メキシコについてですが、日本戦の後に、日本の守備ブロックがうまくゲームコントロールした・・だからメキシコは上手くタテへ仕掛けてこられなかった・・なんていうニュアンスのコラムを書いたけれど、この試合を観て、考えが変わりました。何だそうだったのか・・これがメキシコのやり方だったんだ・・。メキシコは、とにかくしっかりと守備ブロックを固めます。そこでのキーワードは、ボールがないところでの守備。とにかく、アルゼンチンの選手で決定的なフリーランニングを仕掛ける者が、ことごとくタイトマークの餌食になってしまうのですよ。
例えばこんなシーン。左サイドから仕掛けていくアルゼンチン・・例によって、素早くボールを動かしながらメキシコ守備ブロックの穴を探す・・そして、ココゾ!の瞬間に爆発的な仕掛けをスタートする・・リケルメとフィゲロアが鋭いタテパスを交換のと同時に、ソリンが大外を回り込むように勝負のパスレシーブの動きを繰り出す・・そしてリケルメからのタテパスが通される・・ただそこには、ソリンの動きを察知してマークに急行していたメキシコ選手がいた・・そしてリケルメのタテパスが、見事にそのメキシコ選手にインターセプトされてしまう・・このメキシコ選手は、タテパスを交換していたリケルメとフィゲロアをはさんだ(ソリンとは)反対側から、ソリンの動きをマークするためにタテへ全力で戻っていた・・ってな具合。このシーンに象徴されるように、とにかくアルゼンチン特有の人とボールの動きは、メキシコの忠実でクリエイティブな守備ブロックに抑え込まれっぱなしといった展開でした。
そしてメキシコは、そんな強固なディフェンスを基盤に、決してリスクを冒すことなく、二つの「決定的なカタチ」をイメージしながら慎重に攻め上がるのです。安全にボールをキープしながら、日本戦でも同点ゴールをたたき込んだシーニャ(7番)が単独ドリブル&シュートアクションへ入っていけるような状況の演出をイメージしたり、ボルゲッティーのヘディングシュートをイメージしたり・・ってな具合です。
日本戦でのメキシコは、守るのではなく自ら仕掛けていかなければなららなかったから、やりにくいことこの上なかったに違いありません。それでも、横パスで忍耐強くボールをキープしつづけ、そして最後には、ツボにはまったゴールを奪った。まあ、サスガに大したものです。
この試合でのアルゼンチンは、立ち上がりの時間帯と、延長でメキシコに先制ゴールを入れられてからの時間帯に、少しだけ、誰もが期待する「アルゼンチン・サッカー」を呈示してくれました。ボールがないところでの絶え間ないアクションをベースにした、人とボールが動きつづける、個と組織がハイレベルにバランスしたモダンサッカー・・。でもそれ以外の時間帯は、まさにメキシコの術中にはまり、蛇に睨まれた蛙といった体たらくだったのです。
そんな展開を観ながら、これはメキシコに軍配だな・・アルゼンチンはブラジルの二の舞を演じている・・ということは、三位決定戦の方が面白くなるということなのかな・・なんてことまで真剣に考えていた次第。この試合でもスタンドで再会したホルガー・オジェックに(元浦和レッズ監督・・前カナダ代表監督・・現FIFA技術委員会スタッフ)、延長に入る前、「ねえホルガー・・オレは、大会の最終日はライプツィヒでドイツ対アルゼンチンを観にいくことにするよ・・」なんて冗談を言ったところ、ちょっと肩をすくめたホルガーが、「それにしてもメキシコは、狙い通りのゲームを展開しているよな。このゲーム展開は、まさにヤツらのツボだよ・・」なんてネ。
それにしてもアルゼンチンは本当によく追いついた。あの展開だったら、誰が考えても、もう完全にメキシコのモノじゃないですか。それを追いついたのだから、たしかに大したものだ。そして、これ以上ないというハイテンション(最高レベルの緊張状態)のなかで繰り広げられたPK戦。そこでののコンテンツは、もちろんゴールキーパーのアクションと、シュートコースです。キーパーのアクションを逆手にとって真ん中へ、それも少し高めに蹴れば、まあほとんどのシュートは入るでしょう。でもそれは一度しか使えない・・。その後は、またまただまし合いになる。やはり、オーソドックスに、両サイドの「上半分ゾーン」へ、なるべく強く蹴り込むのがもっとも可能性の高いシュートということです。このPK戦では、そんなパーフェクトシュートは数本。それ以外は、キーパーの「勘」が当たれば弾かれてしまうといった危険なシュートでした。たしかに5人目までは、キーパーの「勘」は全て逆でしたが、メキシコの6人目になって、キッカーとキーパーのスピリチュアルエネルギーが一致してしまって・・。
メキシコの方がより多くの決定機を演出したことも含め、試合のコンテンツを冷静に評価すれば、確実にメキシコには不運だったとすることができるでしょう。とにかく彼らは、自分たちのサッカーイメージを、忍耐強く、最後の最後までやり通した。立派なサッカーだったし、ゲームの全体的な流れからすれば、勝利をほぼ手中にしていたのに・・。まあこちらは、ブラジルとアルゼンチンの決勝が観られるのだからハッピーではあったんですがネ・・。
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最後に、ちょっと両チームの「天才」について。アルゼンチンのリケルメと、メキシコのシーニャ。両選手ともに、天才の例に漏れず、運動量が少なく、守備もおざなりなのですよ。
シーニャについては、まあチーム全体が彼の決定力に期待しているし、チーム戦術も彼の運動量に重きを置いていないから(守備は、まあ戻るだけはしっかりと戻ってチェックはしている)、そんなに彼の貢献度の低さが目立つというわけじゃありませんよね。それに、この試合でも、一発ドリブル勝負から、アルゼンチンの右ポストを直撃する中距離シュートを放ちましたしネ。
「ホントに、シーニャはサボってばかり・・チーム貢献度は、最低だよね・・それでも、あのドリブルシュートをみせつけられたらたまらない・・チームも、彼にはそれしか期待していないということなのかもしれない・・素晴らしい才能に恵まれているのにね・・」。隣に座ったメキシコのジャーナリストが、シーニャの爆発的なポストシュートに拍手しながら、そんな苦言を呈していました。
それに対してリケルメ。ペケルマン監督は、本当に彼を中盤の指揮官として使いつづけるのだろうか・・?? 試合を観ながら、そんなことを考えていました。リケルメは、ペケルマンにとって、まさに両刃の剣だと思うのです。たしかにレベルを超えた天才。たまには誰にも出来ないプレーをしちゃう。でもそれ以外では、(ミスをしたくないから?!・・パスを受けた者がミスをし、それが自分のせいだということにしたくないから?!)とにかくリスクへチャレンジしていくプレーが極端に少ないのです。タテへ仕掛けパスを送り込めるのに、すぐに諦めて横パスで逃げ、自分自身は動きを止めてしまう。また、ボールがないところでの守備アクションもほとんどない。そんな消極プレーシーンのオンパレードなのです。まあディフェンスは別にして、彼の才能からすれば、仕掛けのリスクチャレンジに率先して入り込んでいかないというプレー姿勢は許されるものじゃありませんよ。何せ、チーム内で最高の自由度を与えられ、リーダーシップを期待されている選手なんですからネ。
ドイツ戦の23分間でも(スポナビのこのコラムを参照してください)、爆発的なペースアップの中心にいた(ペースアップを主導した)とは、とても言えないプレー姿勢だったし、この試合でも、1点先行された状況で、率先して同点ゴール目指そうとするのではなく、どちらかといったら後方に隠れてしまった。
とにかく決勝は、彼のプレーコンテンツをしっかりと見極めたいと思っている湯浅なのです。
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これからハンブルクまで、約150キロほど移動しなければなりません。ということで、この試合については、ここまで。あっと・・昨日のことですが、大変な勘違いをしていました。ニュールンベルクから、宿泊を予定してたカッセルまでの距離は、200キロなんてものじゃなく、350キロ近くもあったんですよ。夜中の高速移動ですからネ。久しぶりに、ちょっと厳しかったですね。でも今日の移動距離は、その半分以下だし、ホテルもよく知っているところだから安心。とにかく出発します。では・・