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2006_CL・・なかなかの存在感を発揮した稲本潤一、そして中村俊輔・・(2006年11月2日、木曜日)

さて、久々の稲本潤一。楽しみにしていたのだけれど、彼もその期待に「ある程度は」応えてくれました。まあ、PSV2点目のシーンでは、足を滑らせた稲本が原因という不運な結果になってしまったし、チームも敗れて、ボルドーとともにグループリーグでの敗退が決まってしまったけれど・・。

 この試合でも稲本は、「常に」中盤の底にポジションを取りながら守備的ハーフとしての戦術的ファンクションに徹するという、「チーム戦術」を絶対的なベースにした汗かきプレーを魅せていました。ということで、ボールを奪い返した後も、シンプルなつなぎ以外は、仕掛けの流れに絡んで前線へ上がっていくというシーンは皆無。まあ、その代わりにディフェンスで存在感を発揮していたということです。

 その守備プレーだけれど、もっとも目立っていたのは、やはりインターセプトと相手トラップの瞬間を狙ったアタックでしたね。ボール奪取勝負に対する感覚では、素晴らしいモノを持っている稲本。局面での、ズバッという激音を発する爆発ボール奪取アタックでは、そのパワー&スピード、そして巧みなボール奪取テクニックで「世界」を彷彿させてくれます。

 もちろんそれだけではなく、ボールがないところで勝負のフリーランニングを決行する相手を逃さずに最後までマークしつづけたり、ボール奪取アタックへ急行した味方を協力プレスでバックアップしたり、はたまた、その味方の勝負アクションで空いた穴(スペース)を埋めるクレバーなポジショニング(効果的カバーリング)でも、なかなかの実効プレーを魅せてくれていたわけです。

 とはいっても、戦術プレーに徹しなければならないというチーム事情は分かるけれど(そこには、前半38分で最終ラインのトマシュが退場になってしまったという事情もあった!)、どうも、チーム戦術に「はまり」過ぎという印象も残るのですよ。

 要は、彼のプレーに、「制限や規制」のニオイが強く感じられたということです。それが、チーム戦術的な規制や制限なのか、自制なのか(はたまた、自信のなさが原因の吹っ切れない「安全志向プレー」の姿勢なのか)は分からないけれどネ。まあ実際は、ゲレツ監督からの強い指示なんだろうね。「オマエは上がらず、常に中盤でのバランシング(穴埋め)と攻撃の後方支援に徹するようように・・ウチの攻撃力を最大限に発揮させるための縁の下の力持ちなんだ・・チームでもっとも大事な役割なんだから・・」ってな具合。たしかに大事な約槍だし、稲本もそのタスクを効果的に果たしていた。それに、このPSV戦は絶対に負けられない勝負マッチだったしね。

 まあそんなふうに規制・制限された戦術タスクは、「いまのところは・・」というニュアンスで捉えたいよね。もっとパフォーマンスが上がり、自信や確信レベルがアップしてくれば、味方とポジションチェンジすることで、攻撃で「も」存在感を発揮しようという意志がより前面に押し出されるようになってくるだろうからね。まあそれでも、稲本へのチーム戦術的なタスクは、ガラタサライの根幹の一つだから、そうそうは変わらないだろうけれど。さて・・。

 とにかくこの試合では、守備だけではなく(部分的ではあったけれど・・)攻撃でも、稲本が秘める「個人的なキャパシティーの高さ」を再認識できたことは本当に良かったと思っている湯浅なのですよ。あとは、彼のプレーイメージが、矮小に「まとまってしまわない」ことを祈るだけ。まあ、日本代表に呼ばれたら、自然にマルチタスクをこなすようになるだろうけれどね。そう、『高い守備意識を絶対的なバックボーンとした』ポリヴァレント・・。

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 さて、中村俊輔。

 ゲーム戦術として、守備へのイメージを強化して臨んだセルティック。それでも、自殺点(前半10分)に、ベンフィカGKが放った一発ロングパスから、ヌーノ・ゴメシュに追加ゴールを奪われてしまって・・。その前半22分の追加ゴールシーンでは、セルティック選手のアタマにちょっと触ったボールがゴメシュの眼前スペースにピタリと転がってしまった!! セルティックにとっては、ゲーム戦術的な理想イメージとはまさに対極といったネガティブな試合展開になってしまったというわけです。

 立ち上がりから(ゲーム戦術をベースに)守備でも積極的にチャレンジする中村俊輔。ベンフィカ選手たちは、どちらかといったら「個での仕掛け」というイメージの方が強い。それに事前のスタディーで、中村はディフェンスにはそんなに強くない・・というイメージかあったに違いない。だから、中村俊輔と「正対」したときは、例外なくドリブル勝負を挑んでくるのですよ。フェイントを駆使した相手の揺さぶりに必死に食らいつく中村俊輔。そして、相手アクションがギリギリの勝負という段階に入ったときには、逆に中村が主導権を握り返すのです。冴えわたるボール奪取感覚・・。

 相手の切り返しを読んでスッと出した足でボールを「スリ取って」しまったり、スッとアタックを仕掛けるように見せ掛け、カットしようとした相手のボールを、これまたピンッという足先の鋭いアクションで奪い取ってしまう。テクニシャンの中村には、相手のフェイント&カット動作が、先の先まで読めているっちゅうことなんでしょうね。まあ、スピードで抜け出されたら置き去りにされてしまうけれどネ。

 中村俊輔の守備アクションは、そんな1対1だけじゃなく、危険な状況で、ボールがないところで仕掛けてくる(決定的なパスレシーブをイメージした)相手に対する(最後まで付く)忠実マークもいいし、仲間のチェイス&チェックに合わせたインターセプト狙いやアタックアクションなども忠実でしたよ。

 でも、そんな実効ディフェンスをあざ笑うかのように、ベンフィカが「偶発ファクターの方が強い」二つのゴールを奪ってしまうのです。

 その後は、ちょっと盛り返したセルティックだったけれど、ベンフィカの忠実でダイナミックな守備と危険なカウンターで、最後の最後まで自分たちのペースでサッカーを表現することが叶わなかった。まあ、この試合に限ってはチカラ負けだったということです。

 中村俊輔だけれど、ベンフィカの守備プレッシャーが強かったことで、魔法は部分的にしか発揮できなかった。もちろん魔法とはいっても、そのほとんどは、味方との組織コンビネーションがベースだからね。その味方のボールなしのアクションを、うまく機能させることができなかった(ベンフィカの守備が良かった)ということです。

 中村の「部分的な魔法」だけれど、試合最後の時間帯でのフリーキックなど、もちろん、それはそれで十分な存在感は発揮していましたよ。それでも、その魔法が効果的な仕掛けの流れを演出しないのですよ。次、その次のボールなしのアクションが有機的に連鎖しないセルティックといった具合でした。

 さてこれで、次のホームでのマンU戦が非常に重要な意味をもってくる(11月21日)。世界トップレベルの「肉を切らせて骨を断つ」という勝負がつづくわけだけれど、それこそが願ってもない学習機会。中村俊輔には、そんな「環境」をどん欲に活用するイメージでギリギリ勝負マッチに臨んでもらいたいと思います。

 



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