もちろん両チームともに、まず守備ブロックを安定させることで相手にゴールを与えない、そしてワンチャンスをモノにするというゲーム戦術的なイメージでプレーしています。ホーム&アウェーとはいいながら、まさに一発勝負だから、それも当然。逆に、勝ち点と得失点差で同じになったら「二倍に換算されるアウェーゴール」のルールがあるから、ミランの方がより神経質になっているかもしれません。
ミランは、例によってのポジショニングバランス・オリエンテッド守備。攻撃でも守備でも、なるべく互いのポジショニングバランスを維持することをイメージターゲットにしています。対するPSVアイントホーフェンも、同様に互いのポジショニングバランスの維持をスタートラインにしているけれど、そこには、より早いタイミングで「バランスをブレイクして」マンマークへ移行するという共通理解もあります。
そんな両チームが、攻撃において具体的に描いている「流れのなか」での仕掛け(勝負)イメージは、相手のミスでも、自チームの主体的な「組み立てプロセス」からでも、とにかく、その時点で最前線にいる才能たちが「なるべくフリーな状態でボールを持つこと・・ということなのかもしれません。
もちろんフリーキックやコーナーキックなどのセットプレーだけではなく、流れのなかでは、一発カウンター攻撃や相手守備ブロックの眼前で放たれる中距離シュート(中距離シュートをイメージした組織パスプレー!)などは当然の勝負ツールですけれどネ・・。
戦術イメージ的なレベルが同程度の場合、最後は、選手個々の「質」によってゲームが決まる・・。それは世界の現場エキスパートたちに共通する理解です。別な見方をすれば、世界的な情報化、国際化の進展によって、戦術的なイメージの(特に守備イメージの)共有レベルが高まっているということも言えますかネ。だからこそ、(この試合のように世界トップレベルの対戦となったら!)組織パスプレーだけでは上手くスペースを突いていけないから、最終的な勝負は個の才能によって決まるというシーンが増えてくるというわけです。
さて、ということで、この試合を観戦する上での基本的な視点テーマは、前線の才能たちにいかにフリーでボールを持たせるのか・・ということになりますかネ。それは、組織パスプレーによって、いかにスペースを(もちろん出来れば決定的スペースを)上手く活用するのかというテーマとはちょっとニュアンスが違います。要は、世界トップ同士がガチガチに守備ブロックを固めているという構図だから、簡単にはボールのないところのパスレシーブの動きとボールの動きをスペース活用につなげられないということです。
そしてゲームを観はじめてすぐに感じたのが、その視点テーマでは、やはりミランに一日以上の長があるということでした。右サイドでボールをキープすることでタメを演出し、次の瞬間にはタイミングを見計らったサイドチェンジパスが逆サイドへ飛ばす等々、とにかく才能たちがシンプルにパスを回しながら、中盤の高い位置でも決定的ゾーンでも、味方にフリーでボールを持たせようとする(仕掛けの起点を演出しようとする!)イメージでプレーしていると感じるのですよ。
前半終了間際の先制ゴールシーンは、まさに「その仕掛けイメージ」がリンクし、結実したというモノでした。最前線でこぼれ球を拾ったシェフチェンコ・・すかさず、その後方でフリーになっているカカーへ「落としパス」を送る・・まっくたフリーで、余裕をもってボールをキープするカカー・・そこには、シェフチェンコとの最終的な仕掛けイメージをシンクロさせる余裕があった・・この瞬間、PSV選手たちは「意識の穴」に落ち込み、カカーへのチェックが甘いだけではなく、シェフチェンコをマークすべき最終ラインの選手も、カカーのボールキープに視線を奪われてしまっていた・・そして次の瞬間、シェフチェンコが全力ダッシュをスタートし、彼が狙う、前方の決定的スペースへ、カカーから決定的スルーパスが送り込まれた・・という次第。
互いの仕掛けイメージが確実にシンクロしているからこそ、一瞬の「個のフリー状態」を活用し切ることが出来たカカーとシェフチェンコ。このシーンは、組織パスコンビネーションという見え方になったけれど、ミランにしてもユーヴェにしても、彼らの基本的な仕掛けイメージは、(ポジションチェンジも含む)人数をかけた組織パスプレーによる最終勝負というよりも、やはり「個の才能をより強く活用する勝負」というイメージが先行していることは確かなことでしょう。
それに対してPSVの方は、より組織プレーイメージが前面に押し出されてくるわけだけれど、結局彼らが作り出せたチャンスは、ミラン守備にプレッシャーをかけられコースを制限された状況でのシュートとか、苦しい状況でのエイヤッ!の中距離シュートというのがほとんどでした。
サッカーにおける勝負の構造をトコトン理解している試合巧者のミラン。とにかく、世界レベルの素晴らしい才能に恵まれた連中に、「イタリアのツボサッカー」をさせられるだけの実績(このサッカーで勝つ!という意識の高揚)と、歴史も含むクラブ体勢に対して脱帽の湯浅でした。とはいっても最終的な勝負の行方はどうなるか誰にも分かりませんけれどね・・。私は第二戦もまた、とことん楽しむつもりですよ。