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05_天皇杯準々決勝・・立派なサッカーを展開したフロンターレ・・もっと上のレベルへ!という視点では、まだまだ課題が見え隠れのレッズ・・(レッズ対フロンターレ、2-0)・・(2005年12月24日、土曜日)

「高さと強さのある守備ブロックをベースに、素早く仕掛けていけるチームを目指す・・ということです・・」。フロンターレ関塚監督が、私の、「今シーズンでのフロンターレ躍進のキーポイントは?」という質問に、そう簡潔に答えてくれました。まあ・・そういうことなんだろうけれどネ・・。とにかく、関塚監督の表現に内包されている、相手からボールを奪い返すという守備の目的を達成するための戦術イメージコンテンツや、素早い攻撃を仕掛けていくためのバックボーン(これもまた組織プレーイメージのシンクロコンテンツがキーポイント!?)などを掘り下げ、その深いメカニズムと取っ組み合いながら、なるべく簡潔な言葉で表現していくというミッションは、我々ジャーナリストが担わなければならないということです。

 それにしても、レッズのギド・ブッフヴァルト監督も言っていたように、フロンターレとの準々決勝は、高いテンションの剣が峰マッチになりました。まあたしかに、レベルの高い緊張感は前半だけだったけれど、勝負に徹したゲームコンテンツは、その視座で観たら、たしかに見応えはありました。しっかりとした守備ブロックをベースに、素早く攻め上がっていく両チーム。フロンターレでは、仕掛けの中心であるマルクスとフッキにボールがわたったらチャンスの雰囲気が高揚するし、対するレッズでは、ポンテや山田が良いカタチでボールを持ち、両サイド(アレックスと岡野)と長谷部が、その仕掛けの流れにうまいタイミングで参加できたときにチャンス芽が出てくる・・ってなところ。

 まだ人数的なハンディキャップが生まれていなかった(全体的には互角の展開だった)前半では、チャンスの量と質で、わずかにレッズが上回っていたけれど、人とボールを活発に動かすことで相手守備のウラスペースを突いていくという組織的な(魅力的な)崩しでは、両チームとも、まったく存在感を発揮できていませんでした。「個の勝負」に頼り切った仕掛けを繰り返す両チームってな体たらくだったのですよ。まあ、ギドが言うように、典型的な「カップゲーム・コンテンツ」だったということですが、そのなかでも、レッズの方が「チャンスの量と質」でフロンターレを上回っていたのは、ポンテ、山田、アレックス、長谷部など「個のチカラの量と質」で少しだけ優っていたからに他なりません。

 それでも、(前半44分に)フロンターレの森が退場になり数的優位な状況で迎えた後半でも、フロンターレ守備ブロックのウラに広がる決定的スペースを突いていくような組織的仕掛けを繰り出していけなかったレッズの攻撃には大いに不満でしたね。要は、最終勝負ゾーンで、しっかりと人数をかけた仕掛けを繰り出していけなかったということです。だから、前半同様に「個の勝負」がベースになった単発の仕掛けになってしまっていた・・。典型的なカップゲームの展開だった!? まあ、そういうことなんだろうけれど、ギドも、「たしかに、(相手が一人退場になって)数的に優位な状況だったにもかかわらず、仕掛け段階でうまく人数を掛けていけなかった・・」と素直な論評を口にしていましたよ。

 とにかく何度、レッズが攻撃している状態で、その後方で生じた「1対4」とか「1対3」いうアンバランスな状況を目撃したことか(相手フォワード1人に対し、レッズ守備が4人とか3人!)。それは、ムダ以外の何ものでもありません。また、セットプレーから先制ゴールを決めた後は、確実に勝ち切ること「だけ」をターゲットにしたポゼッションサッカーを展開してくれちゃいましたしね。まあこれについても、ギドは、「観客は、最後まで攻めつづける攻撃サッカーを観たいのはよく分かるけれど・・(言外に・・これはカップゲームだから・・)」と歯切れは悪かったよね。こちらは、一発勝負だからこそ、人数をかけて押し込む場面と、攻から守への素早い切り替え(≒高い守備意識)を絶対的なベースにした「その後の実効ディフェンス」を両立させるようなメリハリの効いたサッカーを期待しているわけだからネ。それこそが、攻守にわたって常にリスクチャレンジを志向するネクスト・ディメンション・サッカーというわけです。

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 話は変わるけれど、記者会見で、マリッチについて面白い質問がありましたよ。その質問の骨子は、「マリッチ選手は多くのゴールを決めているように思うが、(プレーコンテンツのレベルの割には!?)どうして彼は、そんなに多くのゴールを奪えるのだろう?」といったものだと覚えているのですが、それに対してギドは、例によって真摯に答えていました。「マリッチは、典型的なボックスプレイヤー(ペナルティーエリア内でチカラを発揮する選手)なんだ・・優れたゴールゲッターだということだよ・・ドイツのブンデスリーガでも、80試合で40ゴールも決めているし、そのクオリティーは折り紙付きなんだ・・とにかく、どんな状況でもシュートへ持っていける感覚が素晴らしい・・もちろんそれには相手マークからフリーになる感覚も含まれているというわけだ・・たしかにファンタジスタじゃないけれどネ・・」。

 そんなギドの発言を聞きながら、日本サッカーの父として敬愛されるドイツ人プロコーチ、デットマール・クラーマーさんの言葉を思い出していましたよ。「日本におけるドイツ年2005/2006」の一環として、2005年11月29日まで、日独サッカー交流展が新宿のパークタワーで開催されたのですが、そのなかで行われたシンポジウムにメインゲストとして招待されたクラーマーさんが、数百人の聴衆を前にした壇上で、ゴールゲッターのシークレットポイントについて、こんなことを話してくれたのです。

 攻撃での全ての努力はゴールによってのみ報われる・・チャンスをしっかりとゴールに結びつけることが重要・・それは、日本でも折に触れて取りざたされるテーマである決定力のこと・・。そこまで話したクラーマーさんが、元日本サッカー協会会長、長沼健さんと、ボンバー(爆撃機)という愛称で知られたドイツが誇るゴールゲッター、ゲルト・ミュラーの言葉を紹介したのです。「動き過ぎないこと・・周りが動いているときは止まり、周りが止まっているときに動くんだ・・」。フム、含蓄があるじゃありませんか。この発言について、私の仕事仲間で、数理統計とマーケティングのエキスパートが、「湯浅さん、それは、相対的に動いている状態を作り出せということですよネ・・」と分析してくれました。至言だ! まさに、その通り。

 この試合で先制ゴールを決めた場面でも、ヘディングシュートを決めたマリッチは、ニアポストへ動く両チームの選手たちを尻目に、逆のファーポストゾーンへ動いていたのですよ。だからこそフリーでヘディングを決められた。そのシーンでのマリッチは、「効果的な相対ムーブ」という究極の実効フリーランニングを魅せてくれたということです。やはりサッカーでは、ボールがないところで勝負は決まる・・のです。




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