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ヨーロッパの日本人・・まず高原直泰から・・次に、小野伸二と中村俊輔・・そして中田ヒデについてもエンスージアスティックにアップ完了・・(2005年3月21日、月曜日)

本格感の高揚・・。高原直泰のプレーを観ていてまず脳裏に浮かんだ表現です。そう、ヨーロッパの一流リーグでも通用する本格的なプレー内容という意味で・・。

 前線からの積極的なディフェンスを基盤に、次、その次と、積極的なプレーを連鎖させていく高原。あるときは、最前線から全力ダッシュで戻りながらタテパスを受け、例によっての「トット〜ン」という1.5リズムのボールコントロールで相手マーカーの機先を制して余裕を演出し、シンプルタイミングの展開パスを回してパス&ムーブアクションへ移る・・次には、怒濤の突破ドリブルから、ギリギリのタイミングでのスライディングクロスをゴール前へ返す・・はたまた、センターゾーンでタテパスを受け、流れるような1.5リズムコントロールでスパッと振り返りながら相手マーカーを外し、そのままドリブルで突っかけていくことで相手守備ブロックの意識と視線を釘付けにしてしまい、最後の瞬間に、左サイドでフリーになっていたバインリッヒへのラストパスを通す・・等々。その実効プレー内容を表現するのは、もう本格感という言葉しか浮かばないというわけです。

 また、高原のヘディングの強さも特筆ものでした。正確なつなぎヘディングだけではなく、シュートでも本格的な威力を発揮する。前半20分あたりでしたかね、混戦から跳ね上がったボールを、高いジャンプからポストを直撃する強烈なヘディングシュートを飛ばした場面は印象的でした。

 日本代表は、チームとして、高原のヘディングの強さをしっかりとイメージしておくべきです。もちろん既に強く意識しているでしょうが、色々な工夫を凝らし、より明確な刺激をともなったイメージング作業をくり返すことで、プレーコンテンツが確実に広がっていくに違いないと思うのですよ。詰まったときに「最前線のアタマ頼り」のロングパスを飛ばせる可能性もあるわけだし、高原が繰り出す決定的な動きをイメージしながら、相手ゴール前の小さなスペースへ向けて最終勝負のピンポイントクロスを送り込む可能性も強く意識することができるし、それ以外にも・・ってな具合。

 チームは負けてしまったし、前半最後の時間帯から後半25分に交代するまで、徐々にアクティビティーの量と質が減退していったことも事実だったけれど、それでも、前述したプレーコンテンツの実効レベルは、着実に「ブレイクスルー・ベクトル」に乗っていたと思っている湯浅なのです。

 伸び悩んでいた高原のパフォーマンスをここまで引き上げ、低迷していたハンブルガーSVを再生した監督のトーマス・ドル。彼の功績に対して、いまいちど感謝しながら、「The 対談」での彼とのインタビュー記事や、スポナビで発表した記事を読み返していた湯浅だったのです。「Mein lieber Thomas... Ich respektiere Dich sehr...」

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 やっぱり難しいね・・中盤の底に、汗かき(猟犬)タイプの守備的ハーフがいないのではね・・。フェイエ監督ルート・フリットは、今節の中盤トリオも、小野伸二、ホフス、バルト・ホールという三人で構成するという決断を下し、最後の最後までそのメンバー構成を引っ張りつづけました。ということは、その中盤トリオが、攻守にわたってうまく機能していたという判断なのかな・・??

 私の見解は、前回同様に、「その」逆です。うまく機能していない・・だから、相手の組み立てプロセスを効果的に抑制できず、うまく高い位置でボールを奪い返せない・・相手ボールホルダーに対する抑えも中途半端だし、中盤でボールを回されたらズルズルと下がってしまう・・またボールがないところで動く相手に対するマークもいい加減だし(タテへ行かせてしまうし)、中盤でのボール奪取勝負でも実効性が感じられない・・等々。

 要は、小野のパートナーの二人が、どちらかといえば前へ重心がかかるタイプということです。だから、チェイス&チェックのアクションだけではなく、相手ボールホルダーに対するチェックアクションでも間合いを空けすぎたり、周りでのインターセプト狙いのポジショニングが中途半端なことでうまくボール奪取勝負に入れなかったり、後方から飛び出す相手選手をイージーに行かせてしまうなど、機能不全に陥ってしまうのですよ。

 この試合では、後半に相手選手が一人退場になったこともあって、最後まで大きな穴が空くことはなかったし、最後の最後に二点を奪って勝ち切ったけれど、全体的なサッカー内容としては、不安定な中盤守備ブロックが原因となった課題を背負ったままでした。

 さて、小野伸二。たしかに彼のプレーは高みで安定しています。でもそれは攻撃に限った場合です。ゲームメイクの内容も高質だし、最終勝負シーンでも、ワンツーの壁になったり自身がコアになったコンビネーションを仕掛けていったりとというだけではなく、最終勝負の緊迫したシーンであるにもかかわらず、次のシュートや決定的パスを匂わせることで相手ディフェンダーの意識と視線を引きつけ、相手守備ブロックに穴を作り出すような創造的なタメやドリブル・キープを披露しちゃったりするのですよ。まさにゴール前での圧倒的な存在感ってなところ。

 でも守備では、やはりいつもの課題が見え隠れ。たしかにインターセプト狙いやスペースケアーに対する鋭い感覚など、創造的なディフェンスプレーの実効レベルは高いけれど、相手ボールホルダーに対するチェイス&チェック(ボールを追い回すことをベースにした守備の起点プレー)や、ボールがないところでの忠実・確実マーキング、そしてボール奪取勝負などのプレー内容を見るにつけ、「やはり彼は守備的ハーフというよりは、後方からのゲームメイカーという意味合いの方が強いクリエイティブな中盤の底プレイヤーだよな・・」なんてことを思ってしまうのですよ。だからパートナーとして、ガリに代表されるような汗かき(猟犬)タイプの守備的ハーフが必要になるというわけです。もちろん、攻撃でも高い能力を発揮する中盤のパートナーたち全員が「本物のボランチ」と呼べるような、汗かきディフェンスと創造性ディフェンスの両方を十分にこなせる選手であるのが理想だけれどね・・。サッカーの歴史では、そんな「クリエイティブな中盤の下がり目プレイヤー」を多く抱えたチームだけが、内容でも結果でも存在感を発揮できていたという事実が残っているのですよ。

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 さて中村俊輔。相手はユーヴェントス。それもトリノでのアウェーゲームですからね、中村のプレーを評価するには理想的な状況じゃありませんか。そして魅せてくれた相変わらずの好調プレー。もちろん守備に多くを期待していないというのが前提ですが・・。

 この試合では、中盤センターという基本ポジションでスタートした中村俊輔。まあ、前述した汗かき猟犬タイプの守備的ハーフというタスクに徹するモザルトとの前後センターコンビといったところです。そのモザルトですが、与えられた汗かきタスクを、誰にも真似できないくらい忠実に・創造的に・ダイナミックにこなしつづけるだけではなく、後方からのゲームメイカーとしても十二分に機能しつづけます。要は、本物のボランチの領域に入る優れた選手というわけです。レッジーナにとっては理想的なキャプテンじゃありませんか。以前から中村俊輔の能力を高く評価している(そうに違いない)彼は、常に後方から中村をサポートしています。中村にとって、もっとも重要なボールの供給役でありサポート役です。彼はモザルトに感謝しなければいけませんよね(まあ、私に言われるまでもないでしょうが・・)。

 そんなチーム中心選手の忠実でダイナミックな汗かきプレーもまた、中村が本当の意味で発展をはじめた背景にあるのかもしれません。この試合でも、十分な運動量をベースに、攻守にわたって実効プレーを魅せてくれました。まあ守備では、相手を邪魔する程度ではありますが、それでもたまに魅せる粘りのボール奪取勝負には本格感が伴うようになっている。そこまでやるなら、もっと徹底してディフェンス参加しようゼ・・なんて声が出ちゃったりして・・。

 それにしても彼のボール絡みのプレーは素晴らしい。前半20分あたりでは、走りながら受けたタテパスをダイレクトで逆サイドでフリーになっていた味方へ送り、そのままパス&ムーブで決定的なニアポストスペースまで走り込んだ(最後は味方のパスミス!)・・また前半33分あたりには、右サイドでワンツーの「壁」になり、直後にパス&ムーブでタテへ走り上がりながらスペースでパスを受け、最後はノールックパス(左を見ながら右の決定的スペースへの浮き球スルーパス!)を決めた(残念ながらオフサイド!)・・。それ以外でも、シンプルにやるところと勝負を仕掛けていくシーンのメリハリが素晴らしい。ドリブルで突っかけていくシーンでは、百戦錬磨のユーヴェディフェンダーでさえビビッているとさえ感じられる。その迫力は、まさに本格的でした。

 とはいっても、ユーヴェの勢いが倍増した後半のプレーコンテンツは大幅に低落してしまいました(もちろん部分的な才能のほとばしりはあったけれどネ・・)。まあ本当の評価は後半の出来を対象にすべきなんでしょうネ・・。そこでは、レッジーナ全体としてはユーヴェの攻勢をしっかりと受け止めて押し返せていたと思うのだけれど、中村が、そのエネルギーを生み出す中心的な存在ではなかったことに対する不満がつのったものです。まあ、まだまだだな・・とはいっても、とにかくイラン戦・バーレーン戦は頑張ってもらわなければ・・。

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 さて、今週のラストは中田英寿。レッジーナ同様、相手は強豪のインテルで、それもミランでのアウェーゲームという恰好の評価対象ゲームということになりました。

 ゲーム立ち上がりの印象は、「いいぞ・・いいぞ・・その調子だ・・それだヨ・・その積極プレーイメージが大事なんだよ・・」っちゅうもの。要は、攻守にわたるプレー姿勢が着実に活性化していると感じていたわけです。先週のコラムで、中田英寿を「あんなふう」に採り上げましたからネ・・そんなこともあって、「やっぱり彼は大丈夫・・まだまだ彼の自己実現オブジェクトにおけるサッカーの占有率は高い・・」なんて、ちょっと安心した湯浅だったのです。

 このところの中田ヒデのプレーでは、ゲーム立ち上がりのマインド形成プロセスにおける守備での絡み姿勢が消極的・・次の攻撃でのボールなしのプレーにも勢いが乗っていかない・・またボールを持っても、彼にはそぐわない安全・確実志向が目に見える・・それが、ミスがミスを呼ぶというネガティブ連鎖の背景になっている・・消極プレーでのミスほどネガティブサイクルを助長するモノはない・・そんなだから、心理的な悪魔のサイクルに半分足を突っ込んでしまうのも道理・・なんていうマイナスイメージばかりが先行していたのです。だから、この試合でのファーストインプレッションがポジティブ方向に転じていたことと、それが「ファースト」だけじゃなく、しっかりと継続していたことが嬉しかったのです。

 たしかに相手は地力に優る強豪チームだから、そんなに自由自在にプレーできるというわけじゃありません。例えば守備での勝負所を自らが主体になってコントロールしようとしても、インテル選手たちの個人能力レベルが高いから(その個人能力が組織的にもうまく連鎖しているから!)、どうしてもヤツらの攻撃ペースを乱したり、ボールの動きを抑制したり出来ない・・。それでも中田は、例によっての「狙いすましたボール奪取勝負」を仕掛けるつづけるといった積極ディフェンス姿勢をベースに、次の攻撃でも、常に仕掛けをイメージするという吹っ切れた勝負姿勢(リスクチャレンジ姿勢)を前面に押し出した積極的なプレーを繰り広げるのですよ。

 まあ・・ね、彼が得意の組織コンビネーションをリードしようにも、キエッリーニやミッコリに代表される、タイミングの悪い孤高のドリブラーが組織プレーのリズムを乱すという悪いクセもあるからネ・・うまく組織プレーイメージが連鎖しないというシーンもまだまだ多いけれどネ・・。何度、彼が良いカタチでスペースへ抜け出すという状況でヤツらがボールをこねくり回してしまったことか・・。それでもこの試合では、そんなことでプレーペースが落ち込むことなどまったくありませんでした(まあ、後半の半ばあたりではちょっとペースがダウンした時間帯もあったけれどネ・・)。最後まで積極プレー姿勢を維持していた中田英寿。とにかく今は、ねばり強く、主体的な積極仕掛けプレー姿勢を高みで安定させることが大事です。

 たしかに、以前の最高レベルにはまだ戻っているわけじゃないけれど、攻撃でも守備でも、ボールがないところでもボール絡みでも、ケガ上がりのこれまでとはひと味もふた味も違う主体的なプレーコンテンツを魅せつづけてくれた中田英寿(相手のオウンゴールを誘発した思い切りの良いシュートも素晴らしいかった!)。今度のイラン戦では、2002年3月のポーランド戦のような「ドラマチックな復活サッカー」が期待できそうじゃありませんか(当時サッカーマガジンに寄稿したコラムをまた掲載しておきます・・下記)。

 今回のイラン戦は、もちろんスリーバックでいくべきです。それに汗かきタイプの守備的ハーフも必要でしょう。そんな基本フォーメーションに中村俊輔と中田英寿のコンビを組み込んでいく・・?! とにかく見てみたいですネ、攻守にわたって互いの組織プレーが連鎖し、実効あるカタチで相互補完しつづける「ナカナカコンビ」。

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 では最後に、2002年3月29日に書き上げたサッカーマガジン用のコラムです・・

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 「すごいぞ・・ナカタは。これまでアイツは、ベンチだったんだって? 信じられないね。基本的には、ちょっと下がり気味でプレーしていたけれど、前へ、後ろへと、それはダイナミックに動きまわっていたぜ。効果レベルでは、確実にベストプレーヤーの一人だったよ。それに、あれだけの攻撃センスをもっていながら、守備でも、しっかりと汚れ役に精を出していたからな。特に、ここぞっていう場面でのボールがないところでの忠実なマークや、わざと間合いを空けてから仕掛けるアタックなんかも感動ものだったぜ・・」。

 自分では見ることができなかったので、ドイツの友人に、パルマ対ユヴェントス戦をテレビで見てもらい、中田英寿について印象を聞かせてもらうことにした。プロコーチである彼自身も、中田のプレーに興味をもっていたから、ボクの頼みを快く引き受けてくれたというわけだ。

 ボクは、彼の観察眼を信頼している。だからその話しを聞いて、そうか、中田英寿は、中盤の底でも「自由」を見いだしたのか・・と、直感的に思っていた。それも、「あの」戦術サッカーのパルマで・・。

 サッカーとは、結局はそういうものである。どういうものかって・・? 要は、グラウンド上での選手たちのプレー姿勢によって、ゲーム戦術の「機能の仕方」が変容していくことだってあり得るということだ。まず守備からゲームに入り、攻守にわたって、常に「自分主体で仕事を探す」という積極プレーをくり返していれば、中田クラスの才能だったら、中盤の底が基調だとしても、徐々に、彼をコアにしたゲームになっていくことだって十分に考えられるのである。そして、中田の「自由度」が高まる。それに応じてゲーム戦術もポジティブに変容していく。こうなったらもうチームの首脳陣は黙るしかない。中田は、そのメカニズムを十分に理解し、実践し、そして「自由」を勝ち取ったということなのだろう。

 トップ下は、チームのなかでもっとも大きな「自由度」が保証されるポジション。それでも、戦術的な(ロジックに計画された)イメージにこだわり過ぎることで守備がおろそかになったら、自身のプレーが矮小に縮こまってしまう。そのことは、全てのポジションに言える。戦術サッカーへの忠実さが、チームの「自由なダイナミズム」を減退させる閉塞したネガティブサイクル。イタリアサッカーが抱えている「隠された病根」は、そこにあるのかもしれない。

 前回のコラムで、もし中田が、中盤の底としてプレーすることの魅力を「自ら」見いだせたら、確実に本物のボランチにまで成長できる・・、そして、そのレベルまでいけば、もうどんなポジションでも最高のパフォーマンスを発揮できるようになる・・と書いた。現代サッカーが待望して止まない、高質のオールラウンドプレーヤー。彼は、それを体現できるだけのキャパシティーを備えている。

 パルマでの中田は、中盤の底というポジションを基点に、首脳陣が黙らざるを得なくなるくらいの「実効」を積みかねることで、そのポジションを、限りなく自由度の高いものにまで昇華させることにチャレンジしているのかもしれない。それこそ、創造的な(戦術)破壊ではないか。

 ポーランド戦で魅せた中田英寿のスーパーパフォーマンスについては、もう語るまでもないだろう。そのなかでもっとも惹かれたのは、「タテのポジションチェンジの演出家」という側面だった。

 そのとき、ボールをもった中田英寿は、「行け!」と、波戸の前に広がるスペースへタテパスを送り込んだ。そして、波戸のサポートポジションまで一度は押し上げ、波戸がそのまま勝負すると判断した次の瞬間には、波戸のプレーゾーンに残っていたポーランド選手のマークへ、スッとポジションを下げてしまう。波戸とのタテのポジションチェンジ。

 ボクの目は、そこからの中田のプレーに釘付けになった。勝負を挑んだ波戸だったが、結局は相手にボールを奪い返されてしまう。その瞬間、中田が、ポーランド選手への間合いを詰めた。そして今度は、実際にパスが出された別の相手への爆発アタックでボールを奪い返してしまったのだ。「パスを出させる」クレバーなポジショニング。目を奪われた。

 チームメイトから絶対的な信頼を集める中田英寿。そのベースは、才能あふれる攻撃プレーばかりではない。いや、むしろそれよりも、献身的なディフェンスや中盤での「穴埋め」といった、ダイナミックなバランスプレーにあると思っている。前述したシーンは、その典型。それ以外にも、自らが下がることで、守備的ハーフの稲本や戸田を前線へ送り込んだり、小野と交代して左サイドに入ったりする。そこからの、逆サイドにいる市川へ向けた矢のように鋭いサイドチェンジパス。それがキッカケで追加ゴールが生まれた。

 シンプルプレーの天才。創造的イメージシンクロの演出家。そんな中田英寿に、もう一つの称号を送りたい。タテのポジションチェンジを演出する中盤リーダー。

 パルマでの苦境を糧に、物理的・精神的に、一皮も、二皮もむけようとしている中田英寿。攻守にわたって、周りに有無を言わせぬほどのクリエイティブパワーを秘めた、変幻自在のリスクチャレンジがよみがえった。解放された中田。さて、ワールドカップが見えてきた。(了)

 



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