「でもさ・・ヤツらが本当の意味で組織プレーもミックスしてきたら、そりゃ世界のどの国だってかなわないゼ。まあ、天は二物を与えずってことだよ。でも、2010年の南アフリカW杯の頃には、ヤツらは天下無敵になっているのかもしれない。今回の日韓W杯じゃ、セネガルが洗練されたサッカーをやったことで、フットボールネーションにかなりの恐怖心を抱かせたしな・・」。先日ドイツへ行ったとき、友人のプロコーチが真顔で心配していましたよ。たしかに、「あの」アフリカ勢が、戦術的にも長けたプレーに徹することができるようになったら、確実に世界の勢力図は塗り変わってしまいますからね。
でもこの試合をみる限り、アフリカ勢が、実効ある組織プレーに開眼するまでにはまだまだ長く険しい道程があると感じます。個人能力じゃ天下無敵なのに・・。
この試合でも、レベルを超えた個人能力という「両刃の剣」を抱えるアフリカンサッカーのジレンマを見ていた湯浅でした。
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ということで、この試合での日本オリンピック代表のプレーイメージ(ゲーム戦術プラン)は、こんなことだった・・?!
とにかくまずしっかりと守備ブロックを固めよう・・ディフェンスでもっとも大事なことは、タイミングが遅れたら絶対に安易にアタックせず、ねばり強くマークをつづけるという意識・・ヤツらはシンプルにパスをつなげないから、とにかくボールホルダーを抑えることを主眼にしよう・・そうすれば、突破を諦めた時点で、安易な逃げパスを出すに違いない・・そこがボール奪取の狙い目だ・・もちろんボールを持つ相手がこねくり回しはじめたら協力プレスを仕掛けてもいいけれど、それでも安易なアタックは禁物・・その協力プレスのアクションも、あくまでもカバーリングというイメージを優先させよう・・とにかく、ねばり強く、我慢強くマークしつづけることで、ヤツらのミスを誘ったり、味方に、次のポイントで仕掛けさせるというイメージ持つように・・そしてボールを奪い返したら、とにかく素早くボールを動かすことでサイドからのクロス攻撃をイメージしよう・・等々。
そんなゲーム運びイメージが功を奏し、日本代表の守備ブロックが、パスで振り回されたり、ウラのスペースを突かれたり、ドリブル突破で切り裂かれたりという破綻シーンに陥ることは皆無でした。素晴らしく落ち着いた、有機的に連鎖する組織ディフェンスが光っていました。
もちろんそのベースは、一人の例外もない「高質な守備意識」。誰もが、ゲーム戦術的なイメージに沿ったクリエイティブ守備を展開していたということです。だからこそ、攻撃にも勢いを乗せることができた。彼らは、プランイメージどおりに、素早いボールの動きとサイドからのクロス攻撃で、しっかりと活路を見い出していたのです。2本、3本と、クロスからチャンスを作り出す日本代表。でも、前半立ち上がり15分の時間帯が過ぎたあたりから、ゲームが膠着していきます。そして、両チームともに攻めきれないという展開がつづくようになっていくのです。
とはいっても、マリが展開する「個のブツ切り」の仕掛けよりは日本の仕掛け内容の方が上。とはいっても、どうしても攻めきれない。サイドからの仕掛けが抑えられはじめただけではなく、マリのオフサイドトラップに引っかかるシーンも続出してしまうのですよ。高めに維持されるマリの最終ラインがオフサイドトラップを仕掛けているのは試合がはじまってすぐに分かっていたはずなのに、どうも主体的な工夫が感じられなかった。これについては、仕掛けのリーダーである山瀬のリーダーシップを期待したのですが・・。
でも後半は、上げ気味のマリ最終ラインを逆手に取った仕掛けが冴えわたります。大久保嘉人の「ラストパスを呼び込む決定的フリーランニング」。最初は坂田からのスルーパス。つづけて何度かウラ取りシーンを演出した大久保が、最後は松井からのスルーパスを見事に同点ゴールに結びつけてしまうのです。本当に見事なコンビネーションでした。
たぶん大久保は、前半のゲーム展開を観ながら、マリ最終ラインの中途半端なラインコントロールとオフサイドトラップによる「穴」を明確に意識していたのでしょう。彼は、マリ最終ラインのウラを取るイメージをアタマに描きながらゲームに入っていったに違いないと思うのですよ。何せ大久保は、決定的スペースへ抜け出すチャンスだけを狙っていましたからね。もちろんハーフタイムでの山本監督の指示もあったでしょう。だから、クロスだけではなく、中途半端に高いマリ最終ラインのウラスペースを突いていくという仕掛けイメージで、チームが統一されたということでしょう。
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この試合では、たしかに後半の方が、攻撃に勢いが乗っていました。もちろんそのバックボーンは、より活性化した中盤ディフェンス。私は、後半から登場した今野泰幸と鈴木啓太のコンビがうまく機能し、中盤守備のダイナミズムがより向上した結果だと思っていたのです。
それにしても日本オリンピック代表は、攻守にわたって、立派な組織サッカーを展開しました。要は、どんな相手と対峙しても、持てる実力を100パーセント(またはそれ以上)発揮できるようになったということです。そこに、ワールドユース組やトゥーリオなどの新しい風をうまく融合させることで、また今では、オーバーエイジ枠をチラつかせることで、チームの緊張感を高みで安定させた山本監督の手腕もあったことは言うまでもありません。何といっても、このところの日本オリンピック代表のキャッチフレーズは「サバイバル」ですからね・・。頼もしい限りじゃありませんか。
さて、ちょっと仮眠してから、イングランド対ジーコジャパンを楽しむことにしましょう。