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05_入れ替え戦・・素晴らしいサッカーで順当に昇格を果たしたヴァンフォーレ甲府・・それにしても大木監督はナイスパーソナリティーだね・・(2005年12月10日、土曜日)

「エンターテイメントです・・」「えっ?・・エンタメ?・・」「それは、観客の方々がもう一度観たいと思うようなサッカー・・」「フムフム、なるほど・・」

 抜群のダイナミックサッカーで、内容的にも順当に「J1」入りを決めたヴァンフォーレ甲府。試合後の記者会見で、大木監督に、こんな質問をしてみました。「天皇杯でのヴァンフォーレ甲府はジェフに負けたわけですが、試合後のグラウンド上で、オシムさんと握手したとき、大木さんは彼に、オシムさんのサッカーを目標にしてここまでやってきたと言われたそうですよね・・そこで言われた目標という言葉に含まれる具体的な内容をキーワードで表現してくれませんか?」。それに対して大木さんが、冒頭のキーワードをくれたというわけです。プロサッカーは、観る方にとっても価値のあるものでなければならない・・お客さんに、もう一度観たいと思わせられなかったらプロの価値はない・・ナルホド・・。でもその後に、「ちょっと分かり難い・・」と言ったら、「プレイすることです・・」なんていう、もっと分からない言葉が返ってきた。首をかしげたら、「我々を訪れていただければ意味は分かります・・」ということでした。ナルホド・・。まあ、観客に、もう一度観たいと思わせるような、もっと言えば、人々に感動を与えられるようなリスクチャレンジにあふれたサッカーこそが、良い(魅力と勝負強さを兼ね備えた!?)サッカーだということだろうね。そう、オシムさんが率いるジェフのようにネ。

 ヴァンフォーレ甲府は、見事な、本当に見事なサッカーで「J1」への昇格を決めました。何が見事だったかって? まず何といっても、全員が、攻守にわたって積極的に仕事を探しつづけ、そこで沸き出してくる勝負イメージを、強固な意志をもって全力でグラウンド上に投影しようとしていた・・なんていうことですかね。特に、攻守にわたる「ボールがないところでのプレーコンテンツ」が素晴らしかった。彼らは、シュートを打つという攻撃の目標と、相手からボールを奪い返すという守備の目的を達成するために、例外なく全員が、常にリスクチャレンジ勝負を仕掛けつづけていたのです。ちょっと概念的な表現になってしまったけれど、まあ、そんなところだと思います。またそれが、大木さんのいう「プレイする・・」ということにつながるんだろうね。とにかく、「あの」ジェフもタジタジだったヴァンフォーレ甲府のサッカーは、まさに感動ものでした。これだったら、たしかにもう一度観てみたくなるよね。

 概念的な表現じゃ面白くないだろうから、もう少し具体的にいきましょうか。ヴァンフォーレ甲府は、フォーバック。その前に、この試合では28番の奈須が、基本的には守備専業の「前気味リベロ(フォア・リベロ)」としてポジショニングする・・その前に、倉貫と藤田がセンターハーフのコンビを組む・・そして両サイドハーフに、石原と長谷川が入り、バレーがワントップで最前線に張る・・ってな基本的プレーイメージでしょう。それでもヴァンフォーレの場合は、その基本的なポジション(タスク)が、とにかく流動的です。縦横無尽のポジションチェンジ・・それでも、次の守備では、決してバランスの崩れることがない・・ってな具合。要は、選手たち一人ひとりの「守備意識」がホンモノのレベルにあるということです。守備専業のはずの奈須が、チャンスを見計らって最前線を追い越す勢いで押し上げていく・・代わりに倉貫が守備的ハーフの位置に戻ってバランスを取る・・次の攻撃シーンでは、藤田が残る・・ってな具合。そして、レイソルにボールを奪われた瞬間から、守備の起点となる爆発的なチェイス&チェックをベースに、インターセプト狙い、次のパスレシーブでのアタック狙い、ボールがないところでの強固なマーキング、相手のボールの動きの停滞に狙いを定めた「協力プレスアクション」等々、組織的なディフェンスプレーが、美しく有機的に連鎖しつづけるのです。まあそれには、レイソルの攻撃が、あまりにも停滞してしまっていたということもありますがネ。もちろん、ヴァンフォーレ甲府のダイナミック守備に「停滞させられた」という表現もできるわけだけれどネ。

 それにしてもヴァンフォーレの攻撃はダイナミックで魅力的だよね。たしかに局面では、個人的なチカラで見劣りする場面も多々あるけれど、全員が繰り出しつづける運動の量と質でレイソルを完璧に凌駕するヴァンフォーレ甲府ってな具合なのです。そして、グラウンドの至る所で「数的に優位な状況」を演出してしまう。それこそが、優れたサッカーの目指すところなのです。これだったら、常に、優れた組織プレーを展開するための人数が揃っているのも道理。だから、ワンツーやコンビネーションなどの組織プレーによる仕掛けが面白いように決まりつづけるというわけです。決して彼らは、守ってカウンターなんていうチーム戦術的な発想ではありません。ホンモノの守備意識をベースに、あくまでも攻撃的なディフェンスで仕掛けつづけ、その後の攻撃でも、チャンスがある者は誰でも最終勝負シーンへ絡んでいくという、ダイナミックな攻撃サッカーを展開しているのですよ。エンタメね〜・・まあ確かに・・。

 大木さんだけれど、「いつ昇格を確信したか・・?」という質問に、「ハーフタイムには・・」なんていう本音をポロリ。まあ、当然の成り行き判断です。とはいっても、そんな本音とは関係なく、ハーフタイムに、「とにかく三点目を取りに行け!」という檄を飛ばしたそうな。そして、「一点返されたときにチクショーと思った」なんていう活きた表現につづけて、「でも、その直後にまた追加ゴールを奪ってくれたから・・(ホッとした!?)」だってさ。なかなかのパーソナリティーじゃありませんか。決して引いて守るのではなく、とにかく攻守にわたって前へ前へと勝負を仕掛けつづける積極サッカー。そうか・・それではお言葉に甘えて、今度はヴァンフォーレ甲府を訪ね、彼が言う「プレイ」の本質ファクターをご披露願うことにしましょう。

 「J」によって、日本サッカーのレベルが全体的に「底上げ」したことを証明するような入れ替え戦でした。全体的な底上げ傾向(J1とJ2の、全体的なレベル差が縮まった!)については、以前から顕著になってきていました。要は個人的な能力が底上げしたことで(ある程度の能力を備えた選手たちの数が増え続けていることで!)、チームの総合力の差が大きく縮まったということです。それが、日本サッカーを活性化し、そのポジティブな変化を助長する。変化こそ状態(諸行無常)。それによる「ポジティブな刺激」が、またまた日本サッカーを活性化し、その体質を改善するという善循環が回りつづけている。この試合を観ながら、そんなポジティブな流れを体感していた湯浅でした。さてこれからはトヨタカップと天皇杯。楽しみです。




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