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2006_オシム日本代表(その5)・・またまたオシム日本代表に対する期待が膨らんでいくじゃありませんか・・(サウジアラビア対日本、1-0)・・(2006年9月4日、月曜日)

相手は、アジア地域では実力トップクラスのサウジアラビア。それもアウェーゲーム。そして試合会場は(サウジ側の意図が見え隠れする!?)蒸し暑いジッダ。

 そんな厳しいゲーム状況・環境のなか、オシム日本代表は素晴らしく立派にプレーし、サウジよりも明らかに質の高いサッカーを魅せてくれました。だから、内容が結果につながらなかったことは本当に残念。こんなに悔しい思いをしたのは久しぶりかもしれないね。

 何せ、相手のサウジが展開したサッカーは、局面での「個人のブツ切り勝負プレー」をツギハギしていくという低級なもの(まあ例によって守備は強かったけれど)。もちろん個の能力は高いレベルにあるけれど、組織プレーの戦術イメージという視点では、まさに典型的な中東レベルというものでした。だから、彼らの次の仕掛け意図なんて明確に読めてしまう。まあ基本的にサウジは、しっかりと守って(個のチカラをベースに)素早いカウンターを仕掛けていくという戦い方を基盤にしているチームということです。だからこそ、攻守にわたって「グループ戦術的」に凌駕した日本が、相手のラッキーゴールで惜敗してしまったことが残念で仕方なかった。

 まあ、とはいっても、前半立ち上がり15分のサッカーは、あまり良い流れではなかったよね。たしかに、ウラのスペースを決定的なカタチで突かれたわけじゃないし、しっかりとした意図的なボール奪取もうまく機能していたけれど、(相手のプレーに対する積極的な読みや自分自身のディフェンスアクションが遅れ気味だったことで)無駄なファールが多かったし、(思い切りが悪かったからこその!)ミスパスも多かった。でもその後は、どんどんとサッカー内容が高揚していったことは皆さんもご覧になった通りです。

 その「心理的なキッカケ」になったのが、前半19分の、押し上げた阿部勇樹によるチャンスメイク。田中達也とのワンツーで勝負ゾーンまで進出し、最後は、パス&ムーブで突進した田中達也へのラストスルーパスが決まりそうになった。やはり「タテのポジションチェンジ」が機能したら、確実にチャンスになるし、それによって、チーム内のダイナミズムがグンとアップする。

 その後も、前半29分には、巻とアレックスのコンビで左サイドの崩し、最後はアレックスからのトラバースパスが田中に合ったり、前半33分には、右サイドからの田中達也のドリブル勝負が功を奏し、最後は加地からのファウンデーションパスを遠藤がダイレクトでシュートしたり、前半42分には、田中とアレックスのコンビから田中が抜け出して決定的シュートを放ったりなど、とにかくチャンスの量と質では、サウジを完全に凌駕していた日本代表だったのです。

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 ところで、この試合での先発メンバーと、彼らの基本的なポジション(タスク)。それは、先日のイエメン戦とまったく同じでした。それでも、相手によって(サウジが押し上げてきたこともあって)そのプレー内容がガラッと変わる。アレックスにしても、イエメン戦のときのように、ボールがないところで「思考と行動がフリーズ」しているシーンは、あまり目立ちませんでした。もちろん「比較的」という表現にとどまるけれどね。

 とにかくこの試合では、中盤に守備意識(イメージ)の質が高い選手を配することの効果が徐々に見えはじめてきたと思っている湯浅なのです。鈴木啓太、アレックス、阿部勇樹、遠藤保仁。基本的には守備的ハーフが本職の彼らを中盤カルテットとして使いつづけるところに、オシムさんの明確な意志や分析コンテンツ(下記)を感じるのですよ。

 (日本ではチヤホヤされる)ボール扱いがちょっと上手い選手たち・・でも、そのほとんどが「単なるボールプレイヤー」にしか過ぎない(マラドーナではない!)・・逆に、守備をやらなかったり、ボールがないところでの運動の量と質が悪いために、組織プレーにとって阻害要因となるケースの方が多い・・それだったら、「着実ベース」のボールコントロールによってしっかりとトラップしパスが出来る「守備意識が高い」選手を使う方が確実に(組織プレーの)実効レベルは高揚するはず・・この四人とも、場合によっては、しっかりとしたチャンスメイクも出来るし、タメやドリブル勝負など、個人ブレーでも高い「実効レベル」を魅せる・・などなど。

 オシムさんが志向するダイナミックな「トータルサッカー」では、ディフェンスの「量と質」こそが絶対的なキーポイントになるということなのです。まあ・・ね、私はその視点でも、是非「山瀬功治」にも、もっとチャンスを与えて欲しいと思っているのですけれどね・・。

 要は、「組織と個」に関するバランス感覚。オシムさんもまた、日本人の場合は、「組織プレー」主体でアプローチしていく方がいいと確信しているということです。以前に何度か紹介した発想。「個人勝負を仕掛けていくための組織プレー」という発想と、「組織プレーをハイレベルに機能させるための個人プレー」という発想の相克・・というわけです。とはいっても、もちろん「個の才能」を無視する訳じゃない。日本代表の「目標」にとって有意義な才能は、もちろん積極的に活用していくはずです。

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 ちょっとゲーム展開にもどりましょう。後半のオシムさんですが、阿部を下げてスリーバック気味にし、両サイド(駒野と加地)をより積極的に前へ送り出そうという意志を前面に押し出してきました。そして両サイドも、その期待に応える。特に加地の押し上げは、なかなかの効果レベルにあったと思います。またセットプレーでも何度もチャンスを演出しつづける日本代表。これは・・、なんて思っていたタイミングで、あの偶発ゴールを入れられてしまったというわけです(まあ、その前段階で相手にフリーシュートを打たれたのはいただけなかったけれど・・マーキングの課題!)。フ〜〜。

 ただその後も攻めつづけた日本代表は、何度もチャンスを演出できていた。そこで魅せた抜群のペースアップエネルギーと吹っ切れたパワープレーコンテンツは、確実に次(自信と確信)につながるはずです。

 もちろん細かな部分では様々な課題が山積みだけれど、このゲームで日本代表が提示したサッカーコンテンツによって、オシム日本代表が志向する「サッカーのベクトル」が正しい方向にあることが、より深く認知されはじめに違いないと確信している湯浅なのです。

 攻守にわたる運動(思考)の量と質・・攻守にわたる、ボールがないところでのプレーの量と質・・それこそが、攻守にわたって数的に優位な状況を演出しつづけるための絶対的ベース!・・その背景にある、忠実でダイナミックな自分主体の守備(高い守備意識)・・リスクチャレンジこそが発展のための唯一の糧・・などなど。

 とにかく、オシム日本代表が、日本(サッカー界)に、様々な意味を内包する「希望」を与えてくれていることだけは確かな事実だと思っている湯浅なのです。
 



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