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シンガポール報告・・日本代表のトレーニングと、シンガポールプロリーグで活躍するアルビレックス新潟の若手チーム(アルビレックス大橋監督との対談)・・(2004年3月30日、火曜日)

どうも皆さん、赤道直下のシンガポールからのレポートです。まあ試合前ではこのレポートだけということになります。ということで、日本代表のトレーニング内容と、今シーズンからシンガポール・プロサッカーリーグ(Sリーグ)に参加している、アルビレックス新潟の若手チームの活躍を、大橋監督との「The 対談」をミックスしながらレポートすることにします。

 ではまず日本代表から・・。

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 「何やっているんだ・・ヌルいな本当に・・」

 二時間のトレーニングの最後に組み込まれた紅白マッチ。その雰囲気に対する率直な感想です。とにかく先発候補チームのプレーに締まりがない。その雰囲気は、例えば勝負マッチ(リーグ戦)の翌日とかに行われる再生トレーニングそのもの。そこでは、リラックスした雰囲気で、みんんゲームを楽しむというわけです。でも日本代表は、二日後に勝負のゲームを控えているから、まったく事情は違う・・。

 トレーニングの最後の20分間の紅白戦だから、もちろんケガはしたくないのは分かります。それでも、締めるところは、しっかりと締めなければ、ぬるま湯のネガティブな雰囲気(消極ヴィールス)ばかりが蔓延してしまう・・。(写真は、日本代表のトレーニングが行われたジューロン・イースト・スタジアムに詰めかけた観客・・日本代表の写真は掲載できないので・・)

 そこで私は、こんなことを考えていました。「まあ、いいよ・・全体的には緩くても・・でも最後の5-10分間くらいは、ピシッと締めなきゃダメだ・・そこにジーコの役割の本質があるんだ・・大声でゲームを止め、ビシャリと、最後の5-10分間のテーマを、何らかの刺激とともに選手たちに伝え、徹底させる・・そこでのテーマの主題は、例えば中盤守備の活性化・・それが緩いから、ゲーム全体が全く締まりのないものになってしまう・・逆に中盤でのアクティブディフェンスを徹底させ、前からプレッシャーをかけていくという積極サッカーにチャレンジさせれば、確実に緊張感は何倍にも高まるだろうし、中途半端なプレーをつづけるよりはケガの危険性も小さくなるに違いない(緊張感が高まれば、危険な瞬間に足を引くという危険回避行動も、より余裕をもってできる!)・・とはいっても、ジーコのプレーイメージは、そんなプレッシャーサッカーじゃなかったしな・・下がってもいいから、安全・確実にボールを奪い、しっかりと安全にボールをキープしながら、ここぞのチャンスを待つ・・でもそれじゃ、チームの緊張感がぬるいから、逆に全員の足が止まり、局面での仕掛けしか出てこないし、行き当たりばったりサッカーになってしまう・・一度、アレックスが左サイドで相手を抜き去り、完璧フリーで余裕のクロスを上げられるシーンで、GKに直接飛んでしまうクロスを送り込んでしまった・・完全なミス・・アレックスは、相手を抜いた時点で、そのプレーに満足してしまった?!・・そんなぬるま湯プレーでも、監督から声がかかることもなく、まったく何も起きない・・これじゃ、全体的なムードが倦怠感に包まれてしまうのも道理か・・でも、この二日後には、肉を切らせて骨を断つという勝負マッチだゼ・・相手を甘く見ている?!・・まあ「気候順応」のやり方にしても(夕方にスコールがあれば、気温32度、湿度80パーセント以上という厳しい気候環境のなかでプレーしなければならない!)、何か、こう、締まりがない・・そう感じるのは、私が「外野」だから?!・・実際には、チームのなかの雰囲気は、十分な緊張感が充満している?!・・私は外部の人間だから、それを知ることができないだけ?!・・本当にそうであってくれればいいけれど・・試合当日に、それまでの心配は杞憂だった、オレの読みが浅はかだったと反省させてくれればいいけれど・・でも、オマーン戦のゲームコンテンツを観たら、どうしても、そんなところまで心配になってしまう・・」。

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 この日の全体練習は、パス&ラン・コンビネーション、色々な形式の(トラップ&コントロール&自分がコントロールするのとは逆方向へのバックラストパス&シュートとかの様々な仕掛けファクターを組み合わせた)シュート練習、最終ラインのイメージシンクロを高めるトレーニング(危急自体での対処トレーニング=最終ラインの四人プラス稲本のブロックで、一人が攻め上がって戻れない状態でカウンターを仕掛けられるという状況などを想定!)、そして最後にトレーニングマッチというメニューでした。

 私は、代表の全体トレーニングのスケジュールが限られているからこそ、例えば攻撃でのイメージをシンクロさせるプロセス練習(=完全に局面だけを抽出したイメージシンクロトレーニング!)とか、具体的な最終勝負シーンの練習とかにもっと時間を割いた方が・・なんて老婆心ながら思っていたものなのです。でも、ハッと思いついた・・そうか、ジーコは、限りなく自由に、個人の自由な発想で攻めさせるんだっけな・・。それでも、やっぱり、選手たちの「コミュニケーションの機会」だけは、できる限り多く提供した方がいい。まあその意味では、まだ中田英寿が合流していなかったから仕方ないのかもしれないけれど、とにかく彼らには(特に攻撃では)、互いの仕掛けイメージを調整する時間(シンクロさせる作業時間)を与えた方がいいと思うのです。でもそこで、彼らの「本音トーク」が出てこなければ意味がないから、そのコーディネート&コンサルティングを、ジーコにしっかりとこなしてもらわなければなりませんがネ。それらの興味深いディスカッションポイントについては、もう書きはじめたら止まらない・・。

 まあとにかく、今回のキャバクラ事件で(協会の対応に対して?!)、ジーコも爆発したみたいだから(協会の担当者だけではなく、協会トップに対しても?!)、少しは安心していた湯浅なのです。そんな、情緒的コミュニケーションさえ出てくれば、本当の組織の目的を違えた「建て前ばかりの雰囲気」から、本来あるべき組織目的をしっかりと見つめるような、限りない本音トーク(ホンモノのディベート)へと、マネージメントも含めた「グループ内の雰囲気」も進化していくハズですからね・・あくまでも希望的観測ですが・・。

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 さて・・ということで今日は、日本代表だけではなく、シンガポールで活躍する日本チームについても紹介したいと思います(日本出発前からこのチームを取材するのが楽しみだった湯浅なのです!)。

 今シーズンからシンガポールのプロサッカーリーグ(Sリーグ)に参戦したアルビレックス新潟の若手チーム。こちらに来てからまだ二ヶ月しか経っていないという彼らですが、先日はじまったリーグ戦では、四試合を消化した時点でトップに立っています(3勝1引き分け)。

 「そうですね、ここまではうまく行っていますよね」。そう語るのは、このチームを率いる監督の大橋浩司(おおはしひろし)さん。昨年までは日本サッカー協会に所属していたプロサッカーコーチで、今年からこのチームを率いることになりました。元々は学校の教員をされていた大橋さんは、サッカーを突き詰めたくて・・ということでプロの世界へ飛び込んだということです。意志の強さを感じさせる彼の言動からも、自分自身で人生を切りひらいていくことに対する強いマインドを感じさせてくれます。「ナイス・パーソナリティー!」じゃ、ありませんか。

 「それにしても、どのような経緯でアルビレックスがシンガポールへ来ることになったんですか? 選手はともかく、一つのチームがまとまって外国へ移籍するなんてことは、世界的に見ても前代未聞ですよね・・」

 「まずSリーグの方から日本強化へ打診があったらしいんですよ。それでチームを探していたところ、アルビレックスが手を上げてきたというわけです。そこでアルビレックスから、私に、監督就任のオファーがありました。それは、協会とは関係なく、直にアルビレックスから、貴方とプロコーチ契約を結びたいと・・。私も、リーグを戦うチームを持ちたいと思っていましたから、その申し出を受けたというわけです。もちろんテーマは、いかにアルビレックスの若手選手を、日本で活躍できるまでに発展させるかということですが、とにかくそのために全力を尽くしている毎日です」

 「なるほど。素晴らしいチャレンジじゃありませんか。まず外国へ飛び出していく・・そこで目標へ全力で向かっていく・・。とにかく異文化ほど刺激になる環境変化はありませんからね。環境こそ、人を育てる・・」

 「まさにそのとおりですね。その意味では、オフザピッチ(練習以外)での生活も、非常に重要な意味をもってきますよね。そこでの内容が、結局は、選手たちが発展するための一番の糧になるかもしれない。私は、そんな視点でも、選手たちを引っ張っていきたいと思っているんですよ」

 「でも、大橋さんにとっても、異文化に身を置くのは初めてなんでしょう? そこのところはどうですか??」

 「そう・・そのポイントも大事ですよネ。だから、私にとってもこれ以上の学習機会はないと思っているし、その感覚を、選手たちとしっかりと共有しているんですよ。大上段から指示するなんてことではなく、とにかく、お互い外国人として協力して発展していくっていうことですよね。私は、基本的なところでは選手たちの自主性を尊重するようにしているし、選手たちも信頼されていると感じてくれていると思います。いまのところは、うまくいっていると思いますよ」

 「なるほど・・。それにしても興味深いプロセスですよね。もちろん、選手たちの自主性を尊重するとはいっても、たぶん今でも、またこれからも、毎日、いろいろな問題が出てくるでしょう。そこで、大橋さんの規制と解放のバランス感覚が問われてくる・・」

 「まさにそういうことですよネ。放任は、まさに逃げに等しいですからね。私は、常に立ち向かっていくつもりです。でも今のところは、選手たちはサッカーに没頭しているし、発展していることを実感しているようだから、サッカー以外のところで問題が起こることはありませんけれどね。とにかくいまは、様子をみているというか・・、選手たちの自覚をうながしているという段階ということですかね。やはりそれがスタートラインであるべきだと思っていますから・・」

 「よく私は、監督のお仕事って、突き詰めたら、選手たちから瞬間的に恨まれたり憎まれたりすることだって言うんですよ(そのとき、大橋さんが大きくうなづく)。要は、言うべきところは、キチンと批判や批評しなければならないということなんですがね。もちろん、誠実さとか、原則的なところで監督の人間性が信頼されていることが大前提だし、監督の強い確信があるからこそ、瞬間的なネガティブ感情にも耐えられるというわけですけれどね(うなづきつづける大橋さん)・・」

 「よく分かります。もちろん私も、ここは締めるべきだというタイミングではヤリますよ。もちろんその後の適切なトリートメントを明確にイメージしながらですけれどネ」

 いま44歳という大橋さん。たしかに有意義な経験を積んできているようです。

 「それでも大橋さん・・日常の、オフ・ザ・ピッチの生活については、いまの段階じゃ、大橋さんがいろいろとマネージメントしなければならないでしょう? 選手たちを、まったく自由にするなんてことはあり得ないですよネ・・」

 「もちろん、そうですね。まあ、トレーニングがオフの日は完全に自由時間にすることがほとんどですし、トレーニングがある日でも、オフの時間はショッピングにいったり、部屋で休養をとったり読書したりと、選手たちも自由に時間を使っていますよ。もちろんこちらでも、ある程度はプランを立てています。まず英会話ですよね。週に二回程度ですが、それにコンピュータの授業も入れています。チームのトレーニングですが、週に二日間は午前と午後の二回やります。それに休養の時間もありますよね。そうなってくると、トレーニングのない時間では、英会話とコンピュータ授業で手一杯になってしまうというのが現状ですかね。もちろん、まだいろいろと考えたいとは思っているのですが・・」

 「まあ、大橋さんがおっしゃる通り、チームとして計画を立て過ぎるのも考え物ですよね。個人の言動を大事にしなければ、個性が発展しないですしね。要はバランス感覚・・」

 「そうなんですよ。とにかくバランス感覚を大事にしています。いつも、これでバランスが取れているのか・・なんて自問自答したりしてね」

 「サッカーでも、個人プレーと組織プレーのバランスが大きなテーマです。だからこそ、個性と組織マインドをしっかりとバランスさせる指導が大事になってくるということですよね。ところで、異文化という別世界に飛び込んでいったことについて、もう少しお聞きしたいのですが、選手たちは、この二ヶ月で変化しましたか??」

 「いや、本当に、こちらがビックリするくらいのスピードで、みるみるうちに逞しくなっていくんですよ。若いということなんでしょうが、だから私は、若い選手たちを指導するのが好きでたまらないんですよ。うまくいけば、そんなポジティブな変化が目に見えるし、そんな彼らの発展プロセスが刺激になって自分自身のモティベーションも、どんどんとアップさせられる。若い連中を指導していると、そんな相乗効果を体感できるんですよ。そこにはある種の感動がありますよね・・」

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 環境こそが人を育て、発展させる・・。大橋さんや選手たち(トレーニング態度や、トレーニング後の探求心など)を観察していて、そのことを体感させられていた湯浅です。もちろんまだ二ヶ月だから、これから「日常マインド」が深まってくれば、選手によっては、自主的により大きく発展する者もいれば、逆に停滞・後退し、チームにとってネガティブなヴィールスになってしまう者も出てくるに違いありません。そこで、大橋さんのプロコーチとしてのウデが問われる。彼にとってもシンガポールは異文化だから、そのチャレンジは、より難しいものでしょうが、それでも、逆の視点からすれば、それほどの学習機会はありません。

 正直、そんなチャレンジの機会を得たプロコーチ、大橋浩司を羨ましく思っていた湯浅なのでした。同業者として、聡明で優れたパーソナリティーを備えた大橋さんが、(環境が人を育てるという普遍的テーマが、日本サッカー界でより真剣にディベートされるようになることも含め)今回のミッションで大きな成果を挙げられることを心から願ったものです。

 ところで最後の写真。そこでトレーニングを見ているのは、アルビレックス新潟が展開する魅力的なサッカーでファンになった若者たちです。手前の三人組は、「ボクたちは11歳・・アルビレックスのサッカーはかっこいいよ・・大好きだ」。後方の10人くらいのグループは、17歳から18歳の若者たち。親指を立てて、「ボクたちもサッカーをやっているんだけれど、アルビレックスのハイレベルなサッカーが大好きになったんですよ・・」。




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