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2006__新生ブラジル代表・・さすがにドゥンガ、組織と個を上手くバランスさせるチーム作りじゃありませんか・・(2006年9月12日、火曜日)

さて、ドゥンガ・ブラジル代表の、具体的なチーム作り(チーム戦術的)イメージの輪郭が見えはじめてきました。

 これまでは、「個の勝負を仕掛けていくための組織プレー」というベクトル上にあったブラジル代表が、ドゥンガの手に掛かり、明確に「組織プレーをハイレベルに機能させるための個人プレー」という方向へとハンドルが切られたのです。

 まあ、ブラジルだから、「個人勝負を仕掛けていくための組織プレー」と「組織プレーをハイレベルに機能させるための個人プレー」という方向性を上手くバランスさせようとしているということでしょう。そのために、まず「組織プレー方向」へとチームをリードしているということです。とにかく、アルゼンチン戦、ウェールズ戦でのブラジル代表は、素晴らしい組織プレーをベースに、そのなかに上手く個人プレーをミックスしていくというハイレベルなサッカーで観る者を魅了しつづけましたからね。

 ところで、昨年度の(国際サッカー歴史統計連盟=IFFHSが選出する)世界最優秀サッカー監督に選出された前ブラジル代表監督のカルロス・アウベルト・パレイラさん(現、南アフリカ代表チーム監督)。今回の2006ドイツワールドカップでは、残念ながらチカラを出し切れず、準々決勝フランス戦で完敗を喫してしまった。

 そのパレイラさんは、1994年のアメリカワールドカップにおいて、組織プレーと個人プレーが上手くバランスした、本当にハイレベルなサッカーで見事に世界一に輝きました。ただ、ブラジル国内からは、「あんな(ロジック優先の!?)サッカーなんてブラジルじゃない!」と不満の方が先に立っていた。

 まあそれは、優秀な個の才能はまだまだたくさんいたのに、彼らを使わずに、汗かきタイプの組織プレイヤーの方を多く使ったということに対する不満だったんだろうね。もちろんパレイラさんは、様々な意味を内包する「バランスの取れたチーム」を作るという視点で、個人プレー要素を組み込める限界が明確に見えていたということなんだけれどネ。とにかく、当時のパレイラさんのチームマネージメントは、ヨーロッパでは非常に高い評価を受けていましたよ。私も拝聴したのですが、UEFA主催コーチ会議での講演も素晴らしい内容だったしね。

 それに対して、2002日韓ワールドカップでブラジルを率いたルイス・フェリペ・スコラーリ(現ポルトガル代表監督)は、「3R」とか呼ばれた、「個」を前面に押し出す攻撃でワールドカップを制し、ヒーローになる。そのときブラジル代表が展開していたサッカーは、決して誉められたものじゃなかったですよ。世界での評価も低かったしね。ただブラジル国内だけは違ったようです。当時のコラムを引っ張り出して読んだけれど、やはり、そんなネガティブニュアンスで書かれたものが多かった。

 とにかく、2002年のブラジル代表は、クレベウソンという汗かきを見い出せなかったら(また決勝トーナメント一回戦、対ベルギーでの幸運がなかったら・・etc.)、優勝など望めるようなチームじゃなかったと思うのです。それでも勝った。そしてスコラーリはヒーローになった。

 やはりパレイラさんも、自国で、歴史に刻み込まれるヒーローになりたかったのでしょうね。だから、本大会の前までは組織と個がうまくバランスしていたのに、結局最後は、個の才能を前面に押し出すような攻撃陣の構成にした。そしてそのことで、(全体的な運動量も含む)組織プレーの機能性が損なわれてしまった。だからこそ、準々決勝で当たったフランスも守りやすかったし、逆にブラジルは、中盤の組み立て段階で上手くボールを動かすことが出来ずに急激に足が止まりはじめてしまうことになる・・。

 そして、パレイラさんが辞任した後を受けてドゥンガが登場してくるというわけです。彼のチーム作りコンセプトは、たぶん、世代交代、高い守備意識、組織プレーが基盤、そしてそれらをベースにした上での(ブラジル本来の!)個の才能の組み込み・・ってなところなんじゃないだろうか。あれっ? それって、どこかの国にも当てはまる!? そう、オシム日本代表。

 ドゥンガは、彼が率いるブラジル代表チームのサッカーをアピールしながら、世界で活躍する自国の才能たちに対して強烈なメッセージを発しつづけていると思います。(再び!?)セレソンのユニフォームにウデを通すための条件・・。そのプロセスもまた、まさにオシムさんに通じるモノがあるじゃありませんか。

 人とボールがよく動く組織プレーをベースにしなければ、いくら個人的な才能レベルが高くても、現代サッカーでは(内容的なアピールも含めた)結果を残すことはできない・・その「組織の流れ」を阻害する個の才能は断固として拒否する・・もちろん、「例外」はあるけれど・・要は、いまは「例外」を選別し、その人数を特定するプロセスなのかも・・などなど。

 「才能」という言葉が内包する、様々に錯綜した意味とメカニズム。さて・・。議論は尽きませんが、とにかく現代サッカーでは、高い守備意識を有し、実際に全力で汗かきプレーにも精を出せるだけではなく、攻撃でも、自分の意志を基盤に、ボールのないところでのアクションの量と質をある水準以上に保てるような「才能」が求められているのは確かなことです。逆に言えば、優れた才能たちをより多く走らせることが、コーチにとっての最重要ミッションの一つになっているとも言える。もちろん、その「才能」がマラドーナクラスだったらハナシは別だけれどネ・・。

 とにかく、(最終勝負を仕掛けていく戦術的手段として)スルーパスやクロスなどの組織プレーと、勝負ドリブルや決定的なタメなどの個人勝負プレーの両方をうまく組み合わせることが出来るチームの可能性は限りない広がりを魅せるということです。

 まあ例によって、コーチの「バランス感覚」がもっとも重要だということです。組織プレーメカニズムのなかに、どのくらい「才能」を組み込んでいけるのか・・。当然そのなかには、天賦の才に恵まれた選手のパーソナリティーというニュアンスも含まれます。

 優れたコーチは、人間の弱さと闘うための強さだけではなく、柔軟な「バランス感覚」も備えているものなのです。それこそが「ストロング・ハンド」。さて・・。




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