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05_ヨーロッパの日本人・・今週は、稲本潤一と中村俊輔・・二人とも、自らの特徴を存分に発揮するグッドプレーでした・・(2005年12月5日、月曜日)

さてまず稲本から。前節のミドルスブラ戦も観たのですが、うまく時間が取れなかったため、コラムアップはかないませんでした。本当は、その優れたバランサーぶりを中心にレポートしたくて仕方なかったのですが・・。ということで、今節の古巣(フルアム)との対戦が本当に楽しみでした。そして魅せてくれた、期待通りの「目立たないけれど、最高レベルの価値が内包された自己主張プレー」。良かったですよ、本当に。

 前半では、何度もインターセプトチャンスがあったけれど、最初に美しく決まったのが、12分のマールブランクへの横パスカットでした。そして、ボールを奪いにくるマールブランクをいなしてスッと左サイドへ持ち替え、そのまま最前線へのピシッというロングパスを決めてしまうのです(ちょっとカヌーが勝負を逡巡したことでチャンスがつぶれてしまったけれど・・)。基本的には、守備ブロックと攻撃ブロックを「リンク」する役割を担う稲本。前気味リベロ(ボランチ)と呼ぶにふさわしい実効あるプレーコンテンツです。下がり過ぎず(たぶん背後から、ポジショニング指示が飛んでいた!?)、またボールを追い過ぎず。それでいて、ボール奪取勝負には不思議と「頻度高く」効果的に絡みつづける稲本。要は、効果的に仕事を探しつづけられているということです。そして、ボール奪取勝負シーンでは、追い込んでの素晴らしいスライディングタックルや、素早クレバーな動作のスクリーニングなど、相変わらずの高いポテンシャルを魅せつける。それにしても、後半31分に魅せた、決定的ピンチでの爆発スライディングタックルは見事の一言だったよね。いや、美しいといった方が当たっている。全力で寄せ、最後の瞬間に見事にボールをはじいたのですからね。その後に相手の足が引っかかったから、まったくファールじゃない。いや、ホントに見事でした。また、そんなボール絡みだけじゃなく、ボールがないところでの「勝負マーク」にも鋭い判断力がうかがえる。チームメイトたちからも、リンクマンとして十分な信頼を勝ち取れるはずです。

 また、中盤の底のパートナー、ウォールワークとのコンビで、メリハリの効いた攻撃参加も魅せます。自分がボールを奪い返した状況では「もちろん」。またそれ以外でも、良いカタチでボールを持ったら、後ろ髪を引かれないオーバーラップを仕掛けていったり、攻撃的な展開パスを供給したり。まあ、「もっと」吹っ切れることが今後の課題ということでしょうかね。もちろん、ここ数週間で彼が魅せつづけている「前気味リベロの基本タスク」を維持しながらのオーバーラップという発想をベースにしてですよ。

 攻守にわたって素晴らしくダイナミックなプレーを披露する稲本。以前のような、アタマの中が真っ白になったような「状況ウォッチャー」シーンは本当に少なくなったと感じます。要は、常に動きながらイメージを描写できるようなったということです。または、次、その次の「状況変化」がよく見えるようになった・・なんていう表現もできるかもしれません。ビデオを活用したイメージトレーニングが実を結んでいる!? たぶんネ・・。そこでは、漫然とビデオに映し出されるシーンを追うのではなく、常に最善のソリューション(解決プレー)を探しつづけるなど、瞬間的なイメージ描写をトレーニングするのですよ。その繰り返しによって、実際のグラウンド上でも、効果的なアクションがオートマチックに出てくるようになるわけです。もちろん「それ」は、型にはまったステレオタイプのプレーとは根本的に次元の違うモノです。

 とにかく稲本は、このままのペースでパフォーマンスをアップさせつづけなければいけません。世界へのアピールというミッションをもってW杯に臨む日本代表において、前気味リベロを務めるポテンシャルでは、「今の」稲本の右に出る者はいないと思っている湯浅なのですよ。あっと・・前気味リベロとは、基本的に、フォーバックを前提にしたタスクイメージのことです。もちろん、選手たちの守備意識と守備パフォーマンスが世界レベルだったら、スリーバックでもフォーバックでも、最高のバランスを基盤にした効果的ディフェンスを演出できるだろうけれど、日本はまだまだ。だからこそフォーバック・・だからこそ前気味リベロなんですよ。このことについては、次号の「サッカー批評」で詳しく書いたから、そちらも参照してください。

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 さて、中村俊輔。前節は病気欠場ということで、このアバディーン戦は復帰ゲームということになりました。まあ、だから最初の時間帯は、過度に様子見という姿勢になるのも仕方ないか・・。それでも前半5分には、彼にしかできないタッチの(ダイレクトパス交換からの)魔法のタテパスを出して決定的チャンスを演出してしまうのですよ。いいね。とにかく観ていて楽しいことこの上ありません。もちろん、以前のような、決定的シーンになりそうな場面にしか動かないという怠惰なプレー姿勢だったら、いくら局面的に素晴らしいファンタジーを演出したとしても、観ている方も彼自身も、決して本当の意味で楽しめないだろうけれどネ。

 楽しい・・という表現を使ったけれど、そう実感するのは、淡々としたゲーム展開だからこそ、彼が演出する効果的な「変化」が目立ちに目立つということなんだろうね。要は、中村が良いカタチでボールを持ったら、相手の逆モーションを取りながらボールを危険なスペースへ運んでしまうとか、最終ラインのウラスペースへの決定的パスを決めちゃうとか(もちろん、そのパスに期待してチームメイトもスペースへ走り抜けている!)、はたまた自分がコアになった素早いコンビネーションを決めちゃうとか(ダイレクトでワンのパスを出し、全力のパス&ムーブでワンツーを決めたり!)、それまでのプレーリズムとは異質で魅力的な仕掛けコンテンツが出てくるということです。まあその意味では、チームメイトのマクギーディもまた、魅力的な変化の演出家といえそうです。素晴らしいスピードとドリブル突破能力。それを支える彼のボールコントロールも、ト〜ン、トット〜ンといった、例の「1.5リズム」なのです。それもまた、ぎこちないプレーリズムが主流のスコットランドでは異質じゃありませんか。

 この「1.5リズム」のボールコントロールですが、たぶんそれは、いま話題の「二軸動作」に準じているんだろうネ。例えば、右足でボールを「カット」し、間髪を入れずに(ムダな重心移動をすることなく)同じ動作の流れのなかで右足でボールを「押し出す」・・なんていうプレー。ジダンやロナウジーニョが、片方の足のインサイドでボールをコントロールし「ながら」、そのままの流れのなかで逆の足でボールを「押し出す」ようなプレー。言葉で表現するのは難しいけれど、中村俊輔の流れるようなボールコントロールリズムもまた「それ」なんだろうね。さて・・。

 それにしても、セルティックの同点&勝ち越し決勝ゴールをお膳立てした中村のパス能力は、本当に大したもんだ。同点ゴールの場面は、まさにピンポイントというクロス。そして勝ち越しゴールの場面では、フィーリングを込めた緩いグラウンダーのタテパス(最前線のハートソンの足許にピタリと合うパス!)。ほれぼれさせられるけれど、そんなプレーのバックボーンは、やはりイメージ描写能力なんだろうね。自分がボールを持つ前から、チームメイトのボールなしの動きが「見えている」。まあもちろん、チームメイトたちも、彼のイメージ描写能力を信頼しているからこそ動くわけだけれどネ。だからこそサッカーは、攻守にわたる有機的なプレー連鎖(イメージ連鎖)の集合体ということになるわけです。かしこ・・




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