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- 06_ヨーロッパの日本人・・さて、高原直泰と中田英寿・・(2006年1月29日、日曜日)
- この二週間、ビジネスだけではなく、想像力と感性を進化・発展させるために、いろいろな情報や刺激に接しながら(無知の知という発想ベースの自己否定も含む!)勉強に励むなど、サッカー的にはちょいと一休みという日々を送っていました。そこでは私自身の学習能力が問われたわけですが、分からないことだらけになったり、自己嫌悪や自己撞着など、情緒的な障害状況に陥ったりすることもしばしば。そのたびに、公になっている様々な思想や創造性だけではなく、クリエイティブな賢人にアクセスして学習ヒントを見つけ出そうとしていたわけです。
自分が置かれている「本当のところ(=現状)」を体感できる機会は少ないから、自己探求、自己啓発の旅こそが人生という視点で貴重な時間です。自らが描く理想イメージから自己否定ベースで見つめ直した現状をマイナスすれば、本当の課題が見えてくる・・。とにかくこの二週間、いろいろな出来事と積極的に対峙することで、エンドレスで自らの学習能力アップに努めることの大事さを反芻していた湯浅だったのです。
・・なんてことに考えを巡らせながら、後期の開幕戦、ニュールンベルクとのアウェーゲームに先発した高原直泰のゲームを観はじめた次第。報道は二転三転しているけれど、現状では高原はハンブルクに残るということらしい。トーマス・ドル監督も高原を高く評価しているから、まあ、良かった。とはいっても、期待に応えられなかったら・・。
ということで、ゲーム立ち上がりからフルパワーのプレー姿勢を全面に押し出す高原なのです。開始早々には、後方からの一発タテパスに爆発ダッシュで反応し、しっかりとキープして最前線での仕掛けの起点になるなんていう派手なプレーを魅せてくれちゃいます。それは、相手最終ライン背後のスペースを狙っていた高原のボールなしの動きが呼び込んだロングパスとも言えるもの。そんなクリエイティブなプレーを観ながら、「それだ! そんな積極的な仕掛けマインドだけが発展のリソースなんだ!!」なんて声が出てしまう湯浅なのですよ。
とにかく、自らが「仕掛けの流れを演出する」という意識こそ大事。ボールなしの動きが報われることの方が少ないサッカーですが、そんな「意志のほとばしり」としての「自分主体のムダ走り」がなければ、常に仕掛けの流れに引っ張られるだけの従属的存在に成り下がってしまいますからね。もちろん、ポールがないところのムダ走りとはいっても、決して言葉通りのムダではなく、チーム全体の仕掛けダイナミズムを紅葉させたり、相手守備ブロックを揺動することでスペースを作り出したりなど実の効果もありますからね・・。だからこそ湯浅は、「サッカーは、クリエイティブなムダ走りの積み重ね・・」なんていう表現を使うのですよ。
さて高原。もちろん、ボール奪取を明確に意識した全力ダッシュ守備プレーも光る。そんな、リスクチャレンジに対する積極的な意志のほとばしりが報われないはずがありません。その後の高原は、後方から走り込んだヘディングシュートチャンスや、右から切れ込んだマハダビキアのラストクロスを一閃!・・なんていう、ハッとさせられるゴールチャンスに恵まれたのですよ。もちろん、「サッカーの神様に恵まれた偶発チャンス」ではなく、自らの意志で作り出した必然チャンス・・。
攻守にわたってフルパワーの良い動きを魅せつづける高原。私は、高原の「ポジショニングバランス感覚」に発展の跡を見ていました。たしかに戻ってパスを受けるシーンもあるけれど、それでも、前線にいなければならない状況では、しっかりと「そこ」にいるというイメージも強調されているということです。要は、戻り「過ぎず」、最前線に「張り過ぎず」といったポジショニングの実効レベルが着実にアップしているということなんだろうね。
以前トーマス・ドルが、私との対談で、「彼はストライカーだから、本来の仕事場は最前線だよな・・ちょっと後方のゴチャゴチャに巻き込まれ過ぎという感じもある・・」なんてことを言ったことがありました。その頃のわたしは、高原について、もっともっと多くボールに絡まなければ・・という意味で、攻守にわたる上下の動きを強調すべきといったコメントをしていたように記憶します。まあその背景には、現代サッカーでは(もちろん日本代表でも)、攻守にわたるマルチタスクをこなすなかでワンチャンスをモノにするストライカーが求められているということもあったし、高原はまさにそのタイプだという確信があったわけです。
「張り付きタイプ」の選手の場合、決して「ポジショニングバランス感覚」は発展しません。いろいろな「クリエイティブな無駄プレー」を体感しつづけることでのみ、バランス感覚が養われるのですよ。その意味で、高原のポジショニングバランスイメージの発展もまた、攻守にわたる広範囲なアクションラディウス(行動半径)の賜物だと確信する湯浅なのです。それにしても高原が展開するプレーの実効レベルはアップしたよね。最前線のターゲットマンとしてもしっかりと機能している・・この試合で最前線パートナーとなった新加入のアイウトンとの(高原の)ヘディングパス&(アイウトンの)抜け出しフリーランニングというコンビネーションには、ハッとさせられる迫力があった・・たしかに個の勝負には限界は見えるけれど、最前線の起点プレーでは「仕掛けという意味での明確な効果」が見える・・最終勝負シーンでもしっかりと決定的スペースへ入り込めている・・また最終パスを受けられるシーンでは、決して焦らずに「待つ」こともできるようになっている・・等々。
でも、徐々に高原の意志パワーがダウンしていったことも事実でした。もちろんそれには、ニュールンベルクの攻勢が倍増したこと、逆にハンブルクの勢いが減退していったという拝啓要因もありますがね。ハンブルクでは、アトゥーバ、デメル、ヴィッキー、バルバレス、調子を上げているファン・デル・ファールトなどが欠場しただけではなく、新加入でまだ慣れないデ・ヨングが中盤の重心として出場するという大ハンデがあった・・!?
ともあれ、去就が明確になったことで精神的にも落ち着き、攻守にわたるプレーコンテンツも高みで安定している高原の後期での巻き返しに期待しましょう。
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さて、出場停止明けの中田英寿。キックオフすぐのシーンが印象的だったから、そこから書きはじめることにしました。中田のゲームへの入り方は抜群です。とにかく前線からのディフェンスが素晴らしい。読みベースのボール奪取勝負タイミングがツボを押さえているのですよ。そして前半8分。右サイドで「ねらい通り」にボールをカットし、そのまま素晴らしいロビングのタテパスを、ヤヌコプロスの眼前スペースに決めちゃうのです。常に、次、その次と、攻守にわたる勝負イメージを発展させつづける中田英寿。ゲームがはじまった瞬間から期待がふくらんだものです。
ということで、まず全体的なプレーパフォーマンスについてのキーワードから。それは、攻守にわたるステディーなチームプレー・・。ステディー(steady)とは、「しっかりと安定した」とか、「着実な」といった意味。攻守にわたって高みで安定したシンプル組織プレーってな具合ですかね。
この試合での中田は、前回の退場が心理的に響いているのか、無理なボール奪取勝負は仕掛けません。もちろん「絡み状況」になったら、粘り強く力強い競り合いを展開するけれど、相手への「一発」ボール奪取アタックでは、タイミングをしっかりと測るなど、より慎重になっていたようです。もちろん相手パスレシーバーへの詰めは「ズバッ」という音がするくらいの迫力だから、それはそれで、(味方による)次のボール奪取勝負にとっては有効この上ないけれどネ。それでも、全体的なディフェンスプレーは、相手ボールへのチェイス&チェック、次のインターセプト狙い、協力プレス狙い、ボールがないところでの相手アクションのマーキング(ボールがないところでの相手の勝負イメージの潰しプレー!)等々、とにかく個々のディフェンスコンテンツは高みで安定していましたよ。
そして、そんな汗かきプレーを基盤に、左サイドの決定的スペースへ抜け出して上げた前半20分あたりのクロスやダイレクトでのロングシュートなど、ココゾ!の場面では、しっかりとリスクへチャレンジしていくのです。とはいっても、中田がリードするコンビネーションが、最後まで目立つことがなかったのも確かな事実。まあ彼も、(前回の退場劇も含め)アーセナルを相手にした一発勝負のカップゲームということで、より質実剛健プレーを意識したということなんだろうね。
そんなステディーイメージは、イヴァン・カンポが怪我で退場したことでセンターハーフ(中盤の底)を務めなければならなくなった最後の30分間では、より強固なモノになっていきます。要は、前気味リベロとかボールのディバイダー(分配役)とか、人数&ポジショニングのバランサーといったイメージ。そしてそのタスクを、ステディーにやり遂げるのですよ。味方選手たちは、仕掛けのブロックの後方センターに常に中田がいるということを意識しているから、前が詰まったら、すぐに中田へバックパスを戻します。そして中田は、期待通りの「長いサイドチェンジパス」を送ったり、そうと見せかけた仕掛けのタテパスを繰り出したりする。まあ・・ね・・、そのポジションで抜群の存在感を発揮したイヴァン・カンポほどではなかったけれど・・。
ヤヌコプロスが、ガードナーからの素晴らしいクロスをアタマで決めた決勝ゴール。次の瞬間、喜びが爆発したわけだけれど、その輪のなかに、中田英寿もしっかりと加わっていましたよ。満面の笑みでヒーローたちを祝福する中田英寿。その表情の背景に、実効ある縁の下の力持ち組織プレーに徹する自分自身のプレーコンテンツに対する自信があったことは言うまでもありません。
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