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06_ヨーロッパの日本人・・さて、チーム内のネガティブな雰囲気を逆流させはじめた中田英寿・・(2006年1月8日、日曜日)

あ〜あ・・本当にアタマにくるな・・何だこのカメラアングルは・・こちらは中田英寿のプレーを余すところなく観察したいのに・・まあ、ワトフォードのあまり大きくないスタジアムでの試合だから、カメラのアングルを引いたとしても限界があるんだろうけれど・・。FAカップのワトフォード対ボルトンワンダラーズの勝負マッチがはじまってすぐに、そんな文句タラタラ状態に陥ってしまいましたよ。何せ、本当に久しぶりの中田の出場マッチですからね。

 でも、すぐに、カメラアングルが狭いからこその効用にも気づかされてしまいました。用は、カメラが捉えるゾーンが狭いことで、逆に、ものすごく活発な中田英寿の仕事コンテンツがより明確に見えてきたということです。

 ボールを持つ中田が、例によってのシンプルなリズムで大きな展開パスを回す・・もちろんカメラはボールを追い掛けて大きく振られる・・でもその直後のタイミングで、テレビ画面に再び中田が出現してくる・・そして再びパスを受けてすかさずコンビネーションをスタートし、そのままパス&ムーブで相手ゴール前へ全力ダッシュをつづける・・また、大きなサイドチェンジパスを回し、すぐに斜めにスタートして最前線の決定的スペースに入り込んできたことで再びテレビ画面に捉えられる・・ボルトンのオコチャがボールをキープしているシーンを、唐突に、後方から全力ダッシュで決定的スペースへ抜け出していく中田が横切っていく・・等々、中田の豊富な運動量だけではなく、常にボールに絡み、決定的な仕事を「シンプル」にこなしつづけようとする高質な組織プレーコンテンツを再認識できたという次第。

 また相手にボールを奪われた後でも、すぐに中田が守備シーンを映し出すテレビ画面に現れてくることは言うまでもありません。あるときはチェイス&チェックを仕掛ける守備の起点として、あるときは、仲間が演出する守備の起点の周りで狙うボール奪取のアタッカーとして・・。

 それにしても、彼がボールを持ったときの(組織)プレーコンテンツは相変わらずいいね。パスを受けた彼は、まず何といっても最前線への決定的ロンハグパスや逆サイドへの決定的スペースパス(サイドチェンジパス)を意識する・・それが叶わない場合は、仕掛けのタテパスをビシッと決めたりする・・また自分の前にスペースがあるときは、すかさずドリブルで突っかけていく(スペースをつなぐドリブルや、最終勝負を仕掛けていく勝負ドリブルなど)・・もちろん簡単に横パスをはたく場面もあるし、パス&ムーブでコンピネーションの起点になったりもする・・。まさに、組織的に攻撃の変化を演出する変幻自在のシンプルプレーではありませんか(彼のドリブルもまた、シンプルという表現がうまく当てはまるタイプ!)。この「シンプルプレーの天才」というテーマについては、いま発売中の「ナンバー」で書きました。そちらもご参照あれ。

 たしかに、ボール絡みの攻撃プレーでは、相手のハードマークにキープミスをしてボールを奪い返されてしまう場面もあるし、パスミスだってドリブルミスだってある。また、ゲームの流れに巻き込まれて存在感を失ってしまった時間帯もあった(様子見マインドに陥った?!)。それでも、攻撃における全体的なプレーコンテンツは、以前の高質なリズムを取り戻しつつあると思うのです。また守備でも、ボール奪取勝負で淡泊に外されてしまったり、単純なワンツーで置き去りなったりするようなネガティブシーンもあったけれど、全体的なディフェンス実効レベルは着実にアップしていると思うです。要は、ボール奪取という守備の目的を達成しようとする明確な意図と意志が、実際のプレーに現出していたということです。

 このところ、チーム内での存在感を失いつつあるという雰囲気の方が先行している中田英寿。サッカーは、ホンモノのチーム(組織)ゲームだから、それは本当に危険な状態です。そんな「雰囲気」が、選手自身の確信ベースや、チームメイトたちの信頼ベースをネガティブに浸食してしまうケースも多いですからね。

 イレギュラーするボールを足で扱うという不確実な要素が満載しているからこそ「ホンモノの心理ゲーム」とも呼べるサッカー。だからこそ「雰囲気」という心理ファクターの影響は大きく多岐にわたる。でもわたしは、この試合で中田英寿が魅せたグッドパフォーマンスが、チーム内でよどんでいた「彼を取り巻く雰囲気」を、再びポジティブなベクトル上に乗せたと思っています。まあ・・ネ・・これまでに何度も、どん底から不死鳥のように甦って輝きを放った中田のことだから、まったく心配していなかったけれど。逆に、中田が、そんな「ネガティブな雰囲気を逆流させるプロセス」を楽しんでいるようにも感じていましたよ。




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