボール奪取プレー・・。

 そんな消極的な日本に対し、バーレーンには個のドリブル勝負を主体にして仕掛けていくというチーム内の合意があるから、周りの選手たちも、ドリブル突破トライの「内容」に合わせて次の仕掛けをイメージしていくというパターンをもっています。たしかに、攻撃の変化という視点では次元は低いけれど、全員がそのイメージで統一されたアクションをやりつづけるのだから実効レベルは高くなるというわけです。

 個人のチカラも含め、総合力では確実に日本の方が上。にもかかわらず苦戦を強いられている前半でした。フラストレーションがたまる、たまる。甘く見ていたわけじゃないだろうけれど、選手たちのマインドが、あまりに消極的なことに舌打ちをしていた湯浅なのです。ビビり?! こんなプレー姿勢では、そう詰(なじ)られても仕方ない・・。

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 ところが後半になって、やっと日本選手たちのプレーに吹っ切れた積極性が出てくるようになります。もちろんエネルギー源はボールがないところでの積極プレー(前半のじり貧の展開に、選手・ベンチともに吹っ切れたのかも?!)。人数をかけた組織プレーが機能しはじめた日本代表の凄い勢いに、いくら個人能力にすぐれたバーレーンとはいえ、たまらず守備ブロックが浮き足立つのですよ。

 人数をかけて仕掛けていくのはリスクだから、選手たちの勇気が大前提であることは言うまでもありません。そして、その勇気を与えるのが監督の仕事。リスクチャレンジという精神文化の背景が希薄な日本の場合は、そこでの「心理マネージメント」が特に重要な意味をもってくるというわけです。

 さて、徐々にペースをアップしてきた日本代表。流れのなかでのプレーだけではなく、セットプレーにも勢いがのってきます。そして試合が完全に日本ペースへと傾いていく。後方からも、どんどんと積極オーバーラップが見られるようになります。そんななか、こんなシーンを目撃しました。最終ラインの那須が、田中とのワンツーで抜け出し、そのまま最前線へ飛び出していったのです。高松へのアーリークロスが入り、そこでのヘディングからのこぼれ球に合わせることをイメージした走り込み。まあ、そのときはうまくいきませんでしたが、とにかく、那須が前線へ飛び出していったプレーは、チームのプレーマインドが、前半と比べて180度好転したことを象徴していたと感じたものでした。

 高松へのアーリークロスは、相手ディフェンダーの3番が、ヘディングに弱いと判断した山本監督の意識付けだとか。たしかに効果的でした。もっと、もっと徹底的にそこだけを攻めつづけるというしつこさがあれば・・なんて悔やんだものです。

 こんなポジティブな展開だったから、セットプレーから奪われたバーレーンの決勝ゴールは、まさに青天のへきれき・・。神様のイタズラにしても程があるじゃないか・・。その後も勢いを倍加させて攻めつづける日本代表でしたが、結局は最後のところでバーレーンを崩しきれずに、そのままタイムアップということになってしまいました。フ〜〜。

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 後半に魅せつづけた日本代表の攻めですが、私は、たしかに押し込んではいるけれど、最終勝負シーンでのボールがないところでの突っ込みの勢いはまだまだだと感じていました。最終勝負シーンでの「勢いのある走り抜けるフリーランニング」が足りない・・。あれでは、バーレーン最終ラインのウラを突けない・・。やはり意識の問題ですかね。たしかにサイドチェンジやロングパスなどからの次の展開は効果的に連鎖するようにはなったけれど、最後の最後での「突っ込み」が足りない・・。だから、押し込んではいたけれど、決定的チャンスはほとんどといっていいほど演出することはできなかった・・。

 要は、パスを呼び込むフリーランニングの勢いが足りない・・吹っ切れた心理で走り抜ける勢いが足りない・・ということです。脇目もふらず、全力で決定的スペースへ走り抜けるフリーランニング。例えタイミングが合わずにパスが出なかったとしても、その勢いに、相手守備ブロックは恐怖を抱くものです。そしてヤツらのポジショニングバランスに狂いが生じてくる。とにかく最終章勝負ですからネ。そこでは全てのプレーイメージが、レベルを超えなければならないのですよ。だからこそ、そのイメージをシンクロさせるトレーニングが(ここではイメージトレーニング!)重要な意味を占めてくる。残り一日、こうなったら選手たちのなかで「徹底度」を確認しあうことが大事です。

 私は、彼らが「もう勝つしかない」という状況まで追い込まれた方がいいと思っています。彼らの場合は、十分に備えた実力を存分に発揮できていないことが問題ですからね。もう誰も助けてくれない・・妥協することなく闘い抜くことで一つひとつのゲームを勝っていくしかない・・そのためには、チームのなかで全員の意志を統一するために、互いに刺激し合うしかない・・。そこまで追い込まれ、吹っ切れることでしか、「壁」を超えることができないと思うのですよ。ここでいう壁とは、どんな極限状況においても、攻守にわたる自分主体のリスクチャレンジができること・・と定義しておきましょうかね。

 もし、得失点差や勝ち点でトップを守ったまま最終マッチに入ったとしたら(引き分けでもトップに立てるという状況で最終戦を迎えたとしたら)、それこそ、彼らにとってもっとも危険な落とし穴になると心配している湯浅なのです。




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